神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】   作:兵太郎

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第5話---ビーフオアチキン

『ふに〜〜〜』

蜘蛛の背中の顔が歯をくいしばって呻く。それと同時に、仏様の顔の頭から金色の蜘蛛糸が!

 

「なるほど、あれがクリア条件か。あの、真ん中の金ピカの糸、昇れって事な」

そう言ってその糸を掴もうとする真田、そして他の挑戦者達に明石は叫ぶ。

「待てお前ら、やめろ!その糸を昇っちゃダメだ!!」

しかし、それに耳を傾け糸を掴むのをやめたのは、真田1人のみ。あとの者は皆金の糸を掴み、登り始めていた。

 

「今すぐ離れろ!『天邪鬼迷宮』は、全部『天邪鬼』なんだ!

ルールが『逆』の意味になるんだ!」

 

 

明石がそう言うと同時に、金の蜘蛛糸が蜘蛛の身体から外れる。

金の糸を掴んでいた者は、急な落下に他のロープに飛び移る事も出来ず、針山へと落ちていった……

「なるほど、そういうクリア方法か。てこたぁ、あのルールの本当の意味は……

 

『時間切れまで糸を昇るべからず』だな」

明石の言葉を受け止めて命拾いした真田は、相変わらずのんびりとした口調で言う。

「教えてくれてありがとな。お前、いい奴だな」「……別に、普通だし」

純粋な感謝の言葉に照れる明石。真田は明石から目を離して少し離れた所にいる男を見ながら言う。

「そんな事ないだろ。殴ってきたアイツとは大違いだ」

 

離れた位置で、青山は金の(ダミー)に惑わされる事なくロープに掴まっている。それを見て明石は息を吸い込むと、彼に聞こえるように……届く様に話す。

「青山……そのままでいい、聞いてくれ!

 

 

あの時はゴメン!」

後ろにいる真田から「さっきも言ってたぞ」と言われたが、明石としてはその言葉は、何度でも言わなければならない言葉だ、と思っている。頑固で自分の意志を曲げない青山に1度謝ったくらいで許してくれるとは思っていない。それでも明石は謝りたかった。

「お前、俺に言ってくれたよな?『これからも一緒にサッカーしよう』って……『一緒にプロになる夢追おう』って……でも、あの時の俺は、ビビってお前と夢から逃げた……それをずっと後悔してたんだ……

 

ゴメン、青山!

俺ともう1度、サッカーしてくれ!!」

明石は全力で叫ぶ!

 

 

 

 

しかし、青山は反応しない。

彼は明石を見向きもせずに、ただロープに掴まっているだけだった。

「お願いだよ……青山……元のお前に、戻ってくれよ……」

明石の声が小さく、弱くなっていく。

 

その時、残り時間が5分を切った。

『残り5分でまんねん。やーーっておしまい!

 

あーらほーら着火ーー!!』

仏の顔が叫ぶ!すると……

 

「火がついた!!ひぃぃ!?」「下、燃えてるぅ!?」

掴まっていたロープが、下の方から燃え出した!

火のロープを進行する速度はそんなに早くないが、炎の勢いはかなりのものの様で、火が燃え移った者達はもれなく、全身に火が回って黒焦げになっていった。

更に、

「何だこの小っちゃい蜘蛛!?……痛てっ!噛むぞこいつ!」

背中にドクロのマークをつけた蜘蛛が、ロープを伝って俺達の身体にまとわりついてくる。そして極めつけは、

『えっほっほ、えっほっほ』

仏蜘蛛が上下運動して、ロープ全体を揺らす!この3段コンボに、ほとんどのものが脱落していく。

「マジかよこれ、一気にムズくね?……あっちの方が火が弱ぇな。行こうぜ明石……ってあれ?」

明石は蜘蛛に取り付かれながらも、ロープの揺れを利用して前に飛ぶ!次のロープに掴まったと思うと、また更に前のロープへと飛び移る!明石の進む方角、そこには……青山がいる。

「待てよ青山!目ぇ覚ませよ!

こんなんで諦めると思ったのかよ!?」

明石はついに、青山のいるロープへと飛び移った!

「俺だよ、青山ぁぐっ!?」

 

明石の声に対し、青山の蹴りが顔面に入る。

明石は「あおや……ま……」と呻きながら、針山へと重力に従って落下していく……

 

「お前バカなの?俺がいなきゃ今の死んでるぞ」

一瞬飛びそうになった意識が、胸への衝撃で元に戻る。どうやら真田が明石を助けてくれた様だ。真田は明石を抱きかかえてロープを飛び移りながら、彼に諭す様に言う。

「お前、いい奴だから死んで欲しくないんだけど……もぉ諦めた方がいいんじゃね?

ありゃもう、何も届かねぇよ」

突きつけられた現実に、明石は声を出す。

「……ゴメン……わかってる……

 

 

わかってるんだけど……信じたいんだ……」

真田は明石の顔を見る。彼は泣いていた。泣きながら、その瞳には巨大な強い意志があった。

「心が通じないとしても……俺の大事な親友だから……それがどんなに辛くても……それがどんなに愚かでも……仲間を信じたから……今の俺がいるんだ……」

 

明石は顔の涙も血も拭わずに、自分の身体を掴んでいる真田の手を離させると、飛んだ!!

 

「仲間を信じるから!!俺は俺でいられるんだ!!」

明石は再び青山と同じロープを掴む。それを見て真田はただ1言、「……わかった、カッコいいからもう止めねぇ」とだけ言った。

 

明石は今度は青山の脚を掴む!その顔面に再び青山の、掴まれていない脚から放たれる蹴りが決まる!しかし明石は、先程とは違いその手は青山の脚を掴んだままだ!

「ホラ来いよ青山!殺せるもんなら殺してみろ!!

 

俺はお前を取り戻せるなら、ここで死んだって構わない!!」

 

明石の顔に、腕に、身体に、蹴りが何発も何発も何発も何発も何発も入る。しかし明石は脚を離さない!

「俺はもぉ逃げねぇ……ビビらねぇ……!

俺はあの時みたいな、臆病な俺じゃないんだ!!」

明石の頭には2つの姿が浮かぶ。

 

試練の始まった日、青山とケンカ別れをした弱い自分。そして、高校最後の夏の大会。PKのチャンスで蹴る事が出来なかった、臆病な自分。

明石はこれまでの試練で、臆病な自分を乗り越えてきた!仲間を信じ、信じられる事で!

「1人で心閉ざしてビビってんのはお前の方だろ、青山!!てか今のお前、マジダッセぇぞ!!悔しくねーのかよ!?俺から逃げんじゃねーよ!

 

弱い自分と戦えよ!!腰抜け(チキン)が!!」

 

その言葉に、明石を蹴り続けていた青山の動きが止まる。

明石は腫れて狭くなった視界で、しかししっかりと青山を見る。

青山は頭を抑え、そして

「ぐ……ヴ……ああああああああああああああああ!?!?!?」

残り時間は1分を切る!しかし明石にはそんな事どうでもよかった。

青山が反応した!それが明石にとっての希望だった。

明石は青山の脚を離すと、ロープを上に昇り、青山の真横まで昇りつめる!

「そーだ青山!戻って来い!俺の知ってるお前は、こんな腰抜け(チキン)じゃねぇ!!バカだけどもっと勇敢(ビーフ)だ!

それがお前なんだ!!俺が信じた青山仙一だ!!」

青山はそう叫ぶ明石に、叫びながらも拳をお見舞いする!しかし明石には、最初に部屋に入った時に喰らったものよりも、心なしか弱く感じられた。

「……こんなんじゃ……俺は死なねぇよ!!」

今度は明石の1撃が、青山の顔面を振り抜く!

明石は殴りあいながらも、青山に気持ちを伝えていく!!

「ーーお前と一緒に、世界一になるんだよ!!!忘れたのか!俺らの夢!!」

 

その1言に、青山の手が一瞬止まった。それを確認した明石は、更に殴られながらも、青山の胸ぐらを掴んで言う!

「忘れたんなら思い出させてやる……!ビビってんなら俺がいる……!!

俺は死なない!!仲間を信じるのが怖いなら、俺を信じろ!!俺は絶対に死なない!思い出せ!お前は世界一のストライカーになるんだよ!!俺が世界一のパスを出したら、お前はいつだってゴールを決めるんだ!もう1回言うぞ!俺は絶対に死なない!!

だから受け取れ青山!これが俺からのラストパスだ!!」

完全に動きの止まった青山の胸を、明石は押す!そして……

ロープから手を離す!!

 

落下していく明石の手が、青山に向かって突き出される!

 

 

届いてるなら(ビーフ オア)

 

この手を掴め(チキン)!!!

 

 

その明石の手を、青山は、

 

 

 

握った。

 

「……あ、明石……俺……」「ほら見ろ、死なねぇだろ!」

 

その時、ちょうど残り時間が0になる。

 

『「釈迦蜘蛛」の部屋、クリア。青山仙一、明石靖人、真田ユキオ、生きる』




『釈迦蜘蛛』の部屋、早くも終了です!明石君の親友青山君の意思をどうにか取り戻す事が出来ました!!

正直この試練は原作とほぼ全て同じです。この話は絶対に変えてはいけないと思っていたので……

次回は再び、イッセー君のターン……かな?

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!

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