ルパン四世と学園モノ!   作:早乙女 涼

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日本、到着。

 

 ……翌日。

 お昼頃、ボク達は昼食を済ませた後、雇っていた使用人が運転するリムジンへと乗り込み、空港へと向かっていた。

 お母様は変わらず御自身のノートPCを打ちながら携帯やPCのテレビ通話を含めて様々な商談などを進められている。ボクとおヒゲを玄哉はL字座席の横座りの部分で、お仕事をされているお母様を眺めながら、車内に用意されていたフルーツなどを食べている。

「(それで、お前さんの通う学園とやらの情報はどうなってるんだ?)」

 流石の玄哉も、お仕事をされているお母様の邪魔にはなりたくないのか、配慮としてかなりの小声でボクへ話しかけてくれる。ありがたい。ボクも彼と同じくらいの声量で答えよう。

 ボクは軽く頷いて自分のタブレット端末を開き、資料用アプリを展開。そして昨晩の内から用意していた、これから通う学園についての資料をメモリから引き出した。

「(これがボク達の通う学園、都立東峰(トウホウ)学園。所在地は東京らしいけど、場所はどうやら東京湾にある巨大な人口浮遊島のようだね。カジノ特区としても有名らしいけど、そこはまた別としてその島内で犯罪等の取り締まりがされているみたいだけど、本島の警察も介入出来るみたいだし、それと連携しているんじゃないかな)」

「(恐らくそうだろうな。……となれば、俺達の住まいはどこになるんだ? 確か、別宅は島根と茨城にしかなかったろう)」

「(それなんだよね。お母様も何か考えがあるみたいだけれど、まだ住む場所は教えられていないよ。サプライズでもあるんじゃないかな?)」

 玄哉は半信半疑というように半眼で小さく唸ると、マルボロに火を点けようとして――やめた。視線がお母様へ行ったからだ。

(ありがとう玄哉。ボクは君のそういう気の利くところが大好きだ)

 心の内で感謝しつつ、そうこうしている内に空港へと到着した。

「お母様、空港へ到着いたしました」

「あら、もうそんな時間? ……ええ、追って連絡するわ」

 ボクが恐る恐るお母様へ目的地へ到着した旨を伝えると、お母様はタッチ式携帯から耳を放して左手でオーケーサインを出した。会話も切り上げるみたいだ。恐らく、先方の配慮だろう。話の分かる相手で良かったとほっとする。

 運転手がドアを開く。お母様から玄哉、ボクの順番で外へ出ると、そのままターミナルを通過していく。

「このまま自家用(ウチ)の機に乗るわ。行きましょう」

「はい。お母様」

 お母様の荷物を肩に提げ、自分のキャリーを引きながら荷物検査等をこなして行く。

 そして自家用ジェットに乗り込むと、お母様はすぐさまご自分のお部屋へと入ってしまった。恐らく、先ほどのお話の続きだろう。

 ボクは細心の注意を払ってお母様のお荷物を部屋の固定場へ設置すると、一礼して部屋を後にした。

「紬、先に入ってるぞ」

「ああ、うん。今行くよ」

 ボクは自分の部屋へ入ろうとお母様のお部屋から踵を返した所で、すでに入室しドアから顔を出していた玄哉へと頷く。ボクは彼の後を追うように入室すると、すでに機は動き出していた。

「離陸準備だ。ああ、あと入国手続きはやってくれたみたいだな」

「ああ、それは助かる。ボクはどうしたって女性に見られる可能性は低いからね」

 玄哉の隣のシートへ座ると、そのままベルトを着用する。彼も同じようにベルトを締めると、ふーっとひとつ息を吐いて、その黒いソフト帽を自分の顔に被せた。

「玄哉、寝るんだったら離陸した後にベッドで眠りなよ」

 幸いボクの部屋にはベッドが二つある。どうしてかって? それはお兄様の分だからだ。この部屋は兄妹供用なのである。まあ、その人も今はいないのだが。

「あぁ、悪い……そうするか」

 くぁ、というあくびをする声が聞こえた。よほど眠いと見える。

 そして五分ほどしてから、徐々にGがかかっていき――ふわり、と機体が浮いた。

 ボクは窓の外を見る。遠くなっていくフランスを見て、ボクは何を思ったのか……

「(さようなら)」

 そんな事を呟いていた。

 

       * * *

 

 およそ半日のフライトが無事に終わりを告げ、がこんっという機体が着陸した感覚を身に感じながら、ボクはむくりとベッドから起き上がった。

「………」

 お母様やお父様、お兄様ほど完璧ではないボクでも、弱いものはある。それは寝起きだ。

 しっかりと脳や身体が起きるまでかなりの時間を要する。その理由は低血圧からのもの。

「――おえっ」

 そして無理に身体を起こそうとして身体に負荷がかかり、軽くえづいてしまう。これは胃などが弱いから。また、ワイナリー時代の酔い対策でもあった。

 寝起きで戻しておけば、その鼻にこびり付いたきついアルコールのかおりは酸性のものによって少しだけ緩和される。それを毎日行っていたから、身体が覚えてしまっているのもある。

 次に、鼻水。これもワイナリー時代からのもの。鼻を詰まらせておけば口呼吸でなんとかなる。嘔吐と鼻水を併用することで自分を守っていたのだ。

 すんすんと鼻を鳴らしていると、どうやら玄哉も起きたらしい。むくりと隣のベッドの布団が盛り上がった。

「ん……玄哉……おはよう」

「……おう……」

 くぁあ、と大きなあくびをして伸びをする玄哉。ボクもそれにならって伸びをした。……うん、少しすっきりした。

「あー……頭痛い」

 そして慢性的な頭痛に顔をしかめながら、ベッド端に座るようにして脚をぷらぷらさせる。これは全身に血液を送るためのもの。

 あ~とこめかみのあたりをグリグリと抑えるが、それもあまり効果がない。

 寝覚めというより、起きてすぐ行動する事ができる玄哉が羨ましい。彼はそそくさとベッドから這い出てコーヒーを作っていた。

「玄哉~ボクのもー」

「わーってるよ。とりあえずお前は下くらい穿け、ったく」

 ああ、そういえばそうだった。

 寝る時のボクの服装は決まってパジャマ用のワイシャツ一枚と下着くらいだ。長年一緒にいる玄哉も慣れたもので、こんなんじゃまったく興奮もしないんだそうな。

 コーヒー作りに熱中(というより気を遣って背中を向けてくれている)玄哉に背を向けて、ボクは外出用のスーツへとサッと着替えた。もちろん下はパンツスーツだけど。だって寒いじゃないか。

 それは勿論そうだけれど、一番の理由はやはりワイナリーの仕事時代に付けられた傷跡なども多く残っているため、それを隠すという理由が一番しっくりくるのかもしれないが。ボクはそんなものは気にしない。

 髪型も整えた。よし、これでいい。

「ほれ」

「ああ、ありがとう」

 紙コップのインスタントコーヒーが渡され、シートへ着いたボクはありがたくそれをいただいた。

 外を見れば朝日が。それはそうだろう、日本時間で言えば午前9時前後なのだから。

「あー、時計変えないと」

 二人揃って腕時計やケータイの時間を直していると、コンコンとドアがノックされる音がした。

「俺が出る」

「よろしく」

 ぽいっとボクへ腕時計が投げられ、ボクは玄哉の時計の調節をする。

「あら、二人とも起きていたのね。よかった」

 そこへ現れたのはお母様だった。ボクは飛び上がるようにして立ち上がると、「おはようございます、お母様っ」と深いお辞儀をしながら挨拶をした。

「おはよう、紬。よく眠れたかしら?」

「はい、お陰さまで。……ところでお母様、本日はどのように行動されますか?」

「うーんそうね、とりあえず午前中は東京でも見て回りましょうか。十六時からは学園の理事長と会談する予定よ。貴女達はそれに同席しなさい」

「午前中は東京散策、午後十六時からは学園理事との会談、ですね。かしこまりました」

 ボクは簡単なメモを内ポケットの手帳へと書き記すと、お母様はふふっと微笑みながら自室へと戻られた。

「さて、俺達も下りる準備をするか」

「そうしようか」

 それからボクは、玄哉に荷物を任せ、お母様の足元を注意しながら階段をエスコート。そのまま空港の中へと入っていく。

 

 

「ああ……ようやく着いた。ここが日本なんだね」

「まあな」

 ターミナルへ出た所で、お母様は早速件の学園理事とのアポイントを取りに通話可能区域へと歩いていかれた。お母様を待つ中、玄哉は懐からマルボロのケースをくしゃりと握りしめ、近くにあったゴミ箱へと投げ入れてしまった。

「いいの? 結構本数が残っていたと思うけど」

「良いも何も、この国じゃあ二十にならなきゃタバコ酒はダメなんだよ」

「そうなんだ。ごめん、覚えていなかったよ」

「郷に入れば郷に従え。まっ、お前の場合酒も煙草も点でダメだからな。関係ねーだろう」

「でも、玄哉は少し辛そうじゃないか。おじさまも大概だけど、君も喫煙家だよね?」

「ンなの来年になりゃ認められる。暫くの我慢だ」

「どうやら学校には『春休み』というものがあるらしいよ。長期休暇にはフランスに戻ろう。それなら玄哉だって気負うことなく吸えるでしょう?」

「ありがてえ申し出だが……学校ってのには必ず宿題ってのが付いてくるもんだ。日本の学生は特にそれが多い。まあ、お前の頭なら全く問題はないだろうけどな」

「ホームスタディが必要なんだね。日本の若者は真面目な人が多いのかな」

「さてな。俺達みたいに適当やりつつ過ごしてる奴も少なからずいるだろう」

 そこで玄哉がライターを取り出しながら内ポケットに手を突っ込もうとする。そこにあるべきものを今しがた捨てたばかりだというのに。それに気付いた彼ははあ、と大きなため息をついた。ちょっと可愛いじゃないか。

「ボクは学校という所へ行くのは初めてだよ。だからほんのちょっとだけ不安なんだ。できれば、小学校とやらを経験した玄哉にいくつかアドバイスが欲しい」

「目立つな、邪魔をするな、寝るな……くらいか?」

「ごめん、それを禁じられたらボクはもう何も出来そうにないよ。学校っていうのは難しいんだね。まず一つ目からアウトだ」

「まあそりゃそうだろう。冗談だからな」

「………」

「す、すまん。気を悪くしなたら謝る」

 ボクは無言の笑みを浮かべつつ拳を作り、パキパキと間接を鳴らした。玄哉は昔からこの間接のなる音が嫌いなのだ。青ざめた様子で降参のポーズを取る。

「ま、まぁお前は自然体でもうまくやっていけるだろ。俺が保障してやる」

「だと良いんだけど」

 そんな一抹の不安は、この先出会う一人の男子によってかき消される事になるのは、日が半分ほど傾いてからの話だった。

 

 




次回はいよいよ伊右衛門が出ます! お茶じゃないよとだけ!

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