―――番一が扉の前に取り残された直後<サウザンドアイズ七桁外門支店>、応接室。
「さて、手紙にも書いたがもう一度言っておく『今回の鑑定は他言無用』だ。頼むぞ」
「……それは構いませんが。一体なんなんですか?わざわざ呼び出して他言無用だなんて、一体どんなゲテモノギフトを見つけたのですか?」
「ゲテモノ……まぁゲテモノといえばゲテモノかもしれんが、よく本人の前でそれを言えるの?」
「……?本人も何も誰もいないではありませんか」
その言葉を聞いて白夜叉は振り返り少し驚いた顔をする。
「……いないではないか。何故あやつは入ってこんのだ?」
「……だからこそ聞いているのですが。入り方は教えたので?」
「入り方も何もドアノブを触れば……あ、登録を忘れておったかもしれん」
「登録式の鑑定部屋に呼ぶというのに登録を忘れないでください……新手のいじめですか?」
「どうするかの。確認に行くか、入ってくるのを待つか……」
「素直に迎えに行きましょうよ。さぁ!自分の非を認めるのです白夜叉様!」
「断じて認めん!私は間違っていない!登録忘れなどしておらん!」
「いいでしょう!数多の並行世界を渡り、数々の場面で『論破!』と叫んできた私の本気を見せてあげましょう!さぁ!『それは違います!』」
「……いったいどういう状況だ?入れないしどうしたものかと店中駆けまわって、やっと入れたと思ったら急に裁判か?」
と、そんな状況に水を差すように番一が急に姿を現す。
「お、ようやく来たの番一。ドアノブを触るだけだったのだが分からんかったか?」
「いや、触ったが何も起きなかったぞ?店員に『登録無いと入れませんよ?』なんて言われて鼻で
「…………」
「オイ白夜叉そっぽ向いてないで早く鑑定してくれ。ギフトゲームの観戦に早く帰りたいんだ」
※
場を仕切り直して番一はさっそく口を開く。
「それで鑑定人とやらは……その、これか?」
「これ、とはずいぶんな言い方ですね?まぁ許しましょう。謙虚なことで地元で有名ですので」
「地元ってどこだよ……」
「私も知らんな。とりあえず紹介するぞ。こやつが鑑定人の<ラプラスの悪魔>の子端末<ラプラスの小悪魔>ことラプ子で、
「『RS』です!他の凡愚たちと一緒にしないでください!」
怒気を孕んだ声で即座に訂正するRSは怒鳴られてしょぼくれている白夜叉を無視して、 番一に向き直る。
「というか鑑定を始めますが、よろしいですか?というより始めますよ。私も忙しいのデス」
「お、おういいぞ。俺も急いでるし」
コホン、と咳を一つして始める。
「ではまず、名前と、所持ギフトについて知っている限りをお話しください」
「なんかこう本格的だな……ええと、名前は長井番一だ。ギフトはなんちゃらの黄金バットと解析中止で、両方ともよく分からん。以上」
「殴りますよ?」
「殴るなよ。というか分からないから鑑定を頼むのであってだな」
次の瞬間にはラプ子は摩訶不思議な物を見るような目で番一をじろじろと観察しながら白夜叉に話しかける。
「え?というより白夜叉様?この人本当に番長なのです?一目見て番長だと分かりましたけど、目を疑っていた私がいるのですが本物です?」
「紛れも無く番長だぞ。黄金バットも持ってるし、ガクランだし、私の一撃を耐え抜いたしの」
「そうですか。なんていうか『比較的常識人』で『まともな雰囲気』を醸し出しているのですが」
「どういう事だ?箱庭番長ってのは全員『比較的常識人じゃなく』て『まともな雰囲気じゃない』って事か?」
そこまで聞いてラプ子RSは得心したように頷いた。
「なるほど。番一様はまだ箱庭番長について聞いていないのですね?」
「おう。白夜叉にも今度話す、みたいなこと言われただけだ」
「ふむ。番長であるなら話してもいいでしょうし、まず『箱庭番長』について語らないと鑑定も
「しておらん。
「確かにそうですね……。まず初対面で話が通じる時点で奇跡です」
「そのレベルなのか!?」
「ええ、そのレベルです。では語りましょう……といっても情報が消されすぎててわかるのは極一部ではあるのですが」
「大まかに説明すると、超人。この一言に尽きるでしょう。その全員が『黄金バット』と名の付くバットを下げ、学ランを着ています。長ランですね」
「これ、たまたま着てるだけなんだが」
番一の反応を無視してRSは続ける
「まずは一代目箱庭番長について。彼についての情報は全く持って残ってはいないのですが、当時から生きている私の友人のバ……、もとい天使に聞いたことがあります」
「今バカって言いかけたか?」
「ああ、あの歩くトラブルメーカーのことか……」
白夜叉とRSは苦虫をすり潰したような表情をし、そんな顔でRSは応える。
「その天使は上手くも無い
彼、初代箱庭番長は数万年前、箱庭の黎明期に現れ
「化け物かよ……」
「ええ。私もそのバ……天使を締め上げましたが、事実のようです。そして彼
「どんだけバカなんだその天使は……?」
呆れ返るような番一の声を無視してRSは続ける。
「次に二代目箱庭番長。番長が恐れられるのは彼の所為です。彼もまた情報は少ないのですが、どちらかといえば残されていないというよりは
「消された?何か不都合な点があるって事か」
「不都合というよりは、もう名前が書いてあるだけで、存在を証明する文献が残っているだけで、
「
「ええ。一説によれば『光が吹き荒れ、風が形を為し現れた』と伝えられています」
「二代目箱庭番長は初代がいなくなり、旗本から数多の人々が離散しかけた時に神々が『無くしてなるものか!』と言わんばかりに頑張って離散を防ごうとしていた時に現れ、その
「はい。あっていますよ白夜叉様」
「ぶち壊したってのはどういう風に?」
「箱庭の生命の
「待て待て待て。
そんな番一の言葉にRSは応える。
「ええ、一年です。私自身信じられなくて何十回も、様々な記録とも、証言とも照らし合わせて出した結論です。信じられるものですか75億の六割、45億もの人々をたった一人で殺す人間など」
「確かに、にわかには信じられん話だの……改めて聞くと恐ろしい物がある。さて、次は三代目じゃの!」
末恐ろしい者だと身震いした白夜叉は三代目を出してウキウキとした声を上げる。
「三代目箱庭番長については……白夜叉様の方が語れるでしょうね。任せました」
「うむ!任された。三代目は情報が残っておるというか何を隠そう、私が相方として二人で箱庭中を駆け回って荒らしまわ……遊びまくったのじゃよ!」
「荒らしまくったんだな?」
「冗談はさておき。三代目だけは女性で。名前は<
と、そこで番一が
「白夜叉の年齢っ
「おっと!そこまでじゃ!残念だったの!」
それを強引に打消し話をつづける白夜叉。よほど実年齢は知られたくないのだろう。
「というより女性に年齢を聞く時点でデリカシーに欠けています。猛省してください?」
「ご、ごめんなさい……」
RSにも
「で、だ。静は学ランの背に<勇猛果敢>を刻み、その文字の通り、勇ましく、
どういうものかと聞かれればこの一言に限る『
「ギフトとしての効果は至って単純です。『逆境に身を置くほど無類の強さを得る』
そして『壊れない』」
「『壊れない』?」
「ええ。バカ天使……にも言質は取っています。歴代番長のバットは『如何なる扱いであっても壊れなかった』と」
「……。確かに結構無茶な扱いは俺もしてるけど壊れてないな」
番一は自分のバットを持ち上げてしげしげと眺める。
「それともう一つギフトを持っていましたがギフト名の正式名称は不明です。名前が無いのもなんだ、という事で白夜叉様は<極光剣>もしくは<
「うむ!その名前が一番よく表せておるしの!」
「どういうギフトなんだ?というか
「具体的に言えば『極光を放つ剣を無尽蔵に生み出し、逃げられない剣の牢獄を作り上げる』といったところでしょうか」
「三代目が行ったことはその極光剣やバット、
『数多の魔王の撃破、及び最凶の神群<クトゥルー神群>の
これらを成し遂げたことから静は数多の神群に聖人として認められるはずだったのだが。あやつはいざ聖人認定というときに姿を消して以降見つからず、別れの言葉も言えておらん……」
何処か寂しげな表情をする白夜叉はしかし、
「アヤツの発展途上の胸も中々の揉み心地だったのだがの」
そんなセリフのせいで寂しげな雰囲気を壊していた。
RSがそんな雰囲気を戻すように番一に話を振る。
「そしてあなたが四代目です。どうです?歴代番長について聞いてみて」
「んー。情報不足でよく分からんし、どのくらい強いのかも予想がつかん」
「強さか……静が通常状態で番一の八人分くらいは強かったの。ギフトによって強さの上限が無いからそれ以上はどうともいえんが「ぬん!」と軽くバットを振るって外門を一個消し飛ばすくらいはしていたの」
「なにそれすげぇ」
「その点、番一様のギフトはどうなのでしょうね。ギフトカードは持っていますか?見てみたいのですが」
「おう。これだ」
そう言ってナイトブラック色のカードをラプ子RSに渡す。
「< の黄金バット>と<
番一はふと十六夜の言葉を思い出し伝えておこうと思い口を開いた。
「そういえば十六夜の奴が俺の背中に光が集まるって言ってたんだが何かわかるか?」
「いえ、そもそも伝説の最強武装<ガクラン>などと言われていますが実際効力なんて何もありませんし、可能性があるとすれば<解析中止>のギフトでしょうが……
「わかるのか?」
「どう表現すればいいのかわかりませんが、逆光の向こうに何かがあるというかなんというか……<ラプラスの紙片>が解析中止だと判断した理由は分かります。その逆光のような何かが無くなれば解るのです」
「要するに?」
「理解が悪いですね『解るだろうけど邪魔されてよく解らないから今は一旦中止』ということです!」
「黄金バットの方はどうだ、ラプ子
「RSです!白夜叉様!そうですね名前を付けるなら<千変万化の黄金バット>でどうでしょう? 少なくとも番一様からは『白』でも『黒』でもない何かを感じますし。何よりこれは意図的な脱字です。エラーではありません」
「いいんではないか?どうじゃ番一」
「いや、俺は別にどうでもいいんだが……結局何もわからず仕舞いって事か」
そう言って番一は立ち上がる。
「まぁ、解らないなら解らないでいいんだ。歴代番長の事を知れた点が収穫ってところか」
「行くのか番一。鑑定どころか考察程度しかしておらんのだが」
「もういいだろ。謎に包まれてるくらいがカッコイイってな」
肩にバットを担ぎながら片手をひらひらと振るって番一は退室しようとし、振り返った。
「あ、そういえば俺が店に来てからどれくらい時間経ったかわかるか?」
どれくらい時間がったったのかを問う。
「ざっと4~50分くらいかの」
「簡単なギフトゲームだったら終わるくらいの時間ですね」
「マジかよ!急がねえと!」
番一は慌ててドアノブを触り去って行った。
「してラプ子RS」
「なんです?」
「頼みがあるのだがの」
「いいですよ承りました」
「番一の監視を……って受ける気満々だったか」
「そもそも興味が沸きまくりですし。あそこまで変な人間そうそういませんよ」
「そ、そうか」
「ええ。ついでに歴代番長についても資料を漁っておくので、何か新発見や番一様について進展があったら『番長観察報告書』とでも銘打って報告します」
「すまんな。私も興味が尽きん」
「ええ。あ、白夜叉様はいい加減三代目について纏めておいてもらえます?」
「―――ああ。了解した」
赤坂です。
#四月までに25話とは(結局15話)
お久しぶりです。なんやかんやあって遅れに遅れました。
失踪はしていません。
今回は『歴代番長説明会』の予定だったのですが書きなおしたり、ゲームしたり、オシゴトしたりしてたら遅くなりました。
そんなことして長い期間が開いたら文体が迷子になったので『問題児』っぽくない文章です。
納得がいかない。
またいつか書き直すかもしれません(予定は未定)。
まぁ全部オリジナル文章だから許してヒヤシンス。
誤字・脱字・感想、よろしくお願いいたします。
ではでは。