【休止中】番長が異世界から来るそうですよ?   作:赤坂 通

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第十三話

 本拠の最上階・大広間に二人を引きずってきたジンは、堪りかねて大声で叫んだ。

 

「どういうおつもりですか!?」

「どういうおつもりも何も別に大した変化じゃないだろ?」

「<打倒魔王>が<打倒全ての魔王とその関係者>になっただけだ。

『魔王にお困りの方、ジン=ラッセルまでご連絡ください』

―――キャッチフレーズはこんなところか?」

「全然笑えませんし笑い事じゃありません!魔王の力はこのコミュニティの入り口を見て理解できたでしょう!?」

「勿論。あんな面白そうな力を持った奴とゲームで戦えるなんて最高じゃねえか」

「いい勝負ができそうだしな。俺も戦いたいぞ」

大広間にある長椅子に座った二人は、背もたれに踏ん反り返って戦いを希望すると口にした。

ジンは絶句し、問い正す。

「お……面白そう(・・・・)?では御二人は自分の趣味の為だけににコミュニティを滅亡に追いやるおつもりですか!?」

ジンの口調も厳しい。

 

しかしそんな厳しい口調に番一は即座に指を向けて反論する。

 

 

 

 

 

 

それは違うぜッッ(・・・・・・・・)!!」

 

 

 

 

 

 

「お、論破か?」

十六夜は軽薄な笑いを浮かべて、決まった……!とドヤ顔で拳を握りしめている番一に向かって 説明してやれ、とでも言うように顎をしゃくる。

「……何が間違っているんですか?」

「これはコミュニティの発展のための作戦だ、と言いたいんだよ。コミュニティの滅亡だ?

入ったばっかなのに潰れて貰っちゃ困る」

「作戦……?どういう事です?」

 

「ふむ。御チビ、先に確認しておきたい。御チビは俺たちを呼び出して、どうやって魔王と戦うつもりだったんだ?あの廃墟を作った奴や、白夜叉みたいな力を持つのが<魔王>なんだろ?」

 

ぐっとジンは黙り込む。名誉の奪還と打倒魔王を望んではいても、彼にはリーダーとして明確な方針があったわけではない。ジンは幼い知恵を駆使して答える。

「まず……水源を確保するつもりでした。新しい人材と作戦を的確に組めば、水神クラスとは無理でも水を確保する方法はありましたから。けどそれに関しては十六夜さんが想像以上の成果を上げてくれたので素直に感謝しています」

 

「おう、感謝し尽くせ」

「そういえば俺は何もしてないな……」

 

ケラケラと笑う十六夜と落ち込む番一を無視してジンは続ける。

 

「ギフトゲームを堅実にクリアしていけばコミュニティは必ず強くなりますし、力のない同士が呼び出されていたとしても力を合わせればコミュニティを大きくしていくことが出来ます。ましてやこれだけ才能のある方々が揃えば……どんなギフトゲームにでも対抗できます」

 

「期待一杯、胸いっぱいだったわけだ」

「今度活躍してやるから期待してくれや」

 

悪びれる様子のない十六夜と番一。ジンは我慢できずに口調を崩して叫んだ。

 

「それなのに……それなのに、御二人は自分の為だけにコミュニティを危機に晒し陥れるような真似をした!!魔王を倒す為のコミュニティなんて馬鹿げた宣誓を流布されたら最後、魔王とのゲームは不可避になるんですよ!?そのことを本当に貴方(あなた)方は分かっているのですか!?」

 

ジンは叫ぶと同時に大広間の壁を強く叩いた。よほど腹に据えかねたのだろう。

 

そんなジンを見つめる十六夜は軽薄な笑いを消し、今度は侮蔑するような目を向ける

 

「呆れた奴だ。そんな机上の空論で再建がどうの、誇りがどうのと言っていたのかよ。失望したぜ御チビ」

「な、」

「ああそうだな。ギフトゲームに参加して力をつけるだと?それは前提であって目標じゃないだろ。俺たちが聞きたいのは魔王にどうやって勝つか(・・・・・・・・・・・)だ」

 

番一が十六夜の言葉を代わりに続け、ジンは頭をフル稼働させて反論する。

「だ、だからこそ!ギフトゲームに参加して力を」

「じゃあ前のコミュニティはギフトゲームに参加して、力を付けていなかったのか?」

「そ……それは」

ジンは言葉に詰まる。十六夜と番一は間を置かず畳み掛ける。

 

「そもそも、コミュニティを大きくする事ができるのはギフトゲームだけだったのか?違うだろ」

「……。はい」

 

 

コミュニティを大きくするのは強大なギフトと、強大なギフト保持者。つまりは人材だ。

己の才を頼りに生きているギフト保持者が、名の売れたコミュニティに籍を置きたいと思うのは当然の流れである。

 

 

「俺達には名前も旗印もない。コミュニティの象徴出来る物が何一つないわけだ。これじゃコミュニティの存在は口コミでも広まりようがない。だからこそ俺たちを呼んだんだろ?」

「…………」

「今のままじゃ物を売買するときに、無記名でサインするのと大差ねえ。<サウザンドアイズ>が<ノーネーム>お断りなのは当然だろうよ。所詮<ノーネーム>は名無しのその他大勢でしかない。そんなハンデを背負ったまま、先代を越えなきゃいけないんだぜ?」

「先代を……超える……!?」

ジンはその事実に、金槌で頭を叩かれたような気がした。

箱庭の中で一目置かれるほど強大だった、先代のコミュニティ。

才も乏しく、身の上と成り行きだけでリーダーになったジンは<打倒魔王>と口にする事はあっても、十六夜の言葉こそ目を逸らし続けていた現実なのだ。

 

 

「その様子だと、ホントに何も考えて無かったんだなオマエ」

「…………っ」

ジンは悔しさと、言葉にした責任の大きさで顔が上げられなかった。

そんなジンの肩を番一は力強く握りしめ、悪戯っぽく笑い、

 

 

「名も旗もない―――ならリーダーの名前を(・・・・・・・・)売り込む(・・・・)。作戦ってのはこのこと事だ、ジン。」

 

 

ハッとジンは顔を上げる。そして二人の意図に気づく。

二人は侵入者に対して執拗にジンの名前と彼がリーダーであるということを強調していた。

それはつまり、

「僕を担ぎあげて……コミュニティの存在をアピールするという事ですか?」

「悪くない手だと思うんだが、どうだ?十六夜の案だが」

「俺が立案したわけじゃない。番長も同じことを考えてたんだろ?目が合った時になんとなく伝わったぞ」

「俺の単純明快な思考と同レベルだ、という主張か?」

「は……?喧嘩売ってるのなら、買うぞオイ」

「お、御二人とも落ち着いてください……」

先程まで凄まじい程の連携を見せていた二人が、急に険悪な雰囲気となってしまいジンは慌てる。

 

「確かに僕を担ぎ上げるのは有効な手段です。リーダーがコミュニティの顔役になって存在をアピールすれば……名と旗に匹敵する信用を得られるかもしれません」

たとえば白夜叉。彼女は<サウザンドアイズ>の一幹部にすぎないのに、その名前は東西南北に知れ渡るほどだ。

 

「けどそれだけじゃ足りねえ。噂を広めるには少しインパクトが足りない。だが<打倒魔王>を掲げたジン=ラッセルという少年が魔王の子分の一味に一度でも勝利したという事実があれば?

―――それは必ず波紋になって広まる。それに反応するのは魔王だけじゃない」

「そ、それは誰に?」

「<打倒魔王>を掲げた他の誰か、だろ?」

 

「ああ。魔王ってのは戯れに様々なコミュニティに戦いを挑むんだろう?だとしたら敗北した実力者たちが<打倒魔王>を胸に秘めている可能性は高い」

「ってことは今回の件は最高だな。喧嘩を売った<フォレス・ガロ>は魔王の傘下で。

しかも勝てるゲーム、かつ被害者は数知れず……名前を広めるには最高の条件じゃねえか」

 

少なくとも二一〇五三八〇外門付近のコミュニティには、小さいまでも波紋が広がるかもしれない。

「他の魔王を引き寄せる可能性は大きいかもしれない。けど魔王を倒した前例もあるはずだ。そうだろ?」

黒ウサギはこう説明していた『魔王を倒せば魔王を隷属(れいぞく)させられる』と。

これは魔王を倒したものの存在を証明しており、同時に強力な駒として組織に引き入れるチャンスでもあるのだ。

「まあ少なくとも人材は必要だな。俺や十六夜レベルとは言わないが、足元並み(・・・・)の奴は欲しいな。そもそもこの案に乗るか乗らないかはジン次第だが」

二人を見るジンの目には先程までの怒りはない。

 

作戦の筋は通っていた。だから賛成するのは簡単だったが、大きな不安要素があるのも忘れてはいけない。それを踏まえた上で、ジンは条件を出す。

 

「1つだけ条件があります。今度開かれる<サウザンドアイズ>主催のギフトゲームに、御二人のどちらかが一人で参加してもらってもいいですか?」

「なんだ?力を見せろって事か?」

「それなら俺が行くぞ。まだ活躍してないしな」

「それもあるのですが、理由はもう一つあります。このゲームには僕らが取り戻さなければならない、もう一つの大事なものが出品されます」

 

名と旗印。それに匹敵するほどの大事な、コミュニティの宝物。

「昔の仲間……か?」

「はい。それも元・魔王の仲間です」

 

十六夜は番一とジンの会話に危険な香りのする雰囲気を漂わせ始める。

「元・魔王の仲間か。これに意味することは多いぜ?」

ジンも頷いて返す。

「はい。先代のコミュニティは魔王と戦い勝利したことがあります」

 

「ってことはそんなコミュニティすら倒せる」

「―――そう仮称(かしょう)超魔王(ちょうまおう)とも呼べる超素敵ネーミングな奴がいる、と」

 

「そ、そんなネーミングでは呼ばれていません。そもそも魔王とは<主催者権限>を悪用する者たちの事ですから……噂では例外もあるようですが」

 

<主催者権限>そのものは箱庭を盛り上げる装置の一つでしかなかった。

それを悪用されるようになって<魔王>という言葉ができたのだとジンは語る……例外はあるようだが。

 

「ゲームの主催はその<サウザンドアイズ>の幹部の一人です。僕らを倒した魔王と何らかの取引をして仲間の所有権を手に入れたのでしょう。金品で手を打てればよかったのですが……」

「貧乏はつらいって事か。とにかくその元・魔王を取り返せばいいんだろ?」

「取り返してくるぜ。全力で」

ジンは頷く。それが出来るのならば是非にでもお願いしたかった。

「それが出来れば対魔王の準備も可能になりますし、僕も御二人の作戦を支持します。

ですから黒ウサギにはまだ内密に……」

「あいよ」

「おう」

 

二人は席を立つ。大広間の扉を開け自室に戻る時、十六夜はふと閃いたようにジンに声をかける。

 

「明日のゲーム、負けるなよ」

「はい。ありがとうございます」

「負けたら俺、コミュニティを抜けるから」

「はい。……え?」

 

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

 

「これはどういう状況だ……」

遅めの風呂に十六夜と共に突撃し、自室の扉を開けようとした瞬間、番一は何かに気づく。

 

 

既に月は燦然(さんぜん)と輝き、よい子はもうとっくに寝る時間だ。

 

 

であるからして部屋に入ろうとしている、今この状況は正しい事ではあるのだが、

 

 

 

 

 

 

「なぜ俺の部屋にすでに人がいる気配がする……?」

 

 

 

 

 

 

 

部屋の番号を先程から何度も確認する。

208号室……本館二階の八号室。間違いなく番一に割り当てられた部屋だった。

 

「女性陣は三階……男性陣は二階……まさか階を間違えた奴がいるのか……?」

 

中にいる誰かに気づかれないように小声でブツブツと呟く。

「ええい、此処に居ても寝られん!たのもーう!!」

バガァン!と扉を蹴破り開けると、

 

「……春日部?」

そこには番一のベッドに『スヤァ』を体現した寝方をしている春日部の姿があった。

 

「……ってか今の音で起きないとなると起こそうとするのは多分無意味か」

よっこらせ、と壁にもたれ掛かり番一は目を閉じる。

(はてさて、明日の朝どうなる事やら……)

 

 

 

異世界に投げ飛ばされ、森で鬼ごっこをし、大滝を遡上し、白髪ロリ(白夜叉)に喧嘩を売り、侵入者と対峙し、珍しく頭を使い……番一は疲れ切っていた。

 

 

 

(まあいい。明日の事は明日考えよう……おやすみ世界)

 

 

―――そこで番一の意識は途絶えた。




赤坂です。
今年最後になります。
今年の秋頃から始めた『番長が異世界から来るそうですよ?』は来年も続きます。
一巻の内容が終わるのいつなのでしょうね。
友人は四月ごろに二五話に到達し、まだ終わらないという予測を立ててくれました。
誤字・脱字・感想よろしくお願いします。
また来年お会いしましょう。
ではでは。

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