神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
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明石は、天谷がミケを抑えているうちにハンナに指示を出し監獄の鍵を開けさせた。メルトは外に出ようとするが、そこでキングの行動に気づく。
「起きろ皆、処刑されるぞ!立つんだ!!」
「何やってんだ明石!もう時間が1分も無いんだぞ!」
「メルトも手伝ってくれ!見殺しにはできない!!」
できる限りの人間を起こし、あるいは抱えながら明石はメルトに助力を願う。お節介なキングだと毒を吐きながらも、メルトは明石に協力し、ほとんどの人数を助け出した。
明石達が檻から出て10数秒後、檻の天井が落ちてきて取り残された人間達を潰した。
「くそ……全員は助けられなかった…」「十分だろ!それより早く逃げねぇと……!?」
メルトは、こちらに向けられる殺気に気づき、後ろを見る。
そちらにいるのは地に転がったミケ。そして、その惨状を造り出した張本人。
天谷は明石達の方を向くと、ニヤァッ、と狂気に満ちた笑みを向けてくる!
「ヤバい、来るよ!!」「走れ皆、走れぇ!!」
脅威の神の子から逃げようと走る明石達、そのルート上に1人の男が立っていた。
「どこへ行く、キング・明石?」
太陽の国のキング・リリィがそこに立っていた。
前門の虎、後門の狼。まさに絶体絶命となった明石達に、まずは天谷が動き出す!!
「どけ。邪魔」
明石の頭を天谷が踏みつけ、そのまま無視して乗り越える!
天谷の拳は明石達を越え、リリィへと向かっていった!!
「お前強そうだな♪」
嬉しそうに笑う天谷にリリィは応戦する。
「お前は何だ?どこから来た?」
「丑三っちゃんのスケボで来た♪一緒に来たんだ!『
その言葉に、明石は反応する。丑三清志郎がこのフィールドにいる!それだけで明石はどこか安心を覚える。
「ラッキーだ!あいつがリリィを抑えているうちに行く『ドゴ!!』!?」
天谷が、
メルトやハンナが手も足も出なかったミケを歯牙にもかけなかった天谷武が、
壁に叩きつけられて血反吐を吐いていた。
「……逃げろ明石ぃ!」
メルトはスナイパーライフルを構え、弾丸を放つ……が、避けられてしまう!リリィは天谷から手を離すと、明石達に突撃してくる!
「あのグローブ、光ってる!?」「ヤバいぞ……明石、とっとと逃げろ!」
リリィは捕獲用のグローブを発光させ、明石に迫る!天谷の瞬殺に気が回って逃げ出すのが遅れた明石の背中に、リリィの掌が近づき……
ドン!という強い衝撃と共に、明石は横に転がる。
明石が転がりながらも、自分を押した……助けた者を見る。
彼女の肩にリリィの光る掌が触れ、彼女は、先ほどまで明石がいた檻の2つ隣の牢屋に転送された!
「ナツメグ!!」
代わりに捕まったナツメグに、明石は悲鳴のような叫びを上げる。その身体を再び捕らえようと、リリィの光る手が再度明石に襲い掛かり、
「まだまだぁ」
天谷武が、リリィに飛びかかった!
リリィの手は、ギリギリのところで明石とは触れなかった。そのまま天谷は、リリィに噛み付くと四肢を彼の身体に巻きつけた。
「明石!」
牢屋に転送されたナツメグが、明石に声をかける。
「ナツメグ!今助ける……「来んなバカ!さっさと逃げろ!!」!?」
ナツメグの言葉に、明石は驚愕する!
「アンタキングでしょ!?私1人なんかの為に投げ出していい命じゃないよ!!その命は皆の為に使いなさい!!
私が大切なら、ここで見捨ててよ!!」
その一言が、明石の動きを止めた。彼は、メルトやハンナに引っ張られ、どうにか太陽の敷地の外へと逃げる--
〜〜〜〜〜〜〜
あれ、ここは……生徒会室。
「おはよう、元士郎」「おはよう元ちゃん」
「あ、ああ、おはよう」
「さぁ、今日も頑張りますよ〜!!」「張り切りすぎて失敗しないようにね」
「今日の仕事は……」「なかなか案件が多いようですね」
桃、
「早急に終わらせましょう。早速仕事に取り掛かりますよ」
会長。
会長!
「匙、何をぼうっとしているのです?……ふふっ、おかしい」
「す、すみません会長」
あぁ、今日も平和だ。幸せだ。こんな日がいつまでも続く……なんて事がないのは分かってる。会長ももうすぐ引退だし、それで生徒会から一般生徒に戻る子もいるだろう。だけどそれまであと少し、こんな日々が続けばいいのに--
『主よ、起きろ。夢見る時間は終わった』
「……」
俺は目を覚ます。そして、今の状況を思い出した。
腹の底の方から異物が込み上げてきて、俺は壮大に胃液を撒き散らす。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛「匙!」!」
また無くなりそうになった思考回路を留める様に、俺に声をかけてくる奴がいた。茶色のくせのある髪に、俺達と同じ駒王学園の制服を着た、1人の少年。
「イッセー……」「……良かった。正気に戻ったんだな」
イッセーは安堵した様に、胸の上を撫でる。その様子を見る限り、そして周りの惨状を見る限り、俺は暴走していた様だ。
「す、すまねぇイッセー。我を忘れてた」
謝罪にイッセーは首を振る。
「気にすんな」
そう言うイッセーの身体の欠損に、俺は今更気づく。
「イッセー、それ……」
「気にすんな、名誉の負傷だ……あ、いや違うぞ。お前から取られたんじゃ無いから!」
慌てるイッセー。学園にいた時と全然変わってなくて、ふふっと笑いが出てしまう。
「……ところで、匙」
と、そこでイッセーの空気が変わった。彼は表情を引き締めると、俺に真面目な顔で相対する。
「敵を倒すのに、協力してくれないか」
イッセーの言葉を、俺は速攻で頷いて答える。
「もちろんだ!俺も協力する!神でもなんでもぶっ飛ばしてやるさ!」
そう言う俺に、イッセーはケータイを取り出して画面を見せてくる。そこに映ってるのは男女が1人ずつ。
「明石靖人、ファトマ・カルカヴァン。この2人を捕まえるのに協力してくれ」
「……ああ、わかった。それが神を打倒する1歩になるなら」
頷く俺に、イッセーは予想外の1言を告げる。
「あと、木場とゼノヴィア、その2人も俺の敵だ」
何を言っているのかわからなかった。もう1度聞き返す。
「何言ってんだイッセー?ははは。俺は明石とか言うのとファトマとか言うのを捕まえれば良いんだろ」
「そうだ。木場とゼノヴィアは今、そいつらの部下になってる。だからあいつらも敵だ」
俺はイッセーの胸ぐらを掴んで、身体を持ち上げる。
「イッセー、お前!!木場とゼノヴィアさんは仲間だろ!!何を血迷った事言ってんだ!!」
言われたイッセーは俺の目と目を合わせながら、
「明石とファトマ、片方を捕まえれば、木場とゼノヴィアのどっちかが死ぬ」
俺はイッセーを地面に叩きつける。イッセーは痛そうに顔を歪めるが、俺は追求を緩めない。
「お前、仲間達を殺してしまうのに、その2人を捕らえるのか!何でだ!」「そうしないと俺が死ぬからだ」
返答を聞き、俺は目を見開く。
「お前はそんな奴じゃねぇだろ!お前は、自分が死んででも仲間を守る様な奴だった!!俺達は何度も何度もその心に救われてきた!お前は死んでも仲間を取るはず--」
息が詰まる。呼吸を整える為に咳払いをする間に、イッセーは立ち上がってくる。イッセーは、俺をまっすぐに捉えて告げる。
「俺は、まだ死ねないんだ。
仲間から……皆から託されてきてるから」
イッセーの言葉は、重かった。俺はそれ以上、イッセーに反抗する事は出来なかった。ただ、
「わかった、イッセー。俺はお前を止めない。
だけど、味方もしてやれない」
そう言う事しかできなかった。
そう言うと思った、なんて言ってイッセーは笑う。
笑い終えたイッセーは、俺に背を向ける。
「今度会う時は、敵同士かもしれないな」「そうならない事を願うばかりだよ」
その会話を最後に、俺とイッセーは別れたのだった--