ルパン四世と学園モノ!   作:早乙女 涼

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東間悠斗という人物

 

「俺の名前は東間(アズマ)悠斗。そこの平治の同居人だよ」

「そこのとはなんですか。そこのとは」

「悪い悪い。なんだか久々に外へ出てこれたからテンション高いんだ」

 悠斗はんーっと伸びをしながら言うと、平治は嘆息しながらも微笑んでいた。

「そういえば峰さ、海外訛りだよな。どこから来たんだ?」

「フランスから。よく分かったね」

『それじゃあ、母国語(こっち)の方が話し易い?』

「!」

 紬は驚いた様に、流暢な母国語を話した悠斗を見ると、平治は小さく笑う。

「彼は64カ国語……所謂世界中の言葉が話せるんです」

「そんな、凄い……」

「へえ……海外旅行が趣味なんだ?」

 みぞれの声と、関心した様な紬の言葉に悠斗は苦笑を浮かべた。

「趣味というか、色々なところを転々としてたからな……。自然と身についたよ」

 そこで予鈴が鳴った。

「悠斗、昼食はとりましたか?」

「ああ大丈夫、途中のコンビニでおにぎりを二つほど食べてきた」

「そうですか」

 平治はほうっと胸を撫で下ろすと、悠斗は「お前は俺の母さんかよ」と更に苦笑の層を深める。

「石川、五限なんだっけ」

「今日はLHRだ」

「そっか、了解」

 バッグから筆記用具を取り出して机の上に置く悠斗。

「ところで、東間さんは何故午後からいらしたんです?」

「ん、登校はしてたんだけどな。ちょっと呼ばれちゃって」

 無論、悠斗が反省室へ収容されている事は周知だったが、本日転入したばかりのみぞれや紬はそれに疑問を覚えた様だ。軽く小首をかしげている。

「さすが、人気者は辛いですね」

 どうやら話を誤魔化すのに平治は加担してくれる様だ。彼は眼鏡のブリッジを持ち上げながら言う。悠斗は照れ臭げに微笑んで流した。

「結構いろんな事に手を出してたからさ、頼まれ事も増える一方でな」

「ノートはちゃんと取ってありますから、復習は欠かさないように頼みますよ」

「分かってる」

(でもコイツ、字は上手いけど小問題とかの間違え多いんだよなぁ……)

 外見はインテリ系で通している親友だが、根はバカでテスト結果は学年で中の下ほどなのである。

 しかしそれでもノートは綺麗にまとめ、復習するという本人なりの努力はしている。その点は他のクラスメイトからも認められているのだ。

 一方で悠斗はそれなりに頭はキレる。……わけもなく、成績は上の上だが、普段反省室に入っているために、授業内容は平治のノート頼りになっているのである。いうところ吸収力が強いというくらいだろう。

 そんなこんなで本鈴と同時に担任である白鷺が教室へと入って来た。

 途端、クラスの雰囲気が重苦しいものへと切り替わっている事に気付き、生徒の面々を見渡して――ひとりの生徒、もとい悠斗へと視線が行く。

 悠斗は平然と自分の席に腰掛け、クラス代表の号令を待っていた。だが、白鷺は彼が居る事に驚き、足を止め、そして――きつい視線を送った。

 その視線に気付いた彼は軽く会釈をすると、白鷺は嘆息しながら教壇へと立つ。

「起立、礼」

 代表が号令を終えた後、白鷺は「それじゃ、午後のLHR始める前に出席採るよ」といつも通り確認を開始する。

「――石川」

「…………はい」

「「(……えっ?)」」

 真っ先に飛ばされた悠斗の名前。そして返事をする伊右衛門。紬とみぞれは驚いた様に小さく声をあげながら、二人して悠斗を見た。

「(しー)」

 悠斗は苦笑交じりに、「言っちゃダメ」という、口の前に人差し指を立ててジェスチャーをとっていた。

(……どういうこと?)

 訝しげな視線を紬は悠斗へと送るのだった。

 

 

 休憩時間。

「悠斗くん、ちょっと」

「ん?」

 重苦しい空気はなんとか取り払えた教室は、普段の喧騒を取り戻していた。

 その中で、紬は悠斗へと声をかけ、階段の踊り場までやってくる。

「なんだなんだ、愛の告白か?」

「そんなのじゃないから。だいいち告白なんかしたくないよ」

(酷い返され方だ……)

 ぐさりと音を立てて悠斗は心に傷を負う。若干胸が痛い。彼はそっとそこに手を当てていると、紬は軽く腕を組みながら辺りを気にし始める。

「どうして名前、呼ばれなかったんだい? 白鷺先生気付いていたよね?」

「あー……それはだな……」

『――彼が、《化物》だからですよ』

 どう誤魔化したものかと思案していた悠斗の頭上から、その言葉は突き刺さった。

「下手に口外すんなよ、平治……。俺の考えがパーじゃないか」

 悠斗は頭を掻き毟りながら嘆息する。紬はその頭上から言葉を放った青少年……平治を見上げた。その隣にはみぞれが、気まずそうな面持ちで立っている。

「……化物(バケモノ)? どういうこと……?」

「………」

 眼を伏せた悠斗は、おもむろに右手を上げた。

「まぁ、これ見たら一目瞭然だろうし……」

 ――ボウッ!!

「っ!?」

 唐突に、彼の掌の上から火が灯される。紬はあまりに唐突な出来事に目を白黒させ、息を飲む。

 だが、彼がそれを包み込むように握りしめると、火の粉が軽く舞ったが、開いた時にその火は消えて無くなっていた。

手品(マジック)……。とは立証し難いね、それは」

「ああ。一切の工程(プロセス)なしに、結果だけを引き出す――。俺は常人が出来ない事を可能にしちまう化け物……。だからそう呼ばれてる」

「或いは、《死神》とも」

「その呼び方やめーや」

 シリアス顔で恥ずかしい二つ名を言ってのけた平治に、悠斗は頬を赤くしながら抗議する。

「?」

 その意図を理解できなかった紬とみぞれは小首を傾げていたが、悠斗ははあ、と大きなため息をつく。

「とまあ、そんなわけで、俺はこの学園の生徒達からはマジで一線引かれて外人(ガイジン)扱いされてるんだよ。ああ、外国人ってわけじゃないぞ。純粋な差別用語だな、こっちは」

「それくらいは分かったけど、でも、それだと何故君がそんな特殊能力を持っているのかが気になってくる」

「……その話は長くなる。まぁどうしても気になるんだったら、また声をかけてくれ。ちょっとトイレ行ってくるわ」

 ぽんっと悠斗は紬の肩に軽く手を置いてから、階段を上って男子トイレへと駆けこむ悠斗。

(あー、腹下したかな……。さっき鳴らなくてよかったわ……。シリアスブレイクする所だった……)

 その実、彼は自分の事より周りを気にする人物であった。

 余談だが当然のごとく六限は遅刻した。

 

       *Yuto*

 

 放課後になり、俺達は早々に学園を後にして……。

「――美味しい……」

 熱した鉄板を挟んだ向こうへ座り、熱々のお好み焼きを口にして驚いた峰に、返し金(ヘラ)を手にした俺は「そうだろー」と笑う。

 二畳半ほどの小さな個室には、ソースの香りが充満している。

「悠斗、もんじゃはまだですか。もんじゃを」

「拙者は明太子が欲しい」

「……お前らリクエストするくらいなら焼けよ!?」

 次を急かす平治と石川に、俺は半ばキレ気味に答えた。

 事実、俺以外の四名――石川、平治、みぞれちゃん、峰は先に焼けたお好み焼きを食べており、俺の分は皿に取られているものの口にする暇がない。

「あの、悠斗さん食べてますか……?」

「食べてない」

「あの、よろしければわたしが代わりますよ?」

「いやいや、歓迎される側がそんな役引き受けちゃだめだろ。代わるんだったらそこの二人にやらせるよ」

 おら、と俺は平治へとヘラを渡すと、彼は「仕方ありませんね」と言って焼き役を代わる。

 そこでようやくお好み焼きを口にする事が出来たんだが、一番最初に焼いた方はなんとも言えないぬるさになっていた。

 それをもそもそと食べていると、峰と視線が合う。

「ところで、どうしてまたお好み焼き屋に?」

「いや、久々に外へ出られたし、お前らも転入してきたから、復帰祝いと転入祝いにな。嫌だったか?」

 俺は申し訳なさげに峰へと訊ねると、峰は「いやいやとんでもない」と首を横に振る。

「むしろこんなに雰囲気にいいお店を知っているだなんて思わなかったんだよ。美味しいし、安い。これほどいいお店はなかなかないね。お好み焼きも初めて食べたけれども凄く美味しい」

「喜んでもらえたみたいで良かった。俺の行き付けの店だからさ、これからも機会があったら行こうぜ」

「それは魅力的なお誘いだね」

 二人して笑い合うと、スッと俺の皿へお好み焼きが載る。

「はい、明太子お待たせしました」

「うむ、美味い」

「次麻婆頼もうぜ。みぞれちゃんと峰は何か食べたいものないか?」

「うーん、申し訳ないんだけど今のところもう一杯で。この後夕飯もあるし」

「すみません……わたしもそろそろ……」

「あーそっか。二人とも寮じゃないんだもんな。確か石川の家だっけ?」

「正確には拙者の家ではなく、紬の家だ。あくまで拙者は庭の手入れをしている従業員に過ぎん」

「へぇ」

 お金持ちのお坊ちゃんか。まぁみぞれちゃんっていう付き人を連れている時点で察しておくべきだったんだろうけど、流石に俺もそこまで思考は回せない。

「んじゃ、もんじゃ食って本題入るかー」

 俺の言葉に異論はなかったようで、石川と平治の二人も頷いてくれていた。

 

 

 食器なども片付けてもらい、それぞれがジュースをチョイスした中で、俺は口を開いた。

「まぁ、とても食後に話す様な内容じゃあないんだけどな」

「それは致し方あるまい」

 石川は目を伏せて顔を横に振る。俺は「そうだな」と言って頷く。

「まあ、なんつーんだろう。俺の持つ特殊能力の始まりは、自分の性格からだったんだ。普通人は自分を起点に物事を考える事が多い。でも俺の場合、他人を起点に考えていたんだよ。それで一番最初に身に着いた能力が、《強奪》だったんだ」

「強奪……?」

 頭上に疑問符を浮かべたみぞれちゃん。俺は抽象的だったか、と思い頷いて説明を続ける。

「そう。相手に乗り移る――つまり相手の自由を奪う事が出来た。でも、当時の俺はその能力を自覚しておらずに、ただ《憑依》する力だと勘違いをしていた。力に目覚めたのは去年の春頃だったんだけども」

 そこで、峰が手を挙げる。

「……大体その先は読めた。君は自分と同じ能力を持つ人々の力を奪ったんだね?」

「察しが早くて助かるな、その通りだ」

 俺は肩を竦め、あっさりと肯定する。

「俺と同じ特殊能力を持つ人々は世界中に散らばっていた。だからこそ、俺はその能力者達からそれを奪うために世界を飛び回ったんだ。さっきの火や、平治の言う言語の自動翻訳だってそうだ。外国語の本とかも買って行ったんだけど、それでパーになっちゃったけどな」

「………」

 峰はくすりと笑ったものの、みぞれちゃんは真剣に聞いているのか、まじまじと俺を見ている。

「実質、能力は半年ちょっとで収集する事ができた。そのあとは帰国して、東峰学園(ココ)に戻って来たってわけさ」

「そこで待っていたのが、さっきの《化物》という渾名と校内での一斉無視、そして反省室への監禁という扱いです」

『……………』

 最後の最後で平治に言われてしまった。

 その場が重苦しい空気に包まれてしまう。

「まぁ、考えてみればこんな外人は居ない方がいいっていうのは分かる。本気を出してしまえば世界の半分は一瞬で消し飛ぶだろうしな。元から反省室へは何度も入れられてはいたんだけど、身体まで拘束されたのは今回が初めてだったし」

「むしろ、それ以上の対処もされずに、五体満足で生きていられるのは凄いと思うんだけど……」

 峰の言葉に俺は軽く吹き出してカラカラと笑う。

「峰の言いたい事は分かるよ。俺だってただ監禁されていたわけじゃない。色々実験もされたしなあ」

「……ごめん」

「気にすんなよ。まあ、そんなこんなで。俺にはぶっちゃけあの学園に居場所はないわけさ。俺を認めてくれる人は学園長と、ほんのちょっとの生徒くらいだ」

 それでも、信頼できる人ばかりだった。

「とりあえず、俺の危険性は二人もよく分かってくれたと思う」

 それと同時に、離れて行く人も少なくはなかったのである。

 だから俺は。

「ぶっちゃけ俺としては、無視する方がいいと思う。転入したばかりのお前らの印象を下げたくないし、株も下げて欲しくない。綺麗事と言われてもしかたないけどな」

 苦笑交じりで、話を聞いてくれた感謝の念を送る半面、二人が離れて行くかもしれないという恐怖感を胸の内に押し込んだ。

「………」

 ふーっと息を吐く峰。そんな彼を不安げに見つめるみぞれちゃん。

「紬さん……」

「うん?」

「わたしは無視したくないです」

「うん、それは良かった。ボクも同じ気持ちだよ」

 話は決まったようだ。俺の忠告すら受け付けないこの二人は、恐らく現状を維持する事を目的ともしてない。まさに俺の隣に座っている石川や平治と同じ人間だ。

 峰は一度すっと目を閉じたかと思うと、ゆっくりとその瞳を開き、俺を見つめる。

「――悠斗くん。結論から言おう。ボク達は……いや、ボクはもう、君から目を逸らす事はないよ。みんなが君の存在を否定するのなら、ボクが君という存在を肯定しよう。そしてそれを証明する」

「……そうか。ありがとう」

「それと、ひとつだけ」

「ん?」

 頭をさげかけたところで、峰が俺の行動を止める。

「もう、さっきみたいな自己保身にもならない様なものは言わないで欲しい。相手を思いやる気持ちや自分を貶める気持ちが中途半端過ぎてイライラする」

「お、おう……。分かった」

「ならよし」

 峰はふふっと微笑むと、俺の方へと腕を伸ばしてきた。

「これからよろしくね、悠斗(・・)

「ああ、こちらこそ」

 俺は峰の……紬の手を取る。

 その手は少し冷えていて、下の鉄板はいつの間にかぬるくなっていた。




 (;゚д゚)ふぉおおおおお!! 昨日からUAがすごく伸びているぅぅぅ!!
 UA1000突破、ありがとうございます! 凄く嬉しいです(´;ω;`)!!
 ようやく序章が抜けた様な感じです、次回以降学園パートはこの面子(伊右衛門、紬、平治、みぞれ、悠斗)の五人で回して行こうと思います!
 ここ最近次元さん要素がなさすぎてやばい……。放課後くらい出しておくべきだったぁ……!!

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