落第騎士と怠け者の天才騎士   作:瑠夏

12 / 15
ようやく更新できた……。


episode.12

無事、ネックレスを付け終えた白雪は、疲弊しきっていた。

普段しない早朝に起き正門で待つこと。綺麗に着飾ったセリスの一挙一動が艶やかで、異性慣れしていない白雪は、スキンシップの激しさに緊張を強いられていることが主な原因だ。

対して、疲れ切った白雪の手を引くセリスは上機嫌である。

彼女が初めて異性と意識した相手である白雪からの贈り物。更には白雪の小さな気遣い。

白雪の性格を鑑みるに、そんなことは稀だ。たった二日だが、白雪の性格を大まかに理解しているセリスはその稀を受けただけで気持ちが高ぶっていた。

 

(つかれた……。体力的にも、精神的にも)

 

まさかネックレス一つではしゃぐとは微塵も思っていなかった。ステラもそうだが、セリスらは少し皇女やお嬢様らしくない。悪い意味ではないく、良い意味でだが。

この姿を同級生たちに見せれば話しかけてくる人物はいっぱいいるだろう。

だが、今回に限っては(白雪にとって)悪い方にそれが作用し、白雪の疲労を上乗せする形になってしまった。その反面、ご機嫌なセリスはそんな白雪の状態も知らずに引きずるように歩いて行く。《伐刀者》であり、A級騎士の彼女からすると人一人を片手で動かすなど容易い。

上機嫌で満面の笑みを浮かべるセリスと、その後ろで引きずられるように歩く疲れた表情をした白雪。周りから好奇の視線がひしひしと向けられても二人は全く意に介さないーーというよりも、セリスは気づかず、白雪はそんな余裕がないだけ。

引きずられる白雪はふと、あることを思った。

ここは全国で開かれる大型ショッピングモールだ。当然、大型とだけあって相当の数の店がオープンしている。日用品から食材、ここならある程度は全部揃うというだけあって買い物にくる人の数も尋常ではない。周りには目的地へすいすいと進んで行く人もいれば、携帯のマップや地図を見る人たちがいる。

つまり何が言いたいのかというと、白雪を導くように先頭を歩いているセリスだが、初めてくる大型ショッピングモールのどこにどんな店があるのか分かっているのだろうか?

 

(お菓子売り場がどこにあるのかわかってるのかな?)

 

ランランと鼻歌を歌うセリスを見ると、何故か無性に不安になってくる。思わず白雪は尋ねた。

 

「ご機嫌で俺の手を引くのは良いけど、ねぇセリス。飴を売ってるお菓子売り場の場所、知ってる?」

 

「……………………」

 

途端、楽しげに弾んでいたセリスの足がピタリと止まり、こちらを振り向くと大きく、一拍間を開けた。まさに盲点だったと言う風に驚くセリスに白雪はやっぱりとため息を漏らす。次いで呆れた視線をセリスに向けた。

 

「道も場所も知らなくてどこへ連れて行く気だったの?」

 

「えっと、それは……」

 

「ちょっと、目を逸らさないでこっち見なよ」

 

「………………ごめんなさい」

 

耐えきれなくなったのか、言い訳を一つせず頭を垂れるセリス。その頬は羞恥で薄く、赤色になっていた。それもそのはず。浮かれて白雪を引っ張りまわしたあげく、道もわからず迷子など失態以外のなにものでもない。

だけど、

 

「ほら、あそこにモール内の地図があるから、場所を確認してから行こう」

 

「え……?」

 

セリスが驚きの表情で白雪を見る。彼女は白雪が嫌う行いを今日で何回も起こしてきた。個人のルールは人それぞれだが、それ故に他人に犯されるのはあまり気分の良いものではない。不愉快な気持ちにはなっても愉快になるなんてことはないのだ。

なのに白雪はそれを犯した自分に怒るどころか不満さえ見せない。先ほどのやり取りも一見、不満を口にしているようだが、白雪なりにセリスをいじっただけ。

白雪の性格をある程度は把握したセリスだが、その全てを知っているわけではない。当たり前だ。たった二日で一人の人間の全てを知るなんて不可能だ。自身でさせ、己のことを全部知っているわけではないのだから。

白雪は本当に嫌なことならはっきりと態度と言葉で示すタイプだ。つまり、こうしてセリスに連れられるのは嫌と思っていない。逆に心地よく感じ始めている自分がいる。

だから今日のセリスにドキドキしたことはあれどイラついたりはしていなかった。

それを伝えれば話は簡単に片付くが、それはしない。言えばセリスはまたも上機嫌になり同じことを繰り返しそうだからだ。

その代わり、態度で示してあげようと思い行動する。

 

「いつまでそこに突っ立ってるつもり? 邪魔になるから移動するよ」

 

白雪は繋いだままの手を引いて地図前まで移動する。セリスは為すがまま、引かれる手について行く。いつの間にか立場が逆転していた。自分の手を引く白雪の背中を見つめていると、小さいはずのその背中が大きく見えてくる。

 

(不思議。シロちゃんに手を引かれて歩いていると、とても安心する。守られているようで心が暖かくなる……)

 

「もし、もし私に兄がいたらこんな風に引っ張って連れて行ってくれたのかな?」

 

「……? 何か言った?」

 

立ち止まり振り返る白雪。やはり口では「面倒い」「怠い」と言っていても彼は根本から面倒見のいい性格なのだろう。でなければ、こんな人通りの多い喧騒の中、後ろにいるとは言えボソッと呟かれた言葉に反応できるはずがない。それは、彼が何が起きても大丈夫なように気を遣ってくれている証だ。

どこで白雪の性格がここまで面倒を嫌うようになったのか、気になるところだ。だが聞いたところで教えてはくれないだろう。はぐらかされるのが目に見えている。ならば、聞くだけ無駄。セリスは湧いて出た疑問に蓋を被せた。

セリスはその小さな背中に、空想の兄の像を浮かび上がらせ、一人、微笑ましい気持ちに浸っていたーー。

 

 

地図で場所を確認した二人は、今度こそ今日のお目当てである飴を購入するため色々なお菓子を集めたお店へと歩き出した。道すがら、セリスの必要な日用品を買い物を済ませて、漸く目的地にたどり着いた。

 

(長かった……。ただ三階に上がって店を見つけるだけなのに途方もない時間と体力を使ってしまった気分だ)

 

椅子に座り休憩したかったが、一階のフードコート以外に椅子はなかなか無い。あるとすれば、ゲームセンターの近くか、少し間のある広場くらいだろう。

近辺にあるのならそこで一休みしていこうかと考えていたが、無いのなら仕方がない。早急に買い物を済まし、帰宅するのがベストだ。

白雪は他のおやつ類には目もくれず、飴の置いてある位置まで移動する。そこには様々な味の種類の飴がずらっと並んでいた。

 

「わぁ、スゴイ数……」

 

棚いっぱいに並ぶ光景は、ある意味圧巻だった。

白雪は見慣れたもので、驚きは無くどの味にしようかと悩んでいた。

屈み込みうんうん唸っていると、「シロちゃん」と声をかけられた。

振り返るとそこには大量の飴が台に刺さったツリーを持っていた。これには白雪はその半分閉じた瞼を限界まで開いた。

 

「そんなに味に悩むなら全種類入ってあるコレにすればいいでしょ」

 

「でもそれ……高いよ?」

 

遠慮がちに言う白雪に対してセリスはニコッと頬を緩める。

 

「高いって言っても、シロちゃんがくれたあのネックレスと比べたら断然安いわ。なんならこのセットをもう一つ買ってあげてもいいわよ?」

 

ひょいと、もう片方の手から同じツリー状の台を見せる。どんな手品だと突っ込みが頭に浮かび上がったが無視し、白雪は尋ねた。

 

「本当にいいの? 俺としてはそれが一番だけど……」

 

「なに遠慮してるのかしら? あなたは私に素敵なプレゼントをくれたのよ。それに比べればこのくらいどうとも思わないわ。逆にこれだけでいいのかなって不安になるくらいよ」

 

「…………ありがとう」

 

「私こそ、ありがとう」

 

その場に暖かな雰囲気が漂う。お菓子売り場なため、子供連れの親子が多く、その親たちからは微笑ましく見守られていた。

それに気づいた白雪は恥ずかしくなり、周囲から視線を切る。続いて気づいたセリスはと言うと、

 

「し、シロちゃん! 何ならもう一つ買う?」

 

両手に乗っていた飴のツリーが、今度は頭部にもう一つ乗っていた。

セリスなりにこの状況を変えたかったのだろう。だけど、それだと逆に目立ってしまう。予想通り子供達が目を輝かせて、「すげえ!」「どうやっているの!?」「俺にも方法教えて!」と群がってきた。

 

「え? ちょっと、これは……シロちゃん! 見てないで助けてよ!」

 

子供にしがみ付かれ思うように動けないセリス。助けを求める視線が送られてきた。

白雪はこの日一番の笑顔を作って言う。

 

「自業自得。ファイト!」

 

「そ、そんな〜」

 

寄って来るのが子供なため無下にできず、セリスは子供達の相手をする以外道はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「つ、つかれた〜〜」

 

子供たちから解放されたのはあれから約三十分後。子供たちの有り余る元気さに、さしものセリスもこたえた。

見つけたベンチに座り込むセリスに、白雪は労いの言葉をかける。

 

「お疲れさま」

 

「何がお疲れさまよ。私を見捨てたくせに」

 

「見捨てたなんて人聞きの悪い。俺は面倒ごとを避けただけ」

 

「私からすればそれは見捨てたのと同じよ。いつか仕返ししてやるわ」

 

どうやら今回の件、根に持たれたようだ。恨みがましく睨みつけて来るセリスに、白雪は苦笑で返した。

 

「でも、子供に好かれて嫌じゃなかったでしょ?」

 

「それは……嫌じゃなかったわよ。私、子供好きだし」

 

「ならよかったじゃん」

 

「〜〜〜〜っ、それとこれとは別なのよ〜!」

 

「いたい、いたい、痛いから」

 

うぅーと、唸ったセリスがぽかぽかと肩を叩いて来る。行動と容姿が合わさってとても可愛らしく映るが、いかせん彼女の力は他の人と比べると強い。音で表すなら、ぽかぽかよりもどんどんと響く低い音の方が適切だろうか。口に出すと機嫌を損ねさらに強くなることだろう。だから白雪は甘んじて受けることにした。

そう思った瞬間。

 

『ーーーーーーッッ!?』

 

二人は害ある悪意を感じ取る。瞬時に立ち上がり周囲を確認するーー直後。

ガラスの割れる音とともに、日常では聞くことなどあり得ない、銃声がショッピングモールに轟いた。

 

 

 




またと一月開けてしまって申し訳ないです。
漸く課題もひと段落したので、これで来月も投稿できそうです。

あと、3、4話で一巻の内容は終わりです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。