神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
「!塔の中に大量の月の国の味方の反応と……敵の反応が1つ!」
「敵の尋問でもやってるのかしら……?まぁ良いわ、今がチャンスよ。さっさと塔を奪っちゃいましょう!」
150人は塔の自動ドアの前に立ち、ドアの中の光景を見て絶句する。
「ヨハン……!?」
そこにあったのは、大量の仲間の死体の山。そして、その上に座る、1人の女兵士。全員に支給されている筈のライフジャケットを着ていないのは、そんなもの無くても捕まえられない、という余裕なのか。
「この状況がおわかり?」
女は艶っぽい声でハンナ達に問いかける。
「あ……しまった、そういう事……!」「!どうなってるのイパネマ…!?」
月の国の兵士、イパネマの呻きをハンナは追求する。
「私達のレーダーの範囲は30mに対し、太陽の国のレーダーは塔の効果で100m!だから私達からは見えないけど、奴らから私達は丸見え!ここまでの進行は監視されてたんですよ!
そして誘い出された…気づかぬ間に奴らの狩り場に……管制塔というエサに釣られて!!」
「タスクとかいう奴、なかなか私好みの策を考えやがる……これで私も汚名返上だ!
狩れ!太陽の戦士達よ!!」
塔から50mほど離れた周りから、太陽の国の兵士達が迫り来る!!
作戦失敗!
この場の誰もが月と星の敗北と死を覚悟した。その時、
「……っ!」
ハンナだけが、走り出していた。
(何をする気だ……!?)
そう思いながらも、太陽の国の現場指揮官、プゥは片手を上げると、周りのスナイパー部隊が一斉にハンナに向けて銃を構える。しかし、
「ヘボァ!?」
そのうちの1人の顔面を蹴り上げ、ハンナは太陽の包囲を抜ける。
彼女の心にあるのは、たった1つ。
今自分に与えられた役割を果たすことのみ。
(私の役割は、明石を助ける事!
大丈夫、私は絶対大丈夫。
ジェイクが最高の演技した後は私、失敗した事ないから)
その気持ちが、その途方もない疾走が、もう1つの願いと重なり出逢う。
「……!」「……太陽の兵士!」
ハンナ・フェリックスと夏川めぐ、2つの鍵が重なり、三国ドロケイは流れを変える--
「……っ!」
無くなった筈の右腕が、ズキズキと痛む感覚がする。幻肢痛とかいう奴かもしれない。
いや、もしかしたら心の痛みかも。
ゼノヴィアを殴って気絶させた俺は、彼女を太陽の檻に転送しようとしたが、する事ができなかった。
彼女は星の国、このままここで気絶しててくれれば、もしオスメス達がファトマを取り逃がした時は生き残れる……なんてそんな甘い事を考えてしまった。
俺は自分の弱さに幻滅する。リリィの意思を、覚悟を、想いを聞いて彼らに賛同し、このバカげた試練を終わらせる為に何でもやる、冷酷にも鬼にもなる、と決意したのに。
「味方もだいぶ減らしちゃったしな」
俺についてきた太陽の国の兵士達、中には日本人も数人いた。彼らもさっきの戦いの中で転送されてしまったみたいだ。
助けに行きたいけど、俺は鍵使いではないから助ける事はできない。そもそも、そんな事をしている時間はない。
「ファトマを、捕まえないと……」
ファトマを取り逃がしてくれ、という想いと、ファトマを捕まえないと、という思いが心の中で混ざり合っては離れていく。俺は甘い心を振りほどきながら、マナ・フォンの画面を見る。その画面には半径100mの状況と、星の国の王、ファトマの居場所が記されている。ファトマの位置は見たところかなり遠い。正直行くのが面倒だ。
「……太陽の国に戻るか」
俺は太陽の国に戻って、明石の様子を……最期を見る事に決めた。
「時間はもう少しある。ゆっくりと戻ろう」
試練の初期からの知り合いである月の王との最後の会話を考えながら、俺は帰路につく。
〜〜〜〜〜〜〜
グシャッ!という音と共に、ファトマたちを乗せた車は真ん中から両断される。車を叩き潰したロボットアームは、ついでとばかりに血のついた爪で車の運転手の脇腹を抉る。
「『とにかく明るい』スティーブ!?」「クソがぁ……!!」
肉体の一部を失った仲間を見ながら、幹部4の3人はファトマを抱えた紫村を逃がそうと必死に策を練る。
「ハンナ達はどぉなってる!?ファトマのレーダーを切らなきゃ逃げらんねぇじゃねぇかよ!!」
「知るかよ!!失敗したんじゃねぇのか!?」
「ファトマが捕まったら終わりです!とにかく、5人じゃ太刀打ちできない!!
「『冷徹なる刃』フィンチャー!?」
彼の身体が一瞬で穴あき死体へと変わる。原因である2人で1人となっている男達は、しかしその死体に何の興味も無さそうに、というより興味すら示さず、銃のシリンダーを見る。
「あーあー、弾切れだ。さっき奮発して使いすぎちゃったから」「……大丈夫、もう終わります」
少し怒り気味の声を背中に受けながら、紫村影丸は星の国の王、ファトマ・カルカヴァンを背負って走る!
「走れ!走れ!走れぇ!?」
追走していた『いつか海がみたい』ベンババがロボットアームに叩き潰される。
「『いつか海がみたい』ベンババ!?バカな……ッ!?」
一瞬動きが止まった『手段を選ばない』ムスタファの首にロボットアームの爪が掛かり、捻るように動く。
『手段を選ばない』ムスタファは胴から首を離して、数mほど空を舞った。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ……!!)
紫村影丸の背中に血濡れた爪が迫り……
ガキン、と金属同士がぶつかる音がした。
紫村影丸は動きを止め、そちらを振り返る。
巨大な爪を止めていたのは、これまた大きな斧。紫村影丸は知らないが、それは太陽の国の幹部、ダンデライオンが使っていた物だ。
それを力いっぱい握りしめ、どうにかロボットアームの勢いを止めているのは、真田ユキオ。
「ほぅ、まだ戦う気なのか」
馬鹿にした様に言い放つC・Bに、ユキオは血管を身体中に浮かばせながら言う。
「当たり前だろ。死ぬまでは諦めねぇ。それが戦うって事だろ?」
星月同盟の兵士達が数十人、ユキオや紫村達の援軍に参上する!紫村は助っ人の出現に少し安心したが、
『ウオオオオオオオォ!!』
たくさんの声が重なった、雄叫びの大合唱。そして、大きな地鳴り。
少し遠くを見れば、数台のトラックが道路の真ん中で止まり、中から武器を持った男達が何十……いや、何百人も降りてくる!!
「こ、この最悪なタイミングで、太陽の援軍が!?」
紫村は絶望する。それは、真田ユキオも同様だった。
「マジかよ……諦めないとかどうとかじゃなくて……無理だろ、これ」
処刑時刻まで、あと13分。
その時、空に1筋の流星が光った。
紫村は半ば諦めたかの様に、心の中で星に祈る。
(神さまじゃなくてお星さま。僕達を助けてください)