妖精世界の憑依者   作:慧春

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憑依者の護送

  

 

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「はぁ……何だって病み上がりに任務なんぞ受けなきゃならねぇんだよ」

 

 目の前で着々と護送のための準備を始めていく評議院の面子を尻目にうんざりしたように溜め息を吐く。

 

 こちとら、つい数日前に【バラム同盟】の悪魔の心臓(グリモアハート)からの依頼という名の死亡フラグを乗り越えたばかりだというのにである。

 

「結局、アレ(・・・)の試しも出来なかったしな……」

 

 アレというのは、ウルティオがオレの病室に置いていった黒蜥蜴の核に使われていたと思われる黒い魔水晶(ラクリマ)である。

 魔水晶(ラクリマ)の中の魔力がほとんど枯渇していたので最初は良く分からんかったが、あれは、オレが体内に魔法で物理的に埋め込んだ『滅竜魔法の魔水晶(ラクリマ)』と同じものであった。

 

 だが、長年酷使され過ぎた影響か、中に内包されている魔力が、俺の毒竜の魔水晶(ラクリマ)に比べれば遥かに小さかった。それこそほとんど感じ取れないほどに――だから、同じように体に埋め込んでも【闇の滅竜魔法】を使用できるようになるかは確信できなかった。

 

 だが、この時――オレの脳裏にはとある考えが過った――こんだけ魔力が少ないなら、逆に制御が容易なんじゃないか?――とな。

 

 原作において『ナツ・ドラグニル』『ガジル・レッドフォックス』の二名は、自分自身の魔力を極限まで消耗させることにより、自分とは異なる属性の魔力を食らい、自分の魔力と融合させて運用していた。

 ナツは、魔力を空にすることにより、ある意味では上位互換と言って良い『ザンクロウ』の【滅神魔法】の炎を食らい【竜神の煌炎】という技を使い。また、ラクサスの雷を食らって初めて【雷炎竜】になったときも連戦に次ぐ連戦と、マスターハデスに満身創痍まで追い込まれていた。 

 

 ガジルもまた、未来の自分に取り憑かれていた『ローグ』の【影の滅竜魔法】を食って【鉄影竜】になった時は追い込まれて、自らの魔力量が減っていた。

 

 これらは、自分の魔力が減っているからこそ――そこまで追い込まれたからこそ出来たのだとしたら?  

 

 そもそも、自分とは別の魔力を融合させるのは難しい。そうでなければ、【合体魔法(ユニゾンレイド)】が幻の奥義なとは言われない筈だ。

 そこでオレが前から思っていた【二重属性】は言わば、一人でやる【合体魔法(ユニゾンレイド)】なのではないかという仮説を試してみることにした。

 

 自分自身の魔力を空にしなくても、端っから取り込む魔力が少ないなら、失敗してもダメージは少ないと開き直ったオレは試しに――暗竜の魔水晶(ラクリマ)を食った。

 

 結論からいうとオレは『闇属性の魔力』と【闇の滅竜魔法】を手に入れた。

 だが、魔力量は増えるには増えたが、滅竜魔法の魔水晶(ラクリマ)を体内に入れたときに比べたら微々たるもんだし、【毒の滅竜魔法】と違って身に付けると同時に使い方までマスターしているなんてこともなかった。

 つまり、全然使いこなせない。

 それに、毒と闇の二重属性も出来ていない。

 これに関して言えば、オレは魔法の才能が致命的に無いため、下手をしたら爆発して御臨終なんて事もありうるので、怖くて未だ試せていない。

 

 使いこなせない力など、いざという時に何の役にも立たない。そんな訳で、本当なら退院してから暫くは修行と新たに手に入れた力の習熟に時間を使いたかったんだが、現在オレは何故かドランバルトの持ち込んだ新たな厄ネタ――もとい、護送任務に従事している。

 

「はぁ……『モード――毒暗竜!』とかやってみたかったんだがなぁ………」

 

 原作主人公や他の天生者共とかなら、新技なんぞ直ぐに使いこなして見せるだろうに……世知辛い。やはり魔導士の世界とは才能が全てなのかねぇ。

 手に入れた力は習熟していない為、余り当てにはできない。

 なら、まぁ…今ある力と手札で目の前の面倒事(しごと)向き合うしかないだろう。

 

「ま、気ぃ抜いて死んだら元も子もねぇしな……気合いをいれるかね」

 

「別によその魔導士が気負う必要はないぞ」

 

 ようやく、前向きになり始めた思考が、背中の方から聞こえてきた声に、再び後ろ向きになりそうだ。

 振り向くとやはり、面倒臭い奴が居やがった――

 

「えっと……アンタは?」 

 

「私はラハール……今回の護送任務を評議員であるオーグ様から任されている」

 

 目の前の神経質そうな長髪眼鏡は、そう自己紹介をした。

 

「へぇ……アンタが今回の責任者ねぇ……オレは――」

 

「――知っている。『エリック・ノア』。配達ギルドに席を置いているフリーの運び屋。魔導士としてもかなりのやり手らしいな」

 

 陰湿そうなメガネ――ラハールの言葉にオレはブラフではない驚きを覚える。

 それは兎も角、運び屋って呼ぶなよ。如何わしい商売みたいじゃねーか。と言いたくなるのを堪える。曲がりなりにも顧客側だ。

 

「光栄だな――アンタみたいな若くしてこんな計画を任されるような人間に名前を覚えて貰えてるなんて」

 

「ああ、君の事は同僚から聞いているし、個人的にも少し調べさせて貰った」

 

「へぇ……」

 

 同僚ってのはドランバルトだとして……個人的にねぇ。絶対少しどころじゃねぇな。

 オレがそう思っているとラハールは、俺の方に向かって歩いてきて――そして、オレの真横で立ち止まる。

 

同僚(ドランバルト)の紹介であっても、私は君を信用していない。おかしな真似はしないことだ――」

 

 ――なるほどな。こいつ、オレが『黒』――闇側だって確信してるな。

 そういう嗅覚(センサー)が優れてるのか、或いは……どちらにせよ油断はできねぇな……

 

「解った……肝に命じとくぜ」

 

「ふん……」

 

 ラハールの方を向かないまま、口角を皮肉げに歪めながらそう言うと、メガネ野郎も吐き捨てるように鼻を鳴らす。

 

「ラハール隊長! 準備が完了いたしました」

 

「――よし、対象を護送車に運び込め。分かっているとは思うが、警戒を怠るなよ――相手は聖十大魔導だ」

 

「ハッ!」

 

 ラハールのその言葉を聞き、伝令の兵士は走り去っていく。

 

 それを見つつ、今回の依頼の内容について考える……今回の仕事は護送。オレ自身が運ぶんじゃなく、大陸の西側にある重犯罪を犯した魔導士の犯罪者用の監獄に、対象――『()聖十大魔導序列7位』――『ジョゼ・ポーラ』を運ぶこと。

 本来であるなら、相手がどれだけの大物であっても、犯罪者の護送に外部の魔導士を雇い入れることなんぞあり得ねぇ……

 

「」「」「」「」「」「」「」

 

 

「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」


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