遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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 俺、無限罪編が終わったら艦これの冬イベやるんだ……この話と小話書いてからだから、何時になるのやら(白目)



第四話 屈辱に身を震わせる準備はOK?(後編)

「ガアア!」

 銃を玩具のように握りつぶすブラドの拳が振るわれる。当たれば人間程度ただでは済まないだろう。当たればな。

「おっと」

 ギリギリまで引き寄せて回避し、振るわれた腕を蹴り上げる。無論俺の筋力では多少上がる程度だが、

「はっ!」

 そこに身軽さを生かしてアリアが小太刀二刀を交差させた斬り上げを行う。バターでも切るかのように腕は胴体から離れていき、

「ジュン!」

「あいよっと!」

 後ろに控えていた理子の声を合図に跳躍した彼女を蹴り上げる。弾丸と化して宙を駆けた状態で足を振り上げ、

「死んどけ!」

 回転を加えた踵落としが放たれる。咄嗟に残った腕で防ぐブラドだが、足元にヒビが入る程の衝撃でたまらずよろめき、そこへすかさず俺とアリアの銃撃が放たれる。

 狙うのは両足、銃弾はジャンヌ戦でも使用した『不義鉄槌(アンチ・ブロークン)』。それらは全て狙い通りに命中し、

「あは、もう一丁!」

 未だ宙空にいた理子が追撃の回し蹴りを見舞う。

「グガアアァァ!?」

 いかに吸血鬼とはいえ、二足歩行である以上支えを失えば体勢を保てる訳がなく、ブラドは叫びを上げながら倒れた。衝撃で屋上が軽く振動し、顔面は蹴りの形に歪んでいる。

「こ、このガキどもぉ……!」

 もっとも、それらの傷もあっさりと再生する。斬られた腕は新しく生え、顔面の歪みは修正し、両足も銃弾を吐き出して傷が塞がっていく。不義鉄槌(アンチ・ブロークン)は教会の法化銀弾(ホーリー)と同じ性質を持っているのでかなり効き目があるはずなのだが、足止め程度にしかならない。吸血による弱点の克服って訳か。

「あは、無様だなぁブラド。これで倒れたのは何回目だ?」

「ほざけ、テメエ等の攻撃がどれだけ入ろうが、俺の無限再生の前には無意味なことだ!」

 まあ、そうだろうな。ブラドの再生能力では顔を吹き飛ばそうが上半身を斬り飛ばそうが、即座に再生してしまう。全部試したから間違いない。

 となると、倒すには再生能力を司る機関、四つの魔臓を潰さないといけない。厄介なのが四つ同時に潰さないといけないのだが、以前ブラドと戦った聖騎士(パラディン)が魔臓の位置に聖痕と呼ばれる紋様をご丁寧に付けてくれたため、三つの位置は丸分かりだ。後の一つは隠しているのか見える範囲にはないが、

「さーて、どうする理子、アリア? 俺はまだ余裕あるが」

「アタシもまだ平気よ、法化銀弾(ホーリー)を思ったより使っちゃったけど」

「だからバカスカ撃つ癖直せっちゅーてるのに」

「うっさいわね、アンタみたいに戦いながら弾数の管理するのは難しいのよ」

「じゃあ余裕があるうちに叩いておくぞ、あたし的にはもうちょっと殺してやりたいが」

「よし、じゃあプランCで」

「「ないでしょ(だろ)そんなの」」

「ええ……まさか理子に突っ込まれるとは」

 金輪際出来ない経験かもしれない。まあ冗談は置いといて、弾倉の入れ替えもそれぞれ終わりブラドに向き直ると、

「もう遊びはヤメだ、こいつで串刺しにしてやる」

 引っこ抜いてきたらしい推定五トンのアンテナをこちらに向けてきた。

「ツエペシュの真似事か? その姿なら棍棒振り回すオーク(豚鬼)の方がお似合いだろうよ」

「……てめえも良く吠えるな遠山ぁ。そこまでお望みなら、てめえから血塗れのオブジェに変えてやらぁ!!」

 叫び、ブラドがアンテナを振り下ろす。無論先程と同じ大振りの攻撃など避けるのは容易い。

 だがブラドは振りかぶると同時に肺を大きく膨らませ、

「ワラキアの魔笛に酔え!」

 

 

 ビャアアアアアアウリイィィィイィィイイ!!!

 

 

 宣言し、咆哮が響く。至近距離で物理的圧迫感を伴う衝撃を受け、

「死ね!!」

「っ、チッ!」

 振るわれたアンテナ型金棒の横薙ぎをモロに受ける羽目になる。

「ガ……!」

 ブラドの怪力は凄まじく、衝撃を味わいながら空へ吹き飛んでいく。

「まずは一匹、さて次は――何!?」

 余韻に浸る呟きは驚愕に変わる。ブラドが向き直った時にはアリアの銃弾が放たれていた。

 反応が遅れ、両の肩と右脇腹、それぞれの位置にある魔臓を破壊されながらも腕を動かそうとするが、突如両腕に先端が鋭利な鎖を撃ち込まれて拘束され、更に足がズタズタに引き裂かれる。

「!?」

 驚愕に目を見張り視線を空へと向けるが、それは致命的な間違いだ。上空で放った鎖と足元の法化銀の粉を塗した糸を吹き飛ばされる直前に仕掛けた下手人である俺は、笑って親指を下に向け、言ってやる。 

Du-te dracului,vampir(地獄に落ちろ、吸血鬼)

「ブラドオオオォォォ!!!」

 ルーマニア語による俺の罵倒と同時、理子がアリアの銃撃と同時に投げたアンテナの破片が下顎から上顎までを貫通した。それこそ、杭のように。

 舌に刻まれた紋様、四つ目の魔臓を貫かれてブラドは一瞬停止し、全身から大量の血液が流れる。

「――――――!!!!??」

 もはや口の杭を引き抜く力もないのか言葉にならず、それでもブラドは叫びを上げてその場に倒れた。今度こそ起き上がることはなく、研究の成果でもある血液が屋上を浸していく。

「……ッ」

 最後の力を振り絞って口の杭を抜き、痛みを堪えながら濁った口笛を鳴らす。すると倒れていた狼達がよろめく足で近付き、その身体で日陰を作る。

 血液が失われたことで吸血鬼の弱点が戻ったのだろう。曇天の中でも太陽の光は吸血鬼にとって猛毒になる。

「無様だな、ブラド」

 動けぬまま太陽の光から逃れようとするブラドを、理子が見下ろしている。その傍らにはアリアと脇腹を抱えている俺。アリアは心配そうにこちらを見るが、気にするなと手を上げる。

「よ、ん、せ、ぇ……」

「魔臓を失えば呆気ないものだな、最強種も形無しだ。

 ……本当はもう少し痛めつけてやろうかと思ったけど、やめた。お前の地に這う姿を見て満足だ。

 これであたしの復讐は終わり、晴れて身も心も自由だ」

 言葉通り、理子の目にはもう狂気が宿っていなかった。そこには嫌悪も恐怖もなく、何かの余韻に浸っているように感じられる。

「よん、せい……」

 弱々しいながらも、ブラドは顔を上げて理子を睨みつける。その瞳にあらん限りの憎悪を込めて。

「この、屈辱は、忘れねえぞ……テメエは、俺から、逃げられねえ。次に会ったら、殺してやる……テメエも、アイツも!!」

「復讐する方とされる方が入れ替わったな。まあ、好きにすればいいさ。次があればな」

 そうしてもう興味を失ったのかブラドから視線を外し、こちらに顔を向ける時にはいつもの緩い笑みを浮かべていた。

「やーユーくんアリアん、今回は手伝ってくれてありがとうね! それとだましちゃってメンゴメンゴライアス!?」

 軽く謝る理子にアリアのアッパーカットが決まる。

「いふぁいー!? にゃにふんのさアリアん!?」

 舌を噛んだらしく涙目で抗議する理子。あ、口から血流れてる。

「騙した分の罰よ。友情割引により一発で手打ちにしとくわ」

 友情言う割に殺気が篭ってませんでしたかアリアさ「これくらい普通よ」アッハイ。

「うぅ舌が痛いー。ユーくんお口キレイキレイしてー」

「ほい、一件何の変哲もないドロップ」

「めっちゃ甘い!? めっちゃ甘くておいしいけど傷口にめっちゃ沁みるよこれ!?」

「何で追い討ち掛けてるのよアンタ。

 まあ結果的にブラドも倒せたし、ロザリオも取り戻せた。今度こそ依頼終了よね、理子?」

「うんうん、パーフェクトですよユーくんアリアん! それでは、お手を拝借!」

 両手を挙げる理子に、ハイハイと仕方なさそうに頷くアリア。でも顔が緩んでるから嬉しいのバレバレやな。

「ユーくん、後はユーくん待ちですよ!」

「ヘイヘーイ」

 俺も片手を挙げ、準備が整う。

「それじゃあ、ロザリオ奪還とブラドぶっころ達成をしたので~」

 いや、ブラド生きてるからな? 虫の息だけど。

「これにて理子からの依頼達成です! イエーイ!」

「「イエーイ!」」

 三人でハイタッチを交わし、今回の一件は幕を閉じた。

 

 

 なんて綺麗なオチになる訳がなくて。

「ねえジュン、これどうしようかしら」

 理子の傷口を治療していてやると(「歯医者さんみたいですな!」と理子が言うのでドリルを取り出すと、顔を青くして全力で首を横に振っていた)、アリアが声を掛けてくる。これ、とは未だ倒れ伏しているブラドのことだ。

「放っとけば警察か自衛隊が来るんじゃないか?」

 アンテナぶっ壊したしな。そこそこ時間も経ったし、到着してもいい頃だろう。

「まあそうだろうけど、捕まる前にもう一回くらいボコっておきたいのよね」

「リアル死体蹴りやん」

 何時からそんなドSになったアリアさんや。……ひょっとしてブラドに『無能』呼ばわりされたの根に持ってるのか、妙なところで短気だなオイ。

「(*ΦωΦ*)ピーン!!」

 治療終わった理子が何かを思いついたらしい。ピーンって口で言ってるしな。

「ユーくんユーくん、こういうのはどうでっか?」

 お耳を拝借~と言われたので屈んでやると、

「ふぅ~」

 耳に息を吹きかけられた。

 すかさずゲンコツを振り下ろす。ゴス、と中々いい音が響いた。

「いーたーいー、さっきのアリアんより痛い~!? ユーくんなにすんのさ~!?」

「次やったら脳天踵落としな」

 三回転のおまけつきで。

「ぶー、単なる冗談なのにー。では今度こそ」

 ゴニョゴニョ、って自分で言わなくていいわい。ツッコミ入れてから伝えられた内容は、まあ、なんというか、

「……そりゃあまあ、思い付く範囲で最大の屈辱だろうが。流石に死ぬんじゃねえか?」

「吸血鬼の生命力は凄いからヘーキヘーキ! ……死んでも別に問題ないし」

 小声だけど聞こえてるぞ後半。確かに死んでも殺人にはならんけどよ、人外だし。

 そしてアリアにも耳打ちすると、「GJよ理子」とサムズアップしていた。あ、これ完全にやる流れですわ。女子二人が同調した場合俺が勝てる訳ねえし。

「よーしじゃあ早速やろー! 理子前ねー、ユーくんどこ持てばいい?」

「両肩の辺り、腕は引き摺っていいぞ」

「じゃあアタシは真ん中で」

 日除けになっていた狼達をどかし、それぞれ配置に付く。

「おい、テメエら、何を――」

「よしゃあいくよー! あどっこいしょういち!!」

「「古!」」

 ブラドの声を無視して、理子の掛け声? を合図にその巨体が浮かぶ。

「う、お……!?」

 ただの人間に持ち上げられるは思わなかったのか、頭上から驚きの声が上がる。まあ実際重いしな、百貫デブ抱えるより辛いわ。

「えんやーこらさ~と♪」

「……触ってみると毛並みツヤツヤなのが何か嫌だわ」

「全身毟ればそれなりの価値になるかね?」

「そっちでも良かったかもね、運ぶよりは楽なんだし」

「おい、お前ら、なにするつも――ま、まさか!?」

 屋上の端まで来て、ブラドもようやく気付いたのか焦った声を出す。まあ気付くよな、投げやすいよう事前にフェンスを曲げておいたし。

「はいピッピー! アリアんユーくん、これ以上はりこりん落ちちゃうんでストーップ!」

「つまり押せってことか」

「やめて、理子死んじゃう!」

「ギャグ補正で生き残りそうだけど」

「その場合はアリアんを抱えて逝きます!!」

「アタシを巻き込むな! ジュンにしなさい!!」

 なんでや、というかブラド抱えてお喋りとか余裕あるなお前ら。

「よし、じゃあ理子は準備おk! ユーくんとアリアんはどうかな?」

「いつでもいいぞ」

「右に同じよ」

 両腕に力を込める。そのタイミングでブラドが、今まで死に掛けていたとは思えないほど必死に命乞いを始める。

「ま、待て四世! 今までのことは謝る! 神崎の母親に関しても素直に自供する! 何だったら今までの研究成果を元にお前を強くしてやってもいい! だから」

「うるせえよスカタン、黙ってやられてろ。

 あと、最後にもう一回だけ言っておくぞ」

 口調を変えた理子がブラドを更に持ち上げ、

 

 

「あたしは理子だ!! 四世でもお前の玩具でもないんだよ!!!」

 

 

 叫ぶように宣言し、ブラドを屋上から投げた。

「グアアアアァ!!!??」

 絶叫を残しつつ、ブラドは296メートルの高さから地上へ落下していく。無論狼の姿で跳べるわけもなく、もがく手足は空しく空を切るだけだ。

 ズウン、と鈍い音とここまで伝わる振動が発生し、屋上から地上を覗いてみると、

 

 

 地上に頭から突っ込んだブラドが、犬神様状態になっていた。そりゃもう綺麗に足だけ地上に残して。

 

 

 こ れ は ヒ ド イ。

 足が痙攣しているのを見る限り、まだ生きているようだ。大したしぶとさである、いっそ楽になった方が幸せな気もするが。

「「は、ザマア」」

 俺の横で女子二人は親指を舌に向けて鼻で笑っていた。お前ら仲良いね。

 まあ何はともあれ、ブラドに合掌。敵に回した奴が悪かったんだよ。

 

 

 余談だが、事情説明のためここに残ると宣言したアリアと一度別れる際、壊れたアンテナ(狼達はいつの間にか逃げていた)を見て理子が一言。

「ユーくん、トドメにアレを上から投げるってのはどうかな?」

「……マジでトドメになるからやめとけ」

 死因が肛門裂傷とか流石の俺でも同情するぞ。

 更に余談だが、後日この一件に関して週刊誌でネタが上がっており、『神奈川で起きた謎の地震はUMAによるもの? ランドマークタワーに突如発生したクレーターの謎を追う!』との見出しが書かれていた。UMAて。いやまあ吸血鬼は世間一般からすればUMAだろうけどさ。

 なお、この一件で残ったアリアはやりすぎだと公安に怒られたらしい。女子二人はブーブー文句を言っていたが、そりゃそうだろと思う。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 ブラドのアンテナ攻撃を喰らって軽症で済ませている男。実は直前に自分から飛んでダメージを軽減していた。無理あるだろと思うそこの人、(一応)主人公なので補正付いてるってことで。
 戦闘後の理子の所業には彼をして「そこまでやるか」と思わせていた。まあそこまで怨んでいたのだろうと納得している。でも運び方指示したの君だからな?
 
 
神崎・H・アリア
 理子の悪ノリに同調しいていた子。追い討ちを提案する辺りドSの片鱗が見えた気もするが、普段は弄られる側です。
 なお、怒っていたのは無能呼ばわりされたのもあるが、理子を物扱いするブラドの所業も含まれている。口には出さないが、友達思いな娘なのである。
 
 
峰理子
 復讐完了によりようやくスッキリした少女。本音を言うとまだ凹りたい、犬神様やった後も。それだけ怨みは深いのだ。
 なおこの後ブラドの写真を撮ってネットにばら撒こうと画策していたが、「公安が絡んでくると面倒だからやめとけ」と潤に止められた。もう容赦ねえどころじゃねえなこれ。
 
 
ブラド
 作者自身ちょっとやりすぎたかなーと思っている凹られ役。でも原作で理子にした所業を考えれば仕方ないね!
 ちなみに犬神様状態は前々から考えていました。公安に回収された段階でもまだ生きていたが、取調べの際妙に同情的な視線を頂いたという。
 
 
後書き
 改めて言いましょう、
 こ れ は ヒ ド イ。
 ……さて、以上で無限罪編終了です、本当は理子がショットガン取り出してブラドのきたねえ頭を吹き飛ばしたり、潤がRPG取り出して上半身を吹き飛ばすとかも色々考えてたんですが、グロ表現的にやばいかなと思って自重しました。まあカットしただけで似たようなことはやられてますが。
 なおとどめにアンテナを刺した場合、肛門裂傷で死んだブラドが阿〇鬼よろしく復活して野郎を追い掛け回す亡霊に――なるなんて予定はありませんし書けません、ホモはお帰りください(真顔)
 さて、次回は小話を二つ書きたいと思います。最初は武シノブ先生が書く漫画『緋弾のアリアちゃん』のネタを使用予定です。知らない? 是非買って読んで下さい、みんな可愛いんで!(ステマ?)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、心臓に杭を打ち込むような慈悲のない辛口批評・、お待ちしています!(←悪口一つでボロボロになるメンタル)

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