東方己分録   作:キキモ

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二十六話 弾幕ごっこ

俺は現在、人里では仕事を三つ掛け持ちしている。

寺子屋、甘味処、そして阿求さんに雇われての妖怪調査だ。

 

能力による分身を前提にしているわけだが、分身した俺が同時に存在できる人数は二人。

故に、仕事が全て同じ時間帯だとどうしても『俺』が足りなくなる。

寺子屋は子供たちが相手だし、甘味処だって営業時間が決まっているので、どちらも朝から夕方と時間が決まっている。

だが、外の調査ならば、時間的には多少の融通は利くだろう。

 

そんな考えの下、俺は年が明けて最初に阿求さん呼ばれたその日、とある提案をしていた。

 

「――なので、里の外の調査なのですが、今後は夜間の調査を踏まえることで調査頻度を維持する方針で考えていただけないでしょうか」

 

「…………」

静かに俺の話を聞いていた阿求さんは、無表情で俺を見据えてくる。

平常時と変わらない目つきのはずなのだが、沈黙が重苦しいせいかその目からは睨んでくる以上の無言の圧力を感じた。

「あはは……」

不満を訴えかけてくる視線に、俺は気まずくなって下手糞な作り笑いを浮かべる。

もちろん考えるまでもなく逆効果で、よけい空気が重くなった。

 

俺は笑顔を引っ込めると、正座した姿勢のまま深々と頭を下げた。

「あの、甘味処で新しく勤めることになった件については、お伝えするのが遅れて申し訳ありません」

「ええそうですね。まずはそこからですね」

阿求さんは腕を組む。

 

「何か弁明は?」

阿求さんの問いかけに、俺は頭を上げつつもたじろいだ。

「べん……えっと、あー、その、昨年最後にお会いした時には、まだケーキの再現に至っていなくてですね」

「それで?」

「なので、その時点ではまだ甘味処で勤めるかどうかも定かではなく…………」

 

「ええそうでしょうそうでしょうとも。ですが、勤め先を増やすというならば当然他の仕事に支障が出ることは分かりますよね?」

「は、はい……」

「それならば、成果が出てから甘味処に話を通す前に、私に前もって相談するべきではありませんか?違います?」

 

俺は冷や汗を浮かべながら、視線を逸らす。

「…………それは、そうなのですが」

「ですが?なんでしょうか?」

あくまで淡々した口調だ。

そこが怖い。

反論しようとしたことを後悔するも手遅れだ。

 

「そ、そのですね、なんだかんだと試行錯誤してなんとか成果が出たのが嬉しくてですね……浮かれて行動が先走りまして……その」

「…………」

「あ、あと、以前から職を増やすかもしれないと仄めかしてはいましたし…………」

「…………」

「……すいません言い訳です」

 

「……はぁ」

阿求さんが小さく嘆息した。

「……まあ、全面的に反省しているようですし、職を探していることを伝えられていたのは事実ですし、決まってしまったものは仕方ありません。今回は大目に見るとしましょう」

「本当に申し訳ありません」

「ただし、次はありませんよ」

「はい。肝に銘じます」

どうやら、一応は許してもらえたらしい。

 

内心安堵する俺を阿求さんは見据えたまま言う。

「では次です」

「え?次、ですか?」

困惑する俺に、阿求さんは小首を傾げて微笑みを浮かべる。

ただ微笑んでいるだけなのに、今まで以上のプレッシャーを感じた。

 

「これで終わりとでも?」

許されてなかった……。

 

と冷や汗を流す俺だが、彼女の言う理由に心当たりがない。

「え、えーと」

阿求さんの言葉に俺は頭を捻らせる。

分からない、心当たりがない、だとするならば、何か気付かない内に無礼を働いていたのかもしれない。

 

「ええと、何か間違えましたか?」

「間違い?」

「その、失礼というか、礼儀作法に則っていないというか」

「ああ」

阿求さんの口元が綻ぶ。

自然な笑みだった。

 

「今更ですね」

「あ、今更ですか……」

つまり無自覚に無礼を働きまくってると。

 

「ええ今更ですよ。まあ貴方が外来人であることを踏まえればそこまで気にするような話ではありません。間違いを言っているのは確かですが」

笑みを下げると、阿求さんは神妙な顔つきになる。

「夜間の里外での調査……貴方の提案は承諾しかねます」

 

俺は内心首をかしげながら口を開く。

「こうなった経緯はともかく、悪い話ではないと思ったのですが」

「ええ。確かに、夜は妖怪の時間。彼らが活発になる時間です。故に得られる物は昼よりも期待が持てるでしょう。私としては望ましいことですね」

ですが、と阿求さんは首を振る。

 

「その提案は貴方に掛かる負担が大きすぎます」

「俺の問題ですか」

「雇い主としては憂慮するべきことです」

阿求さんは右手の人差し指を立てた。

 

「貴方の能力は体力を使うのでしょう?なら、ただでさえこれから忙しくなることが見込まれるのに、あまつさえ夜間にも能力を行使すると疲労が溜まる一方では?」

「最近は能力を使ってもそれほど体力を使いません。片方が夜に動いても、もう片方が休んでいれば問題ないです」

「……貴方の能力については、他ならぬ貴方自身が一番詳しいでしょうし、そこは信じましょう」

阿求さんはコホンと咳払いをする。

 

「しかしですね、夜の里の外となると明かりも当然ありません。視界の確保は困難でしょうし、満足に行動できるか甚だ疑問です」

「あの、案外月明かりが強いので、道を外れすぎなければ意外といけますよ」

「は?」

おずおずと話す俺に、阿求さんが固まった。

目を見開いて暫く俺を見つめていたが、僅かに顔を俯かせる。

天井を指差すように伸ばした人差し指がプルプルと揺れ始めた。

おっと、これは……。

 

「まさか、とは思いますが」

「は、はい」

「日が沈んだあとに里の外に出たのですか?」

 

「……まあ、夜間調査を提案する身で、それが可能かどうか下見くらいはしたほうがいいと思ったので」

「……なんでそういうところは律儀なんですか」

天井を指差すようにしていた右手を額に動かすと、阿求さんは盛大にため息をついた。

思いっきり怒られるかと思ったが、どうやら呆れが上回ったようだ。

 

「貴方は無駄に行動力がありすぎます」

「む、無駄に、ですか」

「無駄に、です」

なんだか褒められているようで褒められていないこのフレーズを最近聞いたような気がする。

 

「何か理由でもあるのですか?」

「理由?」

阿求さんの問いかけに、はてなんのことかと首を傾げる。

 

「やけに夜間調査に拘っているようでしたので」

「あー別に、夜に出歩くことに拘っているわけではないですよ」

少し気まずい笑みを浮かべつつ、俺は頭をかいた。

「ただ、やっぱり俺の不手際でこの仕事に穴を開けたくはなかったので」

「それだけですか」

「強いて言うなら」

「そうですか」

 

何度目か分からないため息をつくと、阿求さんは俺の目を真っ直ぐ見据える。

「……では、ええ。貴方が大丈夫というなら信じることにしましょう。元より私にとってはありがたい話です」

「はい」

 

「悠基さん、貴方が今後調査する夜の里の外は完全なる妖怪の世界です。能力を過信して無謀や無理をしないように」

「はい。気をつけます」

俺は、誠意を込めて大げさに頷くが、阿求さんはどういうわけか半眼になった。

 

「……なぜか貴方のそういうところは信用できないんですよね」

「えぇー」

これも、最近誰かに言われた気がする。

 

 

 

なお、この話をしてから数週間後、俺は紅魔館へ訪れたのだが、その話を聞きつけた阿求さんから散々小言の嵐を受けるのは更にそれから少ししてからの話だ。

 

 

* * *

 

 

そんな経緯もあって、俺は今、月明かりを頼りに里から伸びる道を歩いている。

寒空の下、外套を纏った着物姿はいつものことながら、その腰には一振りの木刀を差している。

これは、せめてもの護身用にと阿求さんから持たされた物だ。

そうは言っても身体能力だけで圧倒的な差がある妖怪相手となると、武術の心得もない俺にとっては気休めにもならないわけだけど。

 

周囲を見回し警戒するが、開けた土地なのもあって近くに妖怪は見当たらなかった。

とはいえ、油断は禁物。

なにしろ今日は、『お土産』があるのだ。

 

小脇に抱えた荷物を意識しつつ、俺は空を見上げる。

幻想郷の月はやけに明るい気がする。

元の世界とこちらの世界は似たような歴史を辿っているはずなので、天体規模で見るならば俺が認識できるほどの違いはないとは思う。

だから、月の光が強いと感じるのは単なる気のせい、もしくは幻想郷を覆う博麗大結界か何かが作用しているのかもしれない。

 

「――――~~♪」

ふと、そんなことを考えていると、何か聞こえた気がした。

 

「……歌?」

耳を澄ますと、旋律にも似た声が確かな物となっていく。

だが、周囲を見回す俺の視界には、それどころではない異変が起きていた。

 

暗い。

ついさっきまでずっと先まで見通せていた光景が、まるで深い霧に覆われたように数メートル先で闇に遮られていた。

息を呑み、空を見上げて月を確認する。

眩しさすら感じていた幻想的な月光が、今は僅かに靄が掛かったように見える。

 

その間にも、歌声は次第に大きくなっていた。

美しいとさえ感じる歌声は、俺の感情を波立たせる程度に揺らす。

平常時であれば聞き惚れていただろうが、しかし、初めて聴いた時は恐怖と不安に襲われた物だ。

 

俺はこの声の主を知っている。

というか、つい最近知り合った相手だ。

なので今は素直に、急速に狭まった視界を気にすることなく歌声に耳を傾けていた。

 

「――…………」

暫くして、ふいに声が止む。

 

静寂に包まれる中、いまだ俺の視界は回復しない。

……そろそろ来るかな?

と、そんなことを思った俺の予想は確かに当たった。

予想外の形で。

 

「ふぅ」

「ひょぁっ!?」

 

突然耳元に吹きかけられた吐息に、思わず肩を震わせ身震いする。

背後から抱きつくような形で腕が回され、横目に見ると、彼女の楽しそうな笑みが間近にあった。

 

「……こんばんわ、ミスティア」

「こんばんわ、悠基。ふふっ、なぁに?ひょあって?」

目を弓なりにして笑うミスティアに、俺は朱に染まった頬を掻いた。

「ちょっとびっくりしただけだよ」

 

ミスティアことミスティア・ローレライは夜雀という生き物の妖怪らしい。

らしい、というのはもちろん、阿求さんから聞いた情報だからだ。

人の少女に近い容貌だが、部分部分が人のそれとは異なっており、一目で妖怪と分かるこの少女は、俺が夜間に出回るようになって知り合った。

俺の視界が急速に狭まったのも、彼女の能力によるものだ。

 

彼女曰く、彼女は最近は人の恐怖を糧にしたりしなかったりらしく、俺はとりあえずは襲われることなく、軽く脅かされる程度。

比較的穏やかに接することが出来ている。

今のところは。

 

「相変らず綺麗な歌だね」

「でしょー」

得意気な笑みになるミスティアは満足げに頷くと、それにしてもと話を変える。

 

「貴方って本当無防備よね」

「そんなことは……」

思わず反論しようと声を上げたが、思い返してみればついさっきミスティアが近づいてくると分かっていて驚いたばかりだ。

「……なくはないけど」

 

「弱っちいんだから、せめてもう少しは警戒なさいよ。ほらこの前も」

俺に抱きついた体勢のまま、ミスティアは話し始める。

「妖怪に襲われてなすすべなかったじゃない?」

「見てたのか……」

 

獣姿の妖怪に襲われ追い掛け回されたのはほんの数日前。

阿求さんの言ったとおり、妖怪に襲われる頻度、確率は昼間とは比較にならない。

足の早い四足歩行の妖怪から逃れるため、木々を障害物に必死で逃走を試みたものの、結局逃げきれず殺されかけたことは記憶に新しい。

 

「その腰に下げた物は飾りなの?」

ミスティアが俺の木刀を指差す。

「……ほぼ飾りだな」

「そこは否定しなさいよ」

 

「あはは……」

呆れた様子のミスティアに、俺は乾いた笑いを返す。

「そうは言っても、剣道すらやったことないし、妖怪とコレで戦うなんて無理な話だよ」

それだけでなく、逃げる際には意外と煩わしすら感じるほどだ。

 

さて、世間話をするのもいいが、俺はさっきから気になっていた問題を解決しようと切り出すことにした。

「というかミスティア、そろそろ離れてくれないか?」

「あら?なにか都合が悪いの?」

 

「君の耳がね」

俺はミスティアの獣じみた耳を思い出す。

「首筋にあたってくすぐったい」

「あら」

 

というのは建前で、本当の理由は、美少女と言っても差し支えないミスティアの顔が間近にあることに落ち着かないためなのだが、そんな本音はおくびにも出さない。

「じゃあ、そういうことにしておいてあげるわ」

……おくびにも出してない……はず。

ミスティアはやれやれといった様子で俺の首に軽く絡めていた腕を解こうとした。

 

そのとき、

 

「ゆううううううううううううきいいいいいいい!!」

「え?」「は?」

頓狂な声に俺とミスティアが揃って見るも、声の主は既に目の前まで迫っていた。

 

猛然とした勢いで。

俺たちに突っ込んでくる形で。

 

次の瞬間、鈍い音が頭の中で響くと同時、俺は抱きついているミスティアごと吹っ飛ばされた。

柔らかい草地に倒れた俺の瞼の裏で火花が散る。

遠くなりかけた意識をなんとか保った俺は、ふらふらになりながら上体を起こした。

ぶつかった箇所、額の当たりを摩ると、腫れ上がって大きなたん瘤が形成されつつあった。

 

「っ~~~~ル、ルーミア!?」

視界を涙でぼやけさせながら、俺は目の前に立つ少女の背中に声をかけた。

「悠基!」

肩ごしに振り返りながら、宵闇の妖怪少女が俺を見やる。

 

「なにするのよ、もー!」

俺と一緒にルーミアに追突されて吹っ飛んだミスティアが非難の声をあげる。

彼女は服が少々汚れた程度なのか、痛がっている様子はない。

 

そんなミスティアと俺の間に、ルーミアは立っていた。

「だって、悠基が襲われたんですもの」

両手を広げ、さながらミスティアから俺を庇うように。

俺は目を瞠る。

 

どうも、ルーミアにはミスティアが俺に取り付いて襲いかかっているように見えたらしい。

もちろん誤解だ。

だが、どんな形であれ、ついでに言えばどんな結果であれ、妖怪であるルーミアは俺を助けようとしてくれたのだ。

「ルーミア、お前……」

俺が感動して彼女をしみじみと見る。

 

一方のミスティアは目を白黒させながら俺たちを指差す。

「あなたたち、知り合いだったの!?」

 

そんなミスティアに対して、ルーミアは仁王立ちしてどうどうと言い放つ。

「この人は私のおやつなんだからダメよ!」

「おい」

……まあ、予想はついてたけど。

 

ルーミアと初めて接触して以来、割と頻繁に交流はあったはずなのだが、どうやら彼女からしてみれば、俺が食料であるという認識はほとんど変わっていないようだ。

それにしたって、おやつって……やっぱり初対面の時にケーキをあげた印象が強かったのだろうか。

…………あ。

「あぁ!」

 

「な、なによ」

真後ろでいきなり素っ頓狂な声をあげた俺に、ルーミアがたじろぐ。

だが、俺の視線の先を追うと、同様にルーミアも悲鳴をあげた。

 

ケーキ。

そう、今日俺がお土産と称して持ち歩いていたのは、売れ残りで廃棄となるはずのケーキだ。

頻繁に会うのもあってルーミアのために持ってきたケーキは、分身によって複製した重箱に入っていた。

風呂敷に包まれた重箱を抱えていたわけなのだが、その風呂敷包みは今俺の手元にない。

 

ルーミアに盛大に頭突きを受けた際に手元を離れたのだ。

俺の能力の性質として、能力によってコピーした物体は、分身の手元を離れると消失する。

結果、俺の手から離れた時点で風呂敷と重箱は消失。

投げ出された中身はというと、どうなるかは予想するまでもない。

 

「「ああ、ああぁあ~~……」」

泥に塗れてもはや原型を留めていないケーキだったものを前に、俺とルーミアは揃って呆然と嘆く。

 

「ど、どうしたのよ二人とも」

揃って膝をつき、がっくりと肩を落とす二人の光景に異様な物を感じたのか、ミスティアがたじろぎながら問いかけてくる。

 

「うぅ……」

ルーミアは余程悔しいのか、下唇を噛んで唸る。

彼女からおやつと見られている俺だが、どうにも気の毒に感じてしまう光景だった。

 

「ルーミ――」

彼女を励まそうと、俺は手を伸ばした。

だが、俺の手が届く前にルーミアは眉尻を上げて立ち上がる。

 

「ミスティア!」

語気を荒くしながらルーミアはミスティアを指差す。

「許さないんだから!」

 

対してミスティアは、困惑した様子で瞠目している。

「え?わ、私が悪いの?」

「当たり前じゃない!」

 

いや、ケーキが吹っ飛んだのはルーミアが衝突したせいだろと俺は心の中でツッコミを入れる。

だが、俺を助けようとしての行動なのでどちらかといえば事故のようなものだろう。

 

「弾幕ごっこを申し込むわ!」

「えぇー」

不満げなミスティアとは別に、その場が「おぉ」と沸き立つ。

というかその場にいるのは当の本人を除けば俺だけだし、沸き立ってるのも俺だけだ。

 

「悠基、離れてなさい!」

俺に威勢良く声をかけると、ミスティアの返事も待たずルーミアは飛び上がる。

「仕方ないわねー」

あ、付き合ってあげるのか。

俺は意外に思いながら、ルーミアに付き合って飛び上がるミスティアを見送った。

 

『弾幕ごっこ』、正式名称は『スペルカードルール』だったか。

この物騒なのか微笑ましいのかなんとも判断に迷うネーミングの遊びは、幻想郷でそれなりの力をもつ者たちで行われる決闘方法だ。

狭い幻想郷に集う妖怪が必要以上に力を使うと、幻想郷の存在が危ぶまれるため、制定されたらしい。

面白いのが、この弾幕ごっこに求められるのは純粋な力ではなく、どちらかと言えば弾幕の美しさを競う面があることだ。

 

ミスティアによる夜盲が解かれた俺は、月光の下空を舞う少女たちを見守る。

ルーミアが様々な形の光弾を形成し、次々とミスティアに向かって飛ばすのに対し、ミスティアは大量の光弾を周囲に展開しバラまく。

夜空は色とりどりの眩しい光の玉で装飾され、その隙間を掻い潜り飛び交い舞い踊る少女たちを照らす。

 

「夜符『ナイトバード』!!」

「声符『梟の夜鳴声』!!」

スペルカードの宣言と同時に、空を飛び交う光は全く異なる形、異なる模様を持ってさらにその密度を増していく。

 

俺はその様子を息を呑んで見守る。

霖之助さん曰く「弾幕ごっこは少女の遊び」らしい。

それでも。

 

俺には彼女たちのように空を飛ぶこともできなければ、光弾なんて作り出すことも出せない。

いや、だからこそ。

 

俺はこの光景に羨望する。

 

夜空を彩る光景を前に思わず言葉が漏れる。

「きれいだ……」

俺が見入る中、少女たちの決闘は、より苛烈さを、より楽しさを、より美しさを増して行われた。

 

 

 

突発的なスペルカードバトルは、辛くも服をボロボロにしたルーミアの勝利で終わった。

いつの間に決めたのか、勝者のルーミアには俺からケーキをプレゼントすることになっていた。

「勝手に決めるな」と俺は苦笑を浮かべるが、それでも、弾幕ごっこを見せてもらったお礼と考えればまあ構わないとさえ思う。

結局、ルーミアには後日また廃棄のケーキを持ってくることとなった。




今更ながら弾幕ごっこが出てきました。主人公は見てるだけですが。
それから主人公が夜間の行動を開始したのもあって、昼間見かけないような妖怪ともエンカウントするようになりました。
今回は平和でしたが基本的にはいつも苛烈に襲われています。
ほのぼのは順調に遠ざかっている気がします。

不要と思いつつも念のための解説ですが、前半の阿求との会話は二十話の少し後(作中時間で一月の初頭辺り)、後半のミスティア、ルーミアとの絡みは、二十五話の後(一月終盤)と、時系列が別れています。

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