落第騎士と怠け者の天才騎士   作:瑠夏

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遅くなってすみません!


episode.11

 

 

破軍学園の近くには全国展開している大型ショッピングモールがある。

四階まであるのだが、今日、用があるのは三階の一角にある、お菓子売り場だ。

そこで約束の飴を買ってもらう事になっている。

が、先ほども上記に書いてある通り、ここは全国展開の大型ショッピングモール。

お菓子売り場まで食品コーナーから服、家具、アクセサリーといった装飾品店が数多く並んでおり、こういった場所に来たことのないセリスにとっては、驚きとともに、もの珍しさもあって、あっちこっちに寄ってしまい、中々たどり着くことができない。

早く飴を買ってもらい帰りたい白雪は、当然文句を言おうとしたのだが、子供のように目を輝かすセリスを見ると言うに言えなくなってしまった。

 

(しょうがない。今日はセリスに付き合ってあげるか……)

 

珍しく面倒くさいことを許した白雪。だがあくまでそれは、飴を買って貰えるからであって、それが無ければまず部屋から出ることすらしない。

だが逆に、目的の為なら白雪は我慢はできる。故に、

 

「どこか寄りたいなら入ってもいいよ」

 

普段では許すことのない寄り道を許可する。

それを聞いたセリスの表情がぱぁと輝き出す。だが、表情はすぐに戻り、申し訳無さそうに言う。

 

「いいの? 今日はシロちゃんの買い物が優先なのに……」

 

本当は良くはない。しかし、今もチラチラと各お店を気にしているセリスを見れば、そうせざる終えないだけだ。

そう思ったが、白雪は口には出さない。言えば、セリスは周りの店を気にしながらも自分をお菓子売り場まで連れて行こうとするのは目に見えているからだ。

 

「…………別にいいよ……」

 

無理をしているのがバレバレだ。無表情を装って何でもないように見せているが、ピクピクと頬が動いているのがわかる。

 

「シロちゃん…………ありがとう!」

 

折角、白雪が我慢してくれたのだ。セリスは迷ったが、素直に甘えることにした。

そして、白雪は引っ張られるようにお店に入った。そこは、アクセサリー類を売ってあるお店だった。

様々な装飾のあるアクセサリー。凝っている分、学生には手が出づらい値段だ。

しかし、学園から配布された生徒手帳には、学生が持つには少し多い金額が振り込まれている。多少、高めのアクセサリーなら手が届く。

 

「ねぇねぇシロちゃん! これなんてどう?」

 

白雪に似合うアクセサリーを探してくると言ったセリス。その数分後に、テンションの上がったセリスがネックレスを手に近づいてくる。

氷の結晶を象ったネックレスで、細かな部分まで繊細に作られている。職人の技が多いに出ている見事な一品だ。

それに、氷と言えば白雪だ。セリスは、このネックレスを見た瞬間にそうピン! ときたらしく、持ってきたようだ。

装飾品なんて邪魔くさくて絶対に付けない白雪だが、そのネックレスには何故か惹かれた。

ジッとネックレスを見つめていると、不意に、セリスがクスリと笑う。

何故笑われたのかわからない白雪はむっとするが、セリスの次の行動に身体が硬直する。

 

「少しじっとしててね?」

「え……?」

 

そう言うや否や、セリスは白雪の首に手を回し始めた。

「ちょっ……!」

「ほら、動かないで」

「〜〜〜〜っ!」

 

動く白雪を止めるため、更に密着してくるセリス。彼女の顔がずずいっと、キスができてしまう距離にまで来てしまう。

セリスの絹のようにきめ細かな淡い金髪から、女の子特有の、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

そして、セリスの瑞々しい唇に目がいってしまう。更に、今着ているのは薄地のドレス。彼女の豊かな胸が、殆どダイレクトに感触が伝わり、白雪の鼓動が急速に早まる。顔が熱くて、血が沸騰しそうだ。

(き、今日のセリスは密着度が高いな……多分、無意識何だろうけど……)

 

セリスの大胆な行動に動揺しまくりの白雪。

異性との交遊が少ない白雪にとって、過度なスキンシップは恥ずかしい。それがセリスの様な美少女が相手となるとなおさらだ。

 

「ねぇ、まだ?」

 

耐えきれず、問う。

「あと、少し…………できた!」

 

漸く離れたセリスは、白雪を見て満面の笑みを浮かべる。

 

「うん、すごく似合ってるわよ」

 

近くにあった鏡をのぞいて見る。白雪の首にかかった氷の結晶のネックレスがキラリと輝く。

セリスの狙い通り、氷と白雪の相性はバッチリだ。

「うん……悪くないかも」

「でしょ?」

 

後ろから覗くセリスに、白雪はうんと頷き返す。

すると、鏡に映るセリスの表情がニコニコと途端に変わる。

どうしたんだろうか? 白雪は鏡の映るセリスに聞こうとした。

だが、それより早くセリスはあるものを首に下げ、見せてくる。

 

「じゃじゃあ〜ん。どう? このネックレス? 私にぴったりだと思うの」

 

そう言ったセリスの首元には、雫を模したネックレスがかけられていた。

確かに水を主流に戦う彼女にはぴったりのネックレスだ。

 

「うん……良く似合ってる」

「…………へ?」

 

セリスからお嬢様らしからぬ間抜けな声がでる。だが、セリスは気にすることなく、白雪をパッチリと丸く開いた目で見ていた。

白雪が素直に褒めるとは思っていなかったセリスは暫く頭が混乱する。

だが、次第に自分が褒められたと理解すると、嬉しくて、その白磁のように白い肌が高揚し、朱に変わる。

更に、白雪から追撃の言葉がくる。

 

「だから、よく似合ってて、可愛い……」

「かわっ……!」

 

今度こそ、セリスの顔は耳まで真っ赤に染まる。

気になっている異性に可愛いと直球で言われて、照れない女性なんているのだろうか? そう聞かれれば、セリスは否と強く答えるであろう。そもそも、お嬢様であるセリスは異性に慣れていないのでその可愛らしい反応も当然である。

 

「あ、ありがとう……」

 

まだ顔の熱が冷めず、俯きながらお礼を言うセリスは、とても可愛い。

 

『…………』

 

お互いが沈黙し、その場に微妙な空気が流れる。

二人は普段言わない、もしくは言われない言葉を口にしてしまい、戸惑っている部分もある。だが一番は、お互いがお互いを少なからず意識してることだろう。

色恋にあまり興味がない白雪でも、セリスのような金髪碧眼美少女が近くにいて、スキンシップが大胆となれば嫌でも意識してしまう。

逆に今では白雪を弟のように思っているセリスだが、異性を感じていないわけではない。

そうでなければ、いくら国のためとはいえ、お嬢様が簡単に求婚なんてするはずがない。

 

「お客様、いかがなさいましたか?」

 

向き合ったまま一向に動かない白雪たちを不思議に思った店員が話しかける。

その瞬間、思考が止まっていた二人は我に返った。

 

「い、いいえ! 大丈夫です!」

 

セリスが慌てて店員に両手を振る。その隣で白雪はコクコクとうなずく。

 

「そうですか? 何かお探しでしたら、その時はお声をお掛けください」

 

店員は最後に軽く頭を下げて去っていく。

丁寧な店員であったことに、セリスはほっとした。あの状況で少しでも追求されたならあの時のセリスではうまく対応できず、恥を晒す可能性があったからだ。

「セリス、そのネックレスかして」

「これ? いいけど、シロちゃんもつけたいの?」

「違う。いいから貸して」

「わかったわ」

 

セリスは両手を首の後ろに手を回し、繋ぎ目を外して雫のネックレスを白雪に渡した。

受け取った白雪は、セリスにつけてもらったネックレスを外し、「ここで待ってて」と言い残し歩いて行った。

向かう先はレジ。

そこには先ほど白雪たちに話しかけてきた、丁寧な接客をする店員が待っていた。

 

「いらっしゃいませ……あ、先ほどのお客様……何かお探しですか?」

「いえ、これ、お願いします」

 

そう言って白雪は手に持った二つのネックレスを店員に渡す。

受けとる店員はこのネックレスが、あの時二人がつけていたものだと気付き、これがもう一人の金髪碧眼の美少女への贈り物だと予想がたった。

女の子へのプレゼントだとわかると微笑ましくなる。

白雪は途端に優しく笑みを浮かべた店員を訝しく思いながらも、生徒手帳をポケットから出す。

万はいくネックレス二つを、生徒手帳からお金を払い、可愛くラッピングされた袋を持ち、レジを後にする。

 

「……頑張ってね」

「え?」

 

不意に背後でボソッと呟かれ、白雪は振り返る。

「有難うございました」

 

そこには客を見送るあの店員の姿だけがあった。

 

(気のせい……かな? ……と、セリスを待たせてあるんだった)

 

そのことを思い出した白雪はいそいそと戻って行った。

 

 

「はい」

 

戻った白雪はラッピングされた袋をセリスに差し出す。

セリスは驚いた顔でそれを受け取り言う。

 

「もしかして、シロちゃんが買ってくれたの?」

 

クリッと丸められた金色の瞳が白雪に問う。白雪は少し気まずそうに視線を逸らし、

 

「俺に合うものを選んでくれたお礼」

「え……? でも、これ結構高かったでしょ?」

「別に気にしなくていい。自分のを買うついでだったから」

 

素っ気なく答えるが、セリスは嬉しそうに包みを胸に抱く。

 

「ありがとうシロちゃん! これ、一生大切にするね!」

「一生って……少し大げさすぎだよ」

「そんなことない! あのシロちゃんからの贈り物よ? とても嬉しいし、絶対に大切にするわ」

 

そう、力強く言われて悪い気はしない。

本当は、毎日お世話になっているセリスへの恩返しの一環だったのだが、それを伝えられるほど白雪はすなおではない。

 

(それに、あれだけでこの喜びようなら、本当のこと言ったらもっと大変なことになりそうだ)

 

いつも姉として白雪を世話するセリスが、一人の女の子として喜び、はしゃぐ姿はとても新鮮で、その分未知であった。

「ねぇねぇ、シロちゃん」

 

まだ熱が冷めずはしゃぐセリスが、ラッピングされた包みから雫の首飾りを取り出し、白雪に握らせる。

 

(嫌な予感がする……)

 

そして、輝く金の髪を束ねて後ろであげる。その仕草が色っぽくてドギマギした。が、白雪は漸く、セリスがなにを望んでいるのか悟った。

予感が的中し、口元が引き攣る。

 

「ま、まさか……俺に付けて、とかじゃないよね?」

「お願いね?」

 

楽しみに待っているセリスを、無視するなんて愚行、できるはずなかったーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前書きでも書きましたが、遅れてすみません。
言い訳としては、またまた一気に課題が増えてしまったからです。

それと、3月は投稿できないかもしれません。詳しいことは活動報告に載せてありますので、そちらを見てくれればありがたいです。

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