神さまの言うとおり 〜踊らされる悪魔達〜 【完結】 作:兵太郎
ゴールプレートが現れる。それに向かって走り出そうとした俺達は、しかしまたしても足を止めてしまった。
俺達の眼の前で起きている光景は、つい足を止め目を背けたくなるような、まさに地獄絵図だった。
他人を蹴倒し、蹴飛ばし、そして蹴落とし、残った者だけが『2』のゴールプレートへと進んでいく。敗者は恨みつらみを並べながら落ちていく、そんな光景。俺は、この時間が一刻も早く終わってくれる事を願った。
そして、1人の女の子がその中から抜け出す。彼女は驚異的なスピードで『2』のプレートの前にたどり着くと、両手を広げて羽ばたくように飛び、
プレートから出てきた触手の様な物に、全身を貫かれた。
女の子に少し遅れてたどり着いた男子2人が叫ぶ。
「うぉぉ、何でだょぉコレ!?せっかくここまで来たのにぃ!?」「クリア条件満たしてただろぉ!?案山子の手は2時を……!
2時、過ぎてんじゃん……案山子の指している時間のゴールしか、出せないし踏めないんだ……」
今の女の子のおかげで更にルールがわかったけど、別の問題が発生した。
落とし合いをしていた奴らのせいで、プレートが相当減りやがった!くそっ、もしかしたらゴールプレート出現のスペルがあったかもしれないのに!
「無理ゲーだし」
千夏ちゃんが断言する。俺がそっちを睨むと、彼女も俺を睨み返しながら続ける。
「いろんなパターン考えてみたけど……この選別に勝つ方法なんてないね。プレート出したら恐らくゴールに間に合わないだろーし、ゴールプレートが出たとしてもさっきみたいな足の引っ張り合いで落とされるのがオチだし」
「そ……そんな事言わないで下さいよ千夏さん……きっと何か生き残る方法があるはずです。きっと「フザけんな、お前行けよ!」!」
俺達は声のした方を振り向く。そっちにいたのはさっきのチャラ男2人。どうやらもめているみたいだ。
「何で俺が踏む役なんだよ!?」「だってここに『SEVEN』があるんだぞ!?7時になったら俺が突っ込むから!お前がタイミング良くゴール出現させりゃゴール出来るんだ!」
「だから残された俺はどうやってクリアしろっつーんだよ!?」「そんな事言ったってどっちかしか助からないだろぉ!?」
2人の足下には、確かに『SEVEN』のプレートが並んでいる。なるほど、確かにどっちかがプレートを決まったタイミングで出してくれれば、もう1人は確実に助かるな。
と、そこで明石が何かを閃いた様な顔をした。俺は明石の顔を見る。彼はこれまでの中でも1、2を争うくらい難しい顔で告げる。
「思いついたぞ……生き残る方法……
でも、この方法は……本来なら禁じ手……ある意味、『悪魔の攻略法』!!」
悪魔の、って言われた瞬間ビクッとなったが、動揺は顔に出さない様に抑えた……つもりだけど、もしかしたら思いっきり出てるかもしれない。
「それでもいいなら……!何の音だ!?」
明石が言う様に、小さくバリバリと風を切る音が聞こえる!それはだんだんと近くなってきて……遂にその音源が明石の後ろに出現した!
出てきたのはヘリコプター!TV局のマークがついてるから、TVによる実況中継をやるつもりなのかと思ったが、それにしても迷惑極まりない風だ!俺は両足で立ってるから踏ん張りが効くけど、片足で立っている奴らは下手したら落ちちまうぞ……なんて思っていたら。
「あ」
そんな声と共に、隣にいた千夏ちゃんが視界から消えた。彼女は空へと放り出され、重力に従って落ちていく。ヘリの羽音のせいで悲鳴は聞こえない。だけど、その顔は恐怖と絶望に染まっている様に見えた。
助けて……
そう聴こえた気がした。
「……」
声は聴こえないだろうと思った俺は、
足場のプレートから飛び降りた。
落ちていく千夏ちゃんへ向かって右手を伸ばす。
伸ばした手を、千夏ちゃんが差し出した右手の指が絡みつく様に掴んだ。俺は彼女を掴んだのを確認すると、紅い翼を出現させる。千夏ちゃんを身体の前に持ち上げ、お姫様抱っこの要領で彼女を抱え、飛翔した。
「……何で、助けに来たの?」
掠れた声で千夏ちゃんが尋ねてくる。その言葉に対して俺は、
「仲間を見殺しにはできないだろ」
そう、応えた。
「仲間……あんたとはついさっき会ったばかりなのに、仲間なんて呼べるの?」
「あぁ、俺達は皆、かみまろと戦う仲間だ」
「戦う……?面白い事言うね。今、私達が戦ってるのは恐怖くらいのもんでしょ。かみまろと戦うとか、ましてや勝つとか無理に決まってるし」
そう言ってクスッと笑う彼女の身体は、しかし小刻みに震えている。死が1度目の前に迫ったんだ、無理もないと思う。俺も昔あの堕天使に身体を貫かれた時、死への恐怖で足がガクガクになったもんな、と妙に懐かしく思えてしまう、しかしこの1年の間の出来事だったあの事件を少し懐かしんだ。
「まだ俺達の試練は終わってない……戻ろう」「うん」
そう言って、俺と千夏ちゃんは上へと戻って行った。その途中。
ドカン、とヘリコプターによる激しい爆発が起き、再び大きな衝撃波が生まれた。
俺達がさっきいた所から、また1人風圧に押し負けた奴が落ちてこようとしていた。明石だ。俺は明石も受け止めようと身構える、が、明石はずっと落ちてはこなかった。
その腕を、別の腕が掴んでいた。プレートの下から見えるもう1人の腕は、囚人服の様なボーダーの長袖を着ている様だった。
恋愛フラグを回収するのは難しい……死亡フラグは楽に回収できるんですが……
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!