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「戦雫(ラ・ゴータ)」
セリスの持つ《皇鮫后》から、幾つもの水の塊が槍のように形を変え、波蒼砲(オーラ・アズール)と同等の速度で白雪の心臓を穿たんとする。
「ーーーフッ!」
《氷輪丸》を横薙ぎに振る。後を追うように冷気が白雪の視界を塞ぐように発生する。
が、直後。
その冷気が一瞬にして氷に変わる。
氷は盾となり、セリスの攻撃から守る。
高く氷ができたため、お互い視線から相手を捉えられなくなる。
「そんな盾、まとめて破壊してあげるわ」
セリスの言葉通りに、水の槍は容易く氷の盾を貫通し破壊する。
「チッーー! 氷輪丸!」
氷輪丸は水の槍もろとも飲み込み、セリスの周りの水を凍らしながら進む。水が凍らされたところで、何かしらの回避行動をとると踏んでいた白雪だが、その思惑とは逆にその場にとどまっていた。
だがすぐにセリスは《皇鮫后》を氷輪丸へ向けて構える。
(波蒼砲でも戦雫でも氷輪丸を砕くことはできない。……何を考えている?)
その様子に白雪は訝しむ。だが、次の瞬間。白雪の顔は驚愕に変わる。
「ーー灼海流(イルビエンド)」
《皇鮫后》から熱気が放たれる。
ーー刹那。
「…………まじですか」
《皇鮫后》によって、氷輪丸が綺麗な真っ二つのように溶け、水へと形を変えた。
まさか氷輪丸が二度目で攻略されるとは思いもしなかった白雪に動揺が走る。
だが直後。ある疑問が一つ頭に浮上した。
(何故俺が最初に放った氷輪丸を溶かさなかった? 今の技なら、初見でも氷輪丸を防ぐことはできたはず)
しかし、その疑問を深く考える時間もなく次の攻撃が白雪を襲う。
大量の水が、白雪を囲むように流れる。
そしてそれは、白雪へと吸い込まれるように渦を巻いて、水柱を作る。
激しく竜巻のように上がる水柱の中心にいる白雪はタダでは済まないだろう。
見学していた生徒たちは皆、そう思っていた。
だがセリスはこの程度ではダメージを負わすことも難しい考えていた。それどころか、すぐに出てくるだろうと、予想していた。
何せ相手は自分と同じAランク騎士なのだ。その存在がどれだけデタラメなのかセリスはよく理解している。
セリスが見つめる中、水柱がそのままの形を保ったまま凍りついた。
と同時に凍った水柱にヒビが入り始め、それが徐々に広がり、ガラスが割れたような高い音をたてて崩れ去った。
「やっぱりね……」
セリスは予想通り何事もなく普通に出てきた白雪に対しそう呟いた。
「ふぅ。なんとか抜け出したが、お互いの能力的にこれ、決着つけれるのか?」
一方白雪は互いの能力を考えて、決着は難しいのでは?と考え初めていた。
(セリスは氷を水に変えることが出来るようだし、かと言ってセリスの水の攻撃は全て俺には通用しないし……)
氷と水。それは相性が最高に見えてお互い最悪の組み合わせ。自分の攻撃は通用しないが、相手の攻撃も自分に通用しない。
(“あれ”を使うしかないのかな……)
「ま、ここで悩んでも仕方がないかな」
悩むより行動。
白雪は《氷輪丸》を振る。
「氷輪丸!」
刀身から氷の竜が放たれる。氷輪丸はなんの迷いもなくセリスに牙を剥く。
セリスは《皇鮫后》を構え、灼海流(イルビエンド)で氷輪丸を相殺しようとした。
「ーーーっ!?」
が、それは失敗に終わる。
それは、いま、セリスの目の前に広がる光景が原因である。
セリスの目に映るその光景。
それは、八体もの氷輪丸が全方位からセリスを狙っていたからだ。
「この数は……対処しきれないかな……?」
そう悲観的に呟いたセリスだが、顔にはまだ余裕がある。
「断瀑(カスケーダ)」
高圧力の激流が氷輪丸を襲う。
それは正面にある氷輪丸三体を粉砕するには十分な威力を誇っていた。
次にセリスは水を触手のように操り、右側から迫る二体の氷輪丸を叩き潰した。
そして、最後に残った三体。
セリスは《皇鮫后》を振り上げ、
「シロちゃん、一つ言っておくわ。……氷の竜をなんて、鮫の一撃で沈むーートライデント!」
振り下ろしたセリスの《皇鮫后》から霧状の斬撃が三筋放たれる。
その全てが残りの氷輪丸と接触し、パリンッ! と、高い音を響かせ、相殺された。
だが、白雪は全てを潰されたというのに動揺一つもしない。逆に笑みを浮かべていた。
「さすが、でも……まだ終わりじゃないよ」
刹那。
「九体目……!?」
セリスを襲ったのは全て粉々に粉砕したと思っていた氷輪丸だった。
「くっ……! 氷輪丸は全て破壊したはずだけど……」
ギリギリ灼海流(イルビエンド)が間に合い、氷輪丸を水に変え回避することに成功した。
「もらったよーー!」
「させないーーーーえっ?」
白雪はセリスが氷輪丸に気を取られている隙に、背後へと回りこみ斬りかかった。すかさずセリスは反応し、右足を軸に回転しながら《皇鮫后》を背後へと 振り抜こうとした。
しかし、《皇鮫后》を持った腕が動かないことに気づく。そして、そこで初めて自分の状況を把握した。
「私の腕が凍ってる!? それにこの鎖は……いつの間に……!」
セリスの腕には氷輪丸の柄尻から伸びる鎖が巻きついていた。腕が凍ったのもその鎖が原因だろう。
しかし、そこまで深く思考にふけっている時間はなかった。自分へと迫り来る《氷輪丸》の刃が目に入ったからだ。
だが、今更気づいたところで眼前まで迫っている刃からは逃れるのは限りなく難しいだろう。さらにそれだけではなく、セリスは気づかぬうちに足までも凍らされていた。これで、回避は不可能なものとなった。
「ーーーフッ!」
白雪は容赦なく鋭い一撃を肩からバッサリと斬りおろした。刃がセリスを斬ると、後を遅れてセリスの身体を氷が支配した。
「くっ……! 灼海流(イルビエンド)」
白雪は氷に支配されたセリスに、追撃を仕掛けようとした。だが、一瞬先にセリスが氷を熱気で水へと変え、白雪とセリスの間に水の壁を作り、なんとか追撃を逃れた。
「はぁ、はぁ……はぁ。あの氷輪丸はあの時わたしの意識をそらして腕を凍らすための誘導のため……! まさかあの技を囮に使ってくるなんてね」
「氷輪丸は通用しないってわかったからね。なら、違うことに利用するしかないって思ったわけ」
「でも、九体目の氷輪丸はどういうこと? シロちゃんが出したのは八体のはずよ?」
「あー、それならほら」
白雪が軽くそう言った直後。
「っ!?」
セリスの目は大きく見開かれる。
セリスが見たものは、第三訓練場のいたるところに砕け散っている氷の破片が浮かび上がっているところだった。
「まさか……」
それを見たセリスは、瞬時に理解した。
「……砕け、散らばった氷に魔力を通し、集め、そこから氷輪丸を……っ!」
セリスが驚愕の表情でそう呟くと、白雪は「正解」と言わんばかりに口元で笑う。
セリスの予想は的を射ていた。しかし、セリスが驚くのは仕方の無い事だ。白雪は、フィールドに隅にあるような小さな欠片すら、武器にするといったのだ。そんなことよほどの魔力制御が無い限り不可能な事だからだ。
しかし、白雪が言ったことに偽りはなかった。
今、目の前でそれを実際に行っているからだ。
浮かび上がった氷の破片が一箇所に集まり、氷輪丸が現れる。
「氷は俺の武器。それが砕かれ破片のように散らばっていようと氷である限りそれは俺の武器となり得る……例えほんの少量であっても」
実際は氷と水なのだが、ここで余計な情報を与える必要はない。
白雪は《幻想形態》の固有霊装(デバイス)で斬られ、肩で息をしているセリスを休む暇もなく追撃する。
「ーーーフッ!」
白雪は一気に距離を詰める。回復する時間も与えずそのまま倒そうと。
だが、相手もAランク。そう簡単には負けるはずがない。白雪自身も、この程度で倒せるなんて思ってもいない。
しかし、回復しきれていないセリスが現状劣勢なのは紛れもない事実。
ーーーー試合が傾き始めた!
わずかに残っていた生徒たち全員がそう思った。
しかし、レフェリー役として近くで模擬戦を見ていた新宮寺黒乃はそうは思わなかった。
過去。まだ自分が学生時代のとき、自分と同じAランク騎士は黒乃に主導権を握らせ無かった。逆もまた然りだが。
自分もAランク騎士同士激突したことがあるからこそわかることがある。この程度では試合は傾かないと。それと同時に、この二人の戦いはこのままでは決着がつかないことまでも見通している。
(どちらかがこれ以上の動きを見せないとこの試合に決着はないぞ? ……春日野、リーフェンシュタール)
黒乃は視界の先に繰り広げられている模擬戦を見ながらそう思っていた。
♢
白雪はセリスとの距離を一気に詰め、《氷輪丸》を振る。《氷輪丸》の刃は確実にセリスの身体を捉えた。これによりダメージを負ったセリスが大勢を崩し、そこに白雪がトドメの一撃を放つ。
白雪の頭にはその流れが出来ていた。
事実その通り白雪に斬られたセリスは大勢を崩した。だからこそ、このあとに起きた現象に白雪は愕然とし、目を見開いた。
「ーーー水の……分身……」
斬られたセリスは、途端にぐにゃりと形を水へと変わった。つまりこれは本人とは違う偽物。
では、本物は今どこにいるのか?
(後ろーーっ!)
白雪は気配でセリスの場所を察知し、振り返った。そこには《皇鮫后》を振り下ろし始めているセリスの姿があった。
「ーーートライデント!」
水の分身という予想外の技に見舞われ、反応が少し遅れた“白雪には”眼前へと迫る霧状の斬撃三筋を防ぐすべは無かった。だが、白雪に焦った様子は見られない。逆に笑みすら浮かべていた。
しかし、その理由もすぐにわかる。
直後、白雪とセリスの間に何か大きなものが乱入した。
それはーーーー
白雪が先ほど見せた、氷の破片から作り出した氷輪丸だった。氷輪丸はセリスが放ったトライデントから白雪を守るようにして盾となる。
白雪が焦らず笑みを浮かべて入られたのもこの氷輪丸がいたからだ。
「クっ……! 灼海流(イルビエンド)!」
セリスは氷輪丸がトライデントにより砕け散り、白雪がその氷で何か仕掛けてくるより先に、氷を溶かし自分の武器へと変えた。
(ちっ!面倒なーー!)
逆に自分の武器を奪われた白雪は内心で舌打ちする。
やはり彼女と白雪では能力の相性は最高でいて最悪だ。
「海に沈めーー断瀑(カスケーダ)」
砕けた氷輪丸が水へと変わり、膨大な水という武器を得たセリスが灼海流(イルビエンド)からの流れるような連携技で白雪を攻める。
氷輪丸の氷すら利用した断瀑(カスケーダ)の水量は、優に演習場に収まらない程までに至っていた。
『うわぉっ! 何だよこの水量!』
『逃げろぉぉおっ! 呑まれるぞー!!』
『ステラさんのときと言い本当に同じ人間かよ……!』
集められた水塊が狙うは一人。
しかし、あまりの水量さに観客席をも巻き込むとわかったり、生徒全員がこの訓練所から逃げ出していた。
そして、超高圧力が白雪を襲うため落下し始める。
だが、落下してくる水塊をみすみす見逃す白雪ではない。
白雪は《氷輪丸》の切っ先を頭上を落下する水塊をへ向ける。
《氷輪丸》へ魔力を込めーーー
《氷輪丸》を天に向かい突き出す。《氷輪丸》に込められた魔力が空間を切るが如く、閃光となり放たれた。
その閃光は、有無を言わさずに水塊を貫く。
途端に、貫かれた水塊は一瞬にして氷塊へと変わる。
氷塊は空中で砕け散る。その様は、豪華絢爛なシャンデリアが落ちときのようだった。
キラキラと輝き舞うようにして薄暗い第三演習場に落ちてゆくそれは、まるで夜空に輝く星のようで、もし生徒たちがまだ残っていたならば確実に目を奪われていたことだろう。
そんな中、白雪とセリスは周囲の景色に見惚れることはなく睨み合っていた。
模擬戦が初めのように動かなくなった。だが、両者睨み合う雰囲気は初めとは全く異なることを唯一この場にとどまっていたレフェリー役の新宮寺黒乃は感じ取っていた。
二人はお互いを警戒しているのだ。
セリスは灼海流(イルビエンド)や、水などの自分の技で対処できない、貫いたものを凍らす技を、白雪は氷を溶かし、己の武器に変える灼海流(イルビエンド)を…………。
(また動かなくなった……。このままじゃあ、体力勝負になりかねない。そんなのごめんだ。…………仕方ないけど“あれ”を使うか……)
白雪は模擬戦が動かなくなったことで、一つの決断をした。この長い模擬戦に終止符を打つために……。
(……まぁ、セリスには見せる価値はあるし、それに丁度いいことに生徒全員が逃げ出したし、見られる心配もない……となるとあとは)
「ねぇ、セリス」
「……なに?」
セリスは白雪を警戒しつつも返答する。
「……今から見せるもの……出来れば他言無用でお願いしたいんだけど、いいかな?」
「え、ええ……」
闘いの最中でお願いをしてくるとは予想もしていなかった上、少し笑っている白雪を見てセリスは返答に詰まる。
しかしセリスは返答を返しながらも脳裏に何か引っかかっていた。
(シロちゃんのあの顔、口ぶり、どこかで見たような……)
セリスが自身の記憶を探ろうとした
刹那ーーーーーーーーー。
「ーーーーーーー“卍解”」
世界がーーー。
セリスの目に映る世界がその言葉とともに変わった……。
「ーーー『大紅蓮氷輪丸』」
ーーーセリスの眼前に広がる光景。
ーーーそこは、全てが氷に閉ざされ、支配された世界と、その中心に氷の翼を大きく広げ君臨する白雪の姿だった。
・戦雫(ラ・ゴータ)
アニメや漫画では、槍というよりドリルの方が近いかな?
が、今回はこれでいこうと思う。
・《氷輪丸》に込められた魔力が空間を切るが如く、閃光となり放たれた。
これは黒雪姫先輩が放つ奪命撃(ヴォーパル・ストライク)をイメージ。
名前をつけたかったがいい命名が思い浮かばなかったため断念。
いつか名前を付けたい。
・“卍解”ーーー『大紅蓮氷輪丸』
この話を作っている途中までは出すつもりはなかった。
が、書いていて模擬戦が全く動かないと思ったので思い切ってぶち込んだ。
あとは、というよりこっちの方が重要。
今後のセリスに関わるためでもある。
えー、一応次回で決着です。