遠山潤は楽しみたい   作:ゆっくりいんⅡ

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第二話 見て得するものと損するものがある

 白雪の護衛を始めてから数日が経過した。正直アリアと白雪が喧嘩しないか心配していたのだが、特にそんなこともなく仲良く過ごしていく。最近など「お嫁さんになるなら絶対必須だよ!」と言って家事も教えてるくらいだし。まあ嫌がるアリアを根負けするまで説得した結果なんだけどな。

 とはいえそのお陰で、家事スキルゼロだったアリアがある程度は出来るようになり、今は役割分担で行えるにはなっている。俺? 皿洗いくらいはしてるけど白雪が率先してやってくれるため、暇な時間は対超偵用の武装を適当に試作している。一時期装備科(アムド)と共同で色々やらかしたから、そこそこのものは作れるのだ。

 この間、魔剣からのアクションは特に起こっていない。巷では都市伝説的存在だとか何だとか言われているが、火のない所に煙は立たず。そんな楽観的な考えは微塵も出来ん。

 と、白雪お手製の朝食を食いながら考える。食ってるシーンばっか? 授業風景なんか見てもつまらんやろ。

「そういえばジュン、アドアシードには参加するの?」

 出し巻き卵をモグモグ食いながらアリアが尋ねてくる。最近まで洋食派な彼女だったが、白雪の絶品和食が続いて意見を変えたようだ。この間は三人で蕎麦屋行ったし。

 それを見かねた白雪が「こら」と軽く注意している。姉妹みたいだね君ら。

「あ、そういえば潤ちゃん申請出してなかったね」

 白雪が思い出したように追随してくる。そういや生徒会長だったな。

 ちなみにアドアシードというのは、年に一回行われる武偵達の競技大会だ。分かりやすく言うならオリンピックだな、違いは砲丸とかボールの代わりに鉛玉が飛ぶくらいだ。

「護衛の件もあるし、今年は白雪と一緒に裏方やるつもり。仕事がなくても参加自体許可されないだろうが」

「……去年何やらかしたのよ」

 アリアの中ではもうやらかしたこと前提なんですね、分かります。まあ実際そうだけどさ、横の白雪も苦笑してるし。

「んーと、強襲科の参加種目で設置された障害物を投げたり壊したりしてぶっ飛ばされ、ラストのバンドに理子と変装して乱入したら、後でバレてやっぱりぶっ飛ばされた」

 理子お手製の変装術だから、バレねーと思ったんだがなー。やっぱビジュアルに拘りすぎて背格好を変えなかったのがまずかったか。

「それ以前に乱入するんじゃないわよ!」

「えー、でも観客にはすげえウケてたぜ? チアやバンドやってた皆も即興で合わせてくれたからな。

 しかも動画もあがったし、それを見たどっかの芸能事務所がスカウトに来たらしいし」

「訓練されたバカかアンタ達は!? バカしないと死ぬ病気にでも掛かってるの!?」

 失礼な、ただの愉悦至上主義者や(←大差ない)。

 ちなみにそのスカウトマン、勝手に侵入して不審人物扱いされた挙句、蘭豹先生に凹られ綴先生にごうも、尋問されたらしい。哀れといえば哀れだが、ぶっちゃけ顔も見てないのでどうでもいい。

「あの時凄かったねー、しばらくは潤ちゃんと峰さんでずっと話題になってたし」

「いや競技の方を見なさいよ……」

 溜息吐くアリアの言葉は正論だが、世の中目立ったもん勝ちやで?

 とまあそんな訳で、今年は裏方に徹するつもりだ。アリアはチアをやる予定らしい、時間あれば見にいくか。……動画録って理子の奴に売りつけるかな(オイ)。

 

 

 いつもの一幕が終わり、ただいま夕食後の入浴タイム。アリアはももまんの補充、白雪は皿洗いをしているので一番風呂ゲットだぜ。あ、細かい描写はカットな? 野郎の風呂シーンなんか誰も得しねーべ。

 しかし、暇だ。魔剣は機を窺っているのか準備をしているのか知らないが動きがないし、護衛の関係上他に依頼も受けられない。さっさと出てきてくれれば遠慮なく殴り飛ばせるというのに(←後方支援型の探偵科武偵)。

 そんな護衛として論外なことを考えている最中、事件は起こった。

「潤ちゃん、大丈夫!?」

 洗い物をしていたはずの白雪が、突如血相を変えて飛び込んできた。布巾持ったままだし、相当慌ててるみたいだ。

 さて、ここで状況を整理しよう。我輩只今入浴を終えたばかりで、タオルで身体を拭いている最中である。当然服はまだ来ていない。

 

 

Q:この状況で白雪が見たものは?

A:全裸で水も滴るウホッ、イイ男♂

 

 

『…………』

 硬直し、見詰め合ったままの俺達。数秒か数分か、とにかく幾らか経ってから動いたのは白雪だった。

 ビッ!

 そんな音が聞こえそうなサムズアップをし、いい笑顔のまま後方にぶっ倒れた。

 ……えーと、これどういう状況? とりあえず、

「きゃー、しらゆきのえっちー」(棒)

 それだけ言って、扉を閉めた。まずは服を着ないと二の舞になりそうだし、全裸で介抱してるのをアリアに見付かったら風穴開けられかねん。

「ただいまー、って!? 白雪どうしたの!? うわ、鼻血出てるし! しかもなんでイイ顔して気絶してんの!?」

「アリアお帰りー、悪いけど介抱頼むわ」

「ちょっとジュン、アンタ白雪に何かしたの!?」

「いや、白雪がいきなり風呂に突入してきて、全裸の俺を見てイイ顔でひっくり返った」

「どういうこと!? わけがわからないよ!?」

「アリアも俺の裸を見れば分かるんじゃないか?」

「アンタ何言ってんの!? ちょっと大丈夫、普段そんな下ネタ言わないでしょ!?」

「大丈夫だ、問題ない」

「あ、ダメだこいつ! 白雪はアタシが診てるから、ちょっと頭冷やしてから出てきなさい!!」

 幾らなんでも女子に裸見られりゃ俺だってドーヨーするぜ。そしてアリアのツッコミがこれほどありがたいと思う日は始めてだぜ。

 

 

『白雪、助けてくれ! 今風呂の中に――』

『じゅ、潤ちゃん!? 分かった待ってて、すぐ行くから!』

 プツン、ツー、ツー。

『……』

 白雪の回復を待ってから、さっき突撃する原因となった電話の記録を再生させてみたのだが、三人共微妙な顔で沈黙してしまう。

 とりあえず黙っていても仕方ないので、俺からこの通話の感想を言おう。

「ナイワーこんな俺ナイアー」

「声こそ同じだけど、これは……ねえ?」

「私も気が動転してたから気付けなかったけど、改めて聞くとぶき、じゃなくて、潤ちゃんらしくないよね」

 結果は満場一致で『誰だこいつ』だ。ストレートに助けを求めるとか全くもって俺らしくない、というか気持ち悪い。それと白雪、遠慮せず言っていいぞ。これは俺じゃ有り得ねえよ。

「これはアレかしら、魔剣が接触してきたということでいいのかしら」

「非通知だし間違いねえんじゃねえの? 離間の策としては下の下だが、仲間割れさせようとしてるし?」

「何で疑問系なのよ」

「いや、あんまりにもおそ松くん過ぎるから。下調べなってないってレベルじゃねえぞ。

 まあとにかく、実在が確認できた以上SSRに報告したほうがいいだろうな」

「あ、じゃあ私報告に行くね。でも、何て言えばいいのかな……」

「アタシも同行するわ。『魔剣らしき相手が頭のおかしいジュンを装って電話してきた』とかでいいんじゃないの?」

「アリア、流石にそれは潤ちゃんに失礼だよ……」

「じゃあそれで」

「いいの!?」

 いやだって、あの会話すげえ気持ちわりいんだもん。

「ところで白雪、通話の録音機能なんて何で取り付けたの?」

「ふぇ!? ええとその、あの、あれだよあれ、今みたいに犯人から電話来た時のためにね!」

「……まあ深くは聞かないでおくわ。あとジュン、アンタだったらああいう時なんて言うの?」

「ああ、窓に! 窓にピンクの悪魔が! って感じかな」

 ブン! パシィ!

「あら、手が滑っちゃったわ」

「滑ったならしゃーねーな」

 頭部目掛けての小太刀を片手で白羽取りする俺。白雪が驚きで数秒硬直した後、

「ちょ、ちょっとアリア!? 今のは幾らなんでも危ないよ!? 下手すれば潤ちゃん死んじゃうよ!?」

「峰だから大丈夫よ、仮に刃でもジュンなら大丈夫でしょ」

「……なんでそう思うの?」

「勘」

「その勘はダメじゃないかな!?」

 大分こっちのノリに染まってきたのか、白雪のツッコミも上手くなってきたな。最初なんか本気で止めようとしたし。まあ人間慣れである。

 

 

(キュピーン)「なんかアリアんに呼ばれた気がする!」

 呼んでねえよ。

 

 

 日付変わって翌日、朝一で魔剣のことを報告した後特に語ることもなく放課後。生徒会でアドアシードに関する会議があるということで、護衛である俺とアリアも白雪の横に座って参加している。準備自体は順調に進んでいるようで、会議の内容も確認作業と言った感じだ。

 しかし、そうなると暇だ。暇なので何度か意見を出そうとしたのだが、『アンタは喋るな』と横のアリアに視線で制されてしまった。『なんでや、建設的な意見出そうとしてるんや』と口パクで抗議したら、『どうせその後に茶々入れる気でしょ』と返された。図星を突かれてなんか負けた気分、うわありあつよい。

 というわけで大人しく座っていると、知り合いの連中から異様なものを見る目でガン見されていた。なので試しに『敗訴!』と書いた紙を堂々と掲げてみたら、『あ、いつもの潤だ』って感じでみんな会議に戻った。アリアには溜息吐かれた。もうどうしようもねえな俺(←自覚あり)。

 横の白雪が苦笑しながら会議の終了を告げ、役員の皆さんは今後の予定やどこに寄っていくかなどを話しており、女子が多いため自然スイーツ関連が多い。お、聞いたことのない甘味屋の名前、後で調べよ。

 白雪もどこかに行かないかと誘われているが、資料の整理があるからと断っていた。基本遠慮がちなのは相変わらずやな。

「潤ちゃん、アリア、ごめんね。仕事手伝ってもらっちゃって……」

「別にいいよ、待ってるだけも暇だしな。しかしこれ、外部の人間である俺達がやって大丈夫なんか?」

「別に極秘情報とかじゃないし、分かる範囲ならいいんじゃないの? あー、頭疲れてきた……」

「何だアリア、書類作業へばるの早いな」

「逆にアンタは凄い速さでさばいていくわね……後方支援とかただの自称だと思ってたけど、これ見てると一応信じられるわ」

「書類仕事は社会人の基本だぜ? 早く出来るようになって損はない」

「……アンタに社会を説かれるとは思わなかったわ」

「潤ちゃんは掟破り上等! ってイメージだしね。初めての時もそうだったな~」

 ほんわか和んだ感じで言ってるけど白雪さん、それ俺のイメージは常識知らずだって言ってね?(そりゃそうだ)

「そういえば、アンタ達って付き合い長いのよね。どこで知り合ったの?」

「えっと、たしか三年前だったかな? 潤ちゃんが金一お兄さんと一緒に」

 途中まで言って兄貴の名前にハッとなり、ちょっと申し訳なさそうな視線を送る白雪。そういや兄貴って世間では死亡扱いなんだよな、どーせ生きてるのはほぼ確実だし気にしてなかった。

「へえ。ジュン、アンタお兄さんいたんだ?」

「いるぞ、クソ真面目でリアル正義の味方みたいな感じの」

「なるほど、バカ(フリーダム)なアンタとは正反対ね」

「趣味は女装」

「……やっぱアンタの身内だわ」

 ダメだこりゃと肩を落とすアリア。まあ血の繋がりはないから、似てるのは単なる偶然なんだけどな。

「で、白雪と会ったのは兄貴に連れられて星伽神社に行った時なんだよな。青森にあるでけえ神社なんだが、ウチは代々縁があるらしいんで挨拶にな、その時姉妹達と一緒に紹介されて仲良くなった」

「白雪も姉妹がいるの?」

「うん、下に6人」

「多!?」

「義理も含めてだけどな。んで、仲良くなったきっかけなんだが、星伽は閉鎖的な環境でな? 話し聞いたら近所にも行ったことないって言うんで、丁度よくやってた祭りにこっそり連れ出した」

「ふうん、箱入りだったのね。それで二人で回って仲良くなったと?」

「いや、白雪の姉妹合わせて八人で」

「よく抜け出せたわね!?」

「閉鎖的といっても警備とかある訳でもないしな。ぶっちゃけ姉妹達の方がはしゃいでて、俺と白雪が抑え役だった」

「粉雪とか凄かったよねー。ずっと潤ちゃんのこと睨んでたのに、祭りではりんご飴ねだってたもん。ふふ、懐かしいなあ……」

 ちなみに粉雪は二つ下の妹で、未だにそのことを姉妹達にからかわれるらしい。まあ白雪お姉様命! って感じの子が一時とはいえ男にねだるような姿見せればそーなるわな。お陰で祭り終わったら余計嫌われたが。

「祭りかあ。そういや今日、花火大会があるって誰か言ってたな」

「あ、そうなんだ。何だか凄い偶然だね、お祭りの話してる時にお祭りがあるなんて」

 些細なことにも、白雪は嬉しそうに笑っている。よっぽどあの時のことが楽しかったんだろうなあ。

 さっき他の役員と話していた時、白雪が見せた表情を思い出して俺は一つ決める。

「よし、白雪。花火見に行こうや」

『え?』

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 星伽姉妹全員誰にも(自分の兄含む)気付かれず連れ出した地味にやり手なことをする会議室唯一の野郎。
 真面目な空気の中にいるとふざけたくなる性格。自分も参加していれば別だが、今回は暇なので奇行ばっかりだった。
 
 
神崎・H・アリア
 段々トラブルの処理能力が上がってきている、事務仕事はあんまり得意じゃない子。色事よりもトラブルだと真っ先に思ったのは、日頃の理子と潤の行いによる積み重ねの結果。
 潤が事務仕事できるのには素で驚いていた。机に向かう彼の姿が想像できないらしい。
 
 
星伽白雪
 イイ笑顔でサムズアップして倒れた鼻血系大和撫子。なお通話の録音機能は暇な時潤の声を聞くためである。
 姉属性が高いためアリアのことを妹のように(自然と)接している。恋愛事で衝突することがないため、原作より包容力のある姿が見られるかも。
 だが予測しよう、大人しいのは今 だ け だ 
 
 
後書き
 白雪が段々包容力のある癒しキャラになりつつある今日この頃。あれ、こんなキャラだったっけ……?
 最近冒涜的な音楽を聞きながら執筆しています。『旧支配者達のキャロル』、クトゥルフTRPG好きな人なら分かりますかね? 私? ニコニコで動画見てるだけのにわかです。あーTRPGやってみて~。
 さて私事はともかく、次回は花火大会編です。潤はアリアに汚え花火にされてしまうのか!?(多分嘘です)
 魔剣要素ねーじゃん! と思う皆さん、正しいです。何せアリアと潤仲違いする要素がないし……じ、次回には出てくると思います、多分(震え声)
 さてそれではいつも通り、感想・誤字訂正・リクエスト、目にデスソースを塗りこむようなきっつい批評、よろしければお願いします!(←SAN値1減少で発狂する精神構造

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