遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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 前から自分の小説にもしキンジがいたらを考えることがあるんですが……うん、アリア以上に激しいツッコミ役しか思いつかないですね。多分胃痛が絶えないんじゃないかなあ……
 



第二話 証拠が無いなら造るか消せ

 

「理子ー、入っていいか?」

「あいあい! どーぞどーぞユーくん、りこりん特製Love Cobwebへようこそ!」

「素直に愛の巣って言えよ」

 ここ俺の部屋だし、しかも何で蜘蛛の巣なんだよ、捕まったらムシャムシャ(物理)されちゃうの? こえーよ。あ、どうも遠山潤です。

「いやん、ユーくんから愛なんて言葉が聞けるなんて――あり? この気配は……」

「久しぶりね、理子」

「――ヒルダ」

 部屋で深夜アニメを見ていた理子が、俺の影から現れたヒルダを見て目付きが鋭いものになる。一緒に見ていたリサと夾竹桃も振り向き、一瞬の無言。そして、

「ヒルダーー!!」

「理子――!!」

 お互いの名前を叫んで同時に飛び出し、

 

 

 ガシッ! と音がしそうなほどしっかり抱き合った。

 

 

「本当に久しぶりね理子! ああもうまた更に可愛くなっちゃって、女子三日会わざれば刮目して見よって諺は本当ね!」

「ふふふー、それ女の子じゃなくて男だよヒルダー? でもでもかわいいって言われるのは悪い気分じゃないかなー」

「そうでしょ? あと、私のことはお姉ちゃんって呼んでも」

「それは嫌」

「ガーーン!?」

 割り込み拒否されてorzするヒルダ。そこまでショックなのかよ、いつも断られてるって聞いてるんだが。

「いつもこんな感じなのか?」

「大体こんな感じね」

「御家族で仲が良いのは良いことですよ」

 夾竹桃は呆れ顔ながらそれでもメモを取り、リサは微笑ましそうに二人を見ている。なるほど、イ・ウーではこれが日常だったのか。

 そこで凹んでいるヒルダはブラドの娘である吸血鬼――なのだが、当時監禁されていた理子のことを妙に気に入り、父親の目を掻い潜って脱走させたらしい。その後二人でイ・ウーに入って生活していたとか。

 まあ要するに、両親を亡くした理子の親だか姉代わりらしい。

 その後、久しぶりの再会を祝って夜中の宴会が始まった。まあ途中でアリアが「うっさいわね! 夜中に騒いでんじゃないわよ!」と(寝ながら)キレたので、理子の部屋に移動したけど。

「んーにゅふふー……ユーくーん……」

「……」

 そして呑みすぎた理子が俺を抱き枕にして寝落ちし、拘束されて動けない俺を影からヒルダが凄い顔で睨んでいた。いや抜け出したいんだけど巧妙に間接極められてて……え、可哀想だから起こすな? じゃあその目付きをやめてもらえませんかねえ……

「……見極めさせてもらうわよ、トオヤマ」

 いや、顔半分だけ出して言われても……え、俺の影に入るの?

 

 

 ヒルダ来訪から数日経過した昼間。俺、理子、アリア、メヌ+αの五人は手配した黒塗りセダンに乗り込んでいる。行き先は東京高等裁判所、アリアの母親である神崎かなえさんの裁判である。勿論全員スーツ着用済、ちなみに+αはかなえさんの担当弁護士さんだ。

「うう、本当に大丈夫かしら……」

「お姉様、それ今日だけで十七回目ですよ? いい加減聞くのも耳タコですし、少しは落ち着いてくださいな」

「何で数えてるのよアンタは……いや分かってる、分かってるわよ。準備も万端不備はなし、やれることはやったって。でも、これでママを釈放できなかったらと思うと……」

「私やジュン、理子も最善を尽くしたんですから、自信を持って裁判に挑んでくださいな」

「アンタ達じゃなかったらもうちょっと安心できるんだけどねえ……」

「お姉様の不信に、メヌ泣いてしまいそうです」

「1ナノも涙が感じられない顔でよく言うわ……」

 顔が緊張と不安に満ちているためか、ツッコミにもイマイチキレがない。もうちょい信用してもいいんじゃよ?

「実績を考えたら当たり前でしょうよ」

 仕事の実績で考えてくだせえ。ホント直感はこんな時ばっか冴え渡るよなまったくもう。

「ふう、仕方ありませんね。理子、お姉様の緊張を和らげてください」

「うっうー、了解ですぞヌエっち!」

「ちょっとメヌ、私今そういう気分じゃ」ガシッ

「ふう~~~~」

「みぎゃああああぁぁぁぁぁ!!!??」

 おお、頭押さえ込んで耳に息吹き掛けたら凄い声上げ始めた。助手席の弁護士、蓮城(れんじょう)さんが何事かと振り向くが、いつものことなんでお気になさらず。

「なにすんのよなにすんのよこのバカ理子!? かつてないおぞましい感覚に全身が苛まれたわよ!!」

「えーそこまで言いますかいアリアん? ちょっとくらいは気持ちよかったでしょ?」

「んなわけあるか! 鳥肌が立ち過ぎて鳥になる勢いで気持ち悪かったわよ!」

「そしてお姉様は臆病者(チキン)になるんですね、今の状態だけに」

「欠片も上手くないわよ!?」

 緊張と一緒に理性も吹き飛んだらしい。元気なのはいいんだけど、車内で暴れるのはやめて貰えないかねえ。うお、ハンドル取られる。

「……大丈夫なのか、アレ」

「いつものことなんで」

 口でも伝えておく。軽く引いてるけど、気にしたら負けですよ。まあ到着する頃にはスッキリして落ち着いてるだろーよ。

 

 

「皆ありがとう、今度こそママを助けられるよう頑張るわ!!」

 誕生日の時、アリアは力強くそう告げた。その後パーティも終わり各々遊び続けたり寝始めたりする中、俺とメヌは裁判関係の話ということでアリアを別の部屋に呼び寄せた。というかメヌの部屋だけど。

「で、二人とも話って何? メヌにも手伝ってもらったから裁判の資料は全部揃ってるし、受け答えも想定してシミュレート済みなんだけど」

「はい、お姉様はメヌが想定し得る限り最善のものを備えていますね。それを踏まえた上で言います、

 

 

 今のままでは絶対に神崎かなえを無罪に出来ません」

 

 

「……は? ちょっとメヌ、いくらアンタでも言っていい冗談と悪い冗談があるわよ」

 嬉しさの余韻が吹き飛び、すっと真顔になるアリア。常なら小さな体躯から発される怒気も殺気も無いのは怖いが、メヌは臆することなく首を横に振る。

「残念ながら事実です。その理由は……ジュン、お願いするわ」

「ここで俺にバトンタッチかよ。正確には無罪に出来ないんじゃなくて、無罪にさせないよう妨害されてるんだがな」

「……誰がそんなことをしてるのよ?」

「政府や軍部のお偉いさん。かなえさんが持ってる色金の情報を表に出したくないんだろうな。そもそも一個人にここまで罪状被せるなんて、余程出したくない理由があると思った訳で」

 そうしたら見事にビンゴだった訳だ。ちなみにメヌも同じような情報を持っているが、日本に来るまでほとんど引きこもっていたのとリアルイギリス貴族に手出しをするのは日本じゃ不可能である。まあ来たとしても十中八九返り討ちになるだろうけど。

「色金の情報をママが……!? いや、それよりまた色金なの……じゃあ、アタシが必死になってイ・ウーの奴等を捕まえたのも、証拠集めに奔走したのも無意味だっていうの!?」

 叫ぶアリアの瞳には悔し涙が浮かぶ。親子揃って色金に振り回され、母親を助けるため必死の努力をしたというのに、それが無駄と言われてるも同然だから無理もないだろう。だが、

「もちろん、そんなことにはさせません」

「……?」

「お姉様の成果を保身のために消そうとする輩の思い通りになどさせませんわ。私とジュンで逆にぶち倒してやりますとも」

「で、でも、相手は裁判に圧力掛けられるような立場の人間よ? そんなのをどうにかするなんて」

「別に邪魔するのは俺達じゃなくても問題ないさ。敵なんてのは外部より身内の方が多いだろ、政治家という生き物は特にな」

 内憂外患、どっちに食い潰されるかは人次第だが、俺からすれば予測し辛い内側の方が怖いだろう。

「ジュン……」

 俺が笑って言うのを見て、アリアは、

「三流悪役みたいな顔するのね、アンタ」

「そこは素直にお願いしてくれてもいいんじゃないかなあ」

 

 

『それも、そうね。お願いジュン、ママを助けるのを手伝ってください』

「では判決を伝えます」

 真実を伝えたあの時を思い出しながら、裁判長の宣言を傍聴席から静かに聴く。

『お、おう』

「被告、神崎かなえ」

 右隣に座るスーツ姿の理子も緊張している。お前そんな顔出来たんだな。

『照れました? ジュン』

「被告は」

 一方、反対のメヌはいつもの含み笑いだ。これは自信満々と見える。

『いや、素直に驚いた』

「無罪とする」

「!!」

「――え?」

 無罪判決が伝わった途端、アリアは喜びで立ち上がりそうなのを辛うじて制し、かなえさんは――信じられない、といった顔だ。やっぱり自分の現状把握してたんだな。

「いよし! やったぜユーくん、ヌエっち!」

「当然の結果です」

「何はともあれ、これで一件落着だな」

 やれやれだ。無駄にならなくて何よりである。

 

 

「ママー!!」

「アリア……!」

 裁判所から出てすぐ、神崎親子は再会を喜んで抱き合う。

「ママ、ママァ……! 良かった、ホントに良かったぁ……」

「アリア、ありがとう……またあなたをこうして抱きしめられるなんて、夢みたいだわ」

「……ぐす」

 横の理子が貰い泣きしたので、何も言わずに頭を撫でてやる。親に関しては思うところあるだろうしな。

 それを見てか背後の影が揺らめいた。「理子に気安く触るものじゃないわ」とか言われるかな、と思ったらハンカチを取り出す動作、ってお前も泣いてるんかい。

(グス、家族の再会っていいものね。種族を超えた愛があるわ……男の涙なんて気持ち悪いものだけどトオヤマ、今日だけは存分に泣くのを許すわ)

(ブラドを出してやればお前も味わえるんじゃねえの?)

(理子を檻に閉じ込めていたクソ野郎(お父様)のことなんて知らないわ)

 酷い娘もいたものだ。まあ出てきたらもう一回ブチ殺してやるけどな。

 その後かなえさんに挨拶がてら感謝のハグをされたメヌが珍しく慌てていたり(「やべえあのメヌっちで萌え死にそう!」とか理子が喚いている)、俺にも礼を言われてどうやって無罪にしたのか聞かれたので「禁則事項です」と二人揃って誤魔化したら苦笑されたり、涙ありだがいつもの雑談をしていたら、

「まさか本当に母親を助けるとはね……コングラッチュレーション(おめでとう)、アリア」

 と、大袈裟に拍手をしながらワトソンの奴が割り込んできた。爽やか好青年(風)スマイルを合わせると普通は胡散臭いことこの上ないが、

「ハンカチいる?」

「っ、い、いや大丈夫だ、自分で持っている。そもそも紳士はこの程度で泣かない」

 目元がちょっと腫れてるの見れば色々誤魔化そうとしてるのモロバレだわな。というか泣く奴多すぎないか。

「逆にユーくんは感動のシーンで何故泣かないのですかな?」

「鍛えてますから」

「そこは鍛えなくてもいいと思うんだが……人間の感性として」

 紳士はこの程度で泣かないとか言ってた癖に掌返し早すぎるだろ。

「あーえっと……エル、久しぶり」

「うん、久しぶりアリア。……ひょっとして、トオヤマからボクのこと聞いた?」

「いや、勘で。メヌが昔アンタの事を弄ってた意味が今分かったわ」

「そんな簡単に見破られるとボクの立つ瀬がないなあ……」

「まあ、ホームズとワトソンの友好を強固にしようとする事情は理解してるつもりよ。今後は仲良くしましょう、友達として(・・・・・・)

「そこまで強調されると却ってそっちの気を疑われるの理解してる?」

 なんで幼馴染だろう二人で微妙な空気かもし出してんだこいつ等。

「あらあらワトソン卿、お久しぶりですね」

「う、メヌエット嬢……」

「メヌで結構ですわ、知らない仲ではないのですし。ですがその呻き声と嫌そうな顔はいただけませんね、紳士の名が廃りますわ」

「君は分かってて弄り倒してくるから苦手なんだよ……でも、以前会った時よりは雰囲気が柔らかくなってるね」

「確かにお姉様より一部分は柔らかく成長していますが」

「違う、そういう意味じゃない。淑女がそんなこと言うのもどうなんだい」

「今日は聞かないことにしておくわ。色金の影響で成長が遅れてるとはジュンから聞いたけど、妹が成長していくのを納得する理由にはならないわよ……」

 そこはまあアレだ、曾爺さんを恨めとしか。

 その後アリアとワトソンの妙なやり取りに首を傾げるかなえさんに真実を教えて驚かれたり、「アリアがいいなら止めはしないけど、親としては男の子と恋をして欲しいわね」と意味深にこっちを見られたりした。こら理子、人様の母親を威嚇しない。というか「きゅるるるる」って威嚇なのか。

 

 

おまけ

「ジュン、深刻な問題があるのですが」

「足の調子が悪いのか?」

「いえ、至って順調です。ではなく、かなえさんのことをさん付けで呼べばいいのかおば様と呼べばいいのか、お義母様と呼べばいいのかメヌの頭脳を以てしても解決できません」

「……いや、好きに呼べばええやん」

「それが分からないから恥を忍んでお前に聞いてるのよ!」

「逆ギレかい、たまに対人関係でポンコツになるよなお前……じゃあ親しみを込めて『お義母さん』でいいんじゃねえの?」

「そ、そうかしら。でもそれはその、何か違う気がするし、恥ずかしいし……」

「私は何でもいいわよ? ただお願いを聞いてくれるなら、おばさんよりお義母さんの方が嬉しいかしら」

「どっから出てきたんですかかなえさん」

 その後、メヌが密かに『お義母様』と呼ぶ練習があったとかなかったとか。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 アリアの母親かなえさん救出に一役買った男。何やらかしたか? 堂々とは言えないことです(適当)。強いて言うなら後日、政治家の汚職とか一斉摘発が起こったというくらい。
 抱き枕にされても冷静なのは、完璧に極まっているため気持ちいいより痛いため。痛気持ちいいの領域は無理とのこと。
 

神崎・H・アリア
 無事母親を助け出せて感動にむせび泣いた少女。原作では努力の甲斐なかったが本作ではアリアの地道な証拠集めが無罪の決定的な証拠になった。
 これで無事イギリスに帰る――予定はない。しばらくは母親と寮の自室で暮らす予定のため出番(ツッコミ)が減る――といいね(オイ)


峰理子
 親子の再会にもらい泣きしているお騒がせ役。名前は出ていないが裁判対策にも一役買っている。
 ヒルダとは家族のように仲が良いが、恋愛関係は(当てにならないため)相談することはない。あと『お姉ちゃん』と呼ばないのは、幼少期彼女に依存しないため自制してたのが癖になったとか何とか。


メヌエット・ホームズ
 不可能裁判を無罪にしてやった安楽椅子探偵。「久々に全力を出した」とは本人の談。
 対人関係でポンコツ振りが出るのは姉妹共通。メヌエットの場合弄れる相手なら例外らしい。


後書き
 異母姉妹の場合相手の母親なんて呼ぶんですかね? そんな無知を晒しつつどうも、ゆっくりいんです。
 いやー今回は難産でした……新キャラを動かすのって予想以上に難しいですね、しかも複数だと尚更。この辺にノリで書いてる弊害が出るのだなあと実感、まあやめませんけど(オイ)
 次回は出来なかった文化祭準備(という名の衣装決め)と、ワトソン視点でのお話になるかと。ヒルダ? 新キャラ同時は流石に勘弁してください何でもはしません。
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。



ぶっちゃけ中学時代の話って見たいです?

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  • 各ヒロインとのイチャイチャを……
  • エッチなのはいいと思います()

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