神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
『ふに〜〜〜』
蜘蛛の背中の顔が歯をくいしばって呻く。それと同時に、仏様の顔の頭から金色の蜘蛛糸が!
「なるほど、あれがクリア条件か。あの、真ん中の金ピカの糸、昇れって事な」
そう言ってその糸を掴もうとする真田、そして他の挑戦者達に明石は叫ぶ。
「待てお前ら、やめろ!その糸を昇っちゃダメだ!!」
しかし、それに耳を傾け糸を掴むのをやめたのは、真田1人のみ。あとの者は皆金の糸を掴み、登り始めていた。
「今すぐ離れろ!『天邪鬼迷宮』は、全部『天邪鬼』なんだ!
ルールが『逆』の意味になるんだ!」
明石がそう言うと同時に、金の蜘蛛糸が蜘蛛の身体から外れる。
金の糸を掴んでいた者は、急な落下に他のロープに飛び移る事も出来ず、針山へと落ちていった……
「なるほど、そういうクリア方法か。てこたぁ、あのルールの本当の意味は……
『時間切れまで糸を昇るべからず』だな」
明石の言葉を受け止めて命拾いした真田は、相変わらずのんびりとした口調で言う。
「教えてくれてありがとな。お前、いい奴だな」「……別に、普通だし」
純粋な感謝の言葉に照れる明石。真田は明石から目を離して少し離れた所にいる男を見ながら言う。
「そんな事ないだろ。殴ってきたアイツとは大違いだ」
離れた位置で、青山は金の
「青山……そのままでいい、聞いてくれ!
あの時はゴメン!」
後ろにいる真田から「さっきも言ってたぞ」と言われたが、明石としてはその言葉は、何度でも言わなければならない言葉だ、と思っている。頑固で自分の意志を曲げない青山に1度謝ったくらいで許してくれるとは思っていない。それでも明石は謝りたかった。
「お前、俺に言ってくれたよな?『これからも一緒にサッカーしよう』って……『一緒にプロになる夢追おう』って……でも、あの時の俺は、ビビってお前と夢から逃げた……それをずっと後悔してたんだ……
ゴメン、青山!
俺ともう1度、サッカーしてくれ!!」
明石は全力で叫ぶ!
しかし、青山は反応しない。
彼は明石を見向きもせずに、ただロープに掴まっているだけだった。
「お願いだよ……青山……元のお前に、戻ってくれよ……」
明石の声が小さく、弱くなっていく。
その時、残り時間が5分を切った。
『残り5分でまんねん。やーーっておしまい!
あーらほーら着火ーー!!』
仏の顔が叫ぶ!すると……
「火がついた!!ひぃぃ!?」「下、燃えてるぅ!?」
掴まっていたロープが、下の方から燃え出した!
火のロープを進行する速度はそんなに早くないが、炎の勢いはかなりのものの様で、火が燃え移った者達はもれなく、全身に火が回って黒焦げになっていった。
更に、
「何だこの小っちゃい蜘蛛!?……痛てっ!噛むぞこいつ!」
背中にドクロのマークをつけた蜘蛛が、ロープを伝って俺達の身体にまとわりついてくる。そして極めつけは、
『えっほっほ、えっほっほ』
仏蜘蛛が上下運動して、ロープ全体を揺らす!この3段コンボに、ほとんどのものが脱落していく。
「マジかよこれ、一気にムズくね?……あっちの方が火が弱ぇな。行こうぜ明石……ってあれ?」
明石は蜘蛛に取り付かれながらも、ロープの揺れを利用して前に飛ぶ!次のロープに掴まったと思うと、また更に前のロープへと飛び移る!明石の進む方角、そこには……青山がいる。
「待てよ青山!目ぇ覚ませよ!
こんなんで諦めると思ったのかよ!?」
明石はついに、青山のいるロープへと飛び移った!
「俺だよ、青山ぁぐっ!?」
明石の声に対し、青山の蹴りが顔面に入る。
明石は「あおや……ま……」と呻きながら、針山へと重力に従って落下していく……
「お前バカなの?俺がいなきゃ今の死んでるぞ」
一瞬飛びそうになった意識が、胸への衝撃で元に戻る。どうやら真田が明石を助けてくれた様だ。真田は明石を抱きかかえてロープを飛び移りながら、彼に諭す様に言う。
「お前、いい奴だから死んで欲しくないんだけど……もぉ諦めた方がいいんじゃね?
ありゃもう、何も届かねぇよ」
突きつけられた現実に、明石は声を出す。
「……ゴメン……わかってる……
わかってるんだけど……信じたいんだ……」
真田は明石の顔を見る。彼は泣いていた。泣きながら、その瞳には巨大な強い意志があった。
「心が通じないとしても……俺の大事な親友だから……それがどんなに辛くても……それがどんなに愚かでも……仲間を信じたから……今の俺がいるんだ……」
明石は顔の涙も血も拭わずに、自分の身体を掴んでいる真田の手を離させると、飛んだ!!
「仲間を信じるから!!俺は俺でいられるんだ!!」
明石は再び青山と同じロープを掴む。それを見て真田はただ1言、「……わかった、カッコいいからもう止めねぇ」とだけ言った。
明石は今度は青山の脚を掴む!その顔面に再び青山の、掴まれていない脚から放たれる蹴りが決まる!しかし明石は、先程とは違いその手は青山の脚を掴んだままだ!
「ホラ来いよ青山!殺せるもんなら殺してみろ!!
俺はお前を取り戻せるなら、ここで死んだって構わない!!」
明石の顔に、腕に、身体に、蹴りが何発も何発も何発も何発も何発も入る。しかし明石は脚を離さない!
「俺はもぉ逃げねぇ……ビビらねぇ……!
俺はあの時みたいな、臆病な俺じゃないんだ!!」
明石の頭には2つの姿が浮かぶ。
試練の始まった日、青山とケンカ別れをした弱い自分。そして、高校最後の夏の大会。PKのチャンスで蹴る事が出来なかった、臆病な自分。
明石はこれまでの試練で、臆病な自分を乗り越えてきた!仲間を信じ、信じられる事で!
「1人で心閉ざしてビビってんのはお前の方だろ、青山!!てか今のお前、マジダッセぇぞ!!悔しくねーのかよ!?俺から逃げんじゃねーよ!
弱い自分と戦えよ!!
その言葉に、明石を蹴り続けていた青山の動きが止まる。
明石は腫れて狭くなった視界で、しかししっかりと青山を見る。
青山は頭を抑え、そして
「ぐ……ヴ……ああああああああああああああああ!?!?!?」
残り時間は1分を切る!しかし明石にはそんな事どうでもよかった。
青山が反応した!それが明石にとっての希望だった。
明石は青山の脚を離すと、ロープを上に昇り、青山の真横まで昇りつめる!
「そーだ青山!戻って来い!俺の知ってるお前は、こんな
それがお前なんだ!!俺が信じた青山仙一だ!!」
青山はそう叫ぶ明石に、叫びながらも拳をお見舞いする!しかし明石には、最初に部屋に入った時に喰らったものよりも、心なしか弱く感じられた。
「……こんなんじゃ……俺は死なねぇよ!!」
今度は明石の1撃が、青山の顔面を振り抜く!
明石は殴りあいながらも、青山に気持ちを伝えていく!!
「ーーお前と一緒に、世界一になるんだよ!!!忘れたのか!俺らの夢!!」
その1言に、青山の手が一瞬止まった。それを確認した明石は、更に殴られながらも、青山の胸ぐらを掴んで言う!
「忘れたんなら思い出させてやる……!ビビってんなら俺がいる……!!
俺は死なない!!仲間を信じるのが怖いなら、俺を信じろ!!俺は絶対に死なない!思い出せ!お前は世界一のストライカーになるんだよ!!俺が世界一のパスを出したら、お前はいつだってゴールを決めるんだ!もう1回言うぞ!俺は絶対に死なない!!
だから受け取れ青山!これが俺からのラストパスだ!!」
完全に動きの止まった青山の胸を、明石は押す!そして……
ロープから手を離す!!
落下していく明石の手が、青山に向かって突き出される!
その明石の手を、青山は、
握った。
「……あ、明石……俺……」「ほら見ろ、死なねぇだろ!」
その時、ちょうど残り時間が0になる。
『「釈迦蜘蛛」の部屋、クリア。青山仙一、明石靖人、真田ユキオ、生きる』
『釈迦蜘蛛』の部屋、早くも終了です!明石君の親友青山君の意思をどうにか取り戻す事が出来ました!!
正直この試練は原作とほぼ全て同じです。この話は絶対に変えてはいけないと思っていたので……
次回は再び、イッセー君のターン……かな?
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!