妖精世界の憑依者   作:慧春

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 他の視点は難しいですね。
 そのキャラが何を考えているのかを書かないといけないので、上手くいってないかもしれません。
 急いで仕上げたので誤字脱字があったら指摘お願いします!


憑依者の告白

 

 

 

 

 久し振りに会った僕にとって旧友とも呼べる存在をマスターハデスの研究室に案内し、一先ずは何が起こっても大丈夫なようにそこから近い部屋で待機する。まぁ、大丈夫だとは思うが、いざという時に即応出来るようにする必要があるからだ。

 正直、彼女にマスターハデスをどうこうできるとは思えないので、あくまでも一応だ。

 

 部屋に入ると、既に現在この船に居る僕以外の七眷属で動ける者は全員が揃っていた。その数は僕を除いて三人――他は仕事で船の各地に散っている。

 どうやら、僕が一番最後だったらしい。

 

 『煉獄の七眷属』――僕らのギルド『悪魔の心臓(グリモア・ハート)』の幹部であり、実動部隊の主力である七人の魔導士。

 僕らはそれぞれマスターハデスから、適正に合った『失われた魔法(ロストマジック)』を授けられた――言わば、マスターの弟子のような存在で構成されている。

 その戦闘力故にギルドの戦闘員達に恐れられているのだが、コイツらは基本的には性格に問題のある奴等ばかりだ。そのせいでリーダーである僕はその尻拭いが割りと大変だったりする。

 

「ウルティオ、客人の案内は終わったのかね?」

 

「ええ、問題ありません」

 

 特徴的に逆立った髪型に、何処かの部族のような戦闘装束に身を包んだ男――『アズマ』が話し掛けてきたので、返事を返す。

 アズマは、年齢は僕と変わらないのに異様に顔付きが大人びている。老けているのとは違うんだが、一体どうやったら十代でこんなに迫力のある顔付きになるんだ?

 態度も落ち着いていて、喋り方も堅苦しい。そのせいでこの人と話していると、どうも歳上と話しているように錯覚してしまう。

 

 この人は、七眷属の中では比較的マトモな性格をしており、その上実力も僕と並んでトップクラスだ。

 ただ一つ――「戦闘狂」である点を除いたら人格者といっても良い。

 だが、しかし、このアズマという男・・・自分と実力の伯仲する相手と闘うためならば手段を選ばない。それこそ人質をとって闘わざるを得ない状況を作るぐらいならやってのける戦狂いの戦闘狂だ。

 

「で、ウルティオさん。あの女ってば一体何処の誰なんだ?」

 

 腰から右肩までを完全に曝してる半裸の変態ロン毛――『ザンクロウ』が僕に対して問いかけてくる。

 因みにこのザンクロウは常に肩を出すことをフアッションか何かと勘違いしていのか、基本的にこれと似たような格好しかしない変態であり、それでいて自分よりも弱い者を痛め付ける癖があるサディストだ。

 しかも、それでいて炎を使う魔導士を自分の【滅神魔法】で焼き殺すのが趣味という異常者でもある。

 

 僕は、こういった「ゲス」が大嫌いなので、アズマは兎も角ザンクロウとは会話すらしたくないのだが、流石にそれは七眷属の長としての仕事に支障を来してしまうので、込み上げる嫌悪感と拒否反応を押し留めて、努めて冷たさを意識した笑顔を顔に浮かべる。

 

「フィオーレ王国の首都であるクロッカスで運送屋をやってる魔導士だよ――『鋭蛇の運び手(デリバリーコブラ)』と言えば、その業界ではそこそこ名前が通ってるよ」

 

「ふむ、『運び屋』かね?」

 

「それ本人の前では言わない方が良いですよ。そう呼ばれるの嫌いらしいので」

 

 アズマの問い掛けに、前にそう呼ばれた時に相手を半殺しにして訂正を求めていたエリックの姿が脳裏に浮かび、何と無く忠告する。

 すると、アズマは少々意外そうな顔をした。

 

「なんです?」

 

「いや、君は彼女と何か個人的に付き合いが在るのかね?」

 

「あ――まぁ、そこそこ古い付き合いですね」

 

 そう、僕と彼女との出会いは今から数年前――『楽園の塔』にまで遡るのだが、それ以来何だかんだで腐れ縁が続き、今では一緒にバーに行って、お互いの苦労話で盛り上がったり愚痴を言い合ったりと気楽な仲だ。

 しかし、それを別に全て言う必要はない。

 

「友人関係を築いていると? なるほど、これは少々意外だな・・・」

 

「意外・・・ですか?」

 

 本当に意外そうに目を丸くしているアズマに、何やら気になったので聞いてみると「うむ」と言って続けた。

 

「君は自分が『闇』に居るという事実を強く認識しているからな。『表』に友人など作らないと思っていたのだがね」

 

「・・・別に古い付き合いであることは認めますけど、別に友人という程付き合いが深い訳でもありませんよ」

 

「――そうかね?」

 

 そうとも、僕と彼女はそれほど深い仲ではない・・・筈だ。

 そう。その筈だが――何だ? この違和感は?

 彼女の事を思い出そうとすればするほど何処か頭に違和感が浮かんでくる――

 

 

 

 

『お前って、何で「ウルティオ」って名乗ってんだ?』

 

 先程、自分が案内した少女が自分に問いかけてくる光景が頭に浮かぶが――こんな光景が僕は知らないぞ?

 

『ああ――そうだな。本当は僕は――』

 

 記憶の中の僕が彼女に向かって答えを返す・・・だが、イマイチはっきり聞き取れない。

 

『すまない。お前に危険な役割を押し付けることになる――』

 

 右目の上下に入れ墨を持つ青い髪の男が僕に後悔の滲んだ声を掛けてくる――この男は・・・知っている。だが、こんな場面は知らない。そもそも、僕と奴はこんな近い距離で言葉を交わし会うような仲ではない――顔があった瞬間に殺し会うような血生臭い関係だ。

 

『まだ君は若い・・・それに最後の一線も越えていない。罪を犯したことを悔やんでいるなら――己が不幸にした数以上に、人を幸せにする事を考えてみんか?』

 

 背の低い老人がどこか憐憫の色を瞳に乗せて、諭すように厳しい口調で僕に道を示す――この人は――知っている。だが、話したことなど無い筈だ。

 

『安心してくれ――全てが終わったら必ず記憶は元に戻す・・・だが、それまで俺も含めて全員の記憶からこれらに関することを可能な限り消去する――』

 

 顎に傷のある坊主頭の青年が、僕達を見渡しながらそう言う場面が浮かんだ。誰だこれは? こいつは知らないぞ?

 よく見ると、その場に居るのは自分だけではない。右には『顔見知りの少女』が、左には因縁深い『青い髪の青年』が――いや、それだけじゃない。他にも誰か居る。

 

 近くに立っているのは――

 

『――この事は俺達「五人だけ」の秘密だ――』

 

 

 

 

「ウルティオさん?」

 

 ――!?

 ザンクロウの呼び掛けにようやく我に帰る。

 俯いていた顔を上げると、そこには訝しげな表情で自分を見るアズマとザンクロウの姿が見えた。

 

「何だぁ? らしくねぇな。ボォーとしてよお」

 

「――いや、何でもない。少し、昔の事を思い出していてな・・」

 

 そういうと、そんなこともあるかと今のは気にしないようにしてくれたらしい。態度がいつものそれに戻った。

 それにしても、何だ? 今のは?

 

 確か記憶が――ウッ!? 今の光景を思い出すと頭がッ!

 一体何だって言うんだ!?

 

「それで、ウルティオ?」

 

「――? それでとは?」

 

「いや、だから彼女はどの程度の実力なのかね? と聞いたのだが・・・」

 

 強さって・・・もっと聞くことがあるだろ?

 例えば信用できるかどうかとか・・・まぁ、それらをブッちぎって強さに目が行く辺りアズマらしいと言えばそうなんだが・・・

 

「お、そりゃオレっちも気になるってよ。ウルティオさん付き合い長いんだろ?」

 

 君もか――それにしても強さねぇ・・・弱ったな。

 僕も魔導士としては超一流に位置すると自負はある。なので、対峙すれば相手の力量は多かれ少なかれ本能で理解できるんですが、彼女のそれに関しては読めない。

 一見すると、ただの凡人のように見える――いや、実際彼女に魔導士としての才能は無さそうだし、そう言う意味では正真正銘凡人なのだろう。

 ですが、彼女は――どこか普通の凡人とは違う・・・何かが『異質』なんだが、それが何かがイマイチ掴めないというかなんというか・・・

 それに、『エリック・ノア』という魔導士は強い。つい三ヶ月前に会ったときはその時の僕達よりも若干強いかどうかといったところだった筈だ。

 少なくとも純粋な魔力の量では僕の方が上だった。しかし、彼女は多数の魔法を実践レベルで使いこなし、尚且つ戦闘経験も僕より遥かに多いので、同格か少し上という評価を下していた。

 なのに、今やその魔力量でも上を行かれ、肩を組んだときに感じた力強さから、体も相当変化している。

 今の彼女は、既に僕よりも明確に上に居る――或いはマスターには届かずとも、ブルーノートとは正面から闘えるぐらいには強いのではないか?

 

 いや――駄目だ。

 やはり、読めない。本当に不思議な少女だ。

 

「・・・とりあえず、強いかどうかは僕にも量りきれません。何と無く僕よりも強いとは思うんですが・・・」

 

「――ほう」

 

 僕の返答にアズマは興味深げに呟く。

 その瞳には、隠し様の無い闘争心と感心、そして高揚が見てとれる。

 相変わらずだな。この人は――呆れながらも、どこか自分の欲求に素直なアズマが眩しく感じる自分が居る。この辺りはこの人の人柄なんだろうな。

 実際この人は、自分よりも弱い人間に関しては無闇に殺生はしないので、その事で度々他の七眷属や副指令に文句や苦言を言われることもしばしばあるのだが、それを曲げるつもりは更々無いのは明らかである。

 

 それ故に僕はこの人を嫌いにはなれない。

 本当にこの人はなんで闇ギルドに所属しているんでしょうか?

 

「まぁ、彼女に関することで僕が知っていることで一つ――マスターハデスは、今から数年前に彼女にこのギルドの「副指令」になってくれないか誘いを掛けたことがあるらしい」

 

 僕の言葉に、アズマもザンクロウも、ずっと会話に入らずに意味の解らんポエムを壁に向かって詠んでいた『ラスティ・ローズ(ナルシスト)』も絶句した。

 

 本当になんでこいつらが幹部なんだ?

 他の奴等も性格に一癖も二癖もある変人ばかりだし・・・マスターハデスは何を思って、現在の七眷属を育てようなんて血迷った考えを――絶対もっとマシな人材居たでしょうに。

 

 はぁ、癒しが欲しいな。

 早く『メルディ』任務終えて帰ってこないかな? 

 

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

「くっそ!? あのクソジジイ!! 人が断れないことを良いことに滅茶苦茶な仕事押し付けやがって!」

 

 ハデスとの任務交渉を終えて、戦艦の通路を早歩きでズカズカ進みながら彼女――『エリック・ノア』は口汚く吐き捨てた。

 

「何だよ! あの内容は――手紙に書いてあったやつと違いすぎんだろ!」

 

 そう、彼女は今まで今回の仕事の依頼人――闇ギルド最強の一角『悪魔の心臓(グリモア・ハート)』のギルドマスターであるハデスから仕事の内容の詳しい説明を受けていたのだが、その内容は手紙に書いてあった内容と解離していた・・・

 いや、大まかには同じだが、そこ難易度には凄まじい違いが生じていたのだ――

 

(――ここかッ!)

 

 ある扉の前に立ち止まると、その部屋の中から彼女の探していた人物の声が聴こえてきているのを確信するや否や【強化】の魔法で両手を強化して、全力で左右に引き裂くかのように抉じ開ける――

 

 鋼鉄製のドアが力付くで無理矢理に抉じ開けられたからだろう。メキャッという耳障りな音が室内に響き渡り、中に居た四人の人間は何事かと一斉に彼女の方を向く――

 

 彼女は、それを一切気にせずに、目当ての人物の前にまで何の迷いもなく大股で進んでいく。

 

 そして、目当ての人物にして酒飲み仲間兼腐れ縁の旧友――『ウルティオ』の前にまで行くとその前で止まり、両手を彼の肩に置くとこう切り出す――

 

「おい、オレと付き合いやがれ!」

 

「――へ?」

 

 決死の形相と共に告白された「(ヒロイン)」は、理解が追い付かないのか、間の抜けた言葉を返したが、理解が追い付いた次の瞬間「ハァアア!!?」と悲鳴を上げた。

 

 

 

 


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