今年もどうかよろしくお願い致しますっ!
お正月の短編集でも書いてみようかと思いましたが、間に合いませんでした……ホントすみません……。
あと三話か四話ほどで悠斗くん編(語呂悪いな)が終わります。
今回は東間ブラザーズとの絡みもあるので、そろそろGLタグをつけようか考え中……。
そしてそして!
お気に入り登録11名様、そしてUA1400突破、ありがとうございます!
これからも頑張って書いて行きますので、どうかよろしくお願い致します!
はぁ、はぁ……(いつもより「!」多めのため疲労中)。
おっともうこんな時間ですね、それではお待たせしました本編をどうぞっ!
「あー……」
……しまった。朝だ。今日も学校なのに……
貫徹してしまった。
なんとかユートのためにならないかと思考錯誤を重ね、学園の概要やパンフレットなどを漁っていた。夜も更けていたために、あと一時間、あと一時間と進めている内に、気付けば取り返しのつかない時間にまで達していた。
とうとう朝日が……。目に沁みる。
時計を見れば午前六時半。今から眠ってしまったら昼まで起きられない気がする。
とりあえず顔を洗って……。でもこのままだと、くたびれた顔を晒してしまうことに……。いつもより多めに化粧をしようか。
メイク技術を始めとした身だしなみについてはお母様から学んで身に付けている。
冷水で洗顔したことで、かなり目が覚めた。これなら大丈夫だと思う。外も寒いだろうし、あまり暖かくしなければ。
「紬様、おはようございま――どうしたんですか!? 目にクマが……!」
部屋から出たところで、起こしに来てくれたであろう我が天使みぞれと出くわしてしまう。悲鳴のような声を軽く上げてしまうほどひどいのだろうか。
「ごめんごめん、昨日ちょっと調べ物をしていたら、結局徹夜しちゃったんだ。軽くシャワーを浴びたい。いいかな?」
「それはかまいませんが、ご入浴されますか?」
「湯船はいいや。シャワーだけでいい。できれば上がったあとに暖かいタオルか何かを。目に当てて休ませたいから」
「かしこまりました。それでは浴室へ」
「うん、頼むよ」
こうして、二人で浴室へと向かう。
「もしかして、東間さんの事ですか?」
「うん……。東間兄妹のお願いもあるし、ボク自身なんとかしたいとも思っているからね。だというのに、早速みぞれに迷惑をかけちゃったんだけど」
自嘲気に苦笑いを浮かべると、みぞれは太陽の様な微笑みを浮かべる。
「わたくしはそんな紬様の付き人であれる事を、大変光栄に思います。わたくしに手伝える事がございましたら、なんなりと仰ってください」
「ありがとう、みぞれ」
ああ、流石は天使みぞれ。もういっそメイド業やめて峰家専門の守護天使になってくれないかな。
ボクは緩んだ頬をそのままに、彼女の頭をそっと撫でるのだった。
「む」
「おや」
「あ、みなさん。おはようございます。今から登校……って、当たり前ですよね」
あれからシャワーを浴びて、冷水を手先から二の腕まで掛けるという眠気防止の対策をしたおかげか、眠気はさほど起きる事はなかった。
そしてなんとか準備を終えて、みぞれと共に通学路を歩いていると、東間兄妹が家の玄関から姿を現した。
咲悠里ちゃんはボクと視線が合うと、唐突にむすっとした顔付きに変化したものの、悠二くんは満面の笑みで挨拶してくれる。
「おはよう、二人とも。ここが君達のお家なんだね」
自分の屋敷とは比べるほどでもないけれど、その大きさから見ただけで裕福なお家だと分かる。
「あはは……。峰さんのお屋敷ほどじゃないです」
そこでその言葉を先に言ってくれるんだもの、悠二くんはとても優しいね。それにこの容姿だ。クラスの女の子も放っておかないんじゃないかな。
ボクは大仰に「ううん、とても綺麗だよ」と伝えると、咲悠里ちゃんはため息をついた。
「あの、世間話もそれくらいにしないと。下の兄、部活に遅れますよ」
「えっ」
ツッコミを入れた咲悠里ちゃんに指摘されて、ケータイを見た悠二くんは「あっ」と声をあげる。
「すみません、みなさん! オレ一足先に向かいます! 咲悠里、失礼のない様にね」
「えっ。ちょっと待ってください下の兄。可愛い妹をこの場に残して一人だけ先に行く気ですか!?」
「咲悠里なら大丈夫でしょ! それじゃあまた、学園でっ!」
「下の兄ェ……」
「行ってらっしゃいませ」
「行ってらっしゃーい、気をつけてねー」
全速力で飛ばしていく悠二くんを、咲悠里ちゃんは呆然と見送ってしまう。ボクとみぞれは彼女に代わって手を振りながら送り出した。
……まあ、確かに構図を見れば男の子は悠二くん一人だったし、気まずさはあったんだろう。でも……
「………」
この世の終わりみたいな顔をした咲悠里ちゃんは、それを好くは思わなかったみたいで、今にも泣き出しそうだった。
「咲悠里ちゃん、飴食べる? りんご味だけど」
「あの、そういう気遣いは結構です。妹、餌付けには屈しません。あと個人的にみかん味が好きです」
今サラリと本心が出たね。若干拗ね気味な所が可愛い。
「そっか。それじゃあ次は準備しておくね」
「あの、紬さん、わたしみかん味持ってます」
「――それは本当ですか!?」
「はい。ノンシュガーですけど……どうぞ」
「……あっ」
みぞれに振り向いてさっと両手を出す所までがワンセットだったのか、咲悠里ちゃんはみぞれへと両手を出す形でストップした。軽く声をあげちゃうあたりがすごく可愛い。まさか……新手の天使か。
顔を真っ赤にして俯く咲悠里ちゃん。みぞれは優しく微笑みながら袋を切って、ぽいっと咲悠里ちゃんの口へ放り込む。なにその天使のやりとり。ボクもやりたい。それかしてほしい。
「……なぜそんな目でわたしを見るんですか。え、なに。ひょっとして妹、保護対象指定されてます?」
うんと即答してしまいそうになったのを自制しつつ、ボクは「そんなことないよ」と言って、新たに天使となった咲悠里ちゃんの頭をぽんぽんっと撫でた。
「ふぁっ……。――いえなんでもないです」
一瞬気持ちよさそうに目を細めてくれたのだけれど、次には半眼でつーんとした態度を取られてしまう。うーん、悲しいなぁ。
「とりあえず、行こうか」
「はい」
「……むう……」
こうして、学園二日目が始まる。
『きゃーっ!』
うわあ、やっぱり。
『えっ、なになにあの人っ外国人!? 綺麗……っ! 髪の毛真っ白で肌も真っ白、それなのに親近感を覚えさせるパッチリとしたあの黒い瞳! なにあれ天使?』
それは違うよお嬢さん。ボクの傍に居る二人をよくごらん。ボク以上に天使してる。天使ちゃんマジ天使。……今日は何回『天使』と言ったかカウントしてみようかな。今のところ八回。言い過ぎかも。
『綺麗なのは顔だけじゃないよっ! 見て、あの小さな顔! それでいて均整のとれた身体にあの腰の高さっ! とどめに文句のつけようがないあの美人……! 凄い、誰なのあの人……本当にうちの学生?』
『日本人じゃない、よな……? 髪は染めてないよな……』
……あ、やばい。ちょっと――いやかなり恥ずかしくなってきた。
「つ、紬さん。大丈夫ですか?」
「大丈夫もなにも。この顔色はちょっとまずいですよ。保健室へ行かせましょう、保健室へ」
顔が一気に赤くなっていたのかもしれない。みぞれと咲悠里ちゃんに手を引かれながら、ボクは保健室へと向かう。
手袋を外し、両頬に手を当てる。ひんやりとした掌が、あっという間に頬の温度を吸収していく。でもまだ火照りはおさまらない。
「……あつい、かお……」
思考までもがオーバーヒートしそうだった。綺麗と言われた事は何度もあるけれども、あそこまで褒めちぎられるとは思いもよらなかった。
「ああああ紬さんっ! どうか落ち着いてくださいっ! お顔がっ、お顔が真っ赤です!」
「あの、お姉さんも落ち着いてください……」
みぞれが慌てるほどボクの顔は赤いんだろうか。咲悠里ちゃんの視線も縦横無尽に大暴れしている。ああ、ボクの愛する二人の天使達。どうか落ち着いて欲しい。いや、その原因はボクなんだけれど。
「……おや? 峰さんではありませんか」
ああ、平治くんが来てくれた。
「銭形さん、おはようございます」
みぞれが挨拶してくれる。……これなら大丈夫かもしれない。
「おはようございます」
「ええ。おはようございます。……それで、彼女はどうされたんですか?」
「――あぅ……」
「つ、紬さん――!?」
ああ、体力的に限界だったのかも。
ボクの意識は、まるで糸が切れたかのようにプツリとブラックアウトした。
* * *
……あれ。
今何時だろう。
アルコールの香りがする。病院……?
まとまらない思考が脳内で混じり合いながら、徐々に消化していく。
『紬様……?』
その声は……。
「……みぞれ……?」
ああ、なんて事だろう。自分でもビックリするほど、弱々しい声が出た。
手を上げようとするけれど、少し重みのある何かが邪魔をする。ボクはすぐにそれがシーツだと判った。
「大丈夫ですか、紬様」
「大丈夫だよ……」
ボクはゆっくりと瞼をあげると、心配気に自分の顔をのぞいているみぞれの顔があった。
今にも泣き出してしまいそうなその顔。
「……泣かないで。みぞれ」
思っていた事が、言葉となって放たれる。
「っ……はい」
よほど心配をかけてしまったんだろう。彼女は目を伏せて、息を飲むようにして頷いてくれた。視界から彼女の顔が外れると、真っ白な天井が目に入る。
「ところで、ここは……?」
「学園の保健室です。お顔が真っ赤になられていたので、保健室へ連れて行こうと思ったのですが、その途中で気を失われてしまいました」
「……なるほど。どのくらい眠っていたのかな?」
「現在は二限を終えて、休憩時間です」
ということは、二時間くらい眠ってしまったという事になる。
「分かった。ボクも次の授業には参加する」
「大丈夫ですか? お医者様によりますと、本日は念のため学園をお休みされた方がよいと……」
「流石に二日目でお休みだなんて情けないしね。出来る所までは参加しておきたいんだ」
「……かしこまりました。紬様が無理をされないよう、わたくしも細心の注意を払います」
「……ありがとう。みぞれ」
今、感謝の言葉ではなく迷惑を掛ける、と口に出しそうになった。
いつも迷惑を掛けている。それは判り切っていた。けれど、出かけた途端にそれは弱音だと思って言い直した。
どうやらこれから先の事を思って、一瞬でも心が弱っていたみたいだ。気合を入れ直さないと。
ぱちん、ときつく目を
「もう大丈夫。行こう」
「はい、紬さん」
時計を見れば、休憩時間はあと六分ほどある。移動するには充分すぎる時間だった。
保険医に礼を言いつつ、保健室を出ると、そこにはユートと平治くん、そして胴着姿の伊右衛門の姿があった。
「大事ないか、紬?」
「みんな来てくれたんだ。ごめんよ心配かけて。もう大丈夫だから」
心配気な伊右衛門にボクは頷きながら返すと、三人ともほっとして胸をなでおろした。
「まあ体調が良くなったならいいさ。教室戻るぞ」
「そうですね」
平治くんは眼鏡のブリッジを持ち上げると、ユートと共に踵を返す。
「ところで伊右衛門、その格好怒られないの?」
「学園指定の胴着ゆえ、指摘される事はない」
「そ、そうなんだ……」
袖口を見ると、確かに学園の名前が刺繍されていた。
「紬さん、連絡事項ですが、本日の四限の科学は移動教室だそうです」
「うん、分かった」
そう言って、ボク達は先に歩いていたユート達へ追い付くのだった。
* * *
……お昼休み。
ボク達は体育館裏で昼食を取っていた。
ここからはフェンス越しだけれど人工浮遊島の外縁部である港を眺める事が出来るため、漫画の様な苛めっ子など一人もいない。
そして、どうしてこんな寒い所で食事を取っているのかというと、これからについて話し合うためだ。
そこでボクが彼らへ提示したのが――
「……生徒会、ですか?」
「うん」
この学園の生徒会――そのうえ高等部とあれば、生徒達への影響力等は大きなものになるだろう。
更に、生徒会の会長指名は来月――二月上旬に行われる。
ギリギリという形だけれど、指名の立候補者の受付は明後日だった。
何故選挙ではないのか。そこについても調べてきた。
学園内に公平性をもたらす為に、学園理事が独自の判断で立候補者の中から指名する、というものだ。
――よりにもよって、不平等である
そして、生徒会の役員は指名された新生徒会長が後日選任するというシステムになっている。
「ユートには迷惑な話だろうけれど、ボクと一緒に一年間、生徒会をやらない?」
彼は一瞬逡巡するようにボクをじっと見つめた。そして数十秒が立ったあと、
「……それで悠二と咲悠里が救えるのなら」
ボクの提案に乗ってくれた。
「しかし、なぜ生徒会なんです? そもそも、峰さんはこの学園の生徒会についてどの程度知識があるというんですか」
平治くんの言う事はもっともだ。ユートも「それは俺も気になる」と口にする。
ボクはそこで苦笑いを浮かべてしまった。
なんて返せばいいんだろう。一晩中この学園の生徒会について調べていた、だなんて言えない。自分が情けないし、ユートにも罪悪感を与えたくない。
それに、どうして生徒会なんて不確定な要素に行きついたのか。それは東方理事とボクのお母様、そしてボク自身の関係性を吐露するという事になる。ひょっとしたら最悪、家の事も話さなければいけないだろう。
流石にその説明はデメリットが多すぎる。かといってしっかりと理由をつけなければ、かえってユート達を不安にさせてしまう事は間違いない。
「実は、この学園へ来た理由は、学校生活や生徒会に興味があったからなんだ。事前から調べていたのだけれど、他の高校は去年の十月や十一月に生徒会の選挙も終わっているし、流石に入って一カ月も経たない生徒が生徒会長になるだなんて難しいと思ったから。それにこの学園の指名という制度にもとても興味があった。一度きりの青春。できれば素敵なもので終わらせてみたい。ユートのためでもあるし、ボク自身の自己満足でもあるんだ」
我儘でごめんね、と謝ると、ユートは「いや……」と顔を横に振ってくれた。平治くんも納得したように眼鏡のブリッジを持ち上げながら口を開く。
「まあ、他校はすでに生徒会選挙は終えていますしね。この時期に生徒会を発足するというのも珍しいというのは分かりました。ですが、一番不安なのは……」
「……指名されなかった時、だよね」
「その通りです。例年通りですと、翌月の期末テストの結果から選出される事が多いです」
「来月テストなんだ」
「ええ。それも二週間後になります」
「となると、その日までの授業が範囲になるんだよね?」
「はい。ですから峰さんにとってはかなり苦しいものになるのではないかと」
なるほど、どうしたものか。
事前に東方理事にはアポイントを取って事情を話しておくとして、勉強面でもしっかり後付けをしなければ生徒達には不自然がられるのは間違いない。
各教科の教師にも出題範囲を訊ねておくのもありかもしれない。その程度であれば答えてくれるだろう。
「――それについては俺が面倒みるよ」
「悠斗?」
そこで、彼が一歩前へ出た。平治くんが驚きの声をあげた。
「まあ、流石に頼ってる側として何もしないってのはおかしな話だしな。そのくらいさせてくれよ」
「……ありがとうユート。凄く助かる」
「これからよろしくな」
ユートはそっとボクの方へ手を差し伸べ、ボクはその手を取って握手を交わす。
「……話は決まった様だな」
「うん」
伊右衛門はボクの隣へと歩み寄ると、頷きながら彼を見上げた。
「無論、微力ながら拙者も力を貸そう」
「悪いな、伊右衛門」
「私も頑張りますよ」
「わ、わたしもお手伝いします!」
「うん。みんなよろしく。それじゃあ戻ろうか」
その場の全員が頷いて、校舎へと戻っていく。
……話は決まった。あとは準備をして行動あるのみ。
ボク自身も色々な人とコミュニケーションを取っていかなければ、みんなに納得される生徒会長にはなれない。
――けれど、理想像は決まっている。
ボクの大好きな家族達だ。
お兄様とお母様は、二人とも毅然とされていて、仲間を率いて行く力がある。
お父様もそうだけれど、お父様はそれに深い優しさを持っている。
そして実行するための下準備も欠かさない。失敗を許されないからこそ、踏み込むだけの力が必要なんだ。
ボクはまだ、その力はお父様達には到底敵わない。
けれど。そんなボクを支えてくれる
だから、挑んでいける。
どんなに絶望的な状況に陥ったとしても、希望の光が見出せずに居るのなら、ボクがその光になろう。
その絶望を肯定して、それでも光を与え続けよう。
絶望から希望へつなぐための、強い糸になろう。
それが、ボクの名前である『紬』という意味そのものなのだから。