【休止中】番長が異世界から来るそうですよ?   作:赤坂 通

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第十九話

―――噴水広場を越えた先、ぺリベット通り。

<サウザンドアイズ>を出た番一は先に行った皆に追いつくため走っていた。

バットを肩に掛け、反対の手に握っているものは三枚(・・)の紙。そのうちの一つ紙切れともいえる小さな紙にはただ一言、

『任せた』

とだけ書いてあった。外門のナンバープレートは、ギフトカードに収納してある。

(いやいや、まさか白夜叉が手伝ってくれるとは思わなかったな。そこらへんは割り切ってるイメージがあったんだが……まぁありがたく貰っとくか、調べる手間が省けた)

と考えたところで、三人の声が聞こえ、後姿が見えた。

黒ウサギのウサ耳を飛鳥が掴んで引っ張って、黒ウサギがあられもない悲鳴を上げていた。

少し後ろでニヤニヤと見ている十六夜に番一が不思議そうに話しかける。

「……。なにやってんだ、どういう状況?」

「ん?おう番長か。なに、お嬢様と黒ウサギが遊んでるだけだ」

「へぇ……あ、そうだ。十六夜にちょいと話があるんだ」

「俺にか?体育館裏なら喜んでお受けするぜ?」

「いや、違うんだが……っと、帰った後でな」

二人の(たわむ)れも終わったようでいったん話を切り上げた。

今後どうするにしても、まずはジンや耀と話さねばならない。

四人は一度<ノーネーム>の本拠に戻ることにするのだった

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

―――それから三日後。黒ウサギはジンに謹慎処分を受けていた。

自室の窓に滴る雫を指でなぞりながら、雨の振る箱庭の都市を見る。

とはいえ、この雨。定期降雨……つまりは人工降雨であり、ありもしない雨雲を<ある>と錯覚させた上で降らせているものである。

はっきり言ってかなり無駄な高等技術である。水が欲しいなら外で雨が降ったときに天幕を開けるか、もしくは雨雲の演出なんてせずに水を撒けばいいだけだ。

これほどの奇跡の御技を趣味嗜好(しゅみしこう)で振るうことが許される懐の広さも、箱庭らしいのだが。

(まぁ、箱庭の機能なんて娯楽で設置される物が殆どですし、気にしたら負けかな)

雨風は風物詩を彩る大事なファクターの一つ。古来天運天災に身を潜める修羅神仏にとって、雨雲の有無というのは意味合いが大きい。

雷雲を伴う嵐なら、それは龍の仕業だと崇め、

お天気雨ならどこぞの僻地で魔法使いがチーズを作っている、

ということになる。

(そういえばレティシア様は雨が苦手でしたっけ。血の臭いが湿気と共に立ち籠めるのは宜しくない、とか何とか)

吸血鬼の癖になにを言っているのやら。思い出して黒ウサギは苦笑した。憂鬱(ゆううつ)そうに窓の外を眺めていると、コンコンと控えめなノックが響く。

「はーい、鍵もかかってますし中に誰もいませんよー」

「入っていいってことかしら?」

「そうじゃないかな?」

声は久遠飛鳥と春日部耀のものだ。

少しネタに走ったのだ。そうとられても仕方ないかもしれないが、『誰もいない』と主張して『入ってよし』と即座に判断するのはどうなのか。

「あら、本当に鍵がかかってるわ」

「ん……ホントだ。こじ開ける?」

がちゃがちゃとドアノブを回す二人。黒ウサギは観念して立ち上がった。

「はいはい、今開けます!御二人はもう少しソフトに、というかオブラートにですね」

「いっそ壊しましょう?」

「そうだね」

バキンッ!

「オブラァァァァァァァァアット!!」

「「五月蝿い」」

問題児相手には木製のドアノブはあまりにも無力だった。

黒ウサギは破壊されたドアノブを片手に、ウサ耳を垂れさせ、しくしくと泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 

流した涙もそのままに、自前の湯沸かし器でお茶を入れる。その間に二人は持ち込んだ布袋を小皿に広げる。中には手作りと思われるお菓子が入っていた。

「……まさか御二人が?」

「いいえ、コミュニティの子供たちが作ったのよ」

「『お願いですから黒ウサギのお姉ちゃんと仲直りしてください』って狐耳の女の子や他の年長組みの子が」

三人はなんともいえない複雑な表情を浮かべる。

思い返せば三日前。本拠に帰ってからジン、耀に事情を説明したところ、二人とも黒ウサギを引き止めた。

誰に悪気があったわけでもないがついカッとなって言い過ぎた。

飛鳥も参加して大惨事となり、結局、全員頭を冷やすために謹慎ということになったのだ。

傍観者に徹していた番一と十六夜は二言、三言二人で交し合った後、皆に「空気に耐えられないので遊んでくる」「ちょくら箱庭で遊んでくる」と言い残したまま二人共に一度も帰ってこない。

もしかしたら<ノーネーム>に愛想をつかしたのでは、と誰もが思った。

そんな剣呑(けんのん)な空気を子供たちは察したのだろう。

自分達で何かできる事を、と必死に考えた結果がこの小皿の上のお菓子だった。

「子供って卑怯だわ。あんな泣きそうな目でお願いされたら断れるのは鬼か悪魔ぐらいよ」

「ダメだよ飛鳥。きっかけをくれたんだからちゃんと仲直りしないと」

フン、と顔を背ける飛鳥となだめるよう耀。

それを見た黒ウサギは、困ったように笑った。

「そうですね……黒ウサギたちがしっかりしないと、コミュニティのみんなが困りますよね」

「そういうこと。だから他所に行かせるわけには行かないわ。このコミュニティの中心はジン君でもなければ私たちでもない。ずっと一人で支え続けた貴女なのよ、黒ウサギ」

「……はい」

任された子供達のこと。招き入れた皆のこと。

全てを背負っているのは他でもない黒ウサギ自身なのだ。

「……飛鳥から聞いた話だけど。黒ウサギの言う<月の兎>ってあの逸話の?」

「YES。箱庭の世界のウサギ達は総じて同一の起源を持ちます。それが<月の兎>でございます」

場の話題を変えるように、耀が黒ウサギに質問をした。

しばらく話し合い、次第に話の内容はどうすれば<ペルセウス>と血統に持ち込めるのかへと変わっていった。

 

 

―――降りしきる雨の中、バチャバチャと慌しく本拠に駆け寄る影と、黒ウサギの部屋の扉に移る影に気づくこともなく。

 

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 

「邪魔するぞ」

ドガァン!という激しい音と共に黒ウサギの部屋の扉が大破する。

同時に十六夜が袋を脇に抱えて現れた。

「い、十六夜さん!今まで何処に、って破壊せずには入れないのでございますか貴方達は!?」

最早(もはや)諦めていたが、開いているドアをわざわざ破壊して入ってくるなど嫌がらせでしかない。

しかしこの十六夜、悪びれるつもりなどまったくないように肩を(すく)ませた。

「だって鍵かかってたし」

「あ、なるほど!じゃあ黒ウサギの持っているこのドアノブはいったい何なんですかこのお馬鹿様!!」

ドアノブを力いっぱい投げつける。

十六夜はヤハハと笑いながら、脇に抱えている大風呂敷で受け止めた。

その大風呂敷を不思議そうな目で耀が見る。

「それ、なにが入ってるの?」

「ゲームの戦利品だ。―――その反応だと番長はまだか」

少しだけ広げて、耀に覗かせる。すると耀の表情が見る見るうちに変わった。

「――――――…………これ、どうしたの?」

「戦利品だって言って……る……?」

と、十六夜はそこまで言って口を閉ざし、そして(いぶか)しげに部屋の窓を見た。

黒ウサギも、耀もほぼ同時に振り返り窓を見て、飛鳥も一瞬遅れて釣られるように見る。

外から、ズドドドドド!という足音と共に声が聞こえてきた。

最大音量、まるでカラオケで歌のサビを歌うように、轟く。

 

 

 

 

 

 

「最後のぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!ガラスをぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「え、ちょ、それはほんとにやめ――――――!!!!!!」

「「「ブチ破れぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!!!」」」

 

 

 

黒ウサギが、察し、叫び。十六夜、耀、番一の声が重なる。

バゴォオン!という破砕音と共に番一が黒ウサギの部屋に飛び込んできた。

ガラスをブチ破るというより、窓ガラスのフレームごと部屋の壁が削り取られる形だった。

 

両手に窓ガラスのフレーム付きの壁を両手にもった番一がいい声で黒ウサギの顔を見て、告げる。

 

 

「ただいま!」

 

 

 

「何でですかあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」

 

「お帰り番長、俺の勝ちだぜ。ヤハハハハ!」

「なん…………だと…………!?」

十六夜が動じずに勝利宣言し、耀が間一髪で拾い上げたお菓子をパクパクと食べ、飛鳥がネタについていけず困惑しながらも皆のティーカップ等を安全圏に避難させていた。

窓と壁だったものを持っている両手をワナワナと震わせ、雨の入り込む、元あった場所から外に投げ捨て、がっくりと膝を突いて床を拳で叩いた。

「これじゃあ黒ウサギの部屋の壁を壊した意味がねぇ!!」

「この、この!問題児様ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

ウサーッ!!と髪を緋色に染めながら本気も本気で怒る黒ウサギ。

扉を失い、果てには壁まで持っていかれた。修理費は一体どうすればいいのか。

いや、それよりもなぜこんな傍迷惑(はためいわく)な登場をしたのか、もう何処から怒ればいいのかわからない。

 

 

「……とりあえず部屋、変えようか」

「……そうね」

 

ヤハハと笑う十六夜に悔しがる番一、傍らで怒る黒ウサギを横目に二人は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

―――それからしばらく経った後、<ノーネーム>貴賓室。

破砕音にジンが駆けつけたり、子供達が怖がっていたりしたが、少し目を離したら何故か壁もドア(・・・・・・・)も直っていた(・・・・・・)

全員で首をかしげたものの、とりあえず直ったことで黒ウサギの溜飲は下がり、若干キレ気味だが落ち着いてくれた。

 

 

「それで、結局御二人は……」

「おう、ペルセウスへの挑戦権を手に入れるために奔走してた」

「俺は攻略のための情報収集も兼ねてな」

貴賓室のテーブルの上には<ゴーゴンの首>の印がある(あか)(あお)の宝玉が置いてあった。

三日前、番一は十六夜に話を通し、二人で手分けしてこの宝玉を手に入れに行っていた。

その割には日にちがかかったのだな、と思い聞いてみると、

「ちょっと調べたいことがあってな、番長にハンデ代わりに帰らず調べてた」

十六夜はこう答え、

「攻略自体は一日どころか一瞬で終わったんだが、帰り道に迷って、何だっけな。……陸の、陸のなんたらっていう奴とオマケで戦ってた」

番一はこう答えた。

 

「え、陸の何たらってまさか陸の王者……!?」

「ま、それについては後でいいだろ。とりあえずこれで<ペルセウス>への挑戦権はそろったわけだし宣戦布告といこうや」

「……。おう番長絶対に言えよな。またのらりくらりと逃げんなよ?」

「いつ俺が逃げたよ?『暇な時に話す』って何度も言ってるだろ?」

黒ウサギが驚愕した目で、十六夜がイラついたような目で、番一を見ていたが、当の本人はなんら気にしない。

 

「とりあえず、二人とも」

「あのねぇ、十六夜君、番一君?」

耀と飛鳥が突然立ち上がって二人の後ろに立った。

「うん?なんだ」

「どうした?」

ゴツン!とチョップをそれぞれの頭に落とす。

「「次から一声かけること!」」

番一の頭に割と強めにチョップを落とした飛鳥が痛そうに手を揉んでいる。

 

「いや、悪かったな。今度から気をつける」

「ああ、次からは声をかけるぜ」

そう返した二人の言葉に黒ウサギが(次を想定しているのですか……)と心の中で呟くも頭を振って、宣言した。

 

「わかりました。ペルセウスに宣戦布告します。我等の同士・レティシア様を取り返しましょう」




……どうも赤坂です。
お 久 し ぶ り で す。
PCリセットしたり、登録した辞書が消えて作業効率がた落ちしたり。
久しぶりすぎて自分で書いたストーリーが思い出せず一回全話読み直したりして遅れました。
二月中に終わらせたい。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。


※3/12 ストーリー構成上でおかしかった点を修正

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