遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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作者(以下( ゚д゚))「はい、というわけでスタートです。あらすじにも書いてありますが、キンジさんはいません、その立場にウチのがいるということで」

潤「まさかの主人公不在という。何、存在を抹消したのお前?」

( ゚д゚)「人聞きぃ!? 単にキンジさんのいない世界線ってだけですからね!?」

潤「シュタ〇のΩルートレベルだけどな、それ。あ、基本はギャグですこの作品。あと、作者に銃等兵器の知識は大してありません」

( ゚д゚)「言わんでいいから」


『武偵殺し』編
第一話 出会いは特別、とは限らない


 東京武偵校。報酬次第で依頼を請け負う何でも屋武装探偵、略称『武偵』の卵を育てる教育機関(と言っていいかは微妙なアレさだが)。

 

 都心から離れた人工島丸ごとが学校の施設となっている特殊な立地条件。その中の一つ、第三男子寮の入口で一人の少年が携帯を眺め、立っている。

 

 典型的な日本人らしい黒髪黒目、涼しげな面立ちは美形と言っていい部類だろう。武偵高の制服に身を包み、空いた片手はポケットに突っ込み、口にチュッパ○ャップスを咥える姿は、一見すると無防備に見える。

 

 もっとも、腰に提げた二丁の自動拳銃ーードイツ製のUSPを見れば、(同業者でもない限り)わざわざ喧嘩を売る輩はまずいないが。

 

「さてさて、本日より私、遠山(じゅん)二年生の日々がスタートですよっと」

 

 などと少年――遠山潤が独り言ち、メールをチェックしてから自前の黒いバイクーースズキのSV1000に乗ろうとすると、ポケットの携帯から着信音。聞き慣れた『Magi○』が流れてきたので、着信ボタンを押す。

 

「もしもーし?」

 

『やっほやっほおはろーユーくん! 気持ちいいくらい快晴な新学期の朝ですな~』

 

 電話越しに聞こえるハイテンションなロリボイスの主は、峰理子。去年のクラスメイトであり、性別は違えどウマが合い、馬鹿騒ぎをしている仲の少女だ。

 

「お前が天気の話をする時は、大抵ロクでもない事の前振りと記憶してるんだが」

 

『信用ないな~。本日のりこりんインフォは、とってもお役立ちでっせ旦那?』

 

「マジかよ越後屋、じゃあちょっと期待しちゃうわ」

 

 理子のおふざけトークに便乗する潤、大体いつもこんな感じだ。

 

『くふふ~、期待されたぜ~。ではでは、朝イチで仕入れたホットな情報をオープン!』

 

「ザ・プライス」

 

『それはお宝じゃないかな!? あ、じゃあ情報料としてくだちい!』

 

「小判飴(佐渡名物のお土産)をやろう」

 

『わっほい!』

 

 電話越しに喜ぶ声が聞こえる。それでいいのか武偵(さすがに子供のおつかいレベルの報酬は早々ない)。

 

 話が逸れたが、ジャジャン! と理子は自分でSEを付け、

 

『なんと、先程武偵校へ出発したバスがジャックされちゃいました~! 現在巡回ルートを外れて爆走中であります!』

 

 と、ふざけた口調で真新しい事件を告げてきた。

 

「Oh……」

 

 やっぱろくなことじゃねえと内心呟きつつ、額に手を当てるアメリカンなリアクションをする潤であった。

 一方その頃、事件現場であるバス車内。潤の友人である少年、武藤剛気は己の不運を呪わずにはいられなかった。新学期早々、乗ったバスがジャックされれば無理もないだろう。

 

「チクショウ、武偵殺しは捕まったんじゃねえのかよ……!」

 

 周囲の混乱を助長させないため、小声で悪態を吐く。

 

 『武偵殺し』。ターゲットとなる武偵がいる乗り物に遠隔操作の爆弾を仕掛け、追い詰めることから名付けられた犯罪者だ。

 

 先日逮捕されたとニュースで報じられていたのだが、こうして再び事件は起こっており、剛気を含む乗客の武偵と運転手は、絶賛大ピンチだ。

 

『減速 すると、爆発 しやがります。爆発 したら 皆さんを 月まで 吹っ飛ばし やがります』

 

 新入生の一年女子が持つ携帯からは、紅白出場も経験した某ボーカロイドの爆破宣言が聞こえてくる。一々ネタを挟んでいるのは置いといて、これも武偵殺しと同様の手口だ。

 

「手分けして爆弾を探すんだ! あとこの中で装備科(アムド)の解体経験者がいれば――な!?」

 

 比較的落ち着いている二年の男子が指示を飛ばすも、途中で驚いた声を上げ固まってしまう。何事かと何人かが釣られ彼の見ている方向、後部座席の窓に目を向ける、向けてしまった。

 

「嘘だろ……!?」

 

 ボンネットと前席に計三丁のUZIを搭載した、無人のルノーがバスを追跡している姿に、悲鳴のような声を上げてしまう、振り向いた一人である剛気。それとほぼ同時、誰かの「伏せろ!」という声に従い、頭を庇ってその場にしゃがみ込む。

 

 武偵高の制服は防弾仕様だが、衝撃を完全に殺しきれるわけではないし、頭部は保護できない。撃たれたらバスの中なので跳弾の可能性もあり、撃たれれば負傷は免れないだろう。

 

「……?」

 

 しかし、いつまで経っても銃声は聞こえてこない。不審に思って剛気が恐る恐る顔を上げると、

 

 

「あーら、よっと!」

 

 

 バイクから飛び降り、ルノーを足場に更に跳躍、バスへと飛び移りながら置き土産にUSP二丁の乱射でUZIを破壊する友人、遠山潤の姿があった。

 

「「「「「「ファ!?」」」」」

 

 予想外の光景に外を伺っていた生徒が驚きの声を上げる中、当人はバスの非常口部分に掴まり、

『おーい、開けちくり~』

 

 と、口パクで伝えてくる。近くにいた生徒が開けると礼を言いながら侵入してくる姿は、いつも通りの軽薄で(剛毅から見て)腹の立つイケメン顔だ。

 

「おう剛、おはよーさん。新学期早々、中々愉快な目に遭ってるじゃねえか」

 

 こちらに気付いた潤が手を上げ、ニヤリと笑う。多分不幸な目に遭っているのを面白がっているのだろう、やはり性格が悪い(確信)

 

「そう思うのはお前か、ハリウッド映画の主人公くらいだろ……ピンチになるほど愉快に感じる変人かよ」

 

「ご挨拶だねえ。すぐさま窓から放り出したいわ、顔面から」

 

「死ぬわ!? 外道かオメーは!?」

 

「武偵だよ、っと」

 

 軽口を叩きつつ窓から右手だけを突き出し、迫ってきた二台目のルノーに向けてUSPの引鉄を引いた。

 銃声は一発、しかして放たれたのは三発。十八番である早撃ち(クイックドロウ)ルノーに搭載されたUZIの銃口に侵入し、内側から吹き飛ばした。

 

「……なんでUZIだけなんだ?」

 

「こうするためさ」

 

 トンネルに差し掛かったところで、潤がどこからか取り出したのはバール、っぽいもの(血が付いているように見えたのを、剛気は気のせいということにした、精神安定のため)。

 

「ぬんっ」

 

 前を走っていたルノーに向け、気の抜ける掛け声で投擲すると、タイヤが破裂してスピンしつつ、後続の二台を巻き込んで壁にぶつかり、まとめて爆発四散した。ナムサン!

 

「朝っぱらからでかい花火とは、景気がいいねえ」

 

 USPをリロードしながらつぶやく潤に、どこがだよと剛気が内心でツッコミを入れるのとは逆に、周囲の生徒からは歓声が上がった。

 

「さっすが遠山先輩!」

 

「私達に出来ない無駄に凄くて無駄な技法を平然とやってのける!」

 

「そこに痺れる憧れるぅ!」

 

「あっはっは――よし二番目の奴、外に捨ててやるからこっち来い」

 

「Σ(゚д゚;)エエッ!?」

 

 先程までの切迫した空気はどこへやら、一変してふざけたムードになる。基本的に武偵高の生徒は事件慣れしている上、バカ騒ぎが好きだからか。

 

「っと、それより潤。このバスには」

 

「爆弾が仕掛けられてる、だろ? さっきバイクで追っかけてる時に見たよ、クソでけえC4。武偵殺しと同様の手口だってのも、理子から聞いてる」

 

「さすが理子だな、情報掴むのが早い。そして女子と普通に連絡取ってるお前を轢いてやりたいわ」

 

「面倒だし、ルノーの仲間入りするか親友」

 

「気軽に炎上させるなよ親友。

 ……ちなみに、爆弾ってどれくらいの量だ?」

 

「聞かぬが吉だぞ。予測だと、ビルくらいなら余裕で吹っ飛ばせるな」

 

「言ってんじゃねえか、聞かなきゃ良かった。……俺を不安にさせるため、盛ってるんじゃねえよな?」

 

「不安にさせるのは合ってるが、量に関してはガチだ」

 

「オイ」

 

「まあそんなのはどうでもいいから剛、バスの運転変わってやれ」

 

「どうでもよくはーーあ? なんでだよ」

 

「顔が青を通り越して土気色になってるのが見えねえのか、お前は」

 

 見てみい、と指を差され、運転席の方に目を向けると。

「フ、フフ、フヒヒ……! この速度の先に、求めていた領域が見えてくる……!」

 

 ぶつぶつと何かを小声でつぶやいている運転手が、ハンドルを握っていた。事件のストレスに耐えきれなくなったのだろうか。

 

「……やばくねえか?」

 

「やべえな、明らかに発狂してるし。つうわけでこれ」

 

 潤がバールに続いてどこからか取り出したのは、黄色いメット。工事現場の人がよく使っている、十字マークがついた奴である。

 

「……何でメット?」

 

「セットでつるはしもあるぞ。嫌なら水色の密着型もあるけど」

 

「メットー〇かロック○ン!? じゃあ黄色いのでいいしつるはしもいらねえよ!

 ところで潤、俺改造がばれてあと一回で免停になっちまうんだが!」

 

「晴れてそうなったら、爆笑しつつ祝ってやるわ」

 

「ガチで轢くぞ親友!?」

 

 免停喰らわなければなーとケラケラ笑う潤に内心中指を立てつつ、剛気は運転を代わり(運転手は潤が当て身で気絶させ、医療科(メディカ)の生徒に押し付けた)、人通りの少ないコースを選んで走らせる。減速するとお陀仏してしまうため、加速は慎重に行わなければならない。

 

「バス下の爆弾は俺が解体するから、強襲科(アサルト)狙撃科(スナイプ)は援護、さっきみたいなのが来たら撃ち落としてくれ。

 他の生徒は協力して車内に爆弾がないかチェックを――うおおぉ!?」

 

 運転中のためよく見えないが、後ろ指示していた潤が唐突に慌てた声を上げた。

 

 散々弄られた剛気が、内心ザマアミロと思ったのは、ある意味当然だろうか。

 

 

 どうも、(成り行きで)指揮を執ってたら超ビックリした遠山潤です。なんでここから一人称視点かって? 知らん、作者に聞いてくれ(メタ+丸投げ)。

 

 そりゃ武偵やってるし、それなりに修羅場も経験してる以上奇襲くらいじゃ驚かないですよ? 

 

 でも流石に、バスの屋根からポン刀の切先が眼前に来れば誰だって驚く、俺だって驚いた。

 

 というか、

 

「うおお掠った! 鼻先シュっとしたぞ!?」

 危ねえ、ちょっとずれてたら脳天の生串しが出来てたぞ!? 幸い絆創膏貼っとけレベルのケガだったけど!

 

 そして脳味噌の串刺しってマズそうだな。あ、でも猿の脳味噌料理とかあるか(どうでもいい)

 

「ほらそこのバカ、突っ立ってると怪我するわよ!」

 

「怪我どころか死に掛けたんですけどねえ!?」

 

 俺と同じ場所から入って、釘○(アニメ)ボイスでバカ呼ばわりしてくださりやがるのは、それ天然? と聞きたくなる、ピンクツインテールの小柄な少女だ。

 

 一見すると小学生くらいに見えるが、行内では有名人なため、同学年であることは知っている。前に小学生と間違えたやつがジャーマンスープレックス喰らってたっけ、アレは痛そうだった。

 

 神崎・H・アリア。強襲科(アサルト)(死にたがり達が集まる前線部隊を育成する、武偵校の専門科目の一つ)における優秀な武偵だ。

 

 武偵にはE~Sとゲームみたいなランクがあり、彼女はその中の最高ランクであるS、その実力は軍の一個中隊と同等と言われている。

 

 俺? 探偵科(インケスタ)っていう探偵業を学ぶ専門科目のCランク(半端者)だよコノヤロー(←誰も聞いてない)

 

 そんなエリートさんな彼女だが、どうやらバスにパラシュート(後ろに飛んでいくのが見えた)で降下した後、刀をぶっ刺して着陸したのだろう。中々無茶しやがる(←バイクからルノーに飛び移った輩のセリフ)。

 

「あ……そ、そうだったの。やってから、下に人がいたらちょっとヤバイかなーとは思ってたけど……」

 

 目を逸らしつつ、「ごめん、アタシが悪かったわ……」と謝る神崎さん。あれ、意外と素直かつ常識的。ぶっ飛んだ行動力の持ち主って聞いてたから、もっとアレな人かと思っていたのだが(スゴイシツレイ)

 

「いや、大した事なかったから別にいいよ。唾つけりゃ治るナオールレベルだし、水に流そうや」

 

「そう言ってくれるならありがたいわ。で、アンタが指揮を執ってるの? 武偵殺しって情報は掴んだけど、爆弾は?」

 

「爆弾はバスの底面に見つけた、解体は俺がやるつもり。指揮はまあ、成り行きで。

 それじゃあ悪いけど、神崎さんも援護射撃お願いしていいか? Sランク武偵に指示するのもあれだが」 

 

「……別にいいわよ、アタシは指揮執るの得意じゃないし。アンタの指示に従うわ」

 

「おk。さっきのルノーとか怪しいもん見かけたら、即キルオブゼムで」

 

「何その物騒な言い方……」

 

「まあお気になさらず。じゃあ屋根上行ってもらっていい?」

 

「はあ? なんでよ?」

 

「バスの中じゃ視界が限られるし、遮蔽物も多い。かといって足場が不安定なんてもんじゃない屋根上で精密射撃を求めるのは、大半の奴には酷だろうよ。

 以上の観点から神崎さんが適切、というか神崎さんにしか頼めん」

 

 あとは『協調性に難あり』とプロフィールにあったので、下手にチームを組むより単独での行動を取らせた方がいいだろうという判断である。もちろん口には出さんが、殴られても文句言えんし。

 

「ふうん? まあそういうことなら仕方ないわね、やってあげるわ」

 

 俺の説明に神崎さんは納得、というより満足気だ。こういう反応をする人間は、付け上がりやすいナルシストかあんまり褒められたことのないタイプのどちらかだが、多分後者だろう。前者だったらすげー嫌だ。

 

 というか、こっちを興味深げに見ている気がする。窓から出るのに目を逸らすと危ないぞ、こっち見んな。

 

「よし、野郎ども喜べ! 美少女の足下に敷いてもらえるぞ!」

 

「「「「「オオオオォォォ!!」」」」」

 

「え、そこノるの!?」

 

「「「「「Σ(゚д゚;)エエッ!?」」」」」

 

 ノリいいけどないわーショウジキナイワー(←振った奴)

 

「バカなこと言ってないで早くしなさい!」

 

 神崎さんに怒られました、真面目にやろう(フラグ)。

 

 なので余ってたロック○ンメットを渡そうとしたら、「いらないわよ、何このふざけたデザイン!?」と、余計怒られたが。防弾性良いんだがなあ、バスくらいの高さなら頭から落ちても無傷でいられるし(中身は保証しない)。

 

 何はともあれ、プリプリしながら神崎さんは屋根上へ。指示を出してから俺も外に出る準備(解体用の工具とか)をしているのだが、

 

『俺を踏み台にしたぁ!?』

 

 さっきから延々と喚いてるボー〇ロイドが、死ぬほどウザイ。

 

「あの、遠山先輩、これ、どうすれば……」

 

 後輩女子ちゃんが、困惑した顔で聞いてくる。俺がルノーを足場にした時から、これしか言わなくなったらしい。

 

「窓から捨てとけ」

 

『え、ちょ、おま』

 

 外を指差したら急に発言が変わった。中の人でもいるのかこれ。

 

 捨てたら(お財布的な意味で)流石に困ると言われ、証拠品として持ち帰る必要あるなーと思い直したため、持っていた布で包んでおいた。防音・電波妨害仕様の地味にいい一品だ、後で返してもらおう(ケチ)

 

 準備も終えて窓から出ると、またも追ってくるルノー。その中の一台にはドイツの汎用機関銃ーーMG3が鎮座している。

 

「おいおい、オーバーキルってレベルじゃねえぞ?」

 

 防弾制服程度じゃ余裕で貫通し、人の挽肉が出来るだろう一品のご登場である。命綱を付けて逆さまになった視界の中だが、別に焦ったりはしない。

 

「過剰火力でしょう、武偵殺し!」

 

 屋根上の神崎さんが真っ先に発砲を開始し、一拍遅れてバス内も銃弾が飛んできた。

 

『こちらアルファ1、MG付きのヤバイ奴を先にやっといた! 損傷なし、リロードするわ!』

 

『アルファ2、こっちもUZI付きの二台をやった! 損傷なし!』

 

「ヒュウ、そうでなくちゃなあ」

 

 発砲前に全部潰したので、銃弾が飛んでくることはなかった。特に神崎さんはMGだけを正確に射抜いていた、さすがはSランク武偵である。解体作業中だが、手放しに褒めたいね。

 

 余談だが、コードネームはさっき適当につけたものだ。分かればいいんだよ(雑)。

 

『アルファ0、そっちの解体作業はどう!? 増援来るでしょうし、急いでくれると助かるんだけど!』

 

「え、もう終わったぞ」

 

『『はや!?』』

 

 インカム越しに神崎さんとアルファ2(モブ)の叫びが重なる。ええいやめんか、耳に響く。

 

「構造は多少面倒だったが、難易度自体は大したものじゃないからな。パパっとばらして無力化したわ」

 

『それにしてもどんな速度よ、張り切って損した気分だわ……』

 

「早いに越したことはないだろ常考。アルファ2、運転手に減速して大丈夫って伝えてくれ」

 

『……りょーか――! 潤!』

 

「おん?」

 

 気の抜けた声が、再び緊張を帯びる。アルファ0だよと思いながら後ろを向くと、破壊されたルノーをかわし、猛スピードで近付いてくる大型バイク――ドイツ製のF650GSが見えた。

 

 無人の座席部分にくくり付けられていたのは、

 

「……大盤振る舞いにも程があるんじゃないかねえ」

 

 恐らく世界でもっとも有名な対戦車砲、パンツアーファウストが鎮座している。当たればバスくらい余裕で爆破炎上するだろう。何、今回の武偵殺しは火力バカなの?

 

 こちらはバス裏で解体作業をしていたため逆さま状態、しかもバカでかい爆弾を両手で抱えているため、USPを抜く余裕はない。

 

「うーん、これはピンチか」

 

 神崎さんは降りようとしていたので反応が遅れ、バス内は動揺しているのか射線がずれている。もう爆弾投げつけるか、道路が盛大に吹き飛ぶだろうけどと考えたその時、

 

 

「イヤッフー!!」

 

 

「あ?」

 また後ろからバイク――もとい、スクーターが迫ってきた。聞きなれたハイテンションな声のおまけ付きで。

 

 GSの後ろから現れたのは、ノーヘル(着けろよ捕まるぞ)でハニーゴールドの髪を風にさらし、べスパ――以前剛の奴が200kmまで出せるよう改造したと自慢していた――に乗ったバカもとい、友人にして情報提供者の峰理子である。

 

 GSを追い抜き、バスの横にベスパを着けると、

 

「とーう! りこりん大ジャンプ! アーンドフライ・ア・シュート!」

 

 などと言いつつべスパから飛び降り、右の手でバスの窓ふちを掴み、左の手で愛銃のワルサーP99をGSに向け発砲する。

 

 空中、しかも回転しながらのジャンプで逆さまの視界(パンツ見えるぞ)という状態で放たれた弾丸は、狙い違うことなくファウストの銃口に吸い込まれ、爆発した。

 

 幸い、距離があったためバスの被害はなし。つーかあぶねーなオイ、結局爆発オチかよ。

 

「やはろーユーくん! 待った?」

 

「待ってねえし来ると予測してなかったよ。おいしいとこだけ持っていきおってからに」

 

 バス内に入りながら文句を言うと、理子はリスみたいに頬を膨らませる。子供か、いつも通りだけど。

 

「ぶー。つれないこと言うと理子、うっかりユーくんを突き飛ばしちゃうかもだぞー」

 

「オイヤメロ」

 

 走行中のバスに逆さ吊りとか、冗談でもごめんだ。これ以上頭に血が上がるような事態はごめんである。

 

 バス内の連中はアホ面下げてポカンとしていたが、俺が入って少しすると状況を理解したのか、「ワアアァ!」と湧き上がり、

「「「「「りこりん! りこりん! りこりん!」」」」」

 

 主に男子ども(一部女子含む)がりこりんコールを始めた。おいそこの野郎ども、えー〇んみたいに手を振るんじゃねえ。剛は前向いて運転しろ、衝突して死ぬぞ。

 

「イエーイ、みんなありがとー!」

 

 当の理子はダブルピースのニコニコ顔である。何だこのノリ。

 

「……何、この状況?」

 

「シラネ」

 

 戻ってきた車内の熱気に首を傾げる神崎さんだが、そんなもん俺が聞きたい。手柄を最後に泥棒されて一番持ち上げられるとか、わけがわからないよ。

 

 時の人になっていた理子が周囲に応えていたら、神崎さんを見て目を輝かせる。あ、これアカン奴だ(察し)

 

「ふおお!? ユーくんユーくん、生アリアんですよ生アリアん! 写真で見るよりずっとキュートですなあ!!」

 

「え? あ、ありがとう? というよりアンタ、なんでアタシのこと知って」

 

「アリアんは有名だから知ってるのは当り前田のクラッカーなのですよ! しかもカワイイとか理子の物欲センサーに引っかからないわけがない!」

 

「?????」

 

 何言っているか分からない顔の神崎さん。理解しない方が幸せだろうね、もう手遅れだが(合唱)。

 

「ああもうその反応も可愛いですなあ! これはお持ち帰りしてりこりんファッションショーを開かナルガクルガ!?」

 

「初対面なんだから自重しろHENTAI」

 

 とりあえず、暴走理子の頭にチョップしておいた。すぐさま文句を言われたが、そのままだとお前神崎さんを泥棒するだろうが。

 

 これが俺達と神崎さんが初エンカウントした事件であり、アリアという少女が理子という変態に目を付けられた始まりである。南無。

 

「変態じゃないよ、HENTAI淑女ですよ!」

 

「大差ねえだろ」




登場人物紹介
遠山潤
 探偵科(インケスタ)Cランクの二年生。武藤剛気、峰理子とは一年からの腐れ縁。人に指示するのは上手いが、実力自体はそこそこ。銃の扱いは長けている。

 ジャンプアクションや解体作業などかなりふざけていたが、最後には理子に丸ごと持っていかれた。

神崎・H・アリア
 強襲科(アサルト)Sランクの凄腕武偵、ピンクツインテールのミニマムキュート体型(理子談)。

 原作ではチャリジャックでパラシュートを使っていたが、今回は連絡から時間がなかったためバス着地に用いた。Sランク武偵だからなせる技である。

 ツンケンしているところもあるが、悪いことをしたら素直に謝れる程度には良識的。

峰理子
 探偵科(インケスタ)Aランク。アリアにターゲットを定めたHENTAI淑女。改造ベスパを全力でかっ飛ばしてパンツアーファウストを吹き飛ばし、話題と注目を掻っ攫っていった。こんなキャラ故か、校内屈指の人気者である。

 なお事件後、自分のベスパと潤のSV1000をきちんと回収し、修理に出している(修理費は潤からふんだくった)。

武藤剛気
 車輌科(ロジ)Aランク。乗り物なら大半は乗りこなせるが、違反改造して減点を喰らうこともしばしば。幸い今回の事件で引かれることはなかった。

 弄られ役、思春期男子高校生。


後書き
 ヒラコー先生は我が心の師(挨拶)。

 というわけで始めましてまたはお久しぶりです、ゆっくりいんです。今回は緋弾のアリアの二次創作を書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?

 とりあえずこんなバカなノリですが、稀にシリアスもやる……かも? ヒラコー節を小説で再現するのは難しい……

 構成としては原作一巻分を四話+小話という形で、一話五千字前後で収めようと思います。と言いつつ一話目でいくらかオーバーしていますが(汗)

 とりあえず亀更新な作者ですが、出来るだけ早く次を上げたいと思います。放置してるオリジナル? 艦これ? 知らんな(目逸らし)。

 感想・誤字訂正・批評などいただけると嬉しいです。それでは読んでくださり、ありがとうございました。

追記
2019/5/4 本文・後書き修正しました

2020/4/15 本文・後書き修正しました

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