東方己分録   作:キキモ

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追記なのですが、東方キャラは今回と次回は出ません。
次々回の終盤での登場になります。念のため。


こうして彼は幻想入りをする
一話 とある青年のちょっとした転機


俺は、きっと自分は人一倍恵まれている、と自負している。

 

家が裕福であるかといえば、そんなことはない、ごく一般的な家庭である。

他の人と一線を画す才に恵まれているかといえば、少し運動神経がいいくらいで、平凡の域を出ない。

美人な恋人がいるかといえば、恥ずかしながら生まれてからの20年、彼女などいたことがない。

 

それでも俺は、自分は他の人より幸せである、と断言できるのは、単に俺が両親のことを誇りに思っているからだ。

教師の父と、看護士の母は、近所でも評判の鴛鴦夫婦というやつで、息子の俺から見てもたまに恥ずかしくなるくらい仲がいい。

そんな二人は、俺に惜しみない愛情を注いでくれた。

いつも優しく、時に厳しく、そして常に俺を想って接してくれた。

たまに鬱陶しく思うこともあったが、それでもやっぱり、俺は二人のことが大好きだ。

 

だから、こんな素敵な家族に恵まれた俺は、幸せ者なんだ。

 

 

 

 

 

訃報が届いたのは、俺が大学の友人たちと、二週間後の小旅行の計画を友人宅で立てている最中だった。

知らない番号からの着信に、首をかしげながら通話に応じる。

 

「岡崎悠基(オカザキ ユウキ)さんでしょうか」

「……はい。あの、どちら様でしょうか」

「どうか、落ち着いて聞いてください」

 

そんなありきたりな言葉の後に、相手の男(後に警官であることを知る)は重々しく言葉を続ける。

この辺りから、記憶は曖昧だ。

男は、俺の両親が交通事故で亡くなった、というようなことを告げた。

俺は、冗談はやめてくださいとか、そんなことを言った気がする。

男は沈黙で返すが、その沈黙が、男の告げた事が事実であると、俺を確信させた気がする。

 

それでも俺は、そんなことを信じたくなくて。

あの二人が死ぬわけがなくて。

あの二人が俺を置いていくわけがなくて。

こんなに唐突に終わるはずがなくて。

旅行のお土産何がいいかって聞いたのに。

話の流れで、久しぶりに家族旅行に行くかって父さんが言って。

俺は、素直に応えられなくて。

母さんが全部お見通しだとばかりにクスクスと笑って。

今朝、そんな話をしたのに。

 

俺はまだ、

 

あの二人に、

 

ここまで育ててもらった恩を、

 

たくさんの愛情を注いでもらった恩を、

 

数え切れない幸せをくれた恩を、

 

これっぽっちも、

 

何一つとして、

 

 

 

 

 

返せてないのに。

 

 

 

 

 

 

…………二人の葬儀は、3日後に粛々と執り行われた。

父の弟にあたる叔父とその奥さんの叔母が、俺の代わりに色々と手配してくれた。

葬儀が終わり、参列者が一通り帰宅したのち、俺は外の空気を吸うために通りに出る。

 

死んだ人は星になる、という言葉を思い出し、空を見上げる。

その日は朝からしとしとと雨が降り続けており、夜空の星は分厚い雲に覆われていた。

それでも俺は、目を凝らせば星が見えるかもしれないと、灰色の雲を凝視していた。

 

その視界を遮るように、黒い傘が俺の上に掲げられる。

雨の中傘もささずに空を見上げる俺を見かねた叔母が、苦悶の表情で俺の傍に立っていた。

「悠基君……中に、戻りましょ」

叔母の後ろには、叔父もいて、悲しげな目を俺に向けている。

 

二人に、そんな顔をして欲しくなかった。

「俺は大丈夫だよ」

言いながら、笑みを浮かべようとする。

「大丈夫だから」

もう一度言って、口角を上げたけど、上手くいかず、歪な笑顔になったようだ。

目の前の二人が、より一層悲しげな顔をしたから、分かった。

 

 

 

 

 

それから半年が立った。

俺は今、家族3人で過ごしていた家に、一人で住んでいる。

叔父夫婦や、他の親戚が引き取ってくれることを提案してくれたが断った。

3人で過ごした家を、守らなければいけないという使命感があった。

 

大学に通いながら、炊事洗濯掃除と、家事をこなさなければいけなくなったが、以前から手伝いで日常的に行っていたこともあり、さほど苦労はしなかった。

一人で住むには広すぎる家の掃除も、親戚が頻繁に手伝いに来てくれた。

 

父の書斎を掃除しているとき、ふと、小さな写真立てを見つけた。

分厚い書籍の奥に、まるで隠されるように、押し込まれていた。

 

気になって引っ張りだすと、写真がしっかりと収められている。

そこには、俺が生まれる前の、若かりしころの両親が写っていた。

二人の後ろに小さな鳥居が、そしてその奥に小さな小さな神社が見て取れる。

山の中だろうか、周辺には木しか見えない。

そして、その二人に寄り添うように、女性が佇んでいる。

腰まで届く長い金髪と、少しだけ微笑を浮かべる美しい顔立ちは、その写真の中で強烈なほど浮いていた。

濃い紫を基調とし、フリルのついた艶やかなドレス姿で、一緒に写っている二人や背景とはあまりにも場違いだ。

大人びた雰囲気を写真ごしに醸しているが、若い両親よりも更に若くも見える。

 

見てはいけない物な気がしたが、それ以上に好奇心が勝った。

写真立てから写真を取り出し裏面を見る。

「あった」

思わず声がでた。

裏面には、父の字で、約25年前の夏の日付、そして「博麗神社にて」という一文が記してあった。

 

一緒に写っている女性は何者なのか。

二人とはどういう関係なのか。

博麗神社とは。

湧き出てくる疑問は、強い興味を伴い、俺はその写真を調べることにした。

 

その写真が隠されるように仕舞われていたことに、一瞬邪推しかけるが、首を振って沸きそうなイメージを取り払う。

 

とにかく、博麗神社について調べよう。

 

聞いたことのない神社名だったが、ネットで検索したところ、数件ヒットする。

地図を見ると、山奥にある神社らしい。

ヒットした情報がどれも、10年近く前の情報で、その時点で廃れ始めているのが分かる。

アクセス方法を調べてみた。

少し遠い。

早朝から家を出れば、ぎりぎり日帰りで行けそうだ。

 

最悪、ホテルに泊まる手もある。

両親は、俺が大学を出た後も何年かは不自由せずに過ごせる程度に、お金を遺してくれていた。

そのほんの一部を少しだけ、使わせてもらおう。

そうして半ば衝動的に、俺は次の日が週末だったのをいいことに、博麗神社へと向かうことにした。

 

 




はじめましての初投稿です。

開始早々鬱々としていますが、一応ほのぼのとしたものを書きたいと思っています。
遅筆なので進みは遅いですが、よければ気長によろしくどうぞ。

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