―――二一〇五三八〇外門、噴水広場付近。
<サウザンドアイズ>を去り、町中を駆け<フォレス・ガロ>の本拠に番一は向かっていた。
「ギフトゲームはまだ終わってねえだろうな……!?」
番一はそう呟きながら一度通っただけでまだ不慣れな道を全力疾走していると、突風を巻き起こしながら建物の屋根を走り去る影を見つけた。
恐ろしい速度で首を振り返らせその影の後ろ姿を視認し、
「ウサ耳……黒ウサギか!?」
そう叫んだ次の瞬間には方向転換し、黒ウサギの隣にぴったりと付いて共に走る。
「どうした黒ウサギ。ゲームは?それと抱きかかえられてる耀はどうした?」
そう、突風を出すほどの速度で走る黒ウサギは多少の手当てはされているものの明らかに怪我をしている耀を抱きかかえていたのだ。
「ば、番一さま!ゲームは終了しました!耀さんが怪我をしたので治療の為に本拠に戻る所です!」
「マジかよ!?もう終わったってのかクソ!」
悔しがる番一を横目に黒ウサギは驚きの表情で番一に問う。
「え、ええ。というより結構全力疾走なのですが、なんでついて来られ
「ば、番長……」
と、そこで耀が辛そうな、小さな声で番一に話しかける。
「どうした耀!死にそうか!?死にそうなのか!?」
「……お腹空いて死にそう。串焼きのいい匂いがしたから買ってきて」
「お、おう。わかった」
「あ、お金渡しておきますね」
※
「それで?ゲームは結局どうだったんだ。ガルドはそんなに強かったのか?」
「ううん……どちらかというと……私の失敗」
番一はその後、串焼きを持って治療が終わった耀の見舞いに来ていた。
ちなみに、番一が買ってきた串焼きは六本であり、黒ウサギが渡したお金は精々、一~二本買える程度だったため黒ウサギが番一を不審な目で見ていたのは余談である。
「失敗って言うと?」
「……。独断専行、かな」
「独断専行して怪我しちゃ元も子もないな。ちゃんと仲間を信じて複数対一で戦うのが定石だ」
そう言って首を縦に振る番一に、春日部は質問を投げかける。
「番長は一人で戦うイメージあるけど、仲間を頼る事ってあるの?」
「そりゃあるさ。まぁ肩並べて戦える奴は少ないから基本は一人だが、さすがに五十対一とかそんな時は……俺でさえ友を頼ってた」
「その番長の友達って強いの?」
「おう!俺の目標だ。何時かアイツを叩きのめせるようになりたいんだが……アイツは理不尽の塊だからな……」
「理不尽?」
「ああ。例えばだが……おれが『百』強くなったらアイツはその間に
「何もしないで強くなるって、あり得るの?」
「まぁ普通に考えればあり得ない、が答えだ」
番一は腕を組んで悩む。
「……だが、アイツならやりかねないし、そもそもアイツに勝つには『初期ステータスの時点で圧倒的に勝ってなければ』勝てない……と思うんだが」
絞り出した回答に耀は首を傾げるので番一は肩を回して再び答える。
「あー……。要するに、アイツはおそらく『
そこまで聞いて耀は納得したように首を振る。
「つまり……番長じゃいつまでたっても勝てない?」
「……そうなるな。あーもうこの話は止めだ!この場に居ない俺の友の話してもどうにもならん!耀!今は安静にして寝てろ!じゃあな!」
苦々しい顔をしながらそう言い放ち、頭を掻きながら番一はその場を後にした。
そうして扉を開けて出たところで扉の横で体育座りで待っている黒ウサギに番一は声をかける。
「で?黒ウサギは何故扉の前で体育座りで待っているんだ?」
「番一さまに相談がありまして」
「おうなんだ?引き受けた」
「とあるギフトゲー……って引き受けたって言いました?相談前に受け入れ確定ですか!?」
番一は
「別に『生贄となり、超魔王復活の為の糧となるがいい!』とかどう考えても言わないだろ?だとしたら引き受けるでファイナルアンサーだ。内容をどうぞ」
「あ、はい。あるギフトゲームに参加していただきたいのです」
ギフトゲーム、と聞いて番一は首を捻る。
「どういうゲームだ?頭脳戦なら十六夜に任せた方がいいと思うぞ、俺は切った張ったぐらいしか得意じゃないんでな」
「ゲーム内容は正式発表がまだなので分かりませんが……賞品は
「賞品だけ先出発表、か。開催日は?」
「そ、それもまだでして……ただエントリーが今日から開始なので後で行く予定です」
「ふーん……分からないことだらけだな。というか白夜叉に口裏合わせるなり手引きして貰うなり出来ないのか?」
「いえ、さすがにそこまでご迷惑をかけるのはどうかと。それにこれはギフトゲーム。戦いに
「卑怯……ってよりかは<
「最悪の場合、噂が広まればギフトゲームの参加自体も断られる可能性まで出てきます。ですので自分たちの力で手に入れなければ」
「なりませんってか。了解だ。エントリーってことは受付で正式発表とかかね?こりゃ楽しみだ」
クツクツと番一は笑って歩き出す。
「十六夜にはもう話は通したのか?」
「はい」
「それならいいんだが。ゲーム中に暇だから雑談としてーとかじゃないよな。ちゃんと話して……」
「……。」
フイ、と顔を逸らして立ち上がり早足で立ち去る黒ウサギ。問い詰めるように追う番一の後ろ姿が其処にあった。
※
―――ノーネーム本拠、番一の部屋、数時間後。
「あー……なんでこうなるかね」
番一は部屋に戻るなり落胆したようにベッドに身を投げ出す。
結論としては―――ギフトゲームは延期となり、中止の線も有り得る、という事だった。
本来、ギフトゲームはコミュニティの名を以てゲームを開催する。それを延期、あまつさえ中止にするというのは名を貶める行為といっても過言ではない。
期待を募らせて参加しようとしたプレイヤーを裏切る行為は信用を落とすことに他ならない。
しかし……名を貶めても構わないと思えるほどの
さらに言えば、<サウザンドアイズ>は群体コミュニティ。意思の統一が叶わないのも仕方がない事だろう。
「あーつまんねえ……白夜叉とのアレも負けたし……本格的に参戦できるのはいつになるのやら」
そう言ってゴロゴロとベッドの上で転がり、ふと夜空を見上げる。
「ほんと箱庭は夜空が綺麗だな……ってなんだあれ?」
見上げた夜空の月には
「なんだあれは!?天使か!悪魔か!それとも神か!」
そんな歓喜の声を出しつつバットを引き寄せ窓を開け身を乗り出す。
「んー……あれは翼を広げた美少女?」
さらにその少女は巧緻に細工された柄を持つ鋭利な槍を持ち今、当に、眼下の、
「眼下の十六夜に投げつけそう!?ヤベえじゃん!いやヤバくねえな……」
即座に納得し直し、見守る番一。
投げられた槍は十六夜によって真正面から殴り返され、その少女に向かって槍を粉々に粉砕し第三宇宙速度もかくやという速度で打ち出した。
「いやあの美少女の方がヤベえ!?」
そして番一は窓枠を蹴り飛ばし、第三宇宙速度を超えた速度で少女の前に飛び出し
「何やってんだっ十六夜ィ!?」
「レティシア様!」
番一が槍の破片を撃ち落とすとほぼ同時に同じく飛び出した黒ウサギが翼を広げたレティシアと呼ばれた少女の手から何かを掠め取った。
「く、黒ウサギ!何を!」
レティシアと呼ばれた少女は抗議の声を上げるが黒ウサギは意に介さず、掠め取った
「ギフトネーム・<
「っ……!」
さっと目を背ける少女。歩み寄る十六夜は白けたような呆れた表情で肩を竦ませる。
「なんだよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえの?」
「オイ待て!俺を置いて話を進めるな!どういう状況だこれは!」
そこで、番一は話を止め状況説明を申し出る。
番一にしてみれば、夜空を眺めていたら知らない誰かが空に浮かんで、十六夜と戦っていて、それを助けたかと思えば元・魔王だなんだと話していて、理解に苦しむ状況であった。
十六夜は頭を掻きながら提案する。
「まあ、あれだ。とりあえず屋敷に戻ってゆっくり話そうぜ」
赤坂です。
もっと長く書く予定でしたが眠気には勝てませんでした……。
小分けに分けすぎて話が進みません。(自業自得)
何時になったらルイ……何とか君は出てこれるのか。
地道に地味に少しづつ進んでいきます。……行く予定です。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。