遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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 さて第十二章、『妖刃』編スタートです。外伝は諸事情によりお休みさせていただきますが、ご了承くださーー


潤「一気に進めたいっていう作者側の都合だろ。というかサブタイ、非々色金みたいに誤字じゃねえか!? ってツッコミ来るんじゃねえの?」

作者(以下( ゚д゚))「ここで言ってるからセーフ。あと裏事情は言わなくていいから。
 あ、潤も言ってますが誤字ではないです。『妖刕』とは別人なので」

潤「というか俺、絶賛大ピンチなんだが」

( ゚д゚)「四肢全損じゃないんだから、間違いなく安いでしょ」

潤「首が残ってる不思議」

( ゚д゚)「でしょ?」

ヒロイン達(そこまで!?)


( ゚д゚)「あ、セーラさん。潤の死亡率いま幾つくらいです?」

セーラ「……90%」

潤「ほぼ死ぬじゃねえか」

( ゚д゚)「10%は外れるで」


『妖刃』編
第一話 二度と会いたくなかったなあ


「潤!!」

 

「ご主人様!!」

 

 二人の悲鳴を聞きながら、斬られて舞う両腕を見上げるーー

 

「ーーっ」

 

 なんて余裕があるわけもなく、『認識できない』斬撃が再び迫る。腕を戻す暇もねえな、ったく。

 

 ……今の今まで『予測できなかった』なんて、対策されているだろうとはいえ、とんだ失態だ。それでもこの程度(・・・・)で済んだんだから、相当安い方か。

 

「っ、チッ」

 

 姿も音も軌跡すら認識できない、ある種暗殺者の理想と言える技術。未来予測を全力稼働させ、攻撃のコースを予測して回避を続けるが、俺の身体能力じゃ捌き切るのは不可能だ。

 

「ーーっ」

 

 知っている、俺はこれを、この殺しの技を、よく知っている。

 

 首の皮一枚を斬られ、肩を斬られ、腹を斬られ、足を斬られる。致命傷は避けているが、出血は免れず、治癒も追いつかない。

 

「潤!」

 

 理子が叫びながらワルサーを乱射しつつ、髪を使って爆発物ーー手榴弾を十個ほど一斉に、俺の前へ投げ付ける。

 銃口から吐き出されるのは鉛玉ではなく、圧縮された魔力の弾丸。それらは爆弾と『何もない』場所に着弾、爆発をーー

 

「っく、本当でたらめ!」

 

「理子、途切れさせるな!」

 

「分かってる!」

 

 起こす直前、その全てが『切断』され、爆発せずに無力化される。理子は舌打ちしながらも弾幕を切らさず、俺も魔術で死角部分をカバーしながら、

 

「カツェえ! 撃て、俺達ごと撃てぇ(・・・・・・・)!!」

 

 血みどろになりながら、俺は待機しているカツェ達に大声で叫ぶ。

 

 

 斉射(feuer)!!

 

 

 間は一瞬。各属性の魔弾、水流、砂の刃、弓ーー眷属側の援護射撃が俺達も巻き込んで、一斉に降りかかりーー再び、『切断される』。が、今ので攻撃できる位置が予測できた。

 

「「そこぉ!」」

 

 予測場所は全く同じ。俺の眼前に出現した魔術陣から放たれた閃光と理子の魔弾が、50m程離れた場所に着弾した(・・・・)

 

「……当たった、か?」

 

「……いや、掠っただけだ。それでも充分だがな」

 

「……」

 

 煙が晴れ、立っていたのは藍色の着物の上に黒い、ナチスのSS士官が着用するものに似たコートを羽織い、癖のない黒の長髪を腰まで伸ばした、人形を想起させる完全な美の持ち主。

 

 十人中十人が絶世の美少女と答えられる容姿の持ち主。僅かに裂かれた頬から流れる血すら美しく感じさせるその姿で、鋭利な瞳をこちらに向けている。

 

(おぞましいほどの美しさ、とは誰が言っていたかね)

 

 だが、俺は知っている。絶世の美を持ちながら、こいつは男だということを。何故ならーー

 

「久しぶりだなあ、『氷帝』。いや、この呼び名はもう古いな。元相棒って呼ぶべきか?」

 

「……」

 

 俺の言葉に、死んだはずの家族であり元相棒の魔術師、■■■■は何も答えず、治癒魔術で傷跡が消えると再び気配が消え、『認識できなくなる』。

 

「ちいっ!」

 

「くっ!」

 

「ーーそこまでです、『妖刃』さん。これ以上、遠山さんを傷つける必要はありません」

 

「ーー……」

 

 そこで割り込んだ第三の声に、『妖刃』と呼ばれたこいつは俺の首元に刃を添えた状態で、停止する。

 

 あと少しでも動けば、俺の首は両腕と同じ運命になっていただろう。やれやれ、相変わらず出鱈目な『遮断術』だ。

 

「……こいつは、半端に生かさない方がいい。首を跳ねた方が、賢明だ」

 

 鈴の鳴るような透き通る声で、物騒なことを提案してくる。そこに殺気もなければ、感情の揺らぎもない。こりゃ洗脳されてるとか別人格でもないな、完全に本人だ。

 

「ーーっ。両腕を失った時点で、彼に勝ち目はありません。無駄な殺生は控えてください」

 

 元相棒の言葉に、第三者ーーメーヤさんは怯みながらも毅然とした声で止めるよう告げるが、

 

「ーーモーレツに甘いです、シスターメーヤ。『妖刃』君の言う通り、首を落としたくらいでも足りませんよ、彼は」

 

 メーヤさんの言葉に待ったをかけたのは、円月輪のような武器ーー環剱を携えた黒髪ツインテールで制服姿の少女、『魔剱』。勝気そうなツリ目を、油断なくこちらに向けている。

 

「……魔剱さん、あなたもですか。両腕を失った彼への対応が、甘いと言うのですか?」

 

「逆に聞きますが、『妖刃』君の攻撃を腕が無い状態で凌いだ彼が無害だと?」

 

「……ですが、もう勝敗は決したも同然です。私が止めなければ遠山さんは死んでいたでしょう。

 妖刃さん、もう一度言います。武器を収めてください」

 

「……」

 

 再度言われ、妖刃は無言で刀を収めて距離を取る。『自爆』の術式に巻き込まれるのを避けて下がったな、こいつ。死ぬ気はねえからやらねえっての。

 

「遠山さん、降伏してくださいませんか? 師団の皆さんには私が口添えしますので、悪いようにはしません。それとも、まだ抵抗を続けますか?」

 

 メーヤさんは憂いを含んだ表情で、こちらに問い掛けてくる。その目からは、本気でこちらを案じているのだろう。

 

 なるほど、性質が悪い。

 

「ーーいやいや、この状況で勝てると思うほど、俺はバカじゃないつもりだ」

 

 包囲を完成させたシスター達を見ながら、降参の意を示そうとして両腕が無いことに気付き、肩だけ竦めるのに留める。

 

「……潤」

 

「理子もまあ、武器を下ろせって。殺されないならマシだろうよ、異端審問にかけられないことを祈らないといかんが」

 

「……そんなこと、しませんよ。あなた達は魔女でもなければ、異端者でもないのですから」

 

 そりゃ良かった、と安堵の息を吐く。現代でもろくでもないの多いからな、異端審問は。

 

「それでは、遠山さん、峰さん」

 

「そうだな。理子」

 

「ああ、もちろんーー」

 

 

「「退かせてもらう」」

 

 

「ーーえ?」

 

「……」

 

「やっぱり」

 

 俺達がそう言うと同時、メーヤさんは困惑の声を出し、妖刃は刀に手を掛け、魔剱は溜息を吐きながら環剱に魔力を注ぎだす。

 

「残念、もう準備済み(・・・・)だ」

 

 血液を失った青い顔で、それでも俺は連中を笑ってやり、

 

「虚陣」

 

 

 斬られた両腕(・・・・・・)に手を開かせ、カバラ・ルーン・マントラ・九字ーー俺が知るあらゆる魔術式を含んだ陣が展開され、

 

「ーーあ」

 

「ーー」

 新月の空を暴力的に照らす、光の帯がこちらに落ちてきた。

 

 地表を貫かんとする白の暴力。そんなものを想起させる魔術にメーヤさんとシスター達は呆然とし、妖刃は視線を上に向け、

 

「刺髪!」

 

「はあ!」

 

 理子が俺に合わせて硬質化させた数千の髪を伸ばし、魔剱も魔術式を起動させて迎え撃つ。予測より反応がいいな。

 

「虚壁」

 

 妖刃が一言詠唱を口にし、眼前に巨大な氷の壁を出現させて防ぐーー

 

「散」

 

 直前、光の帯は八つの光弾に分散し、氷の壁を避けて再度地上に降り注ぐ。

 

「……」

 

 が、妖刃はそれを通すほど甘くない。氷の壁を足場に跳躍し、分散直後の光弾へ向けて刀を振るう。

 

「きゃーーあ、え?」

 

「……」

 

 悲鳴を上げようとしたメーヤさんが呆然とするのも無理はないだろう。抜刀・納刀の音すらなかったのに、光弾は切断されて消えたのだから。

 

 だが、時間は稼げた。あとはーー

 

『ご主人様! 理子様!』

 

 リサの思念が飛んでくる。と同時、路地裏の方から全長3mを超えた巨大な白い狼ーー幻視で『命の危機』と『満月』を視たリサ改め、『ジェヴォーダンの獣』が飛び出してきた。

 

 妖刃と魔剱が硬直した僅かな隙を突き、リサが俺を咥えて背中に乗せ、理子が跳躍して飛び乗る。

 

「リサ、速度緩めるな! そのまま突っ走れ!」

 

『は、はい!』

 

「にーげるんだよおー! バッハハーイ!!」

 

 動揺しているシスター達を飛び越え、ブリュッセルの街を巨狼が疾走する。建物の上に目を向けたら、俺達が離脱してすぐに二度目の斉射したカツェ達が、撤退を始めた。賢明だな、パトラだけ意地を張ったのか無理矢理引きずられてるけど。

 

 あ、両腕回収しておかないと。

 

「ユーくん、両腕浮かんでるのエグくない?」

 

「文句ならあいつに言え」

 

 切断面綺麗だけど、概念魔術相当の攻撃だからくっつけるの手間なんだよ。

 

「……さて、逃げろや逃げろ」

 

 行き先は事前に念話で指示している。ディアマン通りにあるブリュッセル石工組合会館ーーエルが教えてくれた、リバティーメイソンのロッジだ。

 

 

「……」

 

 相も変わらず、呆れるほどの分析力だ。走り去っていく巨狼を見ていると、横で魔剱ーーアリスベルがこちらに近寄り、肩を竦める。

 

「見事に逃げれられましたね。どうします? 妖刃君」

 

「どうもこうも……俺達は傭兵だ。依頼主の指示なしで勝手に動くのは、まずいだろう。

 ……で、メーヤ・ロマーネ。どうするんだ?」

 

「……っ」

 

 忠告を無視し、おまけで命の危機に晒されたメーヤ・ロマーネは、血を流すほど唇を強く噛んでいる。手を伸ばしたのに裏切られ、怒りに震えているのだろう。

 

「……妖刃さん、魔剱さん。今から追えますか?」

 

「私は……あの速度では、ちょっと難しいですね」

 

「俺は問題ない。……もっとも、リバティー・メイソンの拠点に着かれるまでだが」

 

 巨狼の速度と目標までの距離から、接敵は二度が限界だろう。リバティー・メイソンが自分の『現在の上司』の影響外にある以上、下手に手出しは出来ない。先の戦闘で『得た』情報から、あれはそう結論付けたのだろう。

 

「……妖刃君、なんだか楽しそうですね」

 

「……そんな顔、していたか?」

 

「いえ、顔はいつもの不愛想ですよ。ただ、そんな感じがしたので」

 

「それは、悪かった」

 

「……別に、謝ることではないですよ」

 

 そう言いながらも面白くないのか、アリスベルは不貞腐れた顔だ。後で機嫌を取らないとな、と考えながら口を開く。

 

「俺は追う。アリスベル、あれは任せた」

 

「! ええ、了解です。取り逃しちゃいました分には足りませんが、モーレツに刻んであげます」

 

 と思ったら、頼まれて機嫌良さそうに切断された光弾ーーが変じた、二枚羽の天使に向けて環剱を向ける。

 気難しいが、分かりやすいな。そんな風に今のパートナーを評しながら、敵ーーかつての相棒と、その現在のパートナー、巨狼の三人を追跡するために姿を消した。

 

 

「ユーくん、カツェ達は撤退したみたいだよー。手ぇ出すなよ、フリじゃねえからな!? ってのも伝えたけど、大丈夫かなあ?」

 

「フラグメッセージだが、問題ないだろ。イヴィリタさんを含めたナチの連中は、あいつの厄介さを理解している。

 少なくとも、十全の準備を整えてからーーうげ」

 

『ご主人様、どうしました?』

 

「……リサ、これは主人としての命令だ。到着するまで絶対振り返るな、じゃないと全員死ぬ」

 

『え?』

 

「返事! あと加速!」

 

『は、はいぃ!!』

 

「理子!」

 

「もう準備してる!」

 

「ヨシ!」

 

「この状況でよくふざけられるなお前!?」

 

「ふざけてねえとやってられねえんだよ!」

 

「なるほど納得!」

 

 納得されたので俺は、背後ーーほんの僅かだけ感じられる、急接近する気配に向け、魔術陣を展開する。腕くっつける暇もねえなチクショウ。

 

「潤、どれくらいもたせればいい!?」

 

「最低一分、接敵予想は二回! 死ぬ気で避けて防げ!」

 

「オーライ相棒! おりゃあああ!!」

 

 両手に一丁ずつ構えたウィンチェスターM1887ーーショットガンを乱射する理子。俺も数十の魔術陣を展開させ援護をするが、距離は離れるどころか縮まる一方だ。雀の涙程度には遅らせてるけどな!

 

「理子、弾幕張れ! 魔術も同時展開!」

 

「潤、ほとんど当たってない上に有効弾斬られてるんだけど!?」

 

「やらねえよりマシだ! とにかくうちまーーチィ!」

 

 いつの間にか追いついて刀を振るう妖刃に対し、無詠唱の三重概念ーー『遮断』、『拒絶』の二重魔術ーーで防御ーー

 

「あ?」

 

「よし、防いだ! 潤、もう一回いけるか!?」

 

「腕ないのと供給追いつかないから無理だ! 理子、頼む! 最低三重!」

 

「キッツイなあもう!」

 

 妖刃がダメージを嫌って追撃がないだけマシだよ、いやマジで。

 

「ーー」

 

「接敵!」

 

「ーー『デマント(拒否)』!!」

 

 理子が展開した概念防御の魔術は、妖刃の斬撃と相殺されーー

 

「ーー」

 

「あーー」

 

「ちい!」

 

 しかし十分に距離を取れず、二刀目の斬撃が迫る。間に合わなーー

 

「ーーっ」

 

 が、理子の背後から雷撃が放たれ、奇襲を喰らった妖刃は切り伏せながらも、空中での勢いを失った。

 

「……ナイスタイミングだ、ヒルダ。助かった」

 

『礼はいらないわ、遠山。理子に手を出すものは、誰だろうと手加減しないのだから』

 

『ご主人様、見えました!』

 

 リサの思念に千里眼で背後を視ると、目的の建物が見えた。そして事前に連絡を取っていたエルが、驚いた表情ながらもこちらに手を振ってくれる。

 

 妖刃はーー

 

「……よし、追ってきてないな。気配が遠ざかった」

 

「すげーほっそい気配だけどね……い、生きてて良かった……」

 

 隣で立っていた理子が、緊張を解いてリサの背中にへたりこむ。交戦時間は二分にも満たなかったが、こんなに短時間で命の危機に晒されたのは久しぶりだよチクショウ。

 

「まったく、想定する中でも最悪な部類の相手だな……まあ、まだ対処できる範囲になってくれてたから、良かったよ」

 

「アレでまだ対処できる範囲なの……?」

 

「範囲ですとも」

 

 高速移動中とはいえ、多少なりともあいつの気配遮断を『感知できた』んだから。

 

 

「……逃げられた、か。あいつが育てたパートナーも、十分脅威だな」

 

 

 おまけ

「ジュン、理子、大丈夫だった!? それと、この狼はーー」

 

『うきゅう……』パアアアア

 

「え、リサ!? あの狼はリサだったのかい!? 目を回してるけど大丈夫か!?」

 

「緊張と魔力消費で目を回してるだけだから気にしないでくれ、エル。中まで担いでくれると助かる」

 

「あ、ああ分かっーーってジュン、君両腕が!?」

 

「あーうん、その辺も説明するから中に入れてくれ。まずないだろうが、『魔剱』や『妖刃』の追撃があるかもしれんし」

 

「『魔剱』……!? わ、分かった、すぐ開ける!」

 

 

 




用語解説
ジェヴォーダンの獣
 オランダに伝わる伝説の獣にして、リサが持つ特異体質。元々は発動すると暴走させていたが、潤との特訓で条件を満たせば人狼か巨狼形態に任意で変身し、暴走もしなくなった。

 戦闘能力は(本人の性格から)無いに等しいが、移動速度と耐久力はずば抜けている。

 ちなみに服は魔力で体毛になっているため、解けても裸にはならない。裸にはならない(大事なことなのでry)
 

あとがき
 というわけで、地獄のチェイスでした。イメージとしては新宿特異点のワンコとバイクの追いかけっこを想像していただければ。役割が逆転してるのと、バイク側は生身でしたが(白目)

 はいどうも、ゆっくりいんです。潤が両腕斬られてあっちこっちも斬られましたが、愉快な仲間達はなんとか生き延びました。良く生きてたなホント(オイ)

 次回からはVS妖刃・魔剱のための逃亡・準備タイムです。さて勝てるのか? 私は全く構想が浮かびません(マテ)

 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。

 感想・評価・お気に入り等、いただければテンションが爆上がりして投稿頻度が早くなるかもしれません(真顔)

ぶっちゃけ中学時代の話って見たいです?

  • 読みたい!
  • いいから続きを書け
  • 各ヒロインとのイチャイチャを……
  • エッチなのはいいと思います()

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