神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】   作:兵太郎

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第22.5話---生命の意味

--現在、世界にはたくさんの国がある。ヤブキ共和国もその内の1つである。そのヤブキ共和国の左下部に、リキイシ地区という広大な土地があった。

19xx年、リキイシ地区はヤブキ共和国からの独立を主張していた。しかし、ヤブキ共和国はこれを認めず独立紛争は長期化。疲弊したリキイシ地区は兵力増強の為に、ある手段に打って出た。

 

物心つく前の孤児や身寄りの無い子供を人身売買、または拉致し、世界中から掻き集めて来たのだ。無論、兵士として紛争を終わらせる為に。

 

その子らは、鉛筆より先にライフルを与えられ、文字より先に殺人を教えられた。そこに人としての尊厳は無く、彼らは戦争の道具になった。

 

『勝って生きろ』。それ以外の教育は無かった。

目の前で仲間が撃たれても、己の皮膚が焼かれても。

『勝って生きろ』。彼らには、それが唯一のルールだった。

 

20xx年、ヤブキ共和国内戦場跡。1人の少年がそこに座りこんでいた。長年の筋肉トレーニングにより肥大化した身体の1部、背中全体を覆う様に酷い火傷ができていた。

しかし、周りの大人達は特にそれを心配するでも無く、むしろ笑いながら言う。

「おお!筋肉ゴミボウズ!すげぇ火傷だな!花の形みたいになってんぞ!!

……百合の花に似てるな。そうだ!お前の名前、今日から『リリィ』な!」「ギャハハハ、女みてぇ!!」

下品な笑い声を背中に受けながら、『リリィ』と呼ばれた少年は顔に影を落とす。

と、その目の前に食事が持ってこられた。いつもの軍用レーションでは無く、今日のは戦勝記念に奮発したパンとシチューだった。

「気にすんなよ、大人の言うことさ」

食事を差し出してきた糸目の男に、軽く返事をする。自分と同じ少年兵だ。スラッとした上半身とは裏腹に、下半身は丸太の様に太い。

「僕はミケランジェロ、ミケでいいよ。一緒にご飯どぉ?」「……あぁ」

好意に乗る『リリィ』。するとミケの後ろからもう1人、長身の男が近づいてくる。

「こっちのデカいのはオスメスね」

眼の周りにペイントで♂と♀のマークを描かれている大柄な水色髪の青年は、薄く微笑むとゴツゴツとした手を『リリィ』に伸ばす。

「手当てしてあげますよ」「すまんな……ありがとう」

『リリィ』は彼に火傷した背中を預けた。

 

「ねぇ……僕達って、何で戦ってるんだと思う?」「勝つ為、に決まってるでしょう?」「……」

「早く終わるといいねー、戦争」「ああ…そうだな」

 

--数年後。

 

「あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛……!!腕がぁ……足がぁ……!!」

「死ぬな!しっかりしろ!!」

左腕と右脚をもがれた味方の少年兵を、『リリィ』は抱えて自軍基地へと走る。何とか逃げ延びた彼は、医療班にその少年兵を任せた。

 

 

死にかけた少年兵は、人体実験に用いられた。

 

数日後、少年兵達のキャンプに戻った彼の左腕から右脚にかけての部位は、機械の身体へと変貌していた。

「カスタム・ボーイだってよ、俺の名前……

 

こんな身体になっても……戦わなくちゃいけないんだな……俺達……」

機械の身体では出せない涙を流しながら、震えた声で言うカスタム・ボーイの涙を拭う代わりに、『リリィ』は彼の頭を撫でた。

 

「大丈夫だ。いつかきっと平和が来る。勝てば解放してくれると、大人達も約束してくれてる。

 

 

だからもう、1人で泣くな。俺達は、同じ時を駆ける同士だ」

カスタム・ボーイはとめどなく溢れる涙をしかし止めようともせず、ただ『リリィ』の顔を見ながら頷いた。

 

 

『リリィ』というリーダーを得た彼らは、強固な団結と共に活躍し、膠着していた戦況を切り裂く切り札として、紛争を終結に導いた!

 

リキイシ地区独立の日、終戦記念日とも建国記念日とも言えるであろうこの日、少年兵達のキャンプにはリキイシ地区の軍司令官が顔を出していた。つるっぱげにヒゲという典型的な上司は、ニコニコとこれまで1度も見たことのなかった笑顔で少年兵達に笑いかける。

「諸君!本当にご苦労だった!君達、若い力のおかげで我がリキイシ地区は独立を果たしたぞ!!」

その言葉に、少年兵達の生き残り12人も湧き上がる。彼らは、遂に自由を手にしたのだった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、そう思っていた。

「この勝利を祝して!!

 

 

構えぇ!!撃てぇ!!!」

銃の乾いた音が響く。目の前にいた仲間が、頭から血を流して倒れた。

気がつくと、『リリィ』達は周りを銃を持った正規兵達に囲まれていた。

『リリィ』達は状況が飲み込めずに困惑する。その耳に、総司令官の冷たい声が響く。

 

「これからこの国は、世界に羽ばたく。お前らの存在は、世界に出てはいかんのだよ。悪いが……死んでくれ」

 

仲間がどんどんと倒れていく。リリィの肩にも、銃弾が着弾した。

「う……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

声が口から漏れる。それは怒りや悲しみ、苦しみなどと一言でまとめられるほどシンプルなものではなかった。

兵の1人に突撃していく『リリィ』。その頭の中には、疑問が浮かんでは消えていた。

 

『神はいないのか?』『この生命(いのち)の意味は?』

 

彼が世界を呪ったその時、

 

(……ランプ?)

 

それは来た。

中東のおとぎ話に出て来そうなランプが空中に現れた。それは煙を注ぎ口から噴出させていく。

 

その煙は、一瞬で軍司令官の首を奪い取った。

 

大人達を血祭りに上げ、生き残った6人に『それ』は告げた。

 

『お前ら、神にならねぇか?』

 

「俺が見てるのは、幻か?」

 

「いや、救いの化身です」

 

「私達はまだ、戦い続けなきゃいけないのね」

 

「じゃあさ。この6人の誰かが神になればいいじゃん?」

 

「そいつはきっと、平和な世界を創るだろうね」

 

「連れてけ、神の選別へ」

 

『俺達が世界を変えてやる』

 

そうして『リリィ』達は、ランプから出てきた魔神の口の中に入っていった。彼らの戦いは、終わらない-




--ライフジャケットを素肌の上から羽織るリリィ、その耳に掠れた声が聞こえてくる。
そこにいたのは、瀕死の仲間、ミケランジェロ。

「ねぇ、リリィ……僕らは人を殺しすぎた……きっと地獄に堕ちるね……」
口傾を無理に釣り上げながら、苦しそうに言うミケにリリィも「ああ、そうだな」と返す。

「僕らの生命に……どんな意味があったのかなぁ……」

ミケの声はだんだんと小さくなっていく。頰から垂れた血が眼に落ち、そのまま涙の様に下へと溢れていく。

「答えは……キミ……が…………--



それっきり、ミケランジェロは動かなかった。
リリィは彼に背を向け、独り言の様に告げる。

「ああ……地獄で見てろ。神が世界を変える瞬間を」



キングはそれぞれの宿命へと向かう。決着の時は迫っていた--

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