【休止中】番長が異世界から来るそうですよ?   作:赤坂 通

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第九話

「おんしらが望むのは<挑戦>か―――もしくは<決闘>か?」

 その言葉と共に四人の視界は暗転し、様々な情景が脳裏を掠める。

 

 ―――黄金色の穂波が揺れる草原。

 ―――白い地平線を覗く丘。

 ―――森林の湖畔。

 

 記憶にない場所が流転を繰り返し、足元から四人を呑み込んでいく。

 

 そんな折、番一はふと思い出す。

(この感覚……どことなくあの時(・・・)に似て―――)

 

 思考が追いつくより先に、四人は何処かへ投げ出される。

 

 ―――白い雪原と凍る湖畔、そして水平に太陽が回る世界だった。

 

「……なっ……!?」

 余りの異常さに、十六夜達は同時に息を呑んだ。

 

 遠く薄明にある星は只一つ。緩やかに世界を水平に回る、白い太陽のみ。

 まるで星を一つ、世界を一つ作りだしたかのような奇跡の顕現。

 唖然と立ち尽くす四人に、今一度、白夜叉は問いかける。

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は<白き夜の魔王>―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。

おんしらが望むのは試練への<挑戦>か?それとも対等な<決闘>か?」

 魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄みに、再度息を呑む四人。

<星霊>とは、惑星級以上の星に存在する主精霊を指す。妖精や鬼・悪魔などの概念の最上級種であり、ギフトを<与える側>の存在でもある。

 十六夜が背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。

「水平に廻る太陽と……そうか、白夜(・・)夜叉(・・)。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるってことか」

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄命に照らす太陽こそ、

私が持つゲーム盤の一つだ」

 

<白夜>フィンランドやノルウェーといった特定の経緯に位置する北欧諸国などで見られる、沈まない太陽の現象。

<夜叉>水と大地の神霊を指し示すと同時に、悪神としての側面を持つ鬼神。

 

 数多の修羅神仏が集うこの箱庭で、最強種と名高い<星霊>にして<神霊>。

 

 彼女はまさに、箱庭の代表ともいえるほど―――強大な<魔王>だった。

「して、おんしらの返答は?<挑戦>であるならば、手慰み程度に遊んでやる。

―――だがしかし<決闘>を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」

「…………っ」

 四人は即答できずに返事を躊躇(ためら)う。

 白夜叉が如何なるギフトを持つかは定かではない。だが勝ち目がないことだけは一目瞭然だ。

 しばしの静寂の後―――諦めたように笑う十六夜がゆっくりと挙手し、

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

 

 

 

 

 

 

「―――いいや?俺は<決闘>を(いど)みたいね」

 そう告げるのは、先程からずっと黙り込んでいた番一。

 その言葉に白夜叉は冷たい視線を送り、

「<挑戦>ではなく<決闘>とな?」

「ああ、<挑戦>じゃなくて、<決闘>だ」

 しかし次の瞬間に番一は訂正した。

「とは言っても?俺も勝てるとは思っちゃいない。だから一合だけ打ち合うことを頼みたい」

 バットを地面に置いて音高く両手を合わせて番一は頼む、

「売られた喧嘩。<挑戦>で俺は終わらせたくない」

 

 戦うなら、挑むのではなく。対等の立場でありたい。

 

 番一には勝とう(・・・)と言う意思はない。

 

 ただ、戦いたい(・・・・)という意思がある。

 

「なにゆえに、<決闘>を望む?」

 白夜叉の感情を殺した質問に、番一は地面に置いたバットを取り肩に担いで答えた。

 

 

「俺が<挑んで>殴るだけじゃ、アンフェアだろ?<殴り合って>こそ、対等だ」

「勝てないと悟った上で戦いに(のぞ)むのか?」

 

「殴ったなら、殴り返されなきゃならない。俺にとって勝ち負けは、その後だ」

 

 

<殴る者は、殴られる者の痛みを知れ>。

 

 

誰かの言葉を真似るように、そう番一は告げた。

(勝てないと悟ってなお―――対等でありたいと言うか)

 白夜叉は堪えきれえず高らかと笑い飛ばす。彼は久しく見なかった、―――本当の愚か者(勇気ある者)だ。

 

 

 笑いを噛み殺して他の三人にも問う。

「く、くく……して、他の童たちはどうする?」

「……二番手で名乗りを上げたらそれこそ笑われる。今回は黙って<挑ませて>貰うぜ、魔王様」

「……ええ。私も」

「右に同じ」

 苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜と、苦虫を噛み潰したような表情で返事をする飛鳥と耀。

「クソッ……こんなことなら俺が先に言えば良かった」

「まあ?俺だって最強の主催者だって聞いて勝てるかどうか考えていたが……

<どうでもいい、とりあえず戦おう>って思ってな」

 十六夜の呟く言葉に反応する番一。

 一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、心配事が本当になって怒る。

「どうしてこうなるのですか!?お互いにもう少し相手を選んでください!<階層支配者>に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う<階層支配者>なんて、冗談にしても寒すぎます!

それより白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

「なに!?元・魔王って事か!?」

「はてさて、どうだったかの」

「なんだ……ったく魔王なんて超素敵ネーミングの奴と戦えると思ってたのによ」

 

 ケラケラと悪戯っぽく笑う白夜叉と肩を落とす番一。

「さて、<決闘>とは言っても名ばかりで、命の奪い合いは無しじゃろ? どうしたものかの。一合というならお互いに一撃ずつ打ち込み打倒した方の勝ち、でどうか?」

「打倒ってのはどういう基準だ?」

「打倒というのは……そうじゃの『たたらを踏ませたら』でどうじゃ?」

「……たたらを踏むってのは数歩押し下がるであってるよな?」

 その言葉に十六夜が答える。

「合ってるぞ番長。―――つか俺もやりたくなってきたぞオイ」

「また今度にしてくれ、今回は俺だ。―――そんぐらいでいいんじゃないか?」

「ふむ……そういうなら良いが、簡潔になったの。ミスがないか不安じゃな」

 そう言って白夜叉が双女神の紋が入ったカードを取り出す。すると虚空から<主催者権限>にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ギフトゲーム名<決闘>

 

 プレイヤー <長井番一>

 

 主催者   <白夜叉>

 

 プレイヤー側勝利条件 主催者の打倒

 

 主催者側勝利条件   プレイヤーの打倒

 

 終了条件 両陣営のどちらかが打倒される

      両陣営のどちらかの降参

 

 ルール

 ※本ギフトゲームは両者対等の上で行われるものとします

 その一・先攻後攻を決め、互いに一撃のみ打ち込みあう。

 その二・相手に一撃を撃ち込むのは相手が静止している時とする。

 その三・攻撃は体のどこかで必ず受け、受け流す行為は禁止とする。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                            <サウザンドアイズ>印

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「いいな。よしやろう。今すぐやろう」

 読み終わるや否や、右手に唾を吐きかけバットを持ち替える。

「まあそう焦るな。……ここでは巻き込む可能性があるのでな。少し離れてもらえるかの?」

 十六夜達を少し離し番一から距離を取って、向き直る。

 

 

「さて、三度目の名乗りじゃ。私は<白き夜の魔王>白夜叉。先攻は譲ってやろう」

「俺は長井番一。<番長>だ。それなら先攻はありがたく戴いとくぜ」

 

 そこに元とはいえ、魔王として消えぬ覇気を纏った白夜叉の姿があった。

 番一もその威風堂々たる名乗りに負けじと名乗りを上げる。

 

 

 ―――一瞬<番長>という言葉に白夜叉は反応したが、番一は気にせずに話しかける。

「そういや、チップやら報酬やら決めてなかったが……どうする?」

「そうじゃのそれならそちらのチップは<私を投げた事への土下座謝罪>として、

 

―――私は報酬として太陽主権・<牡羊座>を賭けようかの」

 

 

 その言葉に黒ウサギが絶句する。

「しししししししし、白夜叉様!?いいいいいいい、一体どういうおつもりで!?<太陽主権>をこんな喧嘩に賭けるなんて!?しかもチップは<謝罪>!?ああああ、ありえません!!!!」

「良いのじゃ黒ウサギ。そもそもに対等が条件。手の抜きようがないようここまで出せば―――私とて手は抜けん」

「背水の陣ってやつか。確かに俺も謝るのは大嫌いだし土下座とか笑われそうだな。謝るくらいなら本気で挑む。

―――貰おうじゃねえかその<太陽主権>とやら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――番一がバットを構え、白夜叉が拳を構える。

 攻防は一瞬。(ただ)の一撃ずつで終わる。

 ヒュゥ、と風が吹いた瞬間、番一が吠える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞッッ!!!白夜叉!!!」

 

 

 

 番一が雪原を蹴り付け、十六夜を追いかけた時など比べ物にならない速度で白夜叉に迫る。大地を砕き、周囲一体が罅割れるほどの力で一歩を踏み抜く。

 一瞬で接敵。あと数歩。両手でバットを握りしめ、大上段に構え。ただ愚直に、振り下ろす。

 その一撃は、大地を砕き山河を打ち崩す―――一撃必殺の威力を秘めていた。

 

 

 

 ―――だがその光景は十六夜達の目にはなく、番一の光が集まっている(・・・・・・・・)背中に向けられていた。

またあれか(・・・・・)なんなんだあれ?)

 十六夜が心の中でそう思った次の瞬間。

 

 

 

 

 

「踏み込みが足りんわッッ!!!」

 

 

 

 

 ―――番一の振り下ろしたバットは、白夜叉の突き出した右の拳によって止められていた。

 バットを振りぬくことは叶わず、勢いで負けて押し返される。

 

 

 

「―――ッッ!?」

 番一は地面に足が着くや否や即座に後ろに跳び態勢を立て直す。

 

 

 

「受け流すのは禁止と書いたが、打ち返し禁止とは書いておらんからの」

 後ろに下がり、態勢を立て直した結果、静止した(・・・・)番一の前には左の拳を引いて構える。不敵な笑みを浮かべる白夜叉の姿があった。

 

 

 

 

 

「授業料替わりじゃ。受け取れいッッ!!!」

 打ち出された拳は番一の腹に突き刺さる。

鈍い音が響き、発生した衝撃が離れたところにいる十六夜達の髪を揺らした。

 

 

 

 ―――しかし番一は吹き飛ばされることも、たたらを踏むこともなかった。

 番一は衝撃の全てを受け止め、足腰を踏ん張り、残った衝撃が大地に伝わり、砕く。

 吹き飛ばすことを前提とした一撃を番一は踏ん張って(・・・・・)耐え切った。

「は、はて?結構強めに打ちこんだのじゃがの?吹き飛ばす事もできぬとは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、くくく、はははは……ガハハハハハ!!言っただろ?鍛え方が違う(・・・・・・)んだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 番一は三歩下がり、大仰に両手を上げる。

「ただまあ、白夜叉を倒せなかった時点で俺の負けだ。ほれ、数歩下がった」

 白夜叉は驚き、聞き直す。確かに一合だけだといったがここまであっさりと引き下がるとは思っていなかったのだろう。

「よいのか?引き分けにもできたはず」

「十六夜も言ってたんだが、<敗者を決めて戦いは終わる>らしいからな。それに」

 番一は両手をおろし苦々しい顔で告げる。

「俺の、少なくとも今打てる精一杯を打ち返された(・・・・・・)んだから、俺の負けだろう?」

「そうはいってもオヌシ。おそらく本気なんぞ出しておらんだろうに」

 

 

 ―――番一は確かに本気は出していなかった。全力を出しただけだ。

なにより、人前で軽々しく本気なんて出すべきじゃない。

 

 

「いいんだよ俺の負けで。さて、チップを渡さなきゃな―――さっきは投げてすまなかった」

 番一はバットを放り投げ頭を地面に叩きつけ、心の底から謝罪する。

「う、うむ。確かに謝罪を受け取った」

 

 

 番一の顔には敗北の色はなく、ただただ満足そうな顔をしていた。




赤坂です。
若干、深夜テンション入りながら書いたので誤字脱字が多い可能性があります。
目がしょぼしょぼしていて見落としている可能性も高いです。

―――全力オリジナルなんですけどどうでしょう?
(全部オリジナルとは言ってない)
後半スッカスカな感じが個人的にはありまして……。
行開け多すぎましたかね……。
感想、評価、誤字脱字報告。していただけると幸いです。
ではでは。

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