この砂漠の世界に人間が三人いるという報告を聞いた俺とアインズさんは、それからしばらくした後、ナザリック地下大墳墓にいたシモベを連れてその人間達の元に向かうことにした。
シモベというのはユグドラシル時代に俺とアインズさん、そして今はもう会えないギルドの仲間達がナザリック地下大墳墓と創造した防衛用NPCのことだ。彼らは最初の異世界転生の時に自分の意思を持った存在となると、俺とアインズのことを神のように見て絶対の忠誠を誓ってくれている。
ナザリック地下大墳墓のシモベ達は非常に強くて優秀なのだが、たまに彼らの忠誠が重すぎるように感じるんだよな……。
まあ、それはともかく、発見した人間達の元に向かうメンバーはまずアインズさんと俺。次にナザリック地下大墳墓のシモベ達を統括している翼を生やした美女の姿をしたシモベのアルベド、アインズさんの執事をしている老紳士の姿をしたシモベのセバス。後はアインズさんが魔法で作り出した十数体のアンデッドモンスターだ。
『……あの、クモエルさん?』
砂漠を進んでいるとアインズさんが念話で話しかけてきた。
『何ですか、アインズさん?』
『何でクモエルさんは隠密スキルで姿を消しているんですか?』
そう、アインズさんが言う通り、俺は今ユグドラシル時代に獲得した隠密スキルを使って姿を消していた。他にも姿を消す以外の隠密スキルをいくつか使って足跡や足音にMPなどの様々な情報を隠蔽していて、アインズさん達もあらかじめ俺が付いてきていると知っていなければ気づかないと言ってくれた。
『……何となく嫌な予感がしたから念のためですよ。それにユグドラシル時代、こういう場面ではいつも姿を消していたでしょう?』
『こういう場面?』
念話で聞こえるアインズさんの声だけで彼が内心で首を傾げているの分かる。……やっぱりアインズさんってば人間達を見つけた嬉しさで浮かれているな。この人、たまにこういうところが出でくるんだよな。
『……初対面の人達と交渉とかをしていた時ですよ。ユグドラシル時代、今みたいに俺達に近づいてきたのは半々の確率で騙し討ち目的の敵だったでしょう?』
『あっ……!』
ここまで念話で伝えたところで、ようやくアインズさんも俺が言いたいことを理解してくれたようだ。
ユグドラシル時代に俺とアインズさんが所属していたギルド「アインズ・ウール・ゴウン」は色んな意味で有名なギルドだった。
アインズ・ウール・ゴウンはアバターが所謂怪物の「異形種」であるメンバーのみで構成されていて、更には主な活動内容の一つが「異形種を対象にPK行為をするプレイヤーに逆にPK行為をするPKK行為」であることから、多くのプレイヤーから恨まれていたのだ。
だから異形種プレイヤーを差別するプレイヤー達がパーティーやギルドでアインズ・ウール・ゴウンに戦いを挑んでくることなんてよくあることで、敵対するプレイヤー達の中には表面上は友好的に振る舞ってこちらを罠にはめようとする奴だっていた。
罠にはめようとする奴らは大体、同盟の話や大規模なクエストを協同で攻略しようといった話を持ちかけてきて、それらの交渉をするためにこちらが出てきたところで襲いかかってくるのだ。今までそんな奇襲を受けたのは十回や二十回どころの話ではない。
俺はアインズさんがそういうキナ臭い交渉に向かうときは隠密スキルで姿を隠して彼の護衛についていて、そんな俺の勘が「これから会おうとする人間は怪しい」と警告を出しているからこそ、俺は隠密スキルを使ってこっそりとアインズさん達についているのだった。
『そうだった……。これから会う人間達がPKのような騙し討ちをしてくる可能性もあったんだ。……すみませんクモエルさん。どうやら俺は少し浮かれていたみたいです』
『気にしないでくださいよ。アインズさんが表に立ってそれを俺が裏で支える。いつものことじゃないですか?』
念話で謝罪をするアインズさんに俺はわざとおどけて答える。
俺とアインズさんは十年以上前にユグドラシルを始めたばかりの頃からの仲間で、今までどんな戦いもこのコンビで勝ってきた。だからここがどんな異世界で、どの様な敵がいても彼と一緒ならまあ、なんとか大丈夫だろう。
『……はは、それもそうですね。では行こうか、我が盟友クモエルよ。丁度向こうもお出ましのようだからな』
アインズさんは念話で小さく笑うと、その直後に今の魔王のような姿にピッタリな威厳のある口調で話しかけてきて、彼の言う通り遠く離れた先には米粒のような三人の人間の姿があった。