神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】   作:兵太郎

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第9.5話---理由

--(おおとり)医院。日本で1番大きいとされる総合病院。その手術室では今、院長自らが1人の少年の手術(オペ)をしていた。

 

少年の名は、高畑瞬(たかはた しゅん)。無謀にも神に挑戦し、そして敗れた『人間』である。全身の火傷と多量の出血に見舞われており見た目だけなら結構な重症患者だが、運良くと言うべきか運命と言うべきか、彼は死んでいなかった。彼の身体全体に包帯が巻かれていく途中、手術室のドアを破り、1人の少年がスケボーを片手に背中から突っ込んでくる。

彼は手術台の2mほど前で自分の勢いをなんとか殺して衝突を避けつつ、前を見て舌打ちする。

「くっ……手強いのが来やがった……」

少年に続く様にゆっくりと手術室に入って来たのは、リクルートスーツにネクタイを締めた、サラリーマン風の見た目をした男。ただ異質なのはその顔と手。顔には全てを覆う様な天狗の面を付けており、手にはナイフの様に鋭く長い金属製の爪を装備していた。

スケボーの少年……カミーズJr.の1人、丑三清志郎(うしみつ きよしろう)はその天狗男を睨みながらスケボーに乗る。

高畑瞬(コイツ)の影は明石に繋がってるんだ。健康になれば影が繋がるかもしれない。

 

俺は明石に逢うんだ!!」

スケボーを上に滑らせて、その曲線の軌道に沿う様にソニックブームを発生させると、それを天狗に向かって勢い良く飛ばす!

 

しかし、天狗は上半身を逸らして無駄なくそれを避けると、丑三が地に再びつかないうちに、爪付きの左腕を振るう!

 

(あ、やば……丑三不可避(ヨケレン)ぞ、これは……)

 

ただ単純に状況把握し結果を予測する丑三だったが、天狗の爪付き拳が炸裂する事はなかった。

 

「ひゃっほい」

天狗の鼻を、包帯が巻かれた足がへし折る。天狗はその衝撃を殺しきれず、後ろによろけた。

次の瞬間には鼻のへし折られた首が、胴から離れて宙を舞っているのだった。

「NICE

 

 

天谷武(あまや たける)

天狗を仕留めたのは、神に反逆した『人間』の1人、天谷武。彼は高畑と違い、運動にも支障が出ないほどに回復していた。

「よし……治療(オペ)成功だ!足りない包帯を取りに行くぞ!……安静にしておくんだぞ、君達!」

そう言って院長と看護師が出て行くと、入れ違いにマイクを上着のポケットに突っ込んだ少年が入ってくる。

「あれ、天谷起きた?」

巴光圀(ともえ みつくに)、丑三と同じくカミーズJr.の1人である。その手には、氷漬けの小さな人形が数個ある。

「光圀、それこっちに投げろ」

天谷の命令に従い光圀はそれを放る。すると人形は天谷の徒手空拳により、全て氷の粒になった。

 

「ところでさぁ、そのスケボとかマイクのスゲェ力は何なん?」

天谷の疑問に丑三が簡潔に答える。

「『(あじゃら)』だ。俺にもよくわからんが……遊び心を媒介にした超能力ってとこだな」

「俺も欲しい。くれ」

丑三は首を振る。光圀がそれを引き継いで答える。

「俺達はあのかみまろ、だっけ?あいつとは違うやつからその力を貰ったんだけどよ。そいつももう死んじまったし、引き継ぎとかできるのかもわからんぜ」

「えー、まじか」

天谷はガッカリして声のトーンを下げる。

「じゃあ結局、俺が神になるしか無いって事ね」

「お前、神になりたいのか?」

「うん。

だって、神になったら世界を変えられるんだぜ?」

 

天谷は窓を開ける。

外にあったのは、サイコロの塊。それも1つでは無く、何10個もある。それらは紐の様なものを上から出しており、何10本もの紐が絡まり、巨大な塔の様になっていた。

 

「もう1回あの立方体の中戻ってさ。

全部壊して神になりたいの、俺は」

 

天谷が外から内に目を戻すと、丑三が高畑の上半身を自らの背中に押し上げていた。光圀も一緒に高畑を支えている。

「何やってんの、丑三っちゃん?」

 

「……どーやったら影の中に入れるんだ……」

普通の人間からしてみれば訳のわからない事を、丑三は呟く。

天谷(オマエ)の時は出来たのに……傷が塞がったからいけると思ったのに……カミーズフォンもあれから反応無いし……

 

もぉ、嫌になりそうだ……

 

早く逢いたいよ……明石……「じゃあ、逢いに行こうぜ」!!」

丑三の背中から声が聞こえる。声の主は先ほどまで手術を受けていた高畑瞬。

「その明石って奴が生きてんなら……きっとあの立方体のどこかで戦ってるハズ……キミのスケボなら、そこまで直接飛んでいけるじゃん」

それを聞き、丑三は高畑の背中から離れる。崩れて倒れそうになる高畑を、光圀が支える。

「確かに、言われてみればそーだな。行ってみる価値はありそうだ」

「だろ?」

言いながら高畑は、丑三の手を掴む。全身包帯だらけで、今にも倒れそうな男は、しかし力強く丑三に告げる。

「俺も連れてけ」

 

何の為に(ホワイ)?」

その言葉に高畑はただ一言。

 

「かみまろを殺す為に」

 

その言葉に天谷は嬉しそうに笑うと、俺も連れてけと丑三に言う。

何の為に(ホワイ)?」

「無論、神になる為に♪」

 

「OK、じゃあ俺は、明石に会う為に。

 

いざ地獄の淵へ(レッツ・ゴー・トゥ・ザ・ヘル)

 

後ろで見ていた光圀は、「え!?あんたそんな身体で行くの!?大丈夫かよ!?」と心配して言うが、天谷はすでに高畑を背中に抱えると、そのまま丑三に掴まった。

「光圀、お前も行くのか?」

光圀は言われて数秒考える。

「……行くよ!行く行く!ここで1人待つのもなんだしな!」

「じゃあついてこい、行くぞ」

「え、ちょっと?俺乗せてくれないの!?」

「お前は飛べるだろ」「あ、そっか」

 

丑三は2人を抱えて空へと飛んで行く。その背中を見ながら、光圀はその部屋に寝ていたもう1人の患者に声をかける。

「あんたも行く?ここで寝てた方が良いような気もするけど」

 

その言葉に、天谷や高畑と同じ様に包帯で全身を覆われた男は、短く

 

「当たり前だ」

 

その言葉に光圀は、丑三に倣って問う。

「何の為に?」

 

「俺が俺である為にだ」

 

「そっか。じゃあ、俺は……仲間達を助ける為に」




5人組、再出撃!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!

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