ルパン四世と学園モノ!   作:早乙女 涼

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行動開始

 こうして五限、六限と授業を終え、掃除のあとHRを行い、放課。

(つ、疲れた……)

 今朝の疲労がまたも襲って来る。意識は保っていられるけれど、どこか現実味がない。簡単に言うならぼーっとする感覚だ。

 このまま机に突っ伏してしまいほど辛い。でも流石にそれはだらしがないと思ったので、今日はまっすぐ屋敷へ帰ろう。

 そう思い、席から立ってベージュ色のコートを着ると、黒いウィンドブレーカーを着たユートが、ネックウォーマーを頭からかぶりながら歩み寄ってきた。

「峰、放課後どうする? 早速勉強でもするか?」

 その言葉に、ボクは一瞬考えた。

 どうしよう。身体的な辛さもあるし、眠ってしまったらユートにも申し訳がない。しかし、初日から誘いを断るのもどうかと思う。これはやる気の姿勢にもかかわる。

(誰かに見られながら勉強をした方が眠らないと思うし……。東方理事には、帰ったらすぐに連絡を取っておこう)

「うん、ボクは大丈夫。場所はどうする?」

「んー、そうだな……。俺達の寮でもいいんだけど、流石に楯山もいるしな」

 みぞれを見て後ろ頭を掻くユート。そしてみぞれはボクを見上げる。……うん、そのうるうるした瞳はとても魅力的だけれど、今はやめて欲しい。抱きつきたくなる衝動に刈られる。

「みぞれ、大丈夫そうかな?」

「はい。問題ないと思いますよ」

 それだけでボクの考えを察してくれたのか、彼女は満面の笑みで頷いてくれた。

 よし、と頷き返して、ユートへと提案する。

「ユート達がよければ、ボクの家はどうかな?」

「まあ、峰がそれでいいなら俺は全然構わないけどな。……平治は?」

「私も大丈夫ですよ」

「それじゃあ、一度解散で。二人ともどこに住んでるんだっけ?」

「ああ、第三学生寮。だから歩いても普通に行けるわ」

「分かった。待ってるね」

「おう」

「はい」

 そう言って、ボク達は一度別れ、部活動のある伊右衛門は学園へ残り、みぞれと共に帰宅する事となった。

 

       * * *

 

 屋敷へ戻り、自室で私服へと着替えてから、東方理事へのアポイントを取り付けると、彼はすんなりと許可してくれた。

 みぞれにはユート達が到着するまで、私服姿で家事をしてもらう様に言いながら、八十島さんへも友人が来るという旨を伝えておく。

 幸いにも客間も解放したということだったけれど、今日は談話室で勉強をする事にして、鞄と自室の勉強机の中から教科書とノート、電子辞書を手に準備へ取りかかった。

 菓子類や飲み物類も今日中に新しく補充されたみたいで、メイドさん達の配慮には痛み入る。

 そうして、一時間ほどした後……。

 一足先に談話室でノートと教科書を広げていたボクのもとへ、みぞれがやって来た。

「紬様、東間様と銭形様がお見えになりました」

「分かった、ありがとう」

 ボクは席を立ち、みぞれと共に玄関ホールへと向かい、八十島さんとみぞれ、そしてもう一人のメイドである渡辺さんと共に、彼らが扉を開けるのを待つ。

「昨日は間に合わなかったし、本格的に玄関(ここ)でお出迎えするのは初めてになるね」

「そうですね。紬様、頑張ってくださいっ」

 ああ、みぞれにガッツポーズまでされちゃった。これは本気を出さないといけないな。八十島さんも微笑んでいる分、頑張らないと。

 やがて扉が開かれ、ユート、そして平治くん、さらにその後ろには天使咲悠里ちゃんの姿があった。

「――東間様、銭形様。本日は寒い中ようこそお越しくださいました。改めまして、(わたくし)は当屋敷の主、峰紬と申します。どうぞお見知りおきを」

 ボクは一礼して丁重にお迎えすると、ユートと平治くんは目を白黒させている。ボクの態度に驚いたのかな? それともこの素敵な屋敷の内装に驚いているのかもしれない。咲悠里ちゃんは一人、ボクへとぺこりと礼を返してくれる。

「……驚いたな。まさかホントにここのお屋敷の主人だったなんて」

「さっきから言ってるじゃないですか。妹、冗談は言いますが嘘はつきません」

「とても綺麗なお屋敷ですね」

「ありがとう。メイド達も喜ぶよ」

 ボクは八十島さんとアイコンタクトを取ると、彼女はユート達へ一礼して、自己紹介。みぞれ達と共にコートと荷物を預かり、下がってくれた。

 その様子にユートは疑問を持ったのか、下がっていくみぞれを見てボクへ首をかしげながら訊ねて来る。

「楯山はメイドなのか?」

「うん。ボクの傍付きのメイドさんなんだ。年齢も、君の弟さんと同じだよ」

「年下だったのかよ……」

 下がったみぞれはユートへと会釈して、彼は更に驚いた。それはそうだ、誰にも言っていないのだから。

「さて。ここは冷えるし、部屋へ案内するね」

「ああ、頼むよ」

「「お願いします」」

 そうして、ボク達は談話室へと移動する。

「……こうして見ると、本当に峰の家は金持ちなんだな」

「お庭の手入れも行き届いていましたし、相当なものですよ」

「いやあ、そこまで褒めてもらえるなんて思わなかったな」

 これは後で伊右衛門に伝えておこう。きっと喜ぶ。

「ただ、ボクがこんな生活が出来ているのは、お父様とお母様が毎日頑張ってくれているお陰なんだ。だから、ボクはお母様達がくれたこのお屋敷を大切にしたいんだよ」

「いい事じゃないか」

「とても素晴らしいと思いますよ」

 ありがとう、とボクは微笑み返すと、ようやく談話室へ到着した。

 八十島さんがドアを開いてくれて入室し、席を進める。

 彼らが席へ着くと、八十島さん達はコートを部屋の角にあるハンガーラックへ掛け、荷物を座席脇に置いてくれた。

「それでは、ごゆっくりどうぞ」

「うん、ありがとう。二人とも」

「失礼いたします」

 八十島さんと渡辺さんは一礼して退室すると、四人用の卓で、ボクの隣へ座ったユートは早々にふーっと息を吐く。

「あはは、ごめんね。驚いた?」

「いや、昨日悠二と咲悠里から電話でどんな家なのかは聞いてたんだけど、想像以上だった」

 苦笑いを浮かべると、平治くんも談話室の内装を見渡しながら「本当ですね」と答える。

「みなさん、すぐにお飲み物の御用意を致しますので。紅茶が飲めないという方はいらっしゃいませんか?」

「あー、楯山ごめん、俺紅茶苦手なんだ……」

「ああ、それじゃあボクも今日はコーヒーで」

「畏まりました。銭形様と咲悠里様は紅茶でよろしいですか?」

「はい、お願いします」

「大丈夫です」

「はい、それではすぐにご用意をさせていただきますね」

 みぞれは笑みを浮かべて一礼すると、談話室から出て行く。

「……ホントにメイドなんだなぁ……」

 ユートは小さくそんな事を呟きつつ、バッグから筆記用具と現代文の教科書とノート、参考書を取り出しながら、軽く袖をまくった。

「さて、それじゃあぼちぼち始めるか」

 ボクとしては寒い中来てもらったわけだし、一服して貰おうと思ったけれど、彼は最初からやる気満々だったみたいだ。ササっと準備を始め、教科書とノートを広げる。

「あの、ちょっと待ってください」

「ん、どうした咲悠里?」

「妹、上の兄の用事が分かりません。というかなぜ勉強道具なんか取り出してるんですか!?」

「そりゃお前、勉強会だからに決まってるだろ」

「えっ、えええぇぇぇ――……。妹、普通に挨拶するだけだと思ってました。勉強道具を持たせられた理由はこれだったんですか……」

「ごめんね、咲悠里ちゃん。昨日の今日で」

 ボクが謝罪すると、どこかむすっとし始める咲悠里ちゃん。うーん、相変わらず嫌われてるなぁ。ちょっと悲しい。

「いえ……。まあ上の兄の件で何か事情があるというのは大体察してたので。勉強会になるという結果は理解できませんが」

「あー、そっか。お前には伝えてないんだもんな」

「まあ、今日のお昼休みに話したからね」

「……朝のうちに教てくれたっていいじゃないですか」

「それは、その……。ごめんね」

 申し訳なさげに苦笑を浮かべて、目の前で合掌すると、咲悠里ちゃんははぁとため息ひとつ。

「みなさん、お飲み物の準備が出来ました」

「ありがとう、みぞれ」

 みぞれも来たし、ちょうどいいかもしれない。ボクは咲悠里ちゃんにも今日のお昼休みに話したことを伝えることにした。

 

 

 そして咲悠里ちゃんからの了承を得て、ボク達は晴れて勉強会を行う事になった。

 ユートはボクを見てくれてはいる。いるんだけど……。

「……なあ、峰?」

「なにかな?」

「お前ホントにフランスに居たのか?」

「居たけど……」

 ユートが出してくれた現代文の参考書のテストを、百点でクリアしていた。

 というより、十五歳までに大学卒業程度までの勉強はしていたので、ボクにとっては『復習』そのものなのだ。

「すげえ……。フランス人、すげえ……」

 彼は何度もそのテスト結果を見ながら、ぶるぶると震えている。

「紬様は毎日、日本語の勉強をされています。日々の努力の賜物でしょう」

 一方で、みぞれはどうやら勉強が本当に出来ないらしい平治くんと、咲悠里ちゃんの勉強を一人で教えていた。

 八十島さんに聞いてみたところ、彼女も十五歳までに大学卒業レベルの勉強をしていたらしい。つまり、ボクと同じだ。

 そしてその後一切教科書へ触れていないボクよりも一年違う彼女の方が、よほど勉強が出来るに違いない。頑張らなければ。

「楯山も教え方上手いしなぁ……。俺が教える事無かったんじゃ……」

「そんな事ないよ。ユートの教え方も充分上手だよ?」

「上手というか、俺試験範囲教えただけだぞ……?」

「……あっ」

 そこで察してしまった。まさかのユート不要説。

「なんだその『あっ』て。酷くね?」

「ユートはボクの大事な友人だよ」

「そこはフォローしてくれ……」

 彼は軽く項垂れると、そこで小さな笑いが生まれた。

 ……しかし、みぞれサイドの咲悠里ちゃんと平治くんは無言だった。

「咲悠里ちゃんと平治くん、大人しいけどどうしたの?」

「いえ……。自分の頭の悪さに酔いしれていた所です……」

「どうみても絶望しているようにしか見えないよ……」

 手元のA4用紙を見ればみぞれに書き加えられた赤ペンのチェック印が大量についていて、平治くんの握る手はぶるぶると震えている。

 咲悠里ちゃんを見てみると、目を虚ろにさせながら英単語のスペルをまるでお経の様に口にしていた。

「何をしたのみぞれ……!?」

「咲悠里様には英単語の簡単な覚え方を、銭形様には僭越ながらわたくしが作成した小テストをやっていただきました」

「その結果がそれなの……」

 ボクは彼から用紙を受け取って、ユートと共に内容を見てみる。

 うわ、範囲えぐい!!

「すげえ、参考書より参考になる問題ばかりだ……」

「先生方の出題範囲と、事前に銭形様から見せていただいた過去問題から推測した問題になりますね」

 みぞれ、本当に何者なんだ……。まさに天使。神の使い。

 その顔はまさしくプロだった。

 そっとボクは平治くんへ用紙を返すと、彼はそれをめくった。

 え、裏があるの!?

「凄いな楯山……。俺でもそこまで絞り込めないぞ」

「というか、何者なんですか、貴女は……」

 ユートと平治くんの言葉に、

「あくまで、メイドですから」

 どこかの悪魔系執事さんの様に、唇に人差し指を当ててみぞれは微笑むのだった。

 

       * * *

 

「……んーっ……」

 ……どうしよう。眠くなってきてしまった。

 時刻は午後七時前を示している。勉強を始めて三時間くらいしたところか。

「平気か、峰?」

「うん、大丈夫」

 軽く伸びをした所で、ユートも談話室にある時計を見て、仰け反る様に伸びをした。

 するとみぞれが心配気な表情でボク達を見る。

「お二人とも、少し休憩されてはいかがでしょう? ただいま新しいお飲み物を準備しますね」

「そうですよ。せっかくお菓子もいただいていることですし」

「お前らな……」

 コーヒーを注いでくれるみぞれと代わって、すでに休憩モードに入っていた咲悠里ちゃんと平治くんへと、ユートは睨むようにして唸った。

 すでに先ほど夕食は御馳走するという話は着いているので、ユートもこんな時間まで残って勉強を教えてくれているのである。

「ユート、ボク達もちょっと休憩にしない? そろそろ夕食の準備もできるだろうし」

「……そう、だな。それなら」

 彼は背もたれに身体を預けると、目頭を揉み解す。

「にしても、峰はかなり勉強できるな。これなら普通に上位は取れるよ」

「慢心はできないけどね。みんなどれくらいの点数を取るのかも、ボクは分からないし」

 ボクは新しく注がれたコーヒーを飲みつつ、謙遜する。

「そうだなあ、百点取る奴なんてあまりいないし、今のところはほぼ一位確定じゃないか?」

「ですね。先日の中間テストには、百点獲得者はひとりもいませんでしたから」

「でも、気を抜かずに行くよ」

 それはボクのためにもなるし、何より――ユートのためになるんだから。

「頑張りましょう、紬様」

「うん、みぞれもよろしくね」

「はいっ」

 優しい笑みを浮かべるみぞれの頭を、優しく撫でるボク。ユートはそれに何か思うところがあったのか、その疑問を口に出した。

「なんつーか、()妹みたいだな?」

姉妹(キョウダイ)? んー、そうかもしれないね。こんなに可愛くてなんでも出来る妹がいたのなら、ボクはとても幸せだよ」

 ――でも、それは現在だけの話。彼女を過去へは連れて行きたくないし、出来たとして行かせるわけにはいかない。

 ふとそこで、ボクはそれほどみぞれの事が大切になっていると気付いた。

 それがとても嬉しく思える。気付けた事に幸福すら感じた。

「そうか」

 ユートは咲悠里ちゃんを見ながら、照れ臭げに笑う。ボクは今度こそ、自信を持って頷く事が出来た。


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