神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
「クソ……ナツメグを助けに戻らなきゃ……」
先程まで呆けていた明石が、絞り出す様に呟く。その言葉を耳に入れたメルトは、荒い声で明石を諭す。
「あ?アホかお前?あの女がお前を助けた意味、わかってんのか?お前はキングなんだぞ!犠牲を無駄にすんな!!」
「ナツメグのこと……犠牲とか言うんじゃねぇよ。仲間を助けたいってのは普通だろ!?」
「ルールを思い出せ!!キングが処刑されたチームの負けだ!その国の奴は全員死ぬんだよ!つまり……リリィを倒せば、あの女も死ぬんだ!!」
辛い現実を突きつけられた明石。彼はそれを理解しながら、しかしメルトに弱々しいながらも反論する。
「……でも……助けたいんだよ……まだ何か方法があるかもしれないじゃん……やってみなきゃまだ『パン!!』っ!」
明石の頰に衝撃が走る。メルトと明石の間に割って入ったハンナが、その顔を張ったのだ。
「わからないの?ナツメグの気持ちが」「!!」
目を見開く明石。そんな彼にハンナは熱心に続ける。
「あの子がどんな想いであなたを助けたか、あなたには届いてないの?
……ジェイクは、死んだわ」
「!!」
敵に捕まる前、一緒に行動していた仲間。その死を告げられて明石は絶句する。
「『信じろ』って言ったあなたを追って戦って、私を生かす為に死んだの。なのにあなたは、また同じ事を繰り返そうとしている。
本当に仲間を思うなら、今やるべき事は何?
ナツメグは誰の為にあそこに来たの?誰の為にあんな事をしたと思ってるの?
あの子の言葉とあの決意を……1番に信じてあげなきゃいけないのは、あなたなのよ。 明石」
明石の脳裏に、夏川めぐの姿が浮かんでは消える。自分は、彼女の為に何をしてあげれば良いのだろう。明石は自問自答する。
「さぁ、決断してキング。そして私達に、もう1度信じさせてよ」
「……」
『手、繋いでてよ……』
明石の手に、温もりが思い出される。明石はその手を握りしめ、奥歯を噛みしめ、そして言う。
「ごめん……皆……俺が、間違ってた……
リリィを倒そう。もう1度力を貸してくれ!!」
月の国が、再び1つにまとまった。
--太陽が占拠している管制塔、その中にあった敵の反応は1つだけだった。木場祐斗と星の国の兵士達はそこに乗り込む。
中にいたのはメガネの長身男子。映画でよく見る囚人服の様なズボンに、同じく黒と白のボーダーの長袖。その上にライフジャケットを着ている男は、つまらなさそうに言った。
「20人くらいか……しっかしまぁ、
「君こそ、そんな悠長に構えてる暇はないと思うけど?こんな所に1人だけなんて、襲ってくださいと言わんばかりだろ?
援軍は来ない訳だしね」
「それくらいはわかってるさ」
月の国のレーダーが半径30mから100mに範囲が広がっている事に気づいた木場は、この塔までの道中に太陽の国の兵士が所々にいるのに気づいていた。太陽の国の兵士は、月星の兵士とは50m以上距離を取っている事に気づいた木場は自分達を囲もうとしている事に気づき、星の国メンバーと協力してそれらを各個撃破していたのだった。
「君1人で20人に対し、どう戦うんだい?君がもし
「試してみればわかるんじゃねぇか?」
そう言いながら男は、床に置いていたらしいスナイパーライフルを取り出し、撃つ!木場は他の仲間を庇うように自分で喰らうと、事前に指示を出していた通りに他の仲間が太陽の男を捕まえに走る!
その先頭を走っていた男に、2発目の弾丸が命中する。木場を撃ってから、5秒と経っていなかったのに。
『!!?』
走っていた星の国の兵士達は一瞬怯むが、再び走り出す。その内の1人に再び弾丸が着弾した!
麻痺弾のせいで入り口の前で倒れたまま動けない木場にも聞こえる声で、男は話す。
「味方の馬鹿どもが捕まる……そんな事は可能性の1つとして頭に置いておいたさ。だから、当然策は練ってある」
バンバンバンと続けざまに発砲音が響き、10秒と経たないうちに更に5人が倒れる。星の国の兵士達は、メガネ男の手元を見て、悲鳴にもにた声を上げる。
「おい、
そう、メガネ男の手元には10の経口が綺麗に並べられていた。そう言っている間にも、銃弾が星の国の兵士達を貫いていく。1人、また1人と倒れていく星の国の兵士。木場が撃たれたから30秒としないうちに、全員が倒れ伏した。メガネ男はライフルを2つ抱えながら、中央から降りてきて星の国の兵士を近くから捕まえ始める。
「余裕ぶっこいて自分の策をペラペラ語るのは、馬鹿のする事だ--ケンパの時の俺も、ある意味ではそんな馬鹿だったんだろうな」
木場が動けるまであと10秒、その頃には星の国の兵士は、残り3人にまで減っていた。
更にもう1人の背中を叩いて転送させた男は、そこで再び最初の地点に戻る。5つの銃を木場に向け、その全てのトリガーに手をかける。
「念には念、ってやつだ。出来る限り余裕はあった方がいい。動けるようになってから起き上がるまでの間に、再び弾丸を喰らってもらうぞ」
3・2・・・と残りカウント2秒のところでメガネ男は5つの内、3つを発砲した。1秒後に残り2つも放つ。計5つの弾丸が木場の身体に迫り……
……しかし、再び木場の身体に当たる事は無かった。
「!?……右!!」
残った銃の内2つを木場のいた箇所の右に向け発砲するメガネ。しかし、そこにあったのは片方だけになった有名メーカーのスポーツシューズのみ。
残りの3本のライフルに手をかけるメガネの首筋に、細長いナイフが突きつけられる。背中には、木場祐斗が回り込んでいたのだ。
「素晴らしい策だったよ。だけど、僕のスピードだけは読めなかったみたいだね……悪いね、この速さだけは僕の取り柄なんだ」
メガネ男はスナイパーライフルから手を離す。
「何が望みだ」
「太陽の情報が欲しいかな。本拠地……はそこの壁に描かれてるか。あとは、敵のまとめ役の人数と身体的特徴、君達の考えてる作戦……くらいかな?まずはそうだね、このスナイパーライフルをどうやって調達したのかを知りたいかな?」
言われたメガネ男は淡々と言われた通りの情報を吐き始める。それが全て終わるまでに、残っていた星の2人の兵士も起き上がっていた。
「……以上だ」「協力どうも」
木場はそう言うとナイフを下げる。すでに10本のスナイパーライフルは残りの2人に回収させた。自由になったメガネ男は逃げようとするそぶりも反撃の為の初動もしなかった。メガネ男は木場と向き合い、言う。
「お前は……月の国か」
「?……ああ、そうだよ。ここにいたメンバーはほとんど星の国だったけど、僕は月の国だ」
「そうか、なら良かった」
メガネ男はフッ、と笑う。
「俺は東浜佑だ。明石靖人にあったら、奴は自殺したとでも伝えてくれ」
その言葉に頷いた木場は、最後にその顔を数秒眺めてから、東浜佑を転送した--
東京のフィールドの中のとある大通り。周りには死体や血だまりが大量にある中で、崩壊した家から1人の青年が立ち上がった。
全身は血まみれ。整えてあった水色の髪は逆立ち、特徴的な顔のマークはクシャクシャに歪んでいたが、そんな事は気にも留めず男は立ち上がる。その目は獰猛で、草食動物を狩る獣の様だった。
男は、そのままその場を立ち去る。
その数分後、同じ場所でもう1人、少年が立ち上がった。身体の半分ほどを機械に頼っていたその男は、壊れて千切れた足を捨てると、廃材の中にあった鉄棒を杖代わりにし、歩き出す。
目標には軍のレーダーがつけられている。彼はそちらに向かってゆっくりと歩を進め始める。
「……全ては神になる為に……
……全ては平和の為に……
……全ては、未来のために!!」