妖精世界の憑依者   作:慧春

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憑依者の仕事①

 

 

 

 

「お、見えたぜ・・・あの村だ」

 

「・・・そうか」

 

 グリモアの『魔導戦艦』から『魔導列車』に乗れる駅のある町まで送ってもらい、更にそこから『帆船』で海を渡り、目的の港町から『馬車』に揺られること三時間・・・トータルで一週間以上の片道を通り過ぎ、ようやく目的地の手前にある村にまで来たので、それを告げると、返ってきたのは素っ気ない言葉だった。

 

「オイオイ、まだ怒ってんのか? 良い加減さぁ、機嫌直せって・・・もう、一週間だぞ?」

 

「別に――お前の無茶振りで突然、何の前触れもなく、こんな田舎にまで足を運ぶことになった事など、何とも思ってないぞ? ああ――全然! 何ともな!!」

 

「いや、どう見ても不満タラタラだろ」

 

 どう見てもそうとしか見えん。

 いや、悪かったけどさ・・・でも、この仕事は難易度的にオレ一人じゃ手に余るんだよ。

 なので、ハデスから許可をもらってこいつに同行してもらうことになったんだが――正直本人の許可無く半ば無理矢理連れてきたのは悪かったと思ってるぜ?

 でも、お前もオレの『仕事に付き合え』って言葉に最初は悲鳴みたいな声上げたけど、最終的にはOKしたじゃねぇか――まぁ、返事がイマイチ要領得ない内容だったけど、噛み砕くと返事としてはOKだったのだから問題ないだろ。

 

「いや、まぁオレがどう考えても悪いんだが、もとはと言えばお前らのマスターが無駄な『マニア精神』を拗らせた結果だぜ? ちょっとは手伝ってくれても良いじゃねぇか・・・」

 

 確かに悪いのはオレだが、こっちにも言い分はあるんだと訴える――そうすると、旧友はようやく不機嫌そうな表情を変えて、フゥ~ッと溜め息を吐いた。

 

「まぁ――不満は確かにあるけどな、その事に関してではない。これは本当だ」

 

「は? じゃあ何でだよ?」

 

 急に発生した、魔導士ギルドの基準で『SSランク』はあるであろう難易度のめんどくさい仕事以外の何に不満なんて覚えるんだ?

 

「はぁ~、確実に分かってなさそうなので言わせて貰うが――もっと『別の誘い方』があっただろうがッ!!」

 

「うぉッ!?」

 

 突然の怒号に、驚き両手で耳を塞ぐ――急に大声で怒鳴られたので、耳がキーンときたぞ!?

 

「手伝って欲しいなら最初からそう言え! あんな言葉使うな、紛らわしいんだよッ!」

 

「ちょっ、解ったよ! 解ったから少し声落とせ!! オレの耳のこと知ってんだろ?」

 

 必死なオレの言葉が届いたのか、ようやく「む・・・」と怒号を止めてくれた。

 オレはそれを見て、安心して息を吐きながら両手を耳から離す――

 

「・・・そうだったな。すまん――だが、二度とあんな変な誘いを僕に掛けるな・・・良いか?」  

 

「解ったよ――つーか、なんか不味いことしたかオレ?」

 

「不味いことって――まぁ良い、兎に角するなよ!」

 

 最後に念を押すように語気を強めに言うと、そっぽ向いたように馬車から降りていく・・・

 その背中を見ながら何と無く、変な奴だなと思いながら馬車を降りようとすると「すまんねウチのが」と、ウルティオ以外の同行者が声を掛けてきた――

 

「しかし、ウルティオの態度にも問題あるが、あれは君も悪いぞ?」

 

「あん? 一体何だってんだよ?」

 

 馬車の中で席に座りながら、こちらに話し掛けてくる今回の同行者の一人にして依頼主であるハデスのギルド『悪魔の心臓(グリモア・ハート)』の幹部である『煉獄の七眷属』の一人――『アズマ』は、どこか微笑ましい物を見るような顔で「クック」と小さく笑いながら此方を見てくる。

 

「いや、何・・・ようは言い方の問題だ――アレは『オレと付き合え』等と突然告白されたら反応に困ってしまう程度にはピュアだからな」

 

「? 何が言いたいんだよ?」

 

 ピュア? いや、オレと肩組んだぐらいで赤面するぐらいなのでそれは否定しないけどよ――それが何の関係があんのかさっぱり解らん。

 

 ついつい首を傾げて考えるがそれでも解らんので、アズマの方を見ると「はぁ・・・これは天然か? それとも脈が無いと見るべきか――ウルティオも苦労しているようだね」等と勝手に納得した空気を出している。

 こちらによく解らん事を言って惑わせといて、勝手に納得するとは――なんか納得がいかねぇ。

 

「いつまで馬車を停まらせておくつもりだい?」

 

 おっと、アズマと話していると馬車を降りたウルティオが不機嫌そうな声で嫌味な言葉を投げ掛けてくる。

 そんなに遅れてないってのに相変わらず、へんな所で神経質だな。そんなんじゃ苦労すると思うんだがな。

 まぁ、でもようやく「らしく」なってきたな。

 あいつは大体いつもオレの前ではこんな感じだしな。

 

 

 オレが馬車から降りると、ウルティオが微妙そうな顔で、一緒に降りて来たオレとアズマを見ていた。「何だよ」と聞くと「別に何も」という短い返事が返ってきた・・・やっぱまだ怒ってんのか?

 

「フム、この村が例の遺跡が見つかったという『ブルーム村』かね?」

 

「ああ、正確にはこの村を北東に進むと大森林があってな。その森で今から二年前に遺跡が見つかった」

 

 アズマの問い掛けにオレが答える。

 

「それが『アポス遺跡』――そこに【呪歌(ララバイ)】が・・・」

 

「ああ、調べた限りその遺跡は風化具合から見て、造られて四百年近い歳月が経っている事が解ってる。だから年代的にも『黒魔導士ゼレフ』が精力的に活動してた時期と重なるし、もしかしたらあの遺跡その物がゼレフの造った物なのかもな・・・そこで、評議院の派遣した調査隊が【呪歌(ララバイ)】を見つけたらしい」

 

「ん? 少し待ってくれないか?」

 

 調べた限りの情報を二人に説明していると、ウルティオが、オレの説明を遮ったので、そちらに顔を向ければ、疑問を顔に浮かべていた。

 

「評議院の奴等が先に【呪歌(ララバイ)】を見つけたのなら、とっくに回収されて遺跡の中には何も無いんじゃないか?」

 

 ウルティオの言葉にアズマも頷く――どうやら同意見らしい。

 オレはそれに首を軽く振り、否と答える。

 

「評議院の派遣した部隊は言った通り、見つけただけだ(・・・・・・・・・・・・)。中に入った部隊は何らかの形で全滅――中からの最後の通信でそこにゼレフが書いたと思われる壁画と禍々しい『ドクロを模した笛』を見つけたらしい事を伝えた数分後、中の連中と『生体リンク』していた魔導具が壊れて全滅を外に伝えた・・・という訳だ」

 

 【生体リンク魔法】は程度が低ければ魔導具で充分再現できるので、トレジャーハンター等の連中が仲間の安否を確認するために使ったりする事が多い。

 危険な遺跡などに潜る時に、自分自身と人形等に【生体リンク魔法】を掛けておく――そして、本人が怪我を負ったらそれに合わせてリンクしている物も破損する――そして、それを預けられた仲間が救助に向かう。

 言わば危険な場所に身を置く際の保険だ。

 通信用のラクリマは高いし希少だ。かといって【念話】等の魔法は覚えるのにそれなりの歳月と才能がいるので使える魔導士は更に希少だ。いや、他人が行っている【念話】に思念で割り込むのはある程度の実力があれば難しくはないんだがな。自分の力だけで他人との間にチャンネルを構築するのが大変なのだ。専門でもないと難しい。

 

「それが、今から約一ヶ月前だ。アポス遺跡が『ゼレフ関連』って事は最初(・・・・)に全滅した調査隊が潜る前から解ってたからな。二回目の前回は『トレジャーハンターギルド』からも精鋭を引っ張ってきて、全体的に万全の態勢を整えて挑んだらしいが――」

 

「――結果は全滅。なるほど、確かに君が自分一人の手には余ると判断した訳が解ったよ」

 

「うむ、我々とて気を引き締めなければ危ない――という事だね」

 

「ああ・・・そう言うこった」

 

 今回の仕事は戦いがメインではない。

 しかし、実力派の魔導士が二人も力を貸してくれるのは有難い。

 今のオレは魔力量が増えて、身体能力も底上げされているが【滅竜魔法】が使えない等の懸念事項も多い。

 

 恐らく『ウルティオ』は原作の『ウルティア』よりも強い。

 そして、原作のウルティアは評議院に潜入し、『聖十大魔導』にも在籍していた。

 そのウルティオに聞いたところ、アズマとはよく共に魔法の修行をしている仲らしく、実力的にはウルティオと変わらないらしい。

 聖十クラスの魔導士が二人も居るのだ。これなら多分なんとかなるだろう。

 

 正直、『聖十大魔導』の実力の基準については解らない部分が多い。そもそも、聖十大魔導とは、評議院が定めたこの大陸で最も優れた大魔導士という設定だが、絶対原作の『ウルティア』や『ジェラール』よりも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『ギルダーツ』の方が確実に強いだろう。

 確かにウルティアもジェラールも超一流の大魔導士という肩書きに相応しい実力はあったろうが、それが本当にこの大陸で十番以内かと言われれば疑問がある。純粋に強さを比べるなら絶対に彼等よりも上の人間は居る筈だ。だから、基準が曖昧なのだ。

 しかし、心強い事は間違いない。

 

 ウルティオの実力はオレも知っているので、信用できるし、こいつは頭もそれなりに良い。その辺りは流石は七眷属の長と言うべきだろう。こと、戦術眼はオレよりも確実に優れている。

 アズマも実力には文句の付け所がないし、戦闘凶という点を除けば性格、頭脳共に中々信用出来そうだ。

 

 更に、この面子に三日後『ザンクロウ』と『ラスティ』も合流する。

 こいつら『悪魔の心臓』の魔導士は闇ギルドという特性上余り表立って動けば足が着いてしまう可能性がある。その事を懸念して、人数をばらして別のルートで今オレ達が居る村を目指している。

 この間会ったのが初めてだったんだが、物凄く性格に癖がある二人だったので、一緒に行動するとオレの頭が痛くなりそうだったのでこの二人は意図的に別のチームにしたんだが、上手く辿り着けるんだろうか?

 今更ながら不安になってきた・・・アイツら頭悪そうだし――

 

「コブラ。良いかね?」

 

「・・・なんだ?」

 

「評議院が調査に失敗したことは解ったのだが、それは一月も前の話だろう? 新しいチームが編成されている可能性はあるのかね? だとすればザンクロウ達を待っていると手遅れにならないか?」

 

 あー、なるほどな。

 その辺は説明不足だったか。

 

「いや、評議院の調査隊は今はまだ再編成の最中だ――だから当分は大丈夫だよ」

 

「なぜそう言える? 既に一月が経っているのに、何時までも向こうがおとなしくしているとでも?」

 

「そいつは逆だ――まだ一月しか経ってねぇんだよ。一月前に評議院は注ぎ込める限りの金を使って、集められる限りの人材と最高の準備を整えた上で挑んだが、結果は失敗――しかも中に入った調査隊の全滅という最悪な形でな」

 

 調査隊の面々は、トレジャーハンターギルドの精鋭に評議院の調査探索を専門とする部隊に、魔導士ギルドからも何人か戦闘を専門とする魔導士を依頼という形で借りていた。

 任意の依頼でとは言えミスミス精鋭を失ったトレジャーハンターギルド及び魔導士ギルドと評議院との間に気不味くなったとしてもおかしくない。

 何より、それだけの手間暇をかけて失敗した以上は、少なくとも前回以上の規模の調査隊を編成しなければならないが、今失敗したばかりの評議院は信用がガタ落ちしているので簡単には人材を貸してくれる所は現れないだろうというのがオレの見解だ。

 

「つーか、このままじゃ調査隊の編成自体が『御蔵入り』して、遺跡その物を閉鎖するか、或いは破壊する方向に切り替える可能性の方が高いな・・・」

 

「それは不味いな・・・」

 

「うむ――我々に残された時間は多くないということだね? だが、それなら尚更、増援を待つ余裕など無いのではないかね?」

 

「ああ、だからな――明日の朝、オレ達で遺跡の下見に行くぞ」

 

 アズマの言葉にオレは、下から二人の顔を覗きこむ形で見渡し、そう告げた。

 そう、本格的な攻略は三日後で良いが、それまで何もしないのは時間を無駄にする行為だ。

 オレはこんな物騒な依頼は早いとこ終わらして、さっさと帰りたい。ついでにハデスとも縁を切りたいのだが、それはやはりまだ無理だろう。

 今はまだ、あいつに従っておき、有用である事と判断させておかなければ・・・そうじゃねぇと後々面倒になってくる。

 少なくとも、まだ(・・・)『バラム同盟』を敵に回すわけにはいかないのだ――

 

 

 

 その後、ブルーム村に入り、辺りを見て回るとやはり田舎らしく魔法がほとんど普及していないであろう事が見て解る。

 魔力の豊かなこのアースランドでは、空気中の魔力を使い、水や炎、電気等あらゆる物を生み出す魔導具が一般に広く普及しているが、ここにはそういった物がほとんど無い。

 恐らくは生活のほとんどを自力で賄う昔ながらの営みを村全体で行っているのだろうな。

 こう言うところを見ると、前世のじいちゃんばあちゃんが暮らしていた田舎を思い出す。

 はぁ、そういや『向こうの世界』に居る家族って今何やってんだろうね・・・元気にしてくれてたら良いけどな――親父はオレが死んだ時点で五十近い歳だったくせに、あちらこちらで女作ってお盛んだったし、お袋はお袋で、とっくに親父を見限ってさっさと男作って出ていったし・・・こうして考えると前世の親は録なもんじゃねぇな。いや、この世界の親も相当だがな。

 なんせ、オレが幼少気にエルザやジェラールと一緒の時期に『楽園の塔』に居た理由は、この世界のオレの親が金でオレをあの逝かれ狂信者共に売り渡したからなのだ。どっちの方がマシかと言われれば、半ば育児放棄に近い境遇だったとは言え、親権を手放すことなく金は出してくれた前世の親だろう。オレはこっちの親はヘドが出るほど嫌悪しているが、前世の親には無関心と若干の嫌悪、それと同じぐらいの感謝というバランスの心境だ。それにどちらも結局のところは『人の親としては失格』という点は同じなのだ。

 ・・・こうして、考えるとオレって運がねぇな。まさか二回連続で録でもねぇ親の元に生まれるとか・・・いや、感傷的になってる場合じゃねぇな。

 

 らしくねぇな――やっぱり、ゼレフ関連の仕事って事で多少は緊張してんのか?

 オレが自分の中にある一種の不安に対して、そう結論付けた時――オレ達が歩いている道の先から何やら人の話す声が聴こえてきた。

 

「ん? あれは・・・」

 

「――ッ! 隠れろ!」

 

 一瞬後に【聴力付加(イヤリング)】と【強化】を発動したオレは、アズマとウルティオの腕を掴み物陰まで力ずくで引っ張る。

 その際にウルティオが『痛いぞ!』と小声でオレに訴えかけてきたが、そんな場合ではないので努めて冷静に無視する。

 そもそも、同じような力で引っ張ってるアズマの方は顔を不審そうな表情にしているが、悲鳴など挙げていない。こいつは大袈裟なのだ。

 

 

「おい! 一体――」

 

「黙れ」

 

 尚も良い募ろうとするウルティオと何か言いたげな顔のアズマに短くそう言うと、目を閉じて『耳』に感覚を集中して、声を拾う――

 

 

「では、この近くに――」

 

「ええ、確かに奴等の目撃証言が上がっています」

 

「一体何処から情報を嗅ぎ付けたんだ「闇ギルド』めっ!」

 

「伝説の黒魔導士ゼレフが残した『負の遺産』の一つ――何としても、我々の手で見つけ出し破棄するのだ!! それが叶わん時は、遺跡ごと破壊するぞ! あれが奴等の手に渡れば最悪は多くの罪無き人々がそれによって死に至る・・・」

 

「ええ、絶対に闇ギルドの手などに渡してはなりません」

 

「我等『評議院直轄部隊』がこの大陸の平和を守護するのだ・・・!!」

 

 

 あっれぇえ・・・なんでこの段階で評議院の直轄部隊が動いてんの?

 もしかしなくても読み違えたか?

 

 どうも会話を聞く限りでは、アイツらは闇ギルドが情報を掴んで動いていることを察して、そいつらの手に渡る前に【呪歌(ララバイ)】を――又はそれが無理なら遺跡ごと破壊するつもりのようだ・・・いや、待てそりゃ不味いだろ!

 

 今、遺跡ごと【呪歌(ララバイ)】を破壊されたら、ハデスからの依頼を完遂できねぇじゃねぇか・・・!!

 バラム同盟からの依頼に失敗する――それは、オレにとっては死に直結しかねない問題だ。

 つーか、話を聞く限りじゃその闇ギルドの奴等が人目憚らずに動いて、評議院に見つかったからこんな面倒な事態になったんじゃねぇか!!

 

 くそ、マジで勘弁してくれよ。この調子じゃ確実に遺跡の周りは封鎖されてて近づく事も難しくなってそうだな。

 

 全く、どこのどいつだよッ!

 こんな面倒な――ん?『闇ギルド?』

 

「なんだね?」

 

「どうした?」

 

 ギギギとでも擬音が付きそうな感じに首を同行者共に向けると、今のオレは余程珍妙な表情をしていたのだろう・・・どこか、気まずそうな表情でオレを見てくる闇ギルド『悪魔の心臓』の幹部二人――

 

「こいつらの事か――ッ!!」

 

 

 つい、声を大にして叫んだオレは悪くないと思う――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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