【休止中】番長が異世界から来るそうですよ?   作:赤坂 通

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第一話

 ―――箱庭二一〇五三八〇外門居住区画、第三六〇工房

「……うまく呼び出せた? 黒ウサギ」

「みたいですねぇ、ジン坊ちゃん」

 黒ウサギと呼ばれた一五、六歳に見えるウサ耳少女は、肩を(すく)ませておどける。

 その隣で小さな(たい)()に似合わないダボダボなローブを着た幼い少年がため息を吐いた。

「本当に何からなにまで任せて悪いけど……彼らの迎え、お願いできる?」

「任されました!」

 ピョン、と跳ねてから走りだし『工房』の扉に手をかけた黒ウサギに、少年は不安そうな声をかけた。

「彼らの来訪は……僕らのコミュニティを救ってくれるのだろうか」

「……。さぁ?ここまで来たら後は運任せノリ任せって奴でございますね。けど<()()()(いわ)く、これだけは保証してくれました」

 くるりと扇情的なミニスカートを(なび)かせて振り返る。

 おどけるように(いた)(ずら)っぽく笑った黒ウサギは、

「彼ら()()は・・・人類最高クラスのギフト保持者だ、と」

 

            ※

 

 上空4000mから落下した()()は、落下地点にあった緩衝剤のような薄い水幕を幾重も通ってから湖に投げ出される。……若干一名を除いて。

「きゃ!」

「わっ!」

「ぐおっ!」

「グボベラァ!!????」

 

 ボチャンと着水する三人。そして地面に頭から直撃する一人。水幕で勢いが衰えていたため三人は無傷で済んだが、地面に頭から落ちた一人はそうはいかない。

 着水した三人のうち二人はさっさと陸に上がり罵詈雑言を吐き捨て、一人は猫を助けていた。

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃ……あいつみたいにゲームオーバーだぜこれ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

「……。いえ石の中に呼び出されては動けないでしょう?それよりこの……地面に落ちた不運な方はどうしましょう?」

「石の中でも俺は問題ない。まだ動いてるし引っこ抜けばいいんじゃないか?」

「そう。それじゃぁ引き抜いて頂戴」

 二人の男女はフン、と互いに鼻を鳴らして服の端を絞りながら地面に頭から突き刺さっている人に近づく。

 

てい(・・)

 

「……そうだな。石の中に呼ばれた方が親切だ。石頭じゃなきゃ死んでるところだ」

 

「……。勢いが落ちていたとはいえ無傷ってどういうことなの?」

 そう、地面に頭から落ちた長井番一は傷の一つもなくどちらかと言えば土で汚れている方の被害が甚大だった。

 

 服の端を絞りながら近づいてくる少女と体を震わせて水を弾く猫。と、少女が呟く、

此処(ここ)……どこだろう?」

 その呟きに番一を引き抜いた男が番一を投げ捨てながら答える。

「さあな。まぁ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねぇか?」

「あり得そうだなそれ。地球だったら確か丸いはずだし」

 何にせよ、彼らが知らない場所であることは確かだった。

 

 適当に服を絞り終えた番一を引き抜いた男は軽く曲がったくせっぱねの髪の毛を掻きあげ、

「まず間違いないだろうけど、一応確認しておくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

「そうだけど、まずはそのオマエって呼び方を訂正して。―――私は久遠(くどう)(あす)()よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている(あな)()は?」

「……(かす)()()耀(よう)。以下同文」

「そう。よろしく春日部さん。そちらの地面に突き刺さっていたザ・番長という風な格好のあなたは?」

「俺は(なが)()(ばん)(いち)だ、見てくれの通り元の世界では番長をやってた。よろしく頼むぜ飛鳥」

「……。さっそく呼び捨て? まあいいわ。よろしく番一君。最後に野蛮で狂暴そうなそこの(あな)()は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で狂暴な(さか)(まき)()()(よい)です。粗野で狂悪で快楽主義者と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

「そう。取扱い説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

 

 心からケラケラと笑う逆廻十六夜。

 (ごう)(まん)そうに顔を(そむ)ける久遠飛鳥。

 我関せず無関心を装う春日部耀。

 ガハハと豪快に笑う長井番一。

 

 

 そんな彼らを物陰から見ていた黒ウサギは思う。

(うわぁ……問題児ばっかりみたいですねぇ……というより呼び出したのは御三人様じゃ……)

 召喚しておいてアレだが……彼らが協力する姿は、客観的に想像できない。黒ウサギは(いん)(うつ)そうに重くため息を吐くのだった。

 

            ※

 

 十六夜は苛立たしげに言う。

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねぇのか?」

「そうね。何の説明もないままでは動きようがないもの」

「……。この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」

(全くです)

 黒ウサギはこっそりツッコミを入れた。

 もっとパニックになってくれれば飛び出しやすいのだが、場が落ち着きすぎているので出るタイミングを計れないのだ。

 

 

「それよりひとつ聞きたい、招待状ってなんだ?俺は夢みたいな、変な体験をしてその結果本を開いたらここに飛ばされた。さらに地面にぶつけられた。この怒りはどこに向ければいい?」

 

 

(おや……一人多いのはあの方ですか……それより()()()()()()()()()()()と……?)

「―――それなら、()()()()()()()()()()()()向けるといい」

 物陰に隠れていた黒ウサギは心臓を掴まれたように飛び跳ねた。

 

「なんだ?やっぱりあいつが俺を呼びだした奴か?」

「なに、貴方達も気づいていたの?」

「当然だ、俺はかくれんぼじゃ負けなしだぜ?ってか番長も気づいてたんだなそっちの猫を抱いている奴も気づいていたんだろ?」

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

「……へえ?面白いなお前」

「というより。あれは隠れているに含まれないだろ?『頭隠して(ケツ)バット』とは(まさ)にこの事だな、ガハハハハ!!」

「……。それを言うなら『頭隠して尻隠さず』だ。覚えておけ」

 軽薄そうに笑いつつ注釈を番一に入れる十六夜の目は笑っていない。四人は理不尽な召集を受けた腹いせに殺気の()もった冷ややかな目線を向ける。

 

「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼は黒ウサギの点滴でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いて頂けたら嬉しいでございますヨ?」

「断る」

「却下」

「お断りします」

(ケツ)バットフルスイング一発」

「あっは、取りつくシマもないですね♪若干一名様を除いて♪」

 バンザーイ、と若干冷や汗をかきながら降参さんのポーズをとる黒ウサギ。

 しかしその眼は冷静に四人を値踏みしていた。

(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。まあ、扱いにくいのは難点ですけども)

 黒ウサギはおどけつつも、四人にどう接するべきか冷静に考えを張り巡らせている―――

 と、春日部耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、黒いウサ耳を根っこから鷲掴み、

 

 

「えい」

「フギャ!」

 

 

 力いっぱい引っ張り引き抜こうとした。

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

「好奇心の為せる(わざ)

「自由すぎるにも程があります!」

「へぇ?じゃあこのウサ耳って本物なのか?」

 今度は十六夜が右耳を掴んで引っ張る。

「……。じゃあ私も」

「よしそのまま掴んでおけ二人とも。少し浮かしてくれると助かる。一発シバかないと気がすまん」

「ちょ、ちょっと待――――!」

 

 今度は飛鳥が左から引っ張り、番一が背後でバットをフルスイングの態勢で構える。

 左右に力いっぱいウサ耳を引っ張られ、キュートなお尻にも(ケツ)バットを撃ち込まれた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に()(だま)した。




―――はいどうも赤坂です。そして第一話目です。
いかがだったでょう?
本格的に始動していきますが、更新頻度はあまり高くないと思ってください。
気分が乗ると2時間程度で今回分ぐらいの量は書けますが…(汗)
誤字、脱字ありましたらお伝えください随時直していく予定です。

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