東方己分録   作:キキモ

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十二話 ストーブと

「おじゃましまーす」

間延びした挨拶をしながら扉を開くと、店主の霖之助さんは開いていた新聞から視線を上げた。

 

「おや、いらっしゃい。外は寒かっただろう」

「全くですよ……ってあれ?暖かい?」

体の心まで凍えさせながら、扉を閉めると、店の中の気温が高いことに気付く。

 

「ああ、冷えてきたからね」

と、椅子に座る霖之助さんは、新聞を畳みながら自分の目の前の物体を顎で差す。

 

「あ、うわあ懐かしい。灯油ストーブですね」

俺はこれ幸いとばかりに熱源に近づき悴んだ手を翳す。

じんわりと指先が温まってきた。

ちなみに円柱に近い形の全方位に熱気を発するタイプのストーブだ。

そしてその上には薬缶が置かれている。

あれ、薬缶って置いていいんだっけ……。

 

「知っているのかい?」

霖之助さんは立ち上がりながら問いかけてくる。

「昔祖母の家にあったんですよ。霖之助さん?」

俺は答えつつ、店の奥へと歩いていく霖之助さんに首を傾げる。

 

少しして帰ってきた霖之助さんは、手ごろな丸椅子を持ってきた。

「君も暖まっていくといい。ああ、それから熱いお茶を用意しよう」

「いや、そんなお構いなく」

俺が慌てて手を振るも霖之助さんは椅子を置くと、再び店の奥に消えていく。

 

「僕もそろそろ飲みたいと思っていたから構わないよ。常連さんへのサービスみたいなものさ」

店の奥からそんな返しをされた俺は、

「それじゃあお言葉に甘えさせていただきます」

と声を上げつつ用意された椅子に座り灯油ストーブで温まることにした。

 

 

*

 

 

「香霖堂」は魔法の森入り口に居を構えている(俺の少ない語彙で辛うじて表現するならば)雑貨屋だ。

店主は森近霖之助さんという長身で知的な男性であり、俺もいつかはああいう落ち着いた大人になりたいという意味で密かに目標にしている人である。

 

この「香霖堂」は、外の世界から流れ着いた物を取り扱っている店だ。

まあ、かなりの割合で、壊れた電子機器を始めとする、ガラクタで占められているのだが、一応外来人である俺からすると、たまに使える物が混じっていたりするので週に1回のペースで通っている。

 

 

*

 

 

そんなわけで、ストーブに当たりながら店内を見回す。

なんというか、灯油ストーブの温かさは、なんともいえない心地よさがある。

近づきすぎると熱いため、程よい距離をキープしないといけないという微妙に不便なところは、最近の暖房機器にはなくて逆にいい。

まあ、がっつり思い出補正というやつだけど。

ちなみに技術レベルの大半が100年以上も遅れている幻想郷では、暖を取るのも一苦労なので現状は非常に快適だった。

 

ふと、雑然と積み上げられた様々なガラクタの山の中に、目に留まる物があった。

 

「っ!霖之助さん!!」

思わず興奮した声を上げる。

 

「何だい?」

霖之助さんがお盆と湯飲みを持って奥から戻ってくるのを確認して、俺は積み上げられた品物の一つを指差す。

 

「これとこれ!売り物ですか?」

香霖堂店内にはところ狭しと物が溢れているが、その半分以上が非売品、店主のコレクションである。

それって商売人としてどうなんだと最初に来たときは疑問であったが、そんなことより俺が発見したものが果たして売り物かコレクションなのかが今は重要だ。

 

「ああ、両方ともそうだよ」

霖之助さんはカウンターに盆を乗せて首肯する。

俺は小さくガッツポーズをする。

 

「か、買います!いいですよね?」

「君がそんなに興奮するのも珍しいね。もちろん買うのは構わないが……」

言いながら霖之助さんは俺が指差す物に困惑の眼差しを向ける。

 

「それはそんなに使える物なのかい?確かに材質はいいと思うけど」

「あれ?霖之助さんって『物の使い道が分かる程度の能力』があるんですよね」

「いや、せいぜい『物の名前と用途が分かる程度』だよ。それに、その道具は名前通りに使うことも分かるし、使い方も予想できる」

 

霖之助さんはストーブの上の薬缶を取ると、お湯を湯のみに注ぐ。

あ、インスタント茶葉なんだ。

 

「ああ、何に使うかってところですね」

湯のみを受け取りながら言うと、霖之助さんはお茶を一口啜り頷いた。

「そんなところかな」

 

「うーん、別に秘密にすることではないんですが、まあせっかくなので出来てからのお楽しみということで」

熱いお茶に息を吹きかけ冷ましながら答えると、霖之助さんは「そうかい」と肩を竦める。

 

「えっと、おいくらですか?今日は一応ちょっと多めに持ち合わせありますけど」

「ふむ、ではこれくらいで」

霖之助さんの提示した額は持ってきたお金にぎりぎり収まる程度だった。

使えるかはともかく、材質はいいものだからとのことで、少し冷やりとした。

 

 

* * *

 

 

冷たい外の風を思うと、ストーブは中々に離れがたい魅力がある。

炬燵に及ばないながら破壊力は抜群だ。

そんなわけで、買ったものを風呂敷に包んでもらいながらも、俺はそのまま香霖堂に留まり、霖之助さんと雑談をしていた。

ちなみに、一応外来人の俺は、外の世界から流れ着き、霖之助さんが蒐集した物の使い方などを、店に来るたびに雑談がてら教えている。

 

そんな訳で、霖之助さんが今回俺に持ってきたのは、某国民的アニメの青狸もとい猫型ロボットを模した貯金箱だ。

危うく飲める温度になってきたお茶を噴出すところだった。

「――えもん貯金箱、という名前らしくてね」

「……でしょうね」

霖之助さんの説明に眉間に皺を寄せながら応じる。

 

よくよく見るまでもなく、塗装がところどころ剥がれておりデザインも若干古い。

 

俺のいた世界と、この幻想郷の外の世界は、違う歴史を辿った異なる世界だ。

しかし、歴史の歩みは似ているので、ところどころ共通点はあるだろうと霊夢は言っていた。

そういう意味では、俺にとっても馴染み深いこのアニメが、こちらの世界にもあるというのは、なんというかちょっと感動である。

 

「使う意図もなんとなく分かる。だが、問題は形だ。なぜこのような瓢箪型なのか。瓢箪と言えば中国にはいくつか伝説がある。かの有名な猿と法師の伝説の、金閣銀閣大王の所持していた紅葫蘆が代表的だろう。つまりあれを模したのならば、実はこれには言霊、つまり人の魂を分けて封じるある種分霊としての役割が――」

大真面目な顔で二頭身キャラクターの推論を立てる霖之助さんだが、彼の考察はいつもかなり的が外れている。

今回は対象があまりにもシュールで、俺は笑い出しそうになるのを堪えるのに苦労していた。

 

と、霖之助さんが一方的に話す中で、香霖堂の扉が開かれた。

「邪魔するぜ」

振り返ると、外の冷気とともに、金髪の少女が扉を後ろ手に閉めながら片手をヒラヒラと振っていた。

 

「やあ魔理沙」

「お、悠基、来てたのか」

と、魔理沙は挨拶もそこそこに小走りでストーブまで寄ってきて、霖之助さんの隣でしゃがみ込んで暖を取り始める。

「ふいー寒い寒い」

 

 

*

 

 

霧雨魔理沙といえば、俺でも知ってる「東方」の、霊夢と双璧をなす主人公の一人だ。

実際俺の雇い主である阿求さんに話を聞くと、近年幻想郷で起きた「異変」では、霊夢だけでなく魔理沙も尽力したらしい。

その魔理沙だが、俺が初めて邂逅したのは、やはり初めて香霖堂に訪れた際の話だ。

あまりにも自然に商品と思わしき壷の上で寛いでいたので、最初は普通に店員さんだと思った。

 

 

*

 

 

「邪魔するなら出て行ってくれるかな」

と、言葉では辛辣な霖之助さんだが、いつのまにやら俺が使っているものと同じような丸椅子をストーブの傍に置き、魔理沙に座るように促している。

 

「そう冷たいこというなよ香霖。私は客だぜ」

と文句を言う魔理沙も、しっかりと霖之助さんの示す椅子に座り暖を取っている。

 

「客と言うのは彼のような商品を買う人のことを言うんだよ」

「おや、悠基は何を買ったんだ?」

溜息交じり霖之助さんの言葉に魔理沙の目がキラリと光った。

その視線が、俺が抱えている風呂敷に向かう。

 

「そんなに大事そうに抱えてるってことは、結構なお宝なのか?」

「別にそんなに価値のあるものじゃないよ」

と言いつつ俺は抱える風呂敷を魔理沙から遠ざけるように体を反らす。

 

「むう、警戒しなくても盗んだりしないぜ」

と頬を膨らませる魔理沙だが、その目は風呂敷をじっと見据えている。

油断ならないなあと思いつつ牽制。

「そりゃあ警戒もするさ。魔理沙の本職は泥棒なんだろ」

 

「……いや、待て待て。泥棒を本職にした覚えはない」

魔理沙が顔を顰める。

 

「泥棒している自覚はあるんだね」

霖之助さんがぼそりと呟くが、

「借りてるだけだぜ。一生な」

とどこ吹く風で魔理沙が答える。

 

「私の本職は魔法使いだ。それに、霧雨魔法店というちゃんとした店も持ってるしな」

「へえ、魔理沙は一人で店を経営してるのか」

「そうさ」

この歳で店を持つなんて、なかなか凄いことだなと感心する。

 

「そういえば、君の店の客足は相変わらずなのかい?」

と、いう霖之助さんの言葉に、魔理沙は誇らしげに答える。

「ああ。自慢じゃないが相変わらず客足ゼロだぜ」

「えぇ…………」

 

本当に自慢になってない。

俺の感心を返せ。

 

「それより悠基」

「ん?」

呆れ顔の俺を魔理沙が見る。

 

「一体どこのどいつに私が泥棒だって吹き込まれたんだ?」

「…………さあ?」

本能的に答えてはいけない気がして魔理沙から視線を反らす。

 

「それを知ってどうするんだよ」

「もちろん、私が魔法使いであるということをその身を持って分かってもらおうかと」

「何をする気だ!」

思わず声を荒げてしまった。

 

「で、誰なんだ?」

「も、黙秘する」

なおも問い詰めてくる魔理沙に俺はたじたじで対応する。

 

「君が泥棒であるというのは周知の事実だと思うけどねえ」

と、霖之助さんが助け舟を出してくれる。

「天狗の新聞でも以前取り上げられてたじゃないか」

「確かにそんなこともあったなあ」

魔理沙がうんうんと頷く。

 

「そ、そうそう。俺もそれで知ったんだ」

俺はどうにかその流れにノっかろうとするが

「いや、さっきのお前の反応からして、それはないだろう。間違いなく誰かからの入れ知恵だって分かるぜ」

「う……」

「ほら、やっぱり図星だ」

 

鎌をかけられていた上にまんまと引っかかっていた。

くっ……俺がもう少しポーカーフェイスなら……!

 

「さーて、この私に不名誉な称号を与えたのが誰なのか、教えてもらうとするか」

「い、言えない……」

 

もちろん、魔理沙のいう「身を持って分からせる」というのが実際それほど激しいわけではないというのは分かっている。

言動こそ荒っぽさがあるが、なんだかんだで常識は踏まえている子だ。

 

だが問題は、俺が口を割ってしまうと、俺に「魔理沙が泥棒である」と吹き込んだ人にそのことが十中八九バレてしまうことだ。

俺にその知識を授けたのは、俺の雇い主である阿求さんである。

 

阿求さんは最近ただでさえ遠慮がない。

いや、遠慮がないというのは精神的な意味で距離が近づいたとも言えるので決して悪いことではないのだが、だからといって危険な場所での調査を命じるのは勘弁してくださいお願いします。

そんなわけで、雇い主の阿求さんを「売った」ともなれば、今後はより待遇が悪化することが懸念されるわけで、それを回避したい俺は魔理沙からの言及を上手い事回避せねばならなかった。

 

「うーん、霊夢か?」

「え、いや、違う」

ヤバイ鎌をかけ始めた。

これはばれるのは時間の問題かもしれないと俺が内心冷や汗をかき始めたところで、

 

「失礼」

という声と共に香霖堂の扉が再び開かれた。

 

振り返ると、魔理沙よりも色素の薄い金髪の少女が立っている。

というかアリスだった。

「いらっしゃい」

「よおアリス」

「やあ、こんにちわ」

霖之助さんを始めとする俺たちの挨拶にコクりと頷き相槌を打ちながら、アリスはストーブの周りに集まり暖をとる俺たちをしげしげと眺める。

 

「この店がこんなに賑わってるのも珍しいわね」

「入店早々失礼だね君は」

霖之助さんが半眼になる。

 

「そんなことはないぜ」

と、魔理沙がアリスに反論する。

「よく私と霊夢がここにくるからな。まあ大概は客としてじゃあないが」

「今日はお客として来たの?」

「いや、客はこいつだけだ」

魔理沙が俺を指差す。

 

「あれ、魔理沙。さっき自分のことを客だとか、言ってなかったか?」

「香霖が言うには、私は客じゃないらしい」

俺が尋ねると、魔理沙はいけしゃあしゃあと答えた。

霖之助さんは頭痛がするかのように顔をしかめる。

 

「どちらにしろ、お客さんがいるのも珍しいわね」

「確かにそうだな」

と勝手に納得する二人。

 

「アリスは客として来たの?」

俺が問いかけると、アリスは頷く。

「ええ。もちろん」

 

「へえ、香霖とこに一日で二人も客が来るなんて、珍しいな」

魔理沙が相変わらず失礼なことを悪びれもせずに口に出す。

「こりゃあそろそろ雪でも降るんじゃないか?」

 

魔理沙の言葉に、俺は思わず香霖堂の窓を見る。

別に魔理沙の言葉を真に受けた訳ではないが、気温的に言ってもそろそろ雪が降ってもおかしくない。

窓は室内外の気温差で曇っていたがかろうじて雪が降っていないのは確認できた。

アリスも窓の外を見ていたようで、魔理沙も含めて三人揃って窓の外を見る俺たちに、霖之助さんはとうとう盛大な溜息を吐いた。

 

アリスも寒気に耐えかねていたようで、ストーブを囲む俺たちの輪に加わる。

「座る?」

「それじゃあ」

彼女を立たせておくのもなんとなく落ち着かなくて、自分の使っている椅子をアリスに譲る。

 

「さて」

その様子を見た霖之助さんは立ち上がり、店の奥にゆるりと向かう。

「今日は何をお求めで?」

おそらく新しい椅子を探しているのだろう、奥の方から物音を立てながら霖之助さんが問いかけてくる。

なんだかんだ言いつつお人好しだと思う。

 

「いつも通り、なにか面白い人形を」

「ああ、悪いね」

程なくして霖之助さんは新しい椅子を抱えて戻ってきた。

 

「今回はそういうものは無かったよ。強いて言うなら、それかな」

霖之助さんは先ほどまで話題にしていた貯金箱を指差す。

「悠基君曰く、ロボットという人形を模した物らしい。財産を貯蓄するための箱のようだが、僕としては、魂を分けて保管する役割も持っているのではないかと考えている」

 

「そうなの?」

「違うと思う」

アリスが視線を俺に投げかけてくるが、俺は霖之助さんの用意してくれた椅子に座りながら首を振った。

 

「魔力も感じないし、とてもそんなものには見えないけど」

「まだそういう役割で使われていないんだろう」

今後もそういう役割で使われないと思います。

 

「……やめておくわ」

少し間を空けて返事をするアリス。

もしかしてちょっと悩んだのだろうか。

 

「そうかい」

と霖之助さんはたいして残念そうな様子も見せず頷いた。

 

「そういえば、アリスと悠基は知り合いだったんだな」

「ああ、魔理沙には言ってなかったか。俺が幻想郷に迷い込んだ時にアリスにいろいろと世話になったんだよ」

「いろいろ、ね」

魔理沙に説明をしていると、アリスが意味ありげな視線を向けてくる。

 

ああ、うん。

博麗神社でね。

うん。

あの、まあうん。

がん泣きしたことね、はい。

ああまた恥ずかしくなってきた。

 

「いろいろ、な」

眉尻をひくひくと痙攣させながら俺は応じる。

なんというか、ふいにアリスにはこういった具合でからかってくる。

なぜだろうと理由を考えたが、前向きに考えればアリスなりに元気づけてくれているのだろうし、後向きに考えれば見たまんま単純におちょくられているのだろう。

 

「どうした悠基」

魔理沙はニヤケ顔で俺を見る。

「顔が赤いぜ」

 

「少なくとも魔理沙が勘繰ってるようなことじゃないよ」

嘆息しつつ応じる。

アリスを見ると、相も変わらず表情にほとんど変化はないが、どことなく満足げだった。

あーこれはおちょくられてる方だな。

 

「なんだ違うのか」

つまらなそうに魔理沙が言った。

言動はあれだが、色恋話に興味津々な辺り、年相応に少女だなあと思う。

 

 

* * *

 

 

「邪魔するわよ」

ストーブの傍から離れないまま取り止めのない雑談をしていると、香霖堂の扉が再び開かれた。

聞き覚えのある声に振り替えると、びしょ濡れの霊夢が立っていた。

 

「れ、霊夢!?」

自分の肩を抱き、ガチガチと凍える霊夢に目を見開く。

「どうしたんだ?」

魔理沙も目を丸くする。

 

「どうしたもこうしたも、降られたのよ」

と俺とアリスの間のスペースに霊夢は落ち着き、暖を取り始める。

「凍え死ぬかと思ったわ」

 

霊夢のためにスペースを空けつつ窓を見ると、確かに白い物がちらほらと舞っている。

魔理沙が巫山戯て言っていたことが事実になっていた。

 

「霊夢、これを」

「ああ、悪いわねアリス」

アリスが刺繍の入ったハンカチを霊夢に渡す。

 

俺は窓に近づき外を見ると、いつの間にか分厚い雲が空に立ち込め、既に辺りは暗くなりつつある。

 

ああ、まずい。

帰りどうしよ。

 

「ほら、風邪ひくよ」

霊夢が入ってきた時点で、すぐさま店の奥に向かった霖之助さんが戻ってきて、霊夢にタオルを渡す。

「それから奥に着替えを用意したから着替えておきなさい」

「感謝するわ、霖之助さん」

霊夢はアリスにハンカチを返すと、タオルを手に店の奥へ消えていった。

 

「本当に降り出したな」

どこか憂鬱な様子で魔理沙が言った。

「帰るころにはやんでくれるといいんだが」

 

「そうね。ところで、悠基は帰れるの?」

魔理沙に同意しつつアリスが俺を見る。

「うん。俺もちょっとどうしようか困ってた」

 

「ん?何か問題があるのか?悠基は能力で分身して里の外に来ているんだろ?」

魔理沙が首を傾げる。

「里の中に分身がいるんなら、分身を解けばいいんじゃないのか?」

 

「ああ、俺自身は里には帰れるんだが、問題はこれだな」

俺は抱えていた風呂敷包みを見る。

 

「分身を解けば、俺や俺の衣服は消えるんだが、これはここに残っちゃうからなあ」

「……ん?そういえば、悠基は能力で着ている物も分身出来るんだよな」

魔理沙が何かに気付いたように確認してくる。

 

「そうだけど、それが?」

と魔理沙に問い返してみるが、なんとなく魔理沙が聞きたいことには察しはついていた。

「それって、お金、とかも増やせるってことじゃないか?」

 

「まあ、そう考えるわよね」

既に俺の能力の性質を知っているアリスが頷く。

「ってことは試したのか?」

魔理沙が期待の籠った眼差しを俺に向けてくる。

 

「まあね。どう説明した物か……」

俺は頭の中で自分の分身能力の性質を整理する。

うーん、これって口頭で説明するとなると難しいんだよなあ。

 

「実演した方が分かりやすいんじゃないか?」

と霖之助さんが提案するが、

「いや、今は人里とここに分身しているので、これ以上は分身出来ないんですよね」

と俺は少々困り顔で答える。

仕方ないので、俺はつっかえつっかえ俺の分身能力の性質上、物を増やすことは結果的に見れば出来ない、ということを口頭で説明することにした。

 

 

 

そんなわけで、どうにか説明を終え、魔理沙から「ヘンな能力だな」という評価を頂いたところで、霊夢が戻ってきた。

「ふう、助かったわ。霖之助さん」

と、巫女服(冬仕様なのか袖部分が別れておらず、いつもの巫女服よりも気持ち暖かそう)に着替えた霊夢が帰ってきた。

 

「この前仕上げたんだけど着心地はどうだい?」

え?

 

「ええ。相変わらずいい仕事ね」

え!?

 

霖之助さんと霊夢のやりとりに俺は目を丸くする。

今の言い方って、まるで霖之助さんが霊夢の巫女服を仕立ててるみたいに聞こえたんだが。

 

と、そんな疑問を口にしようとするが、

「ねえ悠基」

と先に霊夢が口を開く。

 

「ん?なに?」

「最近私ふと思いついたんだけど」

と、何やら期待の籠った眼差しで俺を見る。

嫌な予感……というより既視感が……。

 

「悠基の分身能力って着物も増やせるじゃない?それを応用すれば――って皆して何よその目は」

と、自らの提案を口に出しかけたところで、その場に集まった面々からの複雑な視線の集中砲火を浴びる霊夢だった。

 




香霖堂に屯する青年と少女たちの話。
幻想入りしてから一ヵ月ということで、チルノ大妖精阿求などと同様に、すでに何人かとは知り合い程度の仲になっている主人公です。
主人公が買ったものとか、能力の性質とかと言った説明は次回次々回に改めて。
それほど大した話ではないんですけどねー。

触れなくてもいい話なのですが、一話ごとの文字数がガンガン増えてます。
今回は8000文字くらいです。
個人的にはあんまりほのぼのとした文字数ではないです。
もう少しコンパクトに纏めたいですねー。

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