妖精世界の憑依者   作:慧春

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 今回も戦闘はありません。


憑依者の受難

 

 

 

 魔導戦艦の上部の出入り口と思わしき部分から艦の中に入ったオレは、キュベリオスから降りて通路に降り立つ。

 そして、キュベリオスに小さくなってくれるように頼む。

 

 直ぐに相棒はそれに応じて【縮小(スモール)】で巨体を縮め、【伸縮】の魔法で三〇メートル近い長さから一メートル以下の短い姿になる。

 今のキュベリオスは、その本来の大きさとは比べようもなく小さい。その姿はもう一見するとそこら辺にいるただの蛇のようだ。

 

 姿を縮めると、キュベリオスはオレの右腕から器用に体を登っていき、最終的には胸回りに巻き付く。

 なんか知らんが、こいつはここがお気に入りなのか、隠れるように指示すると大概ここに来る。

 この体勢だと、胸を挟んで上下に巻き付いているので、普段よりも若干だが、胸が強調される形になる。

 と言っても、今のオレの格好は下着の直ぐ上に肩とヘソが丸見えなキャミソールに革製の長ズボン、シックなベルトに黒のロングコートという見た目的にはワイルドさを意識した格好だ。

 

 上半身に少々露出が多いような気もするが、原作キャラにはもっと際どい服を着てる奴も居るので、その辺は気にしない。

 まともな感性なら、女でもこういう格好をすると恥ずかしいとか思うかもしれないが、生憎そういう感情は、六年前に初潮が来たときに吹き飛んでる。

 いまさら、服の露出がどうこう気にしない。それに、この程度ならば、前世の高校で陸上部だった時に着ていたランニングシャツの方が露出が多い。あれ背中丸出しだしな。

 

「さてと・・・入ったは良いが――」

 

 ――場所がわからん。

 

 取り合えずは、ここで待って向こうが案内を寄越すのを待つか?

 適当に通路を進んで行くのも言いかもしれないが、幾ら依頼人とは言えここは『闇ギルド』の拠点――それも、「バラム同盟」の一角である『悪魔の心臓(グリモア・ハート)』だ。

 

 『バラム同盟』とは、幾つもある俗に言う闇ギルド――普通の魔導士ギルドと違い、犯罪や法に接触する仕事を報酬と引き換えに引き受ける魔導士達による集団――の盟主的な存在だ。

 全ての闇ギルドは基本的にバラム同盟の傘下に治まっている。例外は闇ギルドとしてありながら、独立を掲げている『大鴉の尻尾(レイブンテイル)』だけだ。あいつらはバラム同盟と直接交渉して独立権を勝ち取ったからこそ出来ているが、普通は闇の世界で勝手な真似をしたら、バラム同盟傘下のギルドに集中砲火を受けて早々に消される。

 バラム同盟とその傘下のギルドを全て合わせた戦力は強大だ。正直そこらの正規ギルドが束になったところで決して勝てはしない程大きい。

 なんせ、戦力としてみるなら評議院が保有している戦力を全て合わせても届かないのだから。だからこそ『ギルド間抗争禁止条約』という法の『ギルド』に闇ギルドを含めて、正規ギルドに闇ギルドとの勝手な戦いを禁止しているのも闇ギルドを刺激しないようにしているという事情があるのだ。

 

 今、フィオーレ王国に存在する全ての正規ギルドの主力を結集してギリギリ戦力的には互角と言ったところか。

 正直な話、バラム同盟を本気で潰したいのなら、それこそ『聖十大魔導』でも引っ張ってこないと難しいと言わざるをえない。

 いや、仮にそれが実現しても序列第五位の『マカロフ』がハデス相手に傷一つ負わせることなく敗北した事を鑑みると、それ以下序列の者達では、やはりハデスには勝てないと見て間違いない。

 しかし、第五位以上の序列と言えば『イシュガルの四天王』だが――それにしてもどうだろうか・・・他の三人は知らないが、第四位の『ウォーロッド・シーケン』は、ハデス――『プレヒト』と同じく最初期の『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の魔導士だ。

 魔力も身体能力と同じで、年を重ねることによって次第に減衰する物だ。ウォーロッドが全盛期に比べて、どの程度衰えているのか解らないが、それに比べてハデスはこの戦艦の中にある『悪魔の心臓』という外部装置に頼っているとは言え『プレヒト』だった頃に比べたら『魔力』が増大しているのだ。

 どちらも巨大過ぎて正面から戦った場合どうなるのか予測がつかないが、楽観的に考えて互角と言ったところだろうか・・・

 

 バラム同盟に属している三つの闇ギルド――

 『悪魔の心臓(グリモア・ハート)

 『冥府の門(タルタロス)

 『六魔将軍(オラシオンセイス)

 

 闇ギルドの中心的な立ち位置にあり、この三つの闇ギルドの同盟によって裏の世界のバランスが取れているみたいに正規ギルドには思われているようだが、ぶっちゃけバラム同盟などと一括りにされてはいるが、その戦力には差がある。

 まず、ぶっちぎりで最下位が『六魔将軍(オラシオンセイス)』、その次が『悪魔の心臓(グリモア・ハート)』、最強が『冥府の門(タルタロス)』である。

 ただ、これはギルド同士の戦力を比べた場合だ。

 『煉獄の七眷属』は兎も角、ブルーノートとハデスは恐らく冥府の門(タルタロス)の主力である『九鬼門』の誰よりも強いだろうし、ハデスに至ってはマスターの代行である『マルドギール・タルタロス』とも互角以上に戦えるだろう。

 懸念で言えば、悪魔の力を少なからず使うハデスに【氷の滅悪魔導士(デビルスレイヤー)】である『シルバー』の魔法がどの程度通じるか――だろうか?

 

 しかし、煉獄の七眷属ははっきり言って実力的には、2ヶ月前のオレと変わらないか、少し上といったところだろう。そして、それは『ゼロ』を除いた六魔将軍(オラシオンセイス)も同じだ。今のこいつらでは間違っても『九鬼門』には勝てない。

 その辺が冥府の門(タルタロス)がバラム同盟最強たる由縁だろう。

 組織の戦力を比べるなら、幾ら頭が強くても組織力で劣っているならそれは敗けだ。組織の強さとはあくまでも『個』ではなく『群』に在るのだからな。

 その辺、実質的なメンバーが六人しか居ない六魔が最弱なのは当たり前と言える。

 

 

 おっと、ようやく迎えが来たのか?

 かなり小さいが足音が聴こえてくる――足音の大きさから考えて、距離的には二、三〇メートルってところか。

 幾ら魔法を『使って無い』とは言え、このオレの耳に悟らさずにここまで近付くとはな。

 近寄ってくるのが、相当な手練れ――恐らくは七眷属の誰かと判断し、警戒レベルを二段階上げる。

 この戦艦の中から感じられる邪悪で馬鹿でかい魔力のせいでオレの魔力探知が妨害され、上手く魔力の感知が出来ない。しかし、何と無くだが、オレはこいつを知っている気がする。

 

 その予感は、足音が近づいてくる事に徐々に確信へと変わっていき、やがて薄暗い通路でお互いに向かい合う形で、顔を確認できる位に近寄ってくるまでにはオレの中でそれは確定していた。 

 

「よう、アンタか――『ウルティオ』さんよ」

 

「その下品な言い回し――君は相変わらずだな」

 

 続けて「女性であるならば、もう少しおしとやかに出来ないのかい? 品性が疑われるぞ」と聞いてくる。

 クールなイケメンフェイスに醒めた色を浮かべた男の言葉にげんなりしながら「ほっとけ」と返す。

 

「おしとやかねぇ・・・オレがそんな風にしてる所なんぞ見てぇのか?」

 

「いや、まったく――ただの社交辞令だよ」

 

 間髪入れずに返ってきた即答に、そんな社交辞令あってたまるかと思った。と言うか、こいつはなんで毎回オレに対して喧嘩腰なんだ?

 

「言ってくれるじゃねぇか。一応こっちは客人だぜ?」

 

 何と無く、このままというのも癪なので反撃してみるが――

 

「別に僕の客人という訳ではないだろう? 不服なら帰りたまえ。マスターには、気分が悪いので帰ったと伝えておこう」

 

 という言葉が返ってきた。

 くっそ、冗談じゃねぇ――このまま依頼の内容を聞くこともなくスゴスゴ帰ったらバラム同盟を敵に回しちまうじゃねえか・・・オレに自殺願望なんぞねぇよ。

 

「・・・冗談だよ。早くマスターハデスの所に案内してくれ」

 

 結局、目を逸らしてそう言うしか無かった。

 

「最初から素直にそう言いたまえ」

 

 あれ、おかしくね? 何でオレが悪いみたいな雰囲気な訳?

 絡んできたのそっちだよね?

 まぁ、大人なオレはそんな事で意地になったりはしないがな。それ故に大人しく流す――決して、口では勝てそうにないからとかではない。本当だぞ?

 

 

「おい」

 

 蛍光灯替わりのラクリマに照らされている薄暗い通路をウルティオの案内の元に進む道中、気になったことを聞いてみることにした。

 

「・・なにか?」

 

「今回、あんたらのマスターは何でオレを呼んだんだ?」

 

 ずっと気になっていたこと――そう、あのマスターハデスがオレをここに呼んだ理由だ。

 

「いや。生憎とマスターからは何も――手紙に書かれていなかったのか?」

 

「ああ。知らされてねぇのか? あの内容でオレをここに呼ぶ必要はねぇだろ」

 

 その返答に興味を持ったのか、瞳にどこか好奇心を宿して、こちらに顔を向ける。

 オレは僅かに歩みを速めて、ウルティオの隣に並ぶ――こうして並ぶとこいつ中々でかいのな。オレの身長は165㎝と女の平均よりは頭一つでかいんだが、こいつはどう見ても180近くはあるな。オレよりも更に頭一つでかい。イケメンな上に身長も高い――なんか、色々負けた気分だ。まぁ、今はオレ女だしな。気にしない方向でいこう。そうじゃないと劣等感でこいつに襲い掛かってしまいそうだ。流石に七眷属の長を癇癪で襲い掛かったらオレがハデスに殺される。

 

「それで、あの内容――とは?」

 

 オレが脳内で物騒なことを考えているとは知らないウルティオは、相も変わらない澄ました顔でオレに問いかける――

 

「ああ――」

 

 あの日、キュベリオスがオレの元に運んできたあの手紙には、オレが個人で営む配達屋「鋭蛇の運び手(デリバリーコブラ)」への依頼の内容とその依頼主であるギルド悪魔の心臓のマスターであるハデスとの交渉場所の座標が書かれていた。

 その依頼の内容は――

 

「遺跡で発掘された【集団呪殺魔法 呪歌(ララバイ)】の奪取、及びそれの引き渡し・・・」

 

 そう、本来であるならば、今から約一年の歳月を得て、『六魔将軍(オラシオンセイス)』傘下の『鉄の森(アイゼンヴァルト)』の手に渡り、原作に絡んでくる予定のあの【呪歌(ララバイ)】である。

 どうやら、この世界では何らかの要因があって、ハデスが先に見つけたらしい。

 

「まぁ、あんたらのマスターは大した『ゼレフマニア』だからな。【呪歌(ララバイ)】を欲しがる理由は解るぜ」

 

 なんせ、あれはゼレフの残した魔法から派生し、劣化した有象無象の【黒魔術】ではない。

 正真正銘【ゼレフの残した魔法】であり、格こそ低いが『ゼレフ書の悪魔』でもある。

 

「だが、それでオレを呼ぶ必要は無いだろ?」 

 

 そう、その依頼内容ならば、別に奪取した後にそれを指定された場所に持っていけばそれで事足りるはずなんだ。どう考えても、別に仕事の前にオレを呼ぶ必要はない。

 

「ふん・・・なるほどな」

 

 オレの意見を聞いた後に、納得の表情を浮かべるウルティオ――そして、その後に「よく、それでここに来る気になったな」と続ける。

 

 確かにな・・・まかり間違ったら、この依頼がフェイクでここに呼び出したのがオレを消すためという可能性もなくはない。

 しかし――

 

「オレ一人を殺すのにあのじいさんがそこまでするか?」

 

「確かに――君は強いが、マスターや副司令の『ブルーノート』程ではないし、秘密裏に消す方法など幾らでもあるだろうな」

 

 わざわざ、本拠地であるこの船に呼ぶ必要など無い――むしろここでオレと戦うほうが面倒が多いだろ。

 オレと同じ結論に至ったのか、微かに頷くとオレに向き直る。

 

「だが、マスターの事だ。何かを企んでいることは間違いないぞ?」

 

 ――は?

 オレはその言葉に一瞬だが、思考が停止してた。そして、次の瞬間には、ハッハッハと声を上げて笑ってしまった。

 

「・・・何がおかしい?」

 

 不機嫌そうな表情でオレに問いかけてくるウルティオの顔を見て、オレは更に笑いを深める――こうしてみると、こいつはこいつで割りと顔に出るんだなと、何と無く初めて会った時の事を思い出しながら、更に笑っていると奴の表情に氷のような冷たさが浮かぶのを見て、これ以上は流石に不味いと笑い声を収める。

 しかし、未だに顔は緩んだままだ。

 

「わりーわりー。でもよ、それじゃあお前――オレの事を心配してるみたいだなって思ってよ」

 

「――なッ!?」

 

「いや――心配してくれて嬉しいぜ? ウルティオ君よ」

 

「だ、黙れ! 僕は別に君の事など――って、肩を組むな! 馴れ馴れしいぞ!!」

 

「解ってる。解ってるぜ? 皆まで言うなよ・・・」

 

 普段の冷徹ぶりをかなぐり捨てて、顔を真っ赤にして否定するこいつが、どこかかわいく見えてからかってみるが、更に顔を赤くして、組んだ肩を振り払う姿が照れてるようにしか見えない。

 は~こういうやり取りってなんか新鮮だわ。オレって今世では友達少ないんだよな。

 いや、何人かは居るんだが、親友と呼べるほどの存在はキュベリオスだけだ。

 あれ、親友が蛇だけってやばくないか?

 い、いや、キュベリオスは良い蛇だし?

 そ、そもそも、親友なんてキュベリオスだけで十分だし!

 

「・・・何でそんな切ない顔をしているんだ?」

 

「すまん。ほっといてくれ」

 

 

 そんな、やり取りの内に、通路を抜け出して、広い場所に出た。

 ざっと歩き始めてから十七、八分は経っているが、この戦艦が見た目通りの広さならとっくに端から端まで歩き切ってる筈だ。

 さっきから歩いていて思ったんだが、この船は、どうも内部が外観よりも広いらしいな。

 大方【空間系】の魔法で内部を広げているんだろうか?

 だとすれば魔法道具の一種だろうか?

 最近、拠点兼仕事の事務所が狭くなってきたんだよな。頼んだら一個くらい貰えねーかな?

 

 そんな他愛もない考えは、広場を抜けて、その部屋に入った瞬間に一切が吹き飛んだ――

 

 その部屋は、あちこちに魔方陣が書かれ、禍々しい雰囲気の魔導具が置かれていた。

 邪悪な空気が全体に漂うその部屋の奥――これまた禍々しいシルエットの玉座に眼帯を着けた老人が腰掛けていた。

 

「ふむ、久しいな『コブラ』よ――」

 

 そこにいたのは絶望を具現したかのような邪悪な魔力を放っていた。

 膨大な魔力に、圧倒的な威圧感、それに絶大な存在感をもってそこに――超越者がいた――

 

「・・・久し振りだな。じいさん――」

 

 相変わらず、超絶元気そうだなという軽口を呑み込み、威圧感に圧倒され首の裏に冷や汗を掻くが、それを表には出さず、表情を無表情に固定する――

 

 はてはて、いったいどんな難題押し付けられるんだ?

 ここまで来てしまった以上は後にはもう退けない。それをしたら最後、目の前の老人の姿をした化け物は一切の躊躇いもなく自分を殺しに来る。

 他のバラム同盟――『冥府の門(タルタロス)』『六魔将軍(オラシオンセイス)』が依頼主であるなら、依頼など無視してトンズラこくことも出来たが、ハデスには昔一度接触しているので逃げたところで魔力を追ってどこまでも追いかけてくるだろう。

 なので、最初からオレにこの依頼を断るという選択肢は存在しない。

 ならば、せめて厄介事が無いと良いなと祈る気持ちで正面を見据える――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 主人公に続いてのTS キャラ二人目。
 ウルティア(♀)➡ウルティオ(♂)

 魔法等は原作そのままだが――?

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