妖精世界の憑依者   作:慧春

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憑依者の憂鬱

 

 

 

 

 

 今、オレの視界は『白』に支配されている。

 こういう景色は、転生する前に『駄天使』と話した白い謎空間を思い出すから、正直好きじゃない。

 

 だが、まぁ座標的にもう少しで目的の場所にまで着く筈だから、それまでの辛抱である。

 

 気温的な意味でここはかなり寒いので、オレは自分の周囲一メートルに簡易な【結界】の魔法を張ってあるのだが、それでもなんか肌寒い気がする。

 

 ふと、出発する前に拠点の郵便受けに貯まっていた新聞の中で一番新しいのから順々に何日分かを魔力で作り出してある空間に放り込んでいたのを思いだし、暇潰しも兼ねて適当なものを取り出すと、両手に持って広げる――ちなみにこの魔法で空間を造り出す魔法は【空間系】の魔法の初歩だ。

 初歩の初歩故にオレでも使える。もちろん例に漏れず何日も掛けてようやくコツを掴んだのだが、今ではそれなりに使用頻度が高いので呼吸をするように自然に出来るが、最初の方は物を仕舞うときも取り出すときも全然思い通りにいかなかったな・・・

 これに、武器をしまって高速で出し入れしたり、取り換えたりするのが俗に言う【換装】である。魔法道具を使って闘うホルダー系魔導士にはこれを使えるやつが多い。

 

 ふん、日付は三日前か・・・まぁ、比較的最近だな。

 バッと新聞を広げて、一面に目を通す――

 

『「幽鬼の支配者(ファントム・ロード)」の活動に多数の不正が発覚!! マスターであり、『聖十大魔導』序列第八位である『ジョゼ氏』に対しての責任の追求を求める声が――』

 

『評議員は、幽鬼の支配者はギルド解散及び、ジョゼ氏の聖十の称号を剥奪を発令――』

 

「これによって、幽鬼の支配者の支部も一斉に閉鎖――フィオーレ王国で一二を争う巨大ギルドの消滅により生じた経済効果の余波は各国に波紋を呼び――」

 

 手に持った新聞の一面を見て、思わず閉じたくなった。

 

「あー、ツッコミどころが満載な訳だが――何がどうなってんだよ?」

 

 頭に手を当てて、呆然と呟く――

 

 え、何で『ファントム』潰れてんの?

 まだ、原作開始まで一年以上あるぞ?

 

「不正が発覚ねぇ・・・誰かのタレコミか?」

 

 だとしたら犯人はイレギュラー共の誰かと見るべきか・・・いや、あそこはフィオーレ一二の実力を謳い文句に、かなり強引な手法で色々やってたからな・・・他の魔導士ギルドの仕事横取りや妨害なんぞは当たり前。そりゃ、恨まれて当然だわな。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)転生者(イレギュラー)じゃなくても買ってる怨み辛みが多すぎて特定は出来なさそうだな。

 

 だが、もしこれが転生者の仕業だとしたら――そいつの目的はなんだ?

 単純に正義感からか? それなら、良いが・・・もし、そうじゃなくて何らかの目的があるとすれば――それは一体・・・

 

「何にせよ荒れるな――」

 

 腐っても、そこは国で妖精の尻尾(フェアリーテイル)と並んで一二を争ってた巨大ギルドだ。当然、そこには優秀な人材――特に魔導士が多数所属していた。そして、ギルドの突然の崩壊でそれらの人材は行き場を無くした。

 不正を起こしたのは、あくまでもギルドの運営に携わっていた上の方だけであり、大多数のギルドの構成員には罪はない。

 それに、強引に幅を聞かせていたのはジョゼが身を置いていたギルドの本部と、その周りの支部だけであり、他の――特に都会から離れた場所にある支部はそのほとんどが真面目に仕事に励む者達だ。

 王国の中でも中心から離れた田舎と呼ばれる場所では、魔法を使える者が希少だ。なので報酬を取るとは言え、自分達には解決出来ない問題を魔法で片付けてくれる魔導士ギルドはとても重宝される。田舎には金持ちも多いし、そう言ったもの達から得られる金は経済的な意味で決してバカには出来ない。

 王国のあちこちに支部を抱える『幽鬼の支配者』程に巨大なギルドは、潰れた時の経済効果は決して小さいものではない。

 それに、今回の事で処罰を受けた者達を除いて、軽く見積もって数百人――下手したら千に届く数の魔導士が未所属(フリー)になる。

 

 とりあえず、当分はそういった人材のギルド同士の取り合いかね?

 そんだけの数の魔導士が未所属のままというのも国的には美味しくないので、評議員も積極的にそういった魔導士達の再就職口に世話をやくだろうし・・・

 特に『S級魔導士』として名の通った【エレメント4】や【鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)】である『ガシル・レッドフォックス』なんかはそれこそ引く手数多だろうな。

 

 原作通り『ジュビア』と『ガジル』の二人は妖精の尻尾に加入するんだろうか?

 ギルド同士の抗争というイベントがなくなった以上は、果たしてどうなるのか・・・くそ、マジで読めねぇ。

 

 そう思ったとき、ようやく()を抜け出して、オレの視界が晴れ渡る大空を映し出す――

 

 現在、オレは相棒の背に乗って空を飛んでいる。

 【(エーラ)】――原作の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)達の相棒であるエクシード達の得意魔法であるこの魔法をキュベリオスも使えるのだ。

 その他にも【縮小(スモール)】や【伸縮】という体を小さくしたり、伸ばしたり縮めたりする魔法など少なくとも三つ「ぐらい」の魔法が使えるのだ。

 なぜ「ぐらい」なのかは、キュベリオスの使える魔法はオレも正確には把握していないからだ。

 と言っても、何となくそれ以外にも使えるんじゃないか? とは思ってはいるが、オレはキュベリオスの事を信頼しているので、別にその辺りを深く追求はしていない。

 

 以前好奇心に負けて聞いたことはあるが、結局教えてくれなかった。その時は、ずっと一緒に生きてきた間柄故にどこか裏切られた気がして、初めてキュベリオスとケンカした――といっても、オレが何となく避けてただけだが・・・結局気まずい雰囲気に耐えられずに、オレの方から謝ったが・・・

 それ以来、何となく聞くのが憚れる気がして、今に至る。

 

 その時に、オレとキュベリオスは「友達」で「仲間」で「相棒」であるが、それ以上に「人間」と「蛇」なのだと言うことが解ってしまった。

 キュベリオスは頭が良いので、オレの言葉をほぼ完璧に理解している。しかし、オレの方は何と無くにしかキュベリオスの意思を理解できない。

 オレ達は、お互いに意思を通わせることはできても、心を通わせることは出来ない。

 そして、他者の心を聴くことの出来るオレの魔法でも、蛇の心を聴くことは出来ない・・・

 

 そういや、原作の『コブラ』はたった一人の友であるキュベリオスの声が聴きたいが為に魔法を覚えた――オレはどうなんだろうか? オレはキュベリオスの為に何かをそこまで出来たのか?

 キュベリオスは常にオレと一緒に居てくれた友達だ。そこに種族の差など関係無い・・・しかし、オレ達は肝心な所で通じ会えているのか?

 

「いや、関係ねぇか――なぁ?」

 

「?」

 

 オレの呟きが気になったのか、キュベリオスは顔をぐるんとオレが乗っている背に向けて来る。

 その姿に苦笑して「何でもねぇ」と答えると、首を傾げながらも正面に戻した。

 三〇メートル級の巨大な蛇が羽を生やして、空を飛んでるだけでも端から見ると怪獣のような迫力だろうが、それにしてはイチイチ行動がコミカルに見えて仕方ない。

 

「そうだよな・・お前は――だよな」

 

 今度の声はぼそりと小さい声量だったのでどうやら聞こえなかったらしい――

 

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

「――来たか」

 

 手紙に書かれていた座標で待つこと数分――指定された時間ピッタリになった頃、雲の上で相棒の背中に乗り待機していた彼女の眼前の雲から一隻の巨大な戦艦が浮き上がってきた。

 

 あれこそが、闇ギルド『悪魔の心臓(グリモア・ハート)』の動く本拠地にして、魔力を動力に動く『魔導艦艇』――今回の彼女の依頼主が指定した商談場所だ――

 

 

「ん、入って来いってか?」

 

 この場からどうやって、対話するのか彼女が考えていると、艦艇の上部の出入り口と思わしき部分が稼働し、徐々に開いていく。

 まさか、自分達のテリトリーに入れてくれるとは思わなかったので、少々意外な感情を顔に出す。

 

(入るべきか、否か――)

 

 てっきり、ここで落ち合ってから別の場所に移動するか、又は【念話】か何かで話すと思っていたが、まさか相手の懐で話すことになるとは――罠か? と彼女は勘繰るが、それも一瞬、直ぐに自分を乗せて飛んでいる相棒に、そこに行くように指示する――

 

 

 主人から指示を受けたキュベリオスは、その巨体をうねらせ、翼をそちらに向けて翻す。

 主人であるエリックに危険がないように、周囲を警戒しながら空を悠々と泳ぐように飛ぶ・・・蛇には『ビット器官』と呼ばれる器官があり、それを使って蛇は人間には見えないものを見て、感じ取ることが出来る。

 キュベリオスのそれは普通の蛇のそれを遥かに凌駕するほど鋭く、また数も多い。

 その精度たるや、微かな熱や僅かな空気の振動――果ては空気中の微少な魔力の流れすらも正確に感知する。

 それらを最大限に使ってキュベリオスは、自身の背中に居る彼女を危険から護る為に、警戒を怠らない。

 いや、いつもに増して緊張を張り詰めている・・・あの船から感じる巨大で不気味な――邪悪な魔力が否応なしに、それをさせるのだ。

 更にそれよりも遥かに劣るが、同じ様な質の魔力を『8つ』――その内1つは明らかに主人であるエリックよりも大きい。残りの七つも2ヶ月前の彼女に比べれば充分脅威となる大魔力だ。

 

 キュベリオスは考える・・・この2ヶ月で主は圧倒的に強くなった――、一対一ならば、この七つの魔力の持ち主には相性が余程悪くない限りは決して負けないだろう。いや、相性が良ければ三人ぐらいまでならば一人で勝てるかもしれない。しかし、七人同時に相手取っては勝ち目は無い。

 ましてや、あの船には彼女よりも強い者が二人――、真っ先に感じ取った一人は『人間かどうかも疑う程』に桁違いだ。対峙する場合は、『()』も全力を出さねばなるまい。そうでなければ、主を逃がすことも出来ない――蛇は覚悟を決める。

 全ては、敬愛し、尊敬する主である少女の為に――いざとなれば身を投げ出す覚悟で――

 

 かくして、一人の少女と一匹の蛇は悪魔の根城へ身を投じる。

 この邂逅が、彼女を否応なしに望まない未来に向けて歩み出す切っ掛けとなることをこの時は、蛇すらも知り得なかった――

 

 

 

 

 

 

 

 




今日で休暇は終わりなので次回から遅れそうです。

因みに、キュベリオスが感じ取った魔力は――

 一番でかい――『ハデス』
 8つの魔力――『ブルーノート』と『煉獄の七眷属』

つまり、強さ的には――

ハデス>>>>ブルーノート>>コブラちゃん>煉獄の七眷属

やっぱハデス半端ねぇッス

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