東方己分録   作:キキモ

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三十九話 猫と狐

体感にして、恐らく十分ほどか。

泣き喚いていた猫耳少女の声が次第に落ち着いてきていたことに気付いた俺はほっと胸を撫で下ろす。

泣かせるような真似をした覚えはないのだが、少女の様子からして原因は俺にあるらしい。

凄まじく居心地が悪かった。

 

かと言って、目前で涙する少女をただ見ていただけかといえば一応はそんなことはないと弁明する。

とにかく落ち着かせようと声をかけ、話しかけ、質問を投げかけ、気を惹こうとアプローチするも、少女はといえば泣くばかりで完全な無視。

いつも子供をあやす時にしているように頭を撫でてみよう手を伸ばすも、涙を拭う手でことごとく弾かれる。

 

明確な拒絶反応に内心ちょっと傷付いたが……それはどうでもいい。

とはいえ、様々な試みも泣きじゃくる少女は全て拒絶もしくは無視。

しかしそんな様子の少女を置いておくのも気が惹けて、結局しばらくの間俺は困り顔のまま少女の傍らで見ていることしかできなかったわけである。

 

というか俺の周りで「そっちよりもこっちを撫でろやコラ」と要求し続ける猫たちはすぐそばで膝を突いて泣いている女の子を慰めてやれよ。

などと、当人の前でそんなことを言うわけにも行かない俺は視線で猫たちに訴えかける。

俺の無言の訴えに猫たちは完全にスルーを決め込んでいたわけだが。

 

さて、泣き止んだ少女はというと、赤くなった目で俺を睨みながら立ち上がると、膝についた土をパンパンと叩いて掃う。

「つ、スン……着いて来て下さい」

出だしから鼻を啜りはしたものの、礼儀正しい言葉遣いは幼い容姿と出会いがしらの奇行からすれば予想外だった。

 

とまどいつつも、俺は大人しく頷いて立ち上がった。

どうやら会話は出来そうだ。

 

若干の緊張と戸惑いを従えたまま、俺は踵を返して歩き始めた少女に続く。

俺たちの後ろを猫たちがぞろぞろと着いて来ていた。

「…………」

落ち着いた歩みを見せる少女の背中に得も言えない迫力を感じ、いったい何のつもりだろうと想像を内心では困惑する。

 

「こちらへ」

猫たちになんとも言えない視線を送っていると、立ち止まった少女が一軒の家屋を差す。

廃村どころか廃墟といっても過言ではない集落の中で、その家屋だけが小奇麗で立派な一軒家で、何匹もの猫が日向ぼっこをしている。

 

「…………ああ、うん」

促されるままに、俺は猫をそっと避けて座るスペースを確保する。

「にゃ~」と不満げな彼らに引きつった笑みで「すまん」と謝りながら、俺と少女は並んで座った。

春の日差しは暖かく、横になれば猫でなくてもまどろんでいただろうな、と現実逃避気味な感想を抱いた。

 

「それで」

ジト目を俺に向け、少女は口を開いた。

「貴方は何者なのですか」

 

「えーーと、岡崎悠基……ただの人間かな」

とりあえずと付け加えてみたが、我ながら白々しい。

少女は不満げに二本の尾を揺らす。

 

「ただの人間なわけないでしょう」

「いや、まあ……」

少女のきっぱりとした物言いに俺は言いよどむ。

 

「妖精たちが活発に動くこの時期に人里の外にいること」

あ、はい。

「人里から遠く離れた、それも妖怪の山の麓にいること」

はい。

「そんな人間が普通なわけないです」

確かに。

反論の余地もなく気まずい面持ちの俺に、少女は更に鼻息を荒くする。

 

「極めつけは」

少女は縁側に立ち上がる。

自然、座ったままの俺を見下ろすように視線を下げて、少女は右手を俺に掲げた。

「マヨヒガの猫たちをあっという間に手懐けたこと!」

 

「はい……て、いやいや」

話の流れからしてまよいがというのはこの集落の名前か。

 

とにかく、手懐けているというのが誤解であることは間違いない。

「それは勘違――」

「さあ!どうやってあの子たちを手篭めにしたのですか!」

「いや待って聞けって」

 

どうにか宥めようと手を伸ばすも、先ほど同様予想外に強い力で払われる。

肩を震わせ憤る少女の様子に、自分の中で合点がついた。

 

どうやら彼女は、自分の配下にある猫たちが俺を慕っていることに随分と立腹らしい。

だったら誤解を解けばその余韻を鎮めてくれるかもしれない。

猫たちに哀れまれていただけ、などと積極的に説明するのは気が進まないわけだが、安いプライドはちゃっちゃっと売っておこう。

 

「別に手懐けてたわけじゃなくてな」

「黙ってください!」

えー……。

 

理不尽な対応に閉口していると、少女の瞳がまた潤み始めた。

ま、またか!?

「待って待って、俺は別に君の猫を――」

俺は慌てて弁明しようと身を乗り出すが、妙な迫力を発する少女がぼそりと呟く。

 

「私でさえ」

「え?」

うっかり少女の言葉に耳を傾けてしまう。

 

直後、ついに瞳から大粒の涙を零し始めた少女は、声を上げる。

「私でさえ、まだ、あんなに仲良くなったこと無いのに!!」

 

……なんか、想像してた答えと違う。

 

唖然とする俺の前で、少女はえっぐえっぐとしゃくりあげる。

「うっ、わ、私だって、まだもふもふとか、ペロペロとか、数えるくらいしか、ないのに」

「う、うん」

「わた、全然、言うことも、うぅっ、私の言うこと、聞いてくれなくて」

「うん」

「ら、りゃんしゃまの言いちゅけ、守れてないええええん」

「お、落ち着いて落ち着いて」

 

本格的に泣き始めた少女に俺は嘆息しつつ慰めにかかる。

猫たちのリーダー的な妖怪かと思ったが、そんな立場にないらしい。

周りの猫は慣れた様子で気にも留めない。

 

なんとなくの事情を察しつつ、ふと少女の言葉が引っかかる。

鼻声でしゃくりあげていたためうまく聞き取れなかったが、今この子、「藍様」って言ったような……。

 

「チェンッ!!!」

突然頭上から声が降ってきた。

その声に、少女も俺も揃って肩を跳ねさせた直後、俺たちのいる家屋の真ん前に何かが凄い勢いで落ちてきた。

衝撃音と同時に突風と砂埃が巻き起こり、近くにいた哀れな猫たちが悲鳴を上げながら散開する。

 

「橙!!」

「え?」

「ら、藍様!?」

「ええ!?」

聞き覚えのある声と少女の口にした名前に、俺は砂煙を突っ切って近づいてくる妖怪と少女を交互に見る。

 

涙で濡れたままの橙の頬を凝視し、次いで俺に敵意ある視線を向け、一瞬の間を置いて今度は目を丸くしたその妖怪は「ん?」と首を傾げる。

「……なぜ悠基がここに?」

「……やあ、藍」

なかなかに破天荒な登場だったが、見知った友人の顔を見た俺はほっと安堵の息を漏らした。

 

 

* * *

 

 

「ふむ……なるほど」

藍は小さく息を吐くと、神妙な表情で頷いた。

 

先ほどまで少女が――「橙」と藍から紹介された彼女が座っていた縁側に、今度は藍が腰掛けていて、並んで座る俺は経緯を一通り話し終わったところだった。

橙はといえば、俺たちの声が届かない程度の距離をとって、なにやら猫たちに腕を振って声を上げている。

指示や命令を出しているようにも見えるが、一匹たりともそれに反応する様子がない。

 

「まあ、だいたいの事情は分かったよ。すまないな悠基。私の式が迷惑をかけたようだ」

「式?」

察しのいい藍に感謝しつつ、以前の彼女の言葉を思い出して首を傾げる。

 

「ん?確か、藍って」

「うむ。そうだな。橙は、いわば式の式といったところだ」

そもそもの話として藍のいう式というものがよく分かっていないため、いまいち彼女の言葉にピンとこない。

 

「前に言ったとおり、部下かなにかと思ってくれればいいさ」

「あー、うん。そうする」

 

「しかし、君は随分と深いところまで来るようになったのだな」

感心と、そして若干の呆れを匂わせながら藍が言った。

「まさかマヨヒガまで来るとは。まあ、無事ではすまなかったようだが」

ボロボロの衣服と傷だらけの体を見ながら、藍は眉を顰める。

 

「天狗から逃げてる内に迷い込んでね……マヨヒガだけに」

「そうかい」

最後のくだらない一言を流して、藍は相槌を打つ。

 

「さて、悠基はこれからどうする?帰るならば送っていこうか」

「気持ちはありがたいけど、帰るときは普通に能力を解くよ」

藍の申し出に「お姫様抱っこ」のオチが分かった俺は苦笑しつつ首を振る。

 

しかし、と俺は視線を藍から逸らす。

「それでなんだけど、橙は何をしてるの?」

逸らした視線の先では、無反応な猫たちに声を上げる続ける橙という変わらない景色がある。

 

「……だいたいの事情は察しているんじゃないか?」

強張った声が返ってきて、俺は途惑いながら頷いた。

「まあ、なんとなくは……あの子は、このマヨヒガの主になろうとしてるんだね?」

「そこまで大きな話ではない」

 

「…………」

力の抜けた藍の声に俺は頬を掻いた。

「全く違うというわけでは無いがな。要はあの子は、配下を作ろうとしているのだ」

「で、長いことその試みは成就していないと」

「分かるか」

 

「それもなんとなく、だけど」と俺は咳払いをして答える。

「俺が猫に慕われてるように見える光景でショックを受けてた様子だったし。それもあんなに、泣くくらいってことは相当苦労してるんだろうな、と」

「間違ってはいない。もとから泣き虫ではあるのだがな」

 

いらぬ補足もあってか、俺は思わず閉口する。

橙の言動からして、精神年齢は……妖怪だから見た目どおりではないだろうが、ともかくとして年端も行かぬ少女と言ってもいいだろう。

 

長いこと試みてもなかなか成果は得られない。

得られないまま、しかし月日は過ぎていく。

そんなとき、不意に現れた一人の男。

彼女が見たのは悲願……というと大袈裟かもしれないが、しかし、自分がまだ出来ていないことをその男が易々と成し遂げている光景。

 

彼女のそれは間違いなく勘違いだし、俺だって知らず知らずのことだった。

とはいえ橙の幼い心を傷つけたのだということ認識は、的外れということはないだろう。

 

「気にしているのか?」

ふいの言葉に思わず藍を見る。

「なん――」

「顔に出ていた」

なぜ分かったのかを問う前に答えられ、俺は思わず唸るように口元を歪ませながらあいまいな相槌を打った。

 

「んー……」

「君の人の良さは分かってはいるが、そんなことまで気にしていたら世話がないぞ」

「そんな言い方……」

「『そんなこと』だよ」

視線を下ろす藍は、なにか思案するような顔をする。

 

「子供が泣くことなど珍しいことではないだろう」

「確かにそうだけど」

 

寺子屋に勤めているおかげか、確かに藍の言うとおり子供が癇癪を起こすのは見慣れた光景だ。

特に年少組の子なんかは喧嘩や軽い怪我で泣き出すほど幼い。

それもあって子供をあやすのも慣れたものなのだが、橙のそれは俺の見慣れた光景とは異なっていた。

 

「でも、あれは癇癪の類じゃないだろ」

その背景を考えれば、それをただの癇癪と断じるには抵抗を感じる。

思わず反論を口にすると、藍は目つきを厳しくした。

「だからなんだというのだ」

 

予想外に冷たい言葉に俺は思わず口を噤んでいた。

「確かに橙は化け猫としては幼いし、妖怪としてはまだまだだ。だが、それは甘やかす理由にはならないだろう」

「そりゃ甘やかしすぎるのは良くないけど、でも厳しすぎるのも可哀想だろ」

 

言いながら、自分がむきになりつつあることを自覚する。

寺子屋で勤めてきたせいか、それとも藍曰くの無用な責任感のためか。ほとんど話していない橙に対して思っているよりも感情移入しているらしい。

そんな様子の俺に対して藍は怪訝な様子で言い放つ。

 

「部外者の君に口を出される謂れは無いよ」

「そりゃ!……そうだけども」

言われなくとも自覚はあった。

それでも強引に意見をしようと思っていたが、いざ言われて見ればついつい口篭ってしまう。

 

図式としては、よその教育方針に口を出そうとする他人といったところか。

そんな立場で意見しようなど痴がましいのは自覚しているし、そもそも藍に噛み付いたとして、それは橙のためではなく自己満足になってしまうだろう。

「…………」

 

そんな心境で黙り込む様子を察してか、藍は嘆息した。

「彼女は私の式。なれば、間接的とは言え幻想郷の守護者たるわが主の式だ。その立場に就くと言うのなら、相応に厳しくせねばなるまい」

「…………」

ふいに、大晦日の記憶が蘇る。

 

「さて、そろそろ君は帰りなさい」

これで話は終わりだと打ち切るように藍は立ち上がった。

対して、俺は素直には従わない。

 

「俺、思うんだけど」

「……まだなにかあるのか」

動かない俺に藍は胡乱な目を向ける。

 

「そういうとこ、藍の悪い癖だよ」

「なんの話だ」

首を傾げる藍に、とりあえずはと俺は思ったことを呟くことにした。

「えっと、ユカリ様だったな。その人がこの幻想郷の管理者だから、その式の自分はちゃんとしなきゃいけないって考えた結果、迷走してたよね」

 

「あの時の話はよしてくれ」

怒っているとまではいかずとも、藍は怪訝な顔で俺を見る。

「でも、藍は変に肩肘張りすぎてないか?」

「まあ自覚はあるよ」

 

意外にも素直に応じる様子に俺が鼻白むと、「でもね悠基」と藍は続けた。

「橙は妖怪なんだ。君が例えあの子を普通の子として見ていても、人の子と同じように扱うべきと思っているなら、その認識は改めるべきだよ。たとえ私の頭が固くともね」

「っ――」

 

……うおぉ、考え全部先回りされた!

さすがと言うべきか、藍は俺の浅はかな考えを完全に読んでいたらしい。

更にその上で諭すような大人の対応までされれば、完全に立つ瀬なしである。

 

「分かった。降参」

ホールドアップして見せると、藍も頷く。

口論という程のない、他愛のない言い合いだったがなんともきまずい。

 

「さて、もう一度言うがそろそろ帰りなさい」

「へいへい」

今度は素直に立ち上がった俺を見て、藍は安心したように息を吐くと、橙に視線を向けた。

 

「橙!お見送りだ」

「!…………はい」

藍に呼ばれた橙が不承不承といった様子で駆けてくる。

礼儀の正しい口調からもなんとなしに感じるが、ずいぶんと躾けられ……じゃなくて、教育されているらしい。

橙の発する空気からして少なくとも好かれてはいないとは思うが、それでも藍の言うことに素直に従っている辺り………あ、そうだ。

 

「見送りなんて別にいいのに」

思ってもいないことを口にしながら、橙を見てタイミングを図る。

とはいえ、俺は思っていることを顔に出さずにはいられない質なわけだが、今回はタイミング的には悟られる前に実行に移れる。

藍が俺の顔を見て訝しげに眉根に皺を寄せるが、すでに橙は俺たちの会話が聞こえる距離まで近づいていた。

 

「ねえ、藍」

「なんだ」

「橙が可愛いなら、厳しく躾けるばかりじゃ可哀想だよ」

「いい加減しつこいな君は」

呆れ半分、横目に橙に一瞬視線を移した藍は、眉尻を釣り上げた。

 

唐突な話に目を丸くする橙を確認しつつ、俺は悪びれもせず続ける。

「でも、可愛がっているのは事実だろ?」

「なぜそうなる」

「だって、藍がここに飛んできたのって、橙がいじめられてると思ったからじゃないの?」

 

「…………おい」

おっと思ったより露骨に不機嫌オーラを感じるぞ。

これ以上は黙れと視線で訴えかけてくる辺り、概ねの事情は察した。

 

「ここに来たとき、泣いてる橙を見て俺に殺気を向けてきたでしょ。つまりはそれくらい橙が可愛いってことでしょ?」

ついでに言えば、藍の教育方針としては橙には厳しく接するつもりのようだ。

橙を可愛がっている、と露骨に仄めかせた俺に対する藍の態度からしてそのことは隠しておくつもりだったのか。

 

そんな俺の推察を、目を見開き固まる藍の様子が裏付けていた。

つまりは図星だ。

硬い表情のまま、藍が口を開こうとしたとき、予想外の方向から藍に追撃が浴びせられる。

 

「そんなこと分かっています」

衝撃を受けた様子で藍が目を見開き、声の主を見る。

俺も驚きながら見ると、橙は胸の前で両手を握りしめ、俺をまっすぐ見ていた。

「藍様が私を可愛がっていることは、あなたなんかより私の方が分かっています!」

 

純粋な丸い瞳で俺を睨み、口元が緩みそうな微笑ましい訴えをする少女を前に、俺は思わず一歩たじろいでいた。

なにこの子可愛いっ……!

と、他者の俺ですら衝撃を受ける愛くるしさな訳だが、反して藍は。

 

「…………っはぁ~」

大いに溜息をついて、額に手を当てていた。

見るからに呆れた、という雰囲気を醸しだしてはいる。

だが、頬が赤いのは隠せていない。

 

「君はなにがしたいのだ」

ジト目を向けられた俺は、満足気な笑みを浮かべて応じる。

「さっきの意趣返し、かな」

「子供か」

 

ぴしゃりと言い放つ藍に誤魔化すように笑みを浮かべた。

「ははは、それじゃ、俺は御暇するよ」

と、踵を返した俺の肩に手が置かれる。

「まあ待て」

 

俺を引き止めるのは、先程まで「帰れ帰れ」と言っていた藍である。

微小を浮かべる彼女だが、どういうわけか強烈なプレッシャーを感じた――いや事情は察してあまりあるわけだが、ともかく――俺は冷や汗を流す。

 

「な、なにかな」

「確認だが、君は里に分身を残しているな?」

「……なんで?」

「いるんだな?」

 

有無を言わせない藍の口調。

肩を掴む手に力がこもり、もはや嫌な予感は確信に変わりつつあった。

「い、います」

「なら良し」

藍が微笑み、俺は青ざめた。

 

「な、なにが――」

ん?

背中がなんだか暖かいような――。

「あっづ!」

焦げ臭い匂いを感じたのもつかの間、背中に強烈な激痛が奔る。

 

見るまでもなく、着物の背部が燃え上がっているのを察した俺は思考が固まる。

「――うっぎゃあああ!」

熱、痛っ、死ぬっ!

のたうち回りたい衝動、肩を掴んだままの藍の手は万力のような力を発して動けない。

分身、分身をおおおおっ!

 

「ら、藍様?」

悲鳴を上げる俺の耳に戸惑った橙の声が届く。

そんな橙に構わず、暴れて逃れようとする俺を掴んだまま、藍は柔らかい口調で言う。

「ならばこれも意趣返しというものだろう」

 

「洒落にならねええええええええええ!」

涙目の俺は断末魔を残し分身を解いた。

激痛で真っ赤になった俺の視界に最後に映ったのは、笑顔の藍と、その藍にドン引きしている橙の姿だった。

 

 

 

…………その後、里で藍と遭遇し顔を青くする俺に、藍はにっこり微笑んで「あの時はすまなかったな」と悪びれもせず謝罪してきた。

口は災いの元。

古来より知れ渡るこの格言を、俺はそろそろ学んだほうがいいかもしれない。

 




更新が遅くなって申し訳ありません。
多忙が極まりこのように遅くなってしまいました。

今回は橙回……と見せかけた藍回。
まあでも橙はやっぱり癒される存在であってほしいなーとか、やっぱりこの二人には仲良くしててほしいなー、みたいなイメージで書いてます。
それとは関係なく主人公と藍の間が微妙に悪化しているような気がしないでもないですが、ほのぼのを明言している拙作ですので、次に藍が登場する際はケロリとしているでしょう。

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