妖精世界の憑依者   作:慧春

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 難産でしたが、投稿します。少し、短いかもしれません。
 遅くなってしまい、申し訳ありません。
 今回の話は、ちょっとご都合主義かな? と自分でも書いていて思いました。


毒竜の目覚め②

 

 

 

 

「落ち着け、大丈夫だ……」

 

 翼を動かしながらこちらに向かってくる黒いドラゴンを前に見据えながら、オレは自分自身に暗示をかけるように小声でそう口にする。

 

 自分自身に【強化魔法】と【加速魔法】を使用し、筋力と速力を底上げしつつ、ウルティオに向かってくる黒竜のもとへ突撃する――考えるな。コイツは『アクノロギア』なんかじゃねぇ・・・ただの『黒い蜥蜴』だ!!

 

 脳裏に過る黒いドラゴンの残像を振り払い、全速を越えた全速で奴に近付くと、まるで鬱陶しい者を振り払うような動作で、腕をオレに向けて振るって来る――ビビんな!! 確かに早いけど、避けられない早さじゃねぇだろ!!

 

 上体を地面すれすれにまで落とすことで避ける――よし! 成功!!

 けど、攻撃の風圧で若干だが、体がブレた。

 

 今度はもう片方の手で止めを刺さんと降り下ろしてくる――あえて、風圧の衝撃に身を任せて身体を地面に倒す……

 

「コブラ!!」

 

「ノア――ッ!」

 

 心配すんなって言っただろうがッ!

 強化の魔法を右手に集中し、それで思いっきり地面を叩く――殴るではなく、柔道の受け身のように叩くというのがポイントだ――オレの肉体は地面に打ち付けた衝撃によって浮き上がり、すかさず起き上がる。

 そこから地面に足をつけた状態で攻撃を回避する――よし!

 ここ数日の筋トレによって凄まじい上昇を見せたオレの肉体と【強化魔法】によって得られた身体能力は、見事、オレの期待通りの結果を発揮してくれた。

 

 これまでのたゆまぬ修行の成果が辛うじて、オレを生かしている。

 こうしてる間にも、黒蜥蜴はオレに対して構って居られるかとばかりに攻撃を放ってくるが、全てギリギリで回避しつつ隙を探す――駄目だ!

 攻撃は大振りで動きもオレより早い訳じゃ無いのに、攻撃一発一発の威力が半端無い。まともに当たったら最後、オレの防御力じゃ致命傷に成りかねない。

 

 けど、このまま回避し続ければ、『時間を稼ぐ』という目的は果たせそうなもんだが……オレの予想が正しければ、もう少しで『隙』が出来る筈だ――その時までなんとか持たせりゃオレの勝ちだ!!

 

「ノア! 準備が出来たぞ、早くそいつから離れろ!!」

 

「了解だッ――!?」

 

 そこで、規格外の魔力をオレの研ぎ澄まされた神経は捉えた。どうやら、オレが余りにも煩わしいと思ってくれたのか、黒蜥蜴の口に魔力が収束されていくのを感じた――どうやら、先程と同じように、邪魔なオレとウルティオを同時に『咆哮(ブレス)』で吹き飛ばすつもりらしい。

 

「――来たぜッ!」

 

 だが――それこそ、オレの望んだ通りの展開だぜッ!!

 オレは膝を曲げて地面にしゃがむと、足に力を込めて、息吹の予備動作の為に一瞬身体を硬直させた黒蜥蜴目掛けて真っ直ぐに、全力かつ全速で跳んだ――そして、息吹を吐き出すために開かれていた巨大な顎に向けて全力で拳をぶち当てたが、微かに首から上が揺れた程度で全然効いてる感じはしない……だが、ここまでは予想通り――問題ない。

 

暗竜(アンリュウ)ノ――】

 

 ――させるか!!

 

「【竜撃(インパクト)!!】」

 

 奴の胸が膨らみ、凄まじい魔力が吐き出されようとした瞬間――それに負けないように全力で魔法を発動させるための『キーワード』を叫んだ――オレの右腕に装着された手甲から、カートリッジが煙と共に吐き出され――次の瞬間、轟音と一緒にオレの右腕から、魔力による衝撃が放出された!!

 

 

 『竜撃手甲』――こいつの中には、魔力を溜め込むための魔水晶(ラクリマ)がカートリッジとして内蔵されており、その魔水晶の中に所持者の魔力を溜め込んで、使い手がキーワードを口にすることで、その魔力を物理的な衝撃に『変換』して『放つ』という魔法が組み込まれている。

 こいつは本来ならば、遠距離の敵に対して衝撃波で攻撃するのが用途だが、オレはこいつに対して、ゼロ距離で使用が可能なようにフレームを強化する改造を知り合いに頼み、遠近のどちらでも使えるようにしたのだ。

 

 オレは肉体的にも魔力的にも平均よりも大分上なうえに魔法も複数使える所謂『バランス型』の魔導師だ。

 あらゆる状況に対応できる汎用性がオレの強みだが、同時に『これ』という必殺を持たない『器用貧乏』でもある。

 なので、オレは自身の素の攻撃力では通らない防御を持った敵に対しては決定打がない。そういう敵と遭遇した場合オレは基本的に逃げる事を第一に考えるが、そうもいかない場合は、足りない攻撃力は道具や状況で補って戦うしかない。

 

 そんな訳で今回こいつを使った訳だけど、伊達にこの数日間の間魔力を込め続けてはいない。こいつの中に溜め込んであった魔力量は、万全の状態のオレの魔力を優に越えるほどだった。

 

 これが、オレが今出せる最強の攻撃――だが、1つ問題がある。

 この攻撃は、『衝撃波(・・・・・)』なのだ。遠距離に飛ばすのなら何ら問題は無いのだが、それだと目標に着弾するまでの間に大きく威力が減衰してしまう。

 それを克服する為に、今回は零距離でぶっ放した訳だが、それでは威力を100%伝えられる分、反動もほぼ100%こちらに来る訳で………

 つまり何が言いたいのかと言うと………

 

「――右腕が潰れるように痛てぇ!?」

 

 反動で後方へ吹っ飛んだオレの肉体は無様に地面を転がり、全身に傷を創っていく。

 しかし、オレはそんなことを気にする事無く、絶え間無く押し寄せてくる壮絶な右手の痛みに脂汗を掻きながら、奥歯を噛み締めて堪えながら黒蜥蜴を見るとその巨大な頭部が天を向いていた。

 そして、オレの【竜撃(インパクト)】を顎で受けたが故に衝撃で顎がかちあげられ、ブレスを吐き出すために開かれていた口は閉じられた――よし、こっちの狙い通り!

 

「てめぇのブレスで吹っ飛びやがれ!」

 

 次の瞬間、オレの狙った通り、肺に貯められた魔力が吐き出される直前に口を閉じたことで、口内で轟音と共に爆発した。

 竜の鱗は自身と同族性の攻撃を一切通さないが、さすがに内部は別だろう。現に黒蜥蜴の頭部は形こそ健在だが、所々に骨が見えるぐらいに傷付いている。

 

「やれぇッ! ウル!!」

 

「ああ!」

 

 頼もしい返事と共に、ウルティオは空に指を走らせてで陣を描く――ウルティオの正面に球体形のかなり複雑な魔法陣が構築されていく。

 

「なんだありゃ?」

 

 魔法陣が構築されていく度に、ウルティオの魔力どころか、周囲に漂う魔力すら取り込んで急激に完成して行く。

 まるで某魔王少女のピンクの光線みたいだ。

 

「あれは――【天照式】か!?」

 

「ぐぅ! 天照つーと……」

 

 オレは気を抜けば気絶しそうな程の激痛に耐えながら、記憶を漁る。

 天照――確かハデスが原作で使ってたアレか……マカロフを一撃で瀕死にまで追い込んだ魔法だったな。

 こっちの世界に来てからというものオレは自分で魔法を開発することに憧れて(結局、才能が無いので挫折した)魔法の知識だけは勉強して蓄えていたので、天照についても多少の知識はある。

 でも、あれにあんなどこぞの魔王の魔力収束みたいな効果は無かった筈だぞ。あくまでも全ての魔力を使用者が全て賄い、それによって威力が増減するっていう良くあるタイプの魔法の筈だ。

 

「マスターハデスが独自に進化させたという【天照式魔法】の発展系……本来であるならば『二十八式』までしかない筈だが、それを大幅に強化したのがアレだ――最もアレもかなりマスターの物と違う術式が使われているね。恐らくはマスターのそれを土台にしてウルティオが自分に合うように手を加えたのだろう……」

 

 マジかよ……いや、ウルティオが天才ということは知ってるけど、まさかそっち方面にも才覚が在るとは……やっぱ天は二物を与えずって嘘じゃねーか!!

 人によっちゃ二物も三物も与えるってか?

 くそ! 差別だ差別!

 

「食らえ――【天照百式“改”】」

 

 オレの内心の葛藤は別にウルティオの魔法は発動し、辺りは目も眩むような魔力光で覆い尽くされる。

 そして、膨大な量の魔力がオレ達からたった数mの距離で爆発した――あんな量の魔力が爆発なんぞしたら、普通はオレ達所か、この部屋その物が吹き飛びそうなものだが、流石はウルティオ……キチンと範囲を絞ってある。しかも、その分攻撃力も上昇させてる……

 オレが今までに見た中でもトップクラスにヤバイ威力だ。これなら行けるか?

 

 そう思い、ウルティオの桁違いの威力の魔法により、舞い上がる粉塵の方を見る――そして、オレの性能の良すぎる聴覚は、その音を拾った。

 

「まだた――ッ!!」

 

 オレは咄嗟に叫んだ。

 

【ハイ、ジョ……ハイ…ジョ……スル――】

 

「な……に………!?」

 

「まい…ったね……あれ…でも、無理なのか!」

 

 

 粉塵の中から現れた、黒竜の姿を見たオレ達は今度こそ、足元から崩れ落ちそうな無力感を味わう……だが、次の瞬間――オレの中に僅かだが、光が見えた気がした。

 

 姿を表した、黒竜の姿は――ボロボロだった。

 鋭利で頑強そうな鱗は所々が砕け、巨大な翼は片翼が消失し、頭部の半分が崩れ落ちており、無機質な眼光が右目だけになっていた――

 

 明らかな満身創痍と言った風体……ウルティオとアズマは、その傷で尚もこちらに迫り来る黒竜の姿に戦意が消失しかけている。

 なるほどな……確かにこれは恐い……出来るのなら今すぐにでも逃げ去りたいぐらいだ。オレも恐怖を拭い去ることが出来ない。

 

 だが、沸き上がる恐怖とは裏腹に、オレの頭の中は別の事に思考を走らせた――『竜って……滅竜魔法でしか傷つけられない筈なんじゃ……』というのがオレの考える疑問――

 

『もしかして――あれは竜じゃないのか?』

 

 オレは、アレが――骨から再生する光景を見ている。なので、これは一種の自己暗示だ。

 未だにオレは竜に対する恐れを『克服』はできてない。さっきまでの立ち回りは、竜に対するものとは別種の『恐怖』……仲間を失うかもしれないという『恐怖』が竜に対する恐怖を一時的に塗り潰しただけなのだ。

 だから、竜に立ち向かうことは出来ない――そんなことは考えただけで足が竦み上がる。

 

 

 だが――もし、アレが竜じゃないなら?

 

 

「カッコ悪すぎだろ!」

 

 屈して堪るか!

 もう、あんなにボロボロの黒蜥蜴なんぞに――

 

「舐められて……堪るかよッ!!」

 

 クソッタレ、今でもオレはアクノロギアが恐い…目の前にしたら、多分漏らすか、そうでなくても泣きながら無様に背を向けるだろう。

 だが――似てるってだけで『竜』ですらないゾンビごときに負けて堪るかよッ!

 

「ウル……ティオ、あとどれくらい余力があるよ?」

 

 ウルティオに尋ねる、驚くような表情を見せる――そして、その後で清々しい笑顔でこう言い放った――「あと一撃だ」――と。

 

「ウルティオ……お前を『信じる』。お前のタイミングで、その最後の力を使って死ぬ気で攻撃しろ!」

 

 こうなりゃ、オレの中に在るのは反骨心だけだ。

 最後まで足掻いてやる。

 

 そう、思ったとき――自分の中で『何か』の歯車がカッチリ嵌まったような感覚がした。

 

「あ、がっ!?」

 

 何だ――? なんか、胸が熱い……この感覚はさっきの……いや、胸だけじゃねぇ……これは――

 

「ノア!? なんだ、その『腕』は――?」

 

「――は?」

 

 いや、ちょっと待ってくれウルティオ……オレにも状況が良く解らん。

 気が付くと、オレの両腕の肘から先が、毒々しい爬虫類を連想させる『鱗』で覆われていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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