落第騎士と怠け者の天才騎士   作:瑠夏

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待っていてくれた人がいるかわかりませんが、久しぶりの投稿です。


episode.6

先程まで少数だが残っていたの生徒達は、今は一人としていない。現在、第三訓練所であるこの場所にいるのは、己の魂、固有霊装を顕現させ、中央で対峙している一組の男女、それにレフェリー役の黒乃を含め三人だけーー。

 

男性の名は春日野白雪。銀髪の髪に翠の瞳。いつも眠たそうな顔をしており、常に瞼は半分近くまで閉じられている。それは模擬戦をしている今でも変わらない。

右手には《氷輪丸》が握られている。白雪の身長が低いため、《氷輪丸》は長く感じてしまう。

 

女性の名はセリス・リーフェンシュタール。

太陽の光を反射しているかの如く、美しい金髪が腰まで伸びていて、ふわっとウェーブがかかっている、見ただけでわかってしまうほどのお嬢様。しかし、その美しい姿とは不釣り合いな巨大な大剣を携えている。

それこそ、セリス・リーフェンシュタールの固有霊装、《皇鮫后》。自身の身長程の大剣だ。

 

「二人の戦いは、模擬戦の域を超えていた」

 

この模擬戦を見ていた生徒達ならば誰しもがこう口にするだろう。何故ならば、彼等の前で繰り広げられた剣戟の応酬は、彼等では到底真似できない領域にあったからだ。

それだけでなはない。異能を織り交ぜた戦闘となると、誰もが嫌でも彼我の差を押し付けられた。

確かにその通りだ。中央に立つ二人と、観客席で見学に来ている生徒達では実力差があり過ぎるのは一目瞭然だろう。

 

だが彼等は知らない。

自分達がいなくなった後、闘いのレベルがさらに跳ね上がったことに……。

そして彼等は知らない。

今まで動くことのなかった模擬戦が、どちらかの一方的なものになっていたことをーー。

 

 

 

直後、

第三訓練所の天井を突き破る氷柱が現れたーーーー。

 

 

白雪はレフェリーの黒乃を除いて、今この場に居るのは自分とセリスだけだということを確認する。

今から切る手札を見せないためでもあるが、一番の理由としては巻き込まないため、である。

生徒は誰もいないことを確認を終えると、白雪はこの模擬戦を終了へ導く言葉を紡ぐ。

 

「ーーーーーーー“卍解”」

 

白雪を中心に流れ出る冷気。それは、フィールドのみならず、ここ第三訓練所をも凍らした。

 

「………なによ…………それ……」

 

訓練所もろとも凍りついた事にセリスは驚愕していたが、それ以上に、その中心に立つ大きく変化した白雪の姿を見てセリスの体は強張り、顔は凍りついたかのように、引き攣ったまま動かなくなる。

《氷輪丸》を持つ右腕から連なる巨大な氷の龍を白雪自身が纏い、飛竜の如く氷の翼が大きく広げる。そしてその背後には三つの巨大な花形の氷の結晶が浮かんでいた。右腕は氷輪丸が飲み込んだようになっており、固有霊装を氷輪丸が咥える形で握っている。

 

そして、その名が紡がれた……。

 

「ーーーーーーー『大紅蓮氷輪丸』」

 

その姿、まさに顔を除いた全身が龍と同化したと言えるものだった。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」

 

セリスは巨大な氷の翼を広げ、フィールドの中央に佇む白雪に知らずのうちに畏怖を感じ、後ずさっていた。

ただ中央に立ついるだけなのだが、それ程までの圧倒的な威圧感と存在感。

そしてセリスは中央に立つ白雪と、フィールドの端に立つ自分を見て、この立ち位置が今の自分の状況そのままなのでは無いだろうかと錯覚してしまう。

追い詰めている白雪と、追い詰められているセリスのような……。

そこまで考えたセリスは瞬時に顔を横に振った。

 

「呑まれたら終わりよ。相手がどんなに強力でも私がやることは変わらないわ」

 

そう、自分に言い聞かせる。

 

(とは言ったものの、本当にどうしたらいいのかしら……。シロちゃんが何をするのかわからない以上闇雲に飛び込むことは危ないし……)

 

相手が自分より下のBやCランクが相手ならば多少のリスクを承知でこちらから仕掛けることは出来るが、しかし今回の相手はAランク。

それも、今や圧倒される程の“力”を放つ化け物だ。

今迂闊に接近でもしたならば、自分は一撃で倒されるであろうとセリスは曖昧だが感じ取っていた。故に、こちらから動くことはできない。 セリスはそう結論付け、いつ模擬戦が再開されてもいいようにこれまで以上に警戒を強めた。

 

 

激しく警戒しているセリスに対し、白雪は完全無防備状態だ。

ただ佇むだけで、自分から何か攻撃を仕掛ける気配がない。

そんな様子を察したのか、白雪を観察するように見ているセリスの顔に困惑の色が浮かんでいた。

 

「…………」

 

白雪は動かない。全身が凍ったかのように身じろぎひとつ起こることがない。

凍死しているのでは? と、誤解してしまうかも知れないがよく見ると白雪の口からは白い吐息が吐き出されているのが見える。

しかし、その吐息もこの氷河時代を体現したかのような世界の中ではパリパリと固まり散っていく。

 

(はぁ……。そう言えば、卍解使うと、色々と冷めるんだったなぁ……)

 

白雪は自身の全てがスーと冷めていく感覚にそのことを思い出していた。

白雪が若干の後悔をして、セリスから完璧に意識を外した。

 

ーーザバァン!

 

波が上がるような音とともに後悔の念に思考が囚われていた白雪はゆっくりとだが意識を戻す。

そして音の発信源を探すーーーーが、その必要はなかった。白雪は自身を中心に影が差していることに気づき、天井を見上げる。

 

ーーーーと、同時に、

 

「ーーーー断瀑(カスケーダ)」

 

白雪へ膨大な水の高圧力がのし掛かる。

その威力はコンクリートで出来た建物を簡単に破壊するほど。人一人潰すために使うにはオーバーキルという言葉ですむほど生やさしいものではなかった。

しかし、白雪は平然を立ったまま苦にした様子は見られない。

見ると、白雪へのし掛かるはずの水は、当たる直前に凍りつき、上からのし掛かる水により砕かれ更に氷を砕いた水が凍りつくと言うループを繰り返していた。

つまりは白雪にはダメージは愚か水の一滴すら届いていなかった。

それは断瀑に限らず、戦雫、波蒼砲、水鮫弾、どんな技で攻めても全て当たる直前に凍りつく。そう、まるで“目に目えない氷のシールド”に憚られているかのように。

 

「無茶苦茶ね……、なら!」

 

この結果にセリスは僅かに顔を歪めた。

だが、即座に次の手を打つ。

大気中の水が《皇鮫后》へ集まり、やがで超巨大な大剣へと変化する。それは高圧で循環する水流の刃だ。その刃に斬れないものはない。

しかし、セリスは魔力制御に少し難がある。そのため、高圧で循環する水流にも多少の乱れがあった。

だがそれがどうしたものか。セリスはその刃を白雪の腰辺りを狙って強く横薙ぎにする。

 

(高圧水流の刃であの不可解なシールドを破る!)

 

セリスの渾身の一振り。それは腕から剣先までブレて見えるほどだ。それに加え、斬れ味の鋭い高圧水流の刃があることで防御は不可能。

これならいける……っ!!

 

しかしーーー

 

「どんな攻撃も“今のセリス”じゃあ、届かない」

 

言葉通り、その渾身の一振りはまたしても不可解なシールドに憚られた。

激しく循環する水流はシールドに触れた途端、凍りつき一瞬で粉砕される。そして何も纏っていない《皇鮫后》など今の白雪は歯牙にもかけない。

またも何もせず防がれたことに目を見張るが、即座にセリスは次の行動に出ていた。

白雪の背後にいつの間にか仕込んでいた戦雫が風を切る速度で襲いかかる。

完全なる死角からの奇襲。これならあの不可解なシールドを展開させる暇など与えずに攻撃を加えることが可能だろうと踏んでいたセリス。

しかし、白雪へ当たる直前。幾度とセリスの技を阻んだあの不可解なシールドにより戦雫が凍るのを見て今度こそセリスは驚愕した。

 

「冗談じゃないわ……その防御壁、常に全方位守られてるっていうの……ッ!」

 

「もう、気は済んだ? なら、もう終わりにしよう。流石に疲れたよ」

 

質問には答えず、白雪は氷の翼を大きく広げる。

 

「〜〜〜〜くぅ……っ!」

 

ただそれだけの動作なのに、セリスの身体は押し潰されるかのような重圧に見舞われる。

 

(これは、重力の能力とうの重さとは違う……。圧倒的存在を前に、自身の存在そのものが押し潰される感覚ッ!? これは……恐怖? あ、ありえない……っ!! ステラからもこんな重圧や恐怖心を感じたことないのに!!

…………はっきり言って、怖い。今すぐ逃げ出したいほどにッ!?ーーーーでも)

 

容赦なく降りかかる力の差という恐怖の重圧に冷や汗を大量に流す。

しかし、実力差がかけ離れていると、無理やりわからされているのにも関わらずセリスは震える身体に鞭を入れ、

 

「だからって、尻尾巻いて逃げ出すわけにはいかないでしょうっ!」

 

恐怖に戦意を喪失しかけていたセリスだが、なんとか気持ちを持ち直したところで、

白雪が動いた!

 

「はやいッ……!?」

 

翼を使い、一気に加速して距離を詰める。右手に咥える《氷輪丸》を、横に一閃。高速のスピードから振り抜かれる鋭い一閃が、セリスを腰から真っ二つに斬ろうと奔る。

実際、《幻想形態》であるため真っ二つになりはしないが、受ける精神的ダメージは致命傷と変わりはない。

しかし、セリスは負けじと《皇鮫后》を高圧水流の刃へと変え、迎え撃つ。

二振りの刃が重なり、衝突する直前。

 

パリッ。

 

と、《皇鮫后》を纏う水が氷、砕ける。

そして、《皇鮫后》と《氷輪丸》が衝突した。

結果は、一目瞭然。

刃をもがれた《皇鮫后》では今の白雪は止められない。

セリスは《氷輪丸》を受けるが、案の定、止められるはずもなく、後方へ吹き飛ぶ。

 

 

 

 

ーーーー否。セリスは自ら後方へ飛んだのだ。

そうする事により、受けた力を上手く流す。

 

氷地に足をつけ、体制を整えたセリスは自分の身体の動きが鈍い事に気づいた。

まさか、気づかない内にどこかを凍らされていたか?と、身体を見回すがどこも凍っている場所など無かった。

訝しむセリスだが、激闘が続いているため、疲労が溜まっていると解釈し、白雪に視線を戻す。

 

次の瞬間。

セリスはその考えが間違っていた事に気づかされる。

セリスの視線の先。そこには、《氷輪丸》の切っ先をセリスに向けている白雪の姿だった。

それだけで、瞬間的にセリスは理解し、同時に強く恐怖した。

 

(わたし、……内側から凍らされてるッ!!)

 

今ならばはっきりとわかる。セリスが動くとき、内部からパリ、パリと、氷が張っている音が聞こえてくる。

 

「人間の体は六割がた水で出来ている。水は俺の武器だ。例えそれが人の身体としても例外はない。……ま、流石に人間の水を直接凍らせることは“卍解”を使っていてもほぼ無理なんだけどね」

 

人間の六割がた水だが、それは直接凍らせることは難しい。《氷輪丸》を相手の体に突き刺していれば素での状態でも可能だ。だが、白雪は距離が離れている現状で、《氷輪丸》の切っ先を向けるだけでそれをやって見せた。それはつまり、何かしらの種があるという事。

しかし、セリスに種を考えている暇は無かった。何故なら、今も徐々に内部が凍り始めているからと、白雪が《氷輪丸》を振り上げる動作をしたからだ。

 

「氷輪丸」

 

今日、何度も放たれた基本技。

その度にセリスは粉砕、または溶かして水に変えていった。もう、通用しないとわかっている。

それは、白雪が自分の口からも言っていたこと。

しかし、躊躇なく放たれた氷輪丸を見て、同じ事が言えるだろうか?

通常の一回りからふた回りもでかく、氷輪丸から漏れ出す冷気は比べ物にならない。

巨大な氷竜が顎を大きく開き、咆哮を上げれば建物が軋む。

 

(冗談じゃないわ……この氷輪丸、力だけならステラの《天壌を焦がす竜王の焔》と遜色ないッ!!)

 

ステラの伐刀絶技に遜色ないとまで感じる。それは、セリスがステラの抜刀絶技を何度も見て、戦ったてきたからこそわかること。

『この氷輪丸はヤバい……と』

セリスがそう、警戒心を最大限まで高めたと同時。

セリスへ狙いを定めた氷輪丸はその巨大な姿からは想像もできない速度で襲いかかる。

 

セリスは怯みはしたが、それも一瞬。

《皇鮫后》を振り下ろす。

刀身の部分から霧状の斬撃が三筋放たれる。

氷輪丸を一筋で粉砕した威力を持つトライデントが、三筋纏めて、格段にレベルの上がった氷輪丸と激突し、

 

ガシャンッ!!

 

甲高い音を立ててーーーー

 

氷輪丸が、三筋の斬撃をいとも容易く噛み砕いた。

ステラ・ヴァーミリオンの抜刀絶技に並ぶのだ、今更その程度の技が通用するはずもない。

いや、灼海流、波蒼砲、戦雫、断瀑、水鮫弾、どの技を使っても氷竜は止められない。

氷輪丸は顎を開き、その巨体でセリスを飲み込むために更に加速していく。

絶体絶命に近い現状ーー

 

ーーしかし、そんな状況の中、セリスの口元は緩み……笑っていた。

 

「ステラの伐刀絶技と同レベルの技……、わたしの伐刀絶技にとって好都合だわーーーーハッ!」

 

これが最後の攻撃。

セリスは、今ある魔力を駆使し、伐刀絶技を発動させる。

それは、水鮫弾とほぼ同じだが、大きさは一回り近く違う。

だが、ただ大きいだけでAランク騎士の切り札とはなりえない。

水鮫は、迫る氷輪丸を真正面から迎え撃つ。

「喰らいなさい」

 

セリスは、そう水鮫に指示を出す。

すると、鮫は大きく口を開き、そこから見える鋭利な牙をギラリと剥き、氷輪丸へ噛み付いた!

 

無謀だ!

 

もし、この模擬戦をここまで見ていた者がいれば無意識にでもそう口にしただろう。

何せ、白雪の氷輪丸は“あのAランク騎士の伐刀絶技と同レベル”なのだから、ただ巨大にしただけでは凍らされた後に砕かれて終わり。

しかしセリスは、躊躇なく指示を出したのだ。

 

「なッ……!?」

 

聞こえてきたのは白雪の驚愕の声だった。

次に、白雪が、ありえないものを見たような目で、ぶつかり合った両技を見つめていた。

それは、噛み付かれた氷輪丸が、何の抵抗もなしに、水鮫に“吸収されていく”。

その結果に、セリスはニヤリと笑う。

その笑みは、この結果が当たり前だと言うように……。

 

水鮫が氷輪丸を吸収したーー

 

 

ーー刹那。

 

 

水鮫の力が、質が、格段に跳ね上がった。

大きさも更に巨大になり、鋭く鋭利な牙は、何をも嚙み砕く大牙へと変貌する。

まさか、水の天敵である氷を吸収し、更には強化されたことにはさすがの白雪も目を見張っていた。

白雪を驚かすことができたセリスは、少し、気分的に満足しながらも、《皇鮫后》の切っ先を白雪に向け、

 

「さぁ、これがわたしの伐刀絶技ーー《大鮫弾》よッ……!!」

 

決着の時は近い。

 

 

氷輪丸が破られた白雪は、冷静に水鮫を分析していた。

 

(あれは氷を取り込む技……? いや違う、あれは明らかに吸収したものの力が加わっている)

 

セリスが今まで使用してきた技に、氷を吸収し、自らの糧にするものなんてなかった。今の今まで使っていなかったと考えもできるが、ここまで隠す意味が無い。奇襲を狙うために隠していたとも考えられるが、技を出してから直ぐに攻撃してこないあたり、それは無いだろうと頭で否定する。

あの技の謎を解くため、セリスを警戒しながらも思考を働かせる。

すると、白雪はあることに気づく。

それは、卍解の際、全て凍り付いた状態だった室内の氷が、半分以上がなくなっていたのだ。

今も、徐々にだが、水鮫に吸収されているのが目に見えてわかる。

 

「なるほど、そういうことかぁ……」

 

吸収されているのは、白雪の氷。

それもただの氷ではない。どれも、“魔力”が生み出したものだ。

そこから導き出される答え。

 

それは、

 

(相手の魔力を吸収し、己の技を強化するもの。……となれば非常に厄介だなぁ)

 

つまりあの技は、相手が強い技を使えば使うほど強くなるということ。卍解状態の白雪にとって、最悪の相性となる。

いや、白雪だけではない。魔力を吸い取るということは、全《伐刀者》に対して、天敵ともなる技だ。それが、セリス・リーフェンシュタールの持つ最大の切り札だった。

 

だがーー

 

たかが“魔力を吸収する程度”で、“卍解”を抑えられると思っているのなら、それは何と大きな間違いか。

確かに、異能を用いるためには魔力が必要不可欠であり、それを吸収されるとなると迂闊には使えない。

しかし、魔力を吸収しようが、白雪は真正面から力で捻じ伏せる! 《伐刀者》の天敵だろうと、“卍解”にはそれが可能なほど力がある。

そして、それを扱う白雪は間違いなく絶対強者。故に、負ける道理など存在しない。

白雪は《氷輪丸》を天を突くように、高々と掲げる。

 

刹那。

 

そいつは現れた。

“そいつ”が現れた余波だけで、魔力を吸収する『大鮫弾』が表面だけだが、凍りついた。

余波だけで、魔力を吸収して強くなるはずの『大鮫弾』が表面上だけとはいえ、凍らせる程の力を“そいつ”は持っていた。

 

「なんて……力強い……」

 

“そいつ”を見たセリスの喉から、絞り出すように呟かれる。端正な顔を引き攣らせ、身体は無意識のうちに震えている。

大きい、なんてものではない。

身体はもちろん、存在の大きさが明らかに違う。

氷輪丸を更に巨大化し、背中の部分から広げられた大きい長翼。

第三訓練所ギリギリに収まっている具合だ。

 

「これが、“卍解”での伐刀絶技ーーーー」

 

天に掲げた腕を、ゆったりと振り下ろし、刃の切っ先をセリスへむける。

小さく、だがこの場に浸透する声で、

 

「《大紅蓮氷輪丸》」

名を告げた瞬間。雷鳴に似た咆哮を上げ、長翼を大きく羽ばたかせた《大紅蓮氷輪丸》は、迅雷の勢いで飛び、『大鮫弾』と真正面から激突する。

あまりの激しさに、フィールドを支配していた氷が砕け散る。続いて、フィールド内に轟音が轟き、ミシと第三訓練所が音を立てて悲鳴をあげる。

方や、氷が全てを支配する力の塊の氷竜と、方や力を奪い糧とする水鮫。Aランク騎士の伐刀絶技が衝突すればこうなることは必然だ。

だがーー

 

「ッーーーー!?」

 

やがて、《大紅蓮氷輪丸》と《大鮫弾》の拮抗が崩れ始める。

押し込まれ始めたのはーーーーセリスの方だ。

魔力を吸収するはずの《大鮫弾》は、所々が氷、崩れ落ちていた。

対して、《大紅蓮氷輪丸》は健在。

ついには、氷で支配する氷竜が、水の王者を粉々に粉砕した。

その結果を当然と思う白雪は、無表情でそれを眺め、自らの伐刀絶技を突破されたセリスは、悔しそうな表情を浮かべていた。

《大鮫弾》を破った《大紅蓮氷輪丸》がトドメと、セリスへ空を駆ける。圧倒的力の前に力も魔力も残っておらず、セリスは抵抗することもできず、氷竜の突進に飲み込まれた。

 

 

ドォオンッ!

 

と、第三訓練所の天井、壁が吹き飛ぶ。

次に姿を見せたのは、天を衝くように伸びる巨大な氷柱。規格外の力故に、フィールド内に収まらずドームを突き抜けてしまったのだ。

この惨状を見て誰が、この光景が“模擬戦で出来たもの”と信じられるだろうか。

観客席には誰一人いなかったことが何よりも救いだ。もし観客席が満員だった場合のことを考えると、ゾッとする。それ程激しい戦いだった。

この惨状をを作った本人ーー白雪は《氷輪丸》を片手に、ドームを突き抜けた氷柱ーーその中心地にいるセリスを見ていた。

そして、伐刀絶技《大紅蓮氷輪丸》に呑まれる直前のセリスを白雪は思い出していた。

 

(あの時……、《大紅蓮氷輪丸》に呑まれる瞬間、笑っていたような……)

 

別に、声を出して笑っていたわけではない。ただ口元が緩んでいるように、白雪にはそう見えたのだ。その笑みが何を意味しているのか、少し気になるところだが、それより早く、白雪に眠気が襲い、

 

「あぁ……もう、だめ…………だ……」

 

バタリ

 

身体が俯けに倒れ込み、そこで意識を手放した。

 

 

 

 

意識を手放す瞬間。

 

「勝者、春日野白雪ーー」

 

黒乃が勝者の名を告げているのを聞いた気がしたーー。




・“目に目えない氷のシールド”に憚られているかのよう
別にこれは無敵というわけではない。あくまで今のセリスでは突破できないだけ。現状、一輝なら突破は可能。理由はいずれ……。

・大気中の水が《皇鮫后》へ集まり、やがで超巨大な大剣へと変化する。それは高圧で循環する水流の刃だ。
これは珠雫が使用していた『緋水刃』。

・《大鮫弾》
あの人気の忍者漫画で使用された技で、セリスの伐刀絶技。もう少し他のを考えたり探したりしたが能力的に十分強かったのでこの技を選んだ。
ちなみにまだまだセリスの伐刀絶技はでます。






えー、大変遅くなり申し訳ないです。
半年以上? もほったらかしにしてしまって。
言い訳をさせて貰うと、学校の課題が多過ぎるのが原因の一つです。
冗談抜きで多くて、今もまだ課題がたくさん残っている状態です。
まぁ、すべての時間を課題で使っていたのか?と言われますとそうでも無くて、実は少し前に始めたFGOにハマってしまい、課題の休憩時間とかを全部そっちに回してしまったのも今回遅くなってしまった原因でもあります。
今回の水着イベント、自分的には結構好きでした。特にスカサハ、清姫、マルタ、アルトリアは最高でしたね。(無論、すべてのキャラが魅力的だったけど)
けど、ガチャは最低でした。惨敗です。

とまぁ、いまはその話は置いといて、これからは最低でも一ヶ月に1話は投稿しようと思います。もし、執筆が乗り、ストックが溜まることがあれば一週間に1話ペースです投稿するときもあります。

さっき、最低一ヶ月に1話、なんて言いましたが、課題でどうしても無理な月も出てくるとは思いますが、今回のように長くは開けませんのでご安心ください。


ですので、これからもこの作品を宜しくお願いします。

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