【休止中】番長が異世界から来るそうですよ?   作:赤坂 通

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第十一話

 ―――<箱庭番長>、そう告げてから押し黙る白夜叉に十六夜は声をかける。

「……。箱庭番長ってなんだ?」

「番長だろ?」

「いや違う。俺が聞きたいのは、<番長がなぜそんなに恐ろしいのか>だ。黒ウサギはどうなんだ、何か知ってるか?」

「黒ウサギも初ウサ耳です……。そもそも、箱庭にも番長がいたのですね。白夜叉様」

「当事者なんだし俺も聞きたいな。白夜叉ですら恐れる存在ってどういうことだよ?」

 

「―――これ以上の情報は、下層の者には教えられん。詳しく知りたければ二桁まで上がるがよい」

 

 二桁。箱庭上層の中でも主神や星霊の集う、真の魔境。

 其処まで上がらねば、知る事すら許されぬ存在だと白夜叉は告げる。

 

「なるべく早く鑑定士を呼ぶ。そこのおんしも鑑定しなおすか?」

 そう言って十六夜を見る白夜叉、十六夜は(かぶり)を振り断る。

「いらねえよ。言った筈だ。他人に値札張られるのは好きじゃない」

「なあ。教えられんって言ってるが、俺の背中に光が集まるとかいうのは関係あるのか?十六夜に言われて超気になるんだが」

「……。スマンがまた今度だ。だが番長であるおんしには少しは語ってやろう」

 白夜叉はこれ以上の追及を逃れるように柏手を打ち、元の和室へと戻った。

 

 

 

            ※

 

 

 

 六人は暖簾の下げられた店前に移動し、耀達は一礼する。

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは番一くんのように対等の条件で挑むのだもの」

「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、恰好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」

「俺はしばらくはいいかね。お前らが挑むまで再挑戦は許され無さそうだしな」

 

「「「今後、抜け駆け禁止」」」

「おう。了解したぜ。ガハハハハ!」

 

「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ……ところで」

 白夜叉はスッと真剣な顔で黒ウサギ達を見る。

 

「おんしらは自分たちのコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」

「名前とか旗の話なら聞いたぜ」

 

「それを取り戻すために<魔王>と戦わねばならんことも?」

「聞いてるわよ」

 

「……。では、おんしらは全てを承知したうえで黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

 

 黒ウサギはドキリとした顔で視線を逸らす。そして同時に思う。

 もしコミュニティの現状を話さない不義理な真似をしていれば、自分はかけがえのない友人を失っていたかもしれない。

「打倒魔王ってカッコイイじゃん?」

「<カッコイイ>で済む話ではないのだがの……コミュニティに帰ればわかるだろう。それでも魔王と戦うことを望むというなら……そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」

 予言するように断言する。二人は一瞬言い返そうと言葉を探したが、白夜叉の助言には物を言わさぬ威圧感があった。

 

「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。おんしら二人の力では魔王のゲームを生き残れん」

 

「……ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。次はあなたの本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」

「私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い」

「おう。遊びに行くぜ」

「番長は抜け駆け禁止って言われたばっかだろ?俺が行く」

「十六夜こそ。次は私」

「あら。今喧嘩を売ったのは私よ?私が先でしょう」

 

「……ただし黒ウサギをチップに賭けて貰う」

「「「「よし、賭けた」」」」

「嫌です!それと私がなぜチップとして賭けられるんですか!?」

 

 怒る黒ウサギ、笑う白夜叉と問題児たち。

 店を出た五人は無愛想な女性店員に見送られて<サウザンドアイズ>二一〇五三八〇外門支店を後にした。

 

 

            ※

 

 

 白夜叉とのゲームを終え、噴水広場を越えて五人は半刻ほど歩いた後<ノーネーム>の住居区画の門前に着いた。門を見上げると、旗が掲げてあった名残のようなものが見える。

「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入り口からさらに歩かねばならないのでご容赦ください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので……」

 黒ウサギは躊躇(ためら)いつつ門を開ける。すると門の向こうから乾ききった風が吹き抜けた。

 砂塵から顔を庇うようにする四人、視界には一面の廃墟が広がっていた。

「っ、これは……!?」

 街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀は息を呑み、十六夜はスッと目を細め、番一は表情を変えずに見つめる。

 

 十六夜は木造の廃墟に歩み寄って囲いの残骸をを手に取った。

 少し握ると、木材は乾いた音を立てて崩れていった。

 飛鳥と耀は崩れかけた廃墟に近寄り、見つめ。

 番一は黒ウサギの後ろでそんな彼らを見つめていた。

 

 

 ―――十六夜が手の中の木片を見つめ、黒ウサギに尋ねる。

「……おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは―――今から何百年前の話だ(・・・・・・・)?」

 

 

 

 

「僅か三年前でございます」

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが(・・・・・・・・・・)三年前だと(・・・・・)?」

 

 そう、彼ら<ノーネーム>のコミュニティは―――まるで何百年という時間経過で滅んだように崩れ去っていたのだ。

 美しく整備されていたはずの白地の街路は砂に埋もれ、木造の建築物は軒並み腐って倒れ落ちている。

 要所で使われていた鉄筋や針金は錆に蝕まれて折れ曲がり、街路樹は石碑のように薄白く枯れて放置されていた。

 とてもではないが三年前まで人が住み賑わっていたとは思えない有様に、三人は息を呑んで散策する。

 

「……断言するぜ。どんな力がぶつかり合っても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の壊れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」

 飛鳥と耀も廃屋を見て複雑そうな感想を述べる。

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

「……生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

 十六夜はあり得ないと結論付け、二人の感想の声も重い。

 

 黒ウサギは廃墟から目を逸らし、

「……魔王とのギフトゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間たちもみんな心を折られ……コミュニティから、箱庭から去っていきました」

 大掛かりなギフトゲームの時に、白夜叉の様にゲーム盤を用意するのはコレが理由だ。

 力あるコミュニティと魔王が戦えば、その傷跡は醜く残る。魔王はあえてそれを楽しんだのだ。

 黒ウサギは感情を殺した瞳で地面を見つめる。

 

 

 

 ―――そんな中、番一は何も言わずに本拠に向けて歩き出す。十六夜はその背中に声をかける。

「おい番長。オマエは何も思わないのか?」

 

 

「―――……なら言っとくがな」

 

 

 溜め息をつき、面倒臭そうに十六夜に向き直る。

 

「元の世界でもこういう光景は見たし、俺以上どころか人間辞めてるレベルで強い奴もいたからこういう光景も別段不思議でもないんだよ。超常現象なんでもござれすぎてな。そもそもここは、修羅神仏集まる箱庭だぜ?」

 そう言って再び歩き出す。

 

 

 その後ろに黒ウサギや飛鳥、耀は付いて行き、十六夜だけは瞳を爛々と輝かせる。

 

 

 そして期待に満ちた声で、呟く。

「<箱庭番長>に<魔王>―――いいぜいいぜ。想像以上に面白くなってきた……!」

 

 

 

            ※

 

 

 

 ―――<ノーネーム>・居住区画、水門前。

 五人は廃墟を抜け、徐々に外観が整った空き家が立ち並ぶ場所に出る。五人はそのまま居住区を素通りし、水樹を貯水池に設置するのを見に行く。

 

 貯水池には先客がいた。

「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調(ととの)っています!」

「ご苦労様ですジン坊ちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 先客は―――ワイワイと黒ウサギの元に群がる子供たちだった。

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

「ねえねえ、新しい人たちって誰!?」

「強いの!?カッコイイ!?」

「YES!とても強くて可愛い人たちですよ!みんなに紹介するから一列に並んでくださいね」

 

 パチン、と黒ウサギが指を鳴らす。すると子供たちは一糸乱れぬ動きで横一列に並ぶ。

 数は二十人前後だろう。中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。

 

(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)

(じ、実際に目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)

(……。私、子供嫌(こどもぎら)いなのに大丈夫かな)

(おお、いい動きだな。体育の授業みたいだ)

 

 三者三様の感想を心の中で呟く。子供が苦手にせよ何にせよ、これから彼らと生活していくのなら不和を生まない程度に付き合っていかねばならない。

 コホン、と仰々しく咳き込んだ黒ウサギは四人を紹介する。

 

「右から長井番一(ながいばんいち)さん、逆廻十六夜(さかまきいざよい)さん、久遠飛鳥(くどうあすか)さん、春日部耀(かすかべよう)さんです。

みんなも知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。

ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

 

「あら、別にそんなのは必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」

「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 飛鳥の申し出を、黒ウサギはこれ以上ない厳しい声音で断じる。

 今日一日の中で一番真剣な表情と声だった。

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で始めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事ができない掟。子供の内から甘やかせばこの子たちの将来の為になりません」

「……そう」

 黒ウサギは有無を言わせない気迫だけで飛鳥を黙らせる。今日までの三年間、たった一人でコミュニティを支えていたものだけが知る厳しさだろう。

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつけるときはこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

 

「「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」」」

 

 

 キーン、と耳鳴りがするほどの大声で二十人前後の子供たちが叫ぶ。

 四人はまるで音波兵器のような感覚を受けた。

「ハハ、元気がいいじゃねえか」

「そ、そうね」

(……。本当にやっていけるかな、私)

「元気なのはいいことだな。これからが楽しみだ」

 ヤハハと笑う十六夜、飛鳥の困惑する表情、耀の戸惑う表情、番一の期待する表情。

 さて、と黒ウサギは呟き、

「自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので十六夜さんは屋敷への水門を開けてくださいな!」

「あいよ」

 十六夜が貯水池に下り黒ウサギは貯水池の中心の柱にピョン、と大きく跳躍する。

 

「ジン、本拠に帰ってからはコレの掃除してたのか?」

 番一はそんな光景を横目にジンに話しかけた。

「ええ。本拠と別館に直通している水路を掃除しました。今回開く水路はあくまで最低限です。この水樹ではまだ貯水池と水路を全部埋めることは不可能でしょうし。

……昔はあの台座に龍の瞳を水珠に加工したギフトを使っていたのですが、それも魔王に取り上げられてしまい」

「……それなら今まで水はどうしてたんだ?」

 周りの手持ち無沙汰な子供達が答える。

 

「みんなと一緒にバケツを両手に持って川から汲んで運んでました!」

「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外から水を汲んでいいなら貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」

「……。そうか、頑張ったな。これからはその心配はなくなるぞ!」

 そう言って胸を張る番一。子供達が感謝の声をあげる。

 

 

 

「……。番一くんが胸を張ってるけれど、あの水樹は十六夜くんが手に入れた物よね?」

「……。うん、そのはず。黒ウサギもそう言ってたし」

 ……その裏では女性陣が的確な指摘をしていた。

 

 

 

 

「それでは紐を解きますよー」

 黒ウサギが苗の紐を解くと、根を包んでいた布から大波のような水が溢れ返り、激流となって貯水池を埋めていった。

 水門の鍵を開けていた十六夜は驚いて叫ぶ。

「ちょ、少しはマテやゴラァ!!さすがに今日はこれ以上濡れたくねえぞオイ!」

 今日一日、散々ずぶ濡れになった十六夜は慌てて石垣まで跳躍する。

 

 封を解かれた水樹の苗は台座の柱を瞬く間に絡め、さらに水を放出し続ける。

「凄い!これなら生活以外にも水を使えるかも……!水仙卵華(すいせんらんか)などを繁殖させられれば……!」

 水樹は想像以上の量の水を放出し、一直線に屋敷への水路を通って満たしていく。

 

「水仙卵華ってなんだ。農業でもするのか御チビ(・・・)?」

 え?とジンは半口を開いて驚いた。花を知らなかった事ではない。

 何の前触れもなく『御チビ』という尊敬語と嘲笑を交えた、何とも言えない愛称で呼ばれたことに驚いたのだ。

 

「す、水仙卵花は別名・アクアフランと呼ばれ、浄水効能のある亜麻色の花の事です。薬湯に使われることもあり、観賞用にも取引されています。……確か噴水広場にもあったはず」

「ああ、あの卵っぽい(つぼみ)の事か?そんな高級品なら一個ぐらいとっとけばよかったな」

「水仙卵華は南区画や北区画でもギフトゲームのチップとしても使われるものですから、採れば犯罪です!」

「おいおい、ガキのくせに細かいことを気にするなよ御チビ」

 

 カチン、とジンは癪に障ったように言い返そうとする。

 しかし十六夜は右手を出してそれを制し、真剣な顔と凄味のある声で、

 

「悪いが、俺が認めない限りは<リーダー>なんて呼ばねえぜ?この水樹だって気が向いたから貰ってきただけだ。コミュニティの為、なんてつもりはさらさらない」

 

 ジンは言葉に詰まる。蛇神を打倒してこの水樹を手に入れたのは十六夜だ。大戦力だと期待していただけに、この言葉の衝撃も大きかった。

「召喚された分の義理は返してやる。箱庭の世界は退屈せずに済みそうだからな。

―――だがもし、義理を果たした時にこのコミュニティがつまらねえ事になっていたら、

……俺は躊躇(ためら)いなくコミュニティを抜ける。いいな?」

 

 真摯(しんし)とも、威圧的ともとれる不思議な声音で十六夜は語る。軽薄そうな態度に気を取られていたが、この男こそ四人の中で最もたる問題児なのだ。

 

 ジンは覚悟するように強く頷いて返す。

「僕らは<打倒魔王>を掲げたコミュニティです。何時までも黒ウサギに頼るつもりはありません。次のギフトゲームで……それを証明します」

「そうかい。期待してるぜ御チビ様」

 一転してケラケラと軽薄な笑いを滲ませる。ジンとしてはイラッとする呼び方だが、今はそれも仕方がない事だと言葉を飲み込む。

(初めてのギフトゲーム……僕が頑張らないと)

 水面に浮かぶ十六夜の月を見下ろし、ジンは一人で鼓舞するのだった。




赤坂です。
少し遅れました。申し訳ありません。
次回ですが・・・今回よりは早めに投稿しようとか思っています。
それと・・・ギフトゲームでも開催しようかな?なんて考えています。
ですが予定は未定です。本当に申し訳ありません。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。

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