ルパン四世と学園モノ!   作:早乙女 涼

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 こちらと並行して、新しい小説を書き始めました。
 そうですね……あちらがハーレムだというのなら、こちらは家族愛かつ純愛ものでしょうか。
 今回はついに、あのお兄様が登場します!
 短い文ですが、どうかお許しくださいorz



想う心

 とりあえず、先ほどフランス語で言葉のキャッチボールをしてくれたメイド――八十島(ヤソシマ)さんというらしい。そのうえメイド長なのだとか――に屋敷を案内してもらった後、家具の揃えられた自室へと入って、高級なソファに腰掛けてからひとつ息をついた。

(さて……。まずはお母様から言われた課題についてかな)

 このお屋敷の主人を、ボクが務めなければならないということ。それはつまり、ボーヌの別宅にいらっしゃった血縁者の方と同じ役割を担った、ということなのではないだろうか。

 ただひとつ違う点があるとすれば、この人工浮遊島の所有権はボクの家にはないということ。あそこは領地そのものがお家のものだったから、それくらいなんじゃないだろうか。

 メイドに自室へ案内してもらった際に聞いてみたところ、金銭関係はお母様が管理されているらしい。つまり、ボクはただ、ここでお客様をお出迎えするなどの来客応対をすればいい、ということだ。

 流石にVIPなどは早々に来ないとは思うけれど、当面の間はお母様との商談相手がメインになるだろう。

 幸い敷地も多く部屋も多い。来賓用の寝室なども用意されているようで、玄哉や伊右衛門はその部屋だそうな。

 とりあえず、こんなところかな? なんて思っていると、部屋のドアがノックされた。

『お嬢様。八十島でございます。お飲み物をご用意いたしました』

「ふえ?」

 そこでボクはしまったな、と感じてしまう。これまでボクは使用人の様に、キッチンなどで飲み物を飲んでいたものだから、自室に運んでこられるのがとても新鮮に思える。

「いやごめんよ、鍵は空いているから、入っておくれ」

 ひとつ素っ頓狂な声をあげてしまったけれど、軽く咳払いして誤魔化した。

『はい。……失礼いたします」

 八十島さんは入室してひとつお辞儀をすると、ソファに掛けていたボクの目の前にあるテーブルへとティーセットを広げてくれる。

「ありがとう。今まではボクがする側だったから、なんだか気恥ずかしいね」

「お嬢様には、今後はこちらに慣れていただけるよう努力いたしますね」

「うん。ボクも頑張るから、遠慮なくよろしくね」

「畏まりました」

 八十島さんは微笑む様に頷くと、ボクはさっそくだけど、と話を切り出した。

「できれば今後は極力日本語で会話をして欲しいんだ。ここは日本なんだし、大好きなお母様の故郷であるこの国の事や言葉をもっと知っておきたい。次にお父様やお兄様、そしてなによりお母様とお会いした時に、今以上に自然な日本語で会話してみたいんだ。お願いできるかな?」

 ボクにはそれが、お母様から与えられたもう一つの課題だと思っている。――いや、言い訳をするのはよそう。ボク自身がそうしたいと望んでいる。

 この国を知って、好きになりたい。大好きなお母様が過ごされたこの国の事を愛したい。

 そんな思いを込めて、ボクは八十島さんへうち明けると、彼女は目を見開かせて、これ以上ないほどの微笑みを浮かべて大きく頷いてくれた。

「勿論でございます、紬お嬢様。それでは、今後は日本語で会話する様にしましょう」

「本当!? 凄く助かるよ、ありがとう!」

 今にもその場から飛び上がりそうな勢いで、ボクはぱあっと表情を明るくした。

 彼女もどこか嬉しそうで、頬が少しだけ赤くなっている。

「とんでもございません。他のメイド達にも、そう伝えておきます」

「うんっ、そうしてくれると嬉しい。……ああ、楽しみだなあ……」

 ボクは胸に手を当てると、自分でも気持が高揚しているのが分かった。少し身体が熱い。その熱を逃がしたくないけれど、ボク自身が熱くなってしまったら、せっかく八十島さんが淹れてくれた紅茶がぬるく感じてしまう。ボクは口からほうっと息を吐いて、排熱した。これでちょっとは落ち着いたかな?

 とにかく、今後は機会を見て、みんなと積極的に会話してみよう。若い子達ばかりだし、今日本で流行っているものなんかを聞いてみるのもいいかもしれない。

 そう考えると、とめどなくこれから先の、このお屋敷での日々が楽しみになってきた。

 紅茶をひと口いただくと、さっき玄哉や伊右衛門達と一緒に飲んだ紅茶よりも、甘く感じた。

 

       * * *

 

 夕食の場で、改めてボクはメイド長の八十島さんから、他のメイドの四人を紹介された。

 その中の一人――楯山(タテヤマ)みぞれという、十六歳の女の子が、ボクの側付きということで、すでに学園には編入手続きを出しているらしい。

 その黒髪に藍色の彼女は、まるで子犬の様な雰囲気を出していた。メイドの中でも一番年下(まあ、当たり前だけれども)で、この職へ着いて間もないという。

 あの談話室の身のこなしから見ても、研修期間でどれだけしごかれたか計り知れない。

 食事の場でありながらも、ボクはつい彼女の苦労をねぎらってしまうのだった。……まあ、八十島さんには軽く叱られちゃったけどね。

 現在食卓へついているのはボクと玄哉だけ。伊右衛門はもとよりこのお屋敷の従業員という形で入ってきたために、一緒出来ないらしい。そんな事は気にしなくてもいいのに。相変わらず、律義だなあ。

「紬」

「うん? どうかしたの?」

 しばらく無言での食事が続いていたけれど、先に口を割ったのは玄哉の方だった。

 まあ、彼もメイドや伊右衛門に囲まれて、無言で食事するのは少し抵抗があったんだろう。

 ステーキを食べ終えた彼は口元を拭いつつ、続ける。

「明日、市街地へ出たい。お前も来るか?」

「そうだね」

 お母様からせっかくいただいた一週間というお休みだ。これを利用しておかない手はない。

 ボクはみぞれの方を向くと、「みぞれは行けそう?」と彼女の予定を聞いておく。

「はい。紬様がそう仰るのでしたら、わたくしも御一緒させていただきます」

 うん、とても嬉しそうかつ可愛らしい。子犬に例えれば目をキラキラとさせて尻尾を振っているかのような感じだ。

「伊右衛門は?」

「む……。拙者は庭の手入れと学業がある故、行く事が出来ん……」

「ああ、そっか。伊右衛門はもう入学してるんだもんね。ごめん」

「気にしないでくれ」

「ありがとう。それじゃあ、明日はボク達三人で出かけるとしようか」

 ボクの言葉に、玄哉とみぞれは頷き、明日の予定が決まったのだった。

 

       * * *

 

 ――夜。

 お風呂からあがり、自室へと戻ったボクは、自分のケータイに着信が入っている事に気付いた。

 相手は――お兄様だった。

 ボクはすぐさま返信をしようと、ケータイを手にお兄様へ通話を掛ける。

 ()はたったのワンコールで出た。

『もしもし、紬か?』

 聞きなれた青年の声。低すぎるほどではないけれど、安心できる声音だった。ボクはお兄様の声を聞いて、はあと安堵したように息を吐いてしまった。

「こんばんは、お兄様。はい、お兄様の妹の、紬です」

『そうか。日本(そっち)は……夜中だったな。すまない、配慮が足りなかった』

「いえ、とんでもありません。お気になさらないでください」

『そう言ってくれると助かる。……母上から聞いたぞ。日本の学園へ通うと』

「はい……。あまりに唐突でしたので、お兄様やお父様へ報告する事も叶いませんでした。どうかお許しください」

『なに、気にするな。俺は何度も日本を訪れた事があるが、お前は一度しかなかっただろう。……日本(そこ)はとても優しい国だ。存分に学業に励むといい。頭の良いお前の事だ、うまくやれるだろうよ』

「ありがとうございます、お優しい煌お兄様。お兄様の妹の名に恥じぬよう、精いっぱい努めてまいります」

家業(・・)の方は任せておけ。――ああ、それとひとつ、付け加えておこう。想い人が出来たらすぐに俺へ報告するように。あの父の事だ、可愛い娘についた男は八つ裂きにしかねん。代わりといっては何だが、俺が見定めてやろう』

「……ふふっ」

 ボクはそこでつい笑いが零れてしまった。相変わらず、お兄様はボクの事を大好きでいてくれているみたいだ。ボクもお兄様の事が大好きだけれど。

 それが確認できただけで、とても嬉しく思える。今ここに居ないお兄様の事を思いつつ、ボクはほうっと息を吐いて、言葉を紡いだ。

「承知いたしました。異性間につきましては、お父様ではなく、お兄様へご相談させていただきたいと思います。ご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願いします」

『それでいい。任せておけ。……さて、お前は明日も早いのだろう? であれば、今日はもう休め。また、改めて連絡する』

「ありがとうございます。おやすみなさい、大好きな煌お兄様」

『ああ。おやすみ』

 そこで通話が切れる。ボクは火照った頬を冷やすように三度息をはきながら、通話履歴に乗ったお兄様の名前を見て、ふふっと微笑みながら床へついたのだった……。

 




 煌お兄様がマジでイケメンな件について。
 男ながらに惚れそうなんですがそれは……!!

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