孫子曰く、敵を知り己を知れば百戦危うからずと言う。
「というわけで自分を知ったので、にっくきアンチクショウもとい遠山先輩を尾行したいと思います!」
「イギリス人のアタシでも何か違うの分かるわよそれ!? いや逆に合ってるのかしら……?」
「多分合ってますけど方法が致命的に間違っているんじゃないですかね。というか尾行するのに大声出すのもどうかと」
それもそうね。ああ忘れてた、神崎・H・アリアよ。修学旅行から帰って初めての休日、出掛けようとしたらおつむがちょっと心配なアタシの
気合十分なのは良いけど、我が戦姉妹は尾行に向いてないと思うわ。そもそも変装すらしてないし、せめて髪型変えるくらいしなさいよ。
「というか何で尾行なのよ、普通に情報収集なり模擬戦での動きを思い出せばいいじゃない」
「いや長い文章読んだり考え込むと頭痛くなってくるんですよ……」
「……」
桜の方を見ると、手遅れですと首を横に振った。この子ここまでバカだったかしら、初めて会った時はもうちょっと考えて動いてる……訳でもなかったわね(白目)
「とりあえず、尾行する気なら髪の色くらい変えなさいよ」
「アリア先輩も遠山先輩の弱みを探すの手伝ってくれるんですか!?」
「目的変わってるじゃないの!? アンタの尾行があまりにもなってないから口を出したくなっただけよ!!」
「なるほど!」
「普通に納得するな!」
とりあえず蹴っ飛ばしといた。「痛いです!」とか言ってるけど無視よ無視。
まあ本音を言うと、アタシも潤が一人の時何してるのかは気になる。大抵誰かといるし、相手のペースや行きたいところに合わせること多いのよね、アイツ。
というわけで尾行に混ざることにする。予定だとあと二十分くらいで出掛けるはずね。
「とりあえずアンタ達も含めて簡単でもいいから変装しておきましょうか。り」
「よしハイマキ、そこでれいとうビームだ!」
「キュウーン……」
「むむ、これもダメかあ。それじゃあサイケこうせ」
「不可能なことやらせようとしてるんじゃないわよ可哀想でしょうが!!
「ユンゲラー!? 蹴られるりこりんは可哀想と思わないのですかアリアん!?」
「アンタを哀れむくらいならア○バを哀れむ方がマシよ!」
「うわあグサッと来た! ハイマキ、乙女ハートに大ダメージな理子の仇を取るためアリアんにアタック!」
「 」ブンブンブンブン
「最終形態フリー○を前に絶望した野菜王子みたいになってる!?」
「誰が宇宙の帝王よ!」
「ポルンガ!?」
もう一回蹴り入れておいた。というかハイマキ、そんなに脅えなくてもいいでしょ――目を向けた途端降伏のポーズ取らないでよ!? 何もしないから!
「バカやってないでさっさと変装道具出せバカ理子!」
「乗ってくるアリアんも同罪だとりこりん思いまーす。もう仕方ないなあアリ太くんは」
「オラア!」
「オラエモン!?」
背負い投げで地面に頭から突き刺してやった。誰がダメメガネよ!?
「あの、峰先輩は大丈夫なんですか……?」
「うーうー言いながら抜けようとしてるし平気でしょ。これくらいで大人しくなるならアタシの胃は痛まないわよ」
「……大変ですね、ツッコミ役。特に周りがボケばかりだと……」
桜が遠い目になっている。ああ、この子とは仲良くなれる気がするわ。周りが天然バカにヤンデレストーカー、百合っプルにネタ収集者だものね。
……改めて考えるとカオスね、アタシの周りも他人のこと言えないけど。……今度お茶にでも誘おうかしら。
ちなみに桜がここにいるのは、早朝に尾行を思いついたあかりに何の予告もなく引っ張り出されたらしい。あかりアンタ……
さて、グダグダやりながらも簡単な変装(ウィッグ付けて軽く化粧した)を済ませて待つことしばし、潤が寮から出てきた。携帯を弄りながら降りているためか、階段脇に隠れているアタシ達に目を向けることはない。
「まずは第一段階突破ですね!」
「遠山先輩でも気付かないことがあるんですね」
「いやー気付いてて無視した可能性も大」
アタシも理子の意見に賛成。普段は全身に目がついてるんじゃないかってくらい気配に敏感だからねアイツ。……この間の魔神○思い出したわ、これ以上考えるのはやめましょう。飛び出して潤を殴り飛ばしたくなるし。
まあ最悪見失わければいいでしょ。ハイマキ、追跡は頼むわよ。
「ワフ」
よしよし、いい子ね。ちなみにこの子がアタシ達と一緒にいるのは、現在(イラストの依頼で)修羅場ってるレキに代わって理子が散歩を頼まれたからだ。
「あ、ユーくんバイクで移動するつもりですな」
「キュウーン……」
いやだからいきなり伏せないでよ!? 別に追えなくなっても怒ったりしないから!?
「その代わり酷いことするんですね、エ」
「言わせねえわよ!!」
「ラブアンドピース!?」
後輩に際どいネタ振ろうとするな! あかり、「エ、なんですかね……?」って考えなくていいから! 知る必要のない知識よ!
「は、それよりもこのままでは追いかけられなってしまいます! どうしましょう!?」
「いやジュンがバイク乗るのくらい予想しなさいよ!?」
「ぶっちゃけ持ってるのも初めて知りました!」
「もう尾行やめろアンタは!?」
「あの、遠山先輩行っちゃいますけど」
ああそうね、縦四方固め極めてる場合じゃなかったわ。
「理子」
「ほいほいりこりんにおまかせ~。というわけで皆、ゴーくんから死ぬまで借りてるハイエースに乗るのだ!」
「死ぬまでってつまり貰ったんじゃ……?」
そこで盗んだって発想が出ない桜はまだ穢れきってないわね。
「やー、ハイエースに乗るといつも興奮しますな!」
「峰先輩、ハイエースお好きなんですか?」
「いやいやさくっち、ハイエースでハイエースすることを考えると興奮するのですよ!!」
「はあ……?」
よく分からないと首を傾げているけど、知らなくていいことよ。誘拐の時にハイエースが一番使われてるってことなんて。
理子の巧みなドライビングテク(詳細は伏せるわ)によって付かず離れずの距離を取り、辿り着いたのは上野だった。車を適当なコインパーキングに停め、尾行を続ける。
「あ、潤じゃんヤッホー! 偶然会ったんだし、どっかでお茶してかない?」
「奢りじゃないなら考えるけど」
「よー潤! 今暇か、暇だよな!? この間のカラオケ勝負のリベンジだ!」
「暇だけどお前の相手をするほど暇じゃない」
「潤さん! 今日新しい娘入るんですけど夜どうすか!?」
「未成年に風俗を薦めるんじゃねえよ」
歩きながら色々な人に声を掛けられる。武偵高生徒、バンドマン、ホストみたいな男、果ては893から政府の偉い人まで……というか最後の人テレビで見た与党の議員よね? 「今度暇なときまた意見を聞かせてもらいたい」とか言われてるけど、アイツどんだけパイプ持ってるのよ。
ちなみに会話は私が拾ってる。そこそこ離れてるし喧騒の中だけど、これくらいなら訳ないわ。あかり達は驚いてるし理子は「
そうこうしてる内に辿り着いたのは、一軒のカラオケ屋。ヒトカラでもするのかと思ったが、ジュンは受付に何か言って上へ向かう。
「私たちも突入しますか?」
「鉢合わせたら面倒だし、もうちょい待ちましょ」
それから十分ほど経ち、ジュンは女子高生と一緒に降りてきた。見た限り一般高の娘ね。
その子は涙目で何度も頭を下げている。えーと、お礼を言ってるみたいね。ジュンは……「喧嘩してもいいけど、無闇に家出するなよ」か。なるほど、家出少女を探してたのね。駅まで送って迎えに来てた親御さんにわざわざ引き渡すあたり、面倒見いいわねコイツ。
そうして次に向かったのは、ビル内にある事務所。
「あれ、ここってたしか最近勢力を増しつつある893さんの事務所だったような……?」
「え、ちょ、それいくら遠山先輩でも危なくないですか!? 一対多数に正面からとか無謀ですよ!」
「大丈夫だと思うよ、桜ちゃん」
「平気でしょうね」
「問題ナッシングレベルですな!」
「あれ、心配してるの私だけですか?」
だって893数十人程度にアイツがどうにかなるなんて思ってもいないし。どうせ無傷で出てくるでしょ。
壁に張り付いてその後の経過をざっくり眺めると、
「なんじゃこのガキィ、ここはロペス組やぞ!?」
「どーもー武偵でーす。これから詐欺罪の強制捜査に入ります、拒否権はない」
「はあ!? オイ待てや武偵さんよ、何の証拠と権限があってここにきやがった!?」
「証拠は今から探す、権限は武偵だから自己判断の自己責任なので問題ナッシング、おk?」
「おk、な訳ねえだろうが!? そんな横暴通るんだったら警察のカチコミも許されるわ!!」
「横暴ちゃう、正面突破や。さっきの一言目を恐喝罪に仕立て上げてもいいんだし。
というかお前等みたいな現代ヤクザの知能犯気取りは正面から殴り込みした方が早いんだよ常考」
「そんな理屈通るかああぁぁぁ!!?」
うん、幾ら武偵でも通るか微妙よそれは。まあ十分もすると警察が来て、893達を一網打尽にしてたけど、不思議と彼らに同情したくなるのはなぜかしら。
それから昼食を挟んで本屋、金券屋、そしてゲームセンター? また誰か探してるのかと思ったが、そうじゃないっぽいわね。美少女フィギュアが並ぶUFOキャッチャーを素通りし――理子が一々立ち止まるので襟首掴んで引っ張る羽目になった、ギョッとされたけど仕方ない――、奥のネコとかレオポンのぬいぐるみが置かれたコーナーだ。ってレオポン!?
「アリアんストーップストップ、出てったら見付かるから!? というか以前一個取るのに五千円溶かしたことあるよね!?」
離しなさい理子、アタシには例えばれてでも負けてでもやらなきゃいけないことがあるのよ!!(←万札を握りながら)
く、ハイマキを連れてこられないゲーセンでアタシの目を欺くとは、やるわねジュン!(違)
「アリア先輩がかつてないほどハイになってますねこれ」
「ピーポニャン見て興奮する時の桜ちゃんみたいだねー」
「ちょ、あかり先輩それは言わない約束じゃないですか!?」
恥ずかしがることはないわよ桜、好きなものは好きなんだからしょうがない!
「さあ待ってなさいレオポン、今日こそ華麗にゲットしてやるわ!!」
「金を溝に捨てる行為はやめなさいアリア」
「捨てるんじゃないわ、これは必要経費よ!
……って、わひゃあ!?」
ジュンの奴、いつから背後にいたのよ!?
「お前がレオポンに夢中だった時だけど。で、半日尾行してて何がしたかったんだお前等」
「ユーくんのプライベートを余すところなく覗いてユキちゃんに自慢するためですよくふふ」
「寄るな人権侵害者」
「そこまで言う!?」
呆れ顔なジュンの手には、抱き枕型レオポン!?
「ふふふ、流石遠山先輩私達の尾行を見破るとはやりやがりますね!!」
「最初からばれてましたけど」
「しかしここで会ったが三日ぶり、今日こそぶっ飛ばさせていただきます!
喰らえひかちゃん直伝鷹捲――アタッ!?」
「ゲーセンで騒ぐな暴れるな、出禁喰らったらどうしてくれるんだよ」
チョップ一発であかりの暴走を止めた。そうね、レオポンが壊れるから暴れるのは良くないわよあかり(真顔)
「とりあえずジュン、その子をくれるなら今日一日尾行されたことは許してあげるわ」
「なんで俺が許される方なんですかねえ……メヌにやるか、このレオポン」
「すいません謝罪でも何でもしますからそれを私にください」
土下座も辞さない構えである。メヌにあげたら絶対くれる訳ないし、「羨ましいですかお姉様? 羨ましいですよね?」って煽られるのが目に見えてるのよ!
「その素直さに裏を感じるのは俺だけだろうか」
「アンタアタシを何だと思ってるのよ」
「ももまんとレオポンバカ。まあいいや、ほれ」
「レオポンに免じて許してやるわ」
「そりゃどうも。乾さんはこれ、ピーポニャン好きって聞いたから」
「あ、ありがとうございます! ……あれ、私遠山先輩に教えましたっけ?」
「情報は武偵の命だからな」
「むー! ねえユーくん、理子のはー!?」
「頭グリグリすんな痛いから。ほれ、アルトリアとジャンヌのオルタセット新宿Ver」
「流石ユーくん愛してるー!」
『リア充爆発しろ!!』
何か周囲の客から一斉に声が上がった。男女問わずとかどんだけよ。
「ぐ、まさかアリア先輩や桜ちゃんも懐柔されるとは……! でも、私は一人でもあきらめな」
「間宮さん、この辺に隠れ家的な洋菓子店あるんだが一緒に行く? 俺の奢りで」
「慎んでお供させていただきます!」
ビシッと敬礼してきた。落ちるの早いわね、まあ食い物で釣られる以上あかりは勝てないか。
ところでジュン、その奢りはアタシ達も含まれるのよね?
「夕飯に支障出たらリサと白雪にチクるぞ」
失礼ね、ホールくらいまでなら大丈夫よ!
「そんなに食べて何で太らないんですか!?」
「女の子はお菓子の容量無限大なのだよさくっち!!」
「容量は無限大でもカロリーは来ますよ!?」
それくらいで太るなら運動量が足りてない証拠よ(真顔)
こうしてアタシ達はジュンの奢りでケーキを堪能し、満足して帰途に着くのだった。尾行の成果? あーうん、とりあえずジュンは一人でもやらかしまくるでいいんじゃないかしら(適当)
登場人物紹介
遠山潤
半日尾行され続けてた野郎。なお、最初から気付いていたが声を掛けなかったのは、「杜撰すぎて逆に声掛けづらかった、というかでかい声で叫ぶなよ」とのこと。そりゃそうだ。
神崎・H・アリア
レオポン・ももまんに関してはプライドを捨てるのも辞さない暴走モードになるツッコミ役。本人曰く「つい理性をパージしちゃうのよ」とのこと。
峰理子
ハイマキの散歩をしていたら面白そうだったので同行したノリと勢いで生きている奴。なお、オルタコンビを白雪に見せて自慢した模様。すぐ殴り合いになるが、いつものことである。
なお、アリアと揃って本当にケーキ1ホールを平らげ、店員と後輩を戦線恐々させていた。これでもおやつの範囲らしい。
間宮あかり
順調にバカキャラ化が進んでいるAAの主人公。マジでどうしてこうなった、反比例して戦闘力は高くなっている。
ジュンをライバル視しているが、食べ物に二秒で釣られるため色んな意味で勝つのは当分先の話である。
乾桜
百合の花咲き乱れる花畑の中、一人ツッコミを頑張る苦労人。次点は火野ライカ。
アリアと理子のやり取りを見てボケ役を止めるのは暴力も辞さないといけないのかと悩んだりしたとか何とか。
ハイマキ
ご主人様以外に散歩へ連れて行ってもらったら、何だか妙なことに巻き込まれた武偵犬(狼)。なお喫茶店で犬用クッキーを貰いご満悦。
アリアには逆らっていけないという本能が染み付いている。強者に従う犬の本能である。
後書き
間宮あかりのバカキャラ度がグンと増した気がします、ののかちゃん頑張れ!(オイ)
はいどうも、遠山潤です。今回の小話で潤の生態というか一人だとどうなるか書くつもりだったのですが……うん、いつも通りgdgdしただけだな! 何も分からん!(マテ)
さて、次回はリクエスト分の小話を消化しようと思います。メインはリサです、お好きな方はお楽しみに。普通の話にはなる……のかな? ウチに限ってただのラブコメは有り得ませんけど(真顔)
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ぶっちゃけ中学時代の話って見たいです?
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各ヒロインとのイチャイチャを……
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