事の発端は休日の朝、珍しくゲームで徹夜してないメヌの一言から始まった。
「ジュン、デートに行くわよ。エスコートさせてあげるから、光栄に思いなさい」
「デートって事前告知も相手の合意もなしに行くものではないと思うんだが。
あと何度でも言うが、俺恋人いるんだけど?」
「理子にはお姉様を貸してあげたから、問題ないわ。嫌々言いながらお姉様も準備万端だったし、ノープロブレムよ。
ジュンの意見はまあ、聞かないであげる」
「あまりな扱いに納得したくない自分がいる」
そしてアリアはツンデレかな?
流石にどうよと思って一応の抵抗を試みていたら、理子からメッセが。
『アリアんとデートいちきます!! ユーくん、浮気はダメだぞ?????』
?の多さがなんか怖い。
「同性とのデートってノーカンなん?」
「理子は気が多いから仕方ないのよ。独占欲は強めだから、恋人が他の女に会うのはいい顔しないけど」
「うーん、この理不尽よ」
というわけでどうも、遠山潤です。現在メヌの希望で横浜に、人混みダメなくせして何故ここに来たし。
「
「それ場所じゃなくて〆切が修羅場じゃね? というか穴場ってーーゲーセンやん、ここ」
「それ以外の何に見えるのかしら?」
「それ以外に見えないから疑問なんだけど」
「察しが悪い恋人には、星3つ減点です」
「誰が恋人じゃい。いや違う、その星なんなん。初めて聞いたんだけど」
白のカーディガンに同色のプルオーバー、膝丈までのグレーのスカート、ブーツに黒のタイツという、一見すれば無害ないいとこのお嬢様みたいな格好のメヌ。
そんな彼女が、楽しそうに星のカードを黒く塗りつぶしている。アリアの折檻(物理)より最低10倍は怖いんだけど。
「仕方ありません。察しの悪い恋人役に、
「それよりその星について「私は理子やリサと一緒によくゲーセンへ行くのですが」」
あ、これ答えてくれないやつですわ(白目)
「お姉様にやりすぎないよう止められているのです、「ただでさえネトゲで徹夜ばっかしてるんだから、無茶するんじゃないの! アンタ歯止めが効かないタイプなんだから!」と。
なので、理子と行く時は必ずお姉様がついてきますし、リサにも止められるのです」
「シスコンに過保護属性加えてもいいと思うけど、アリアの発言は間違いなく正しい」
あとお前、アリアの声真似上手いな。理子にやってやればよろこ「嫌よ、面倒臭い」さいで。
「ですが、そんな中途半端なのでは満足出来ません。はっきり言って、欲求不満で爆発してしまいそうです」
「よし、俺を犯罪者にしたくないなら言い方考えような?」
「だからジュン、私を十分に満足させなさい。お姉様への言い訳も考えて頂戴」
「さらっとハードモードな要求が追加された件。というかここ公共の場所だから発言」
「お前なら取り調べ相手を言いくるめるくらい、簡単でしょう?」
「まず取り調べを受けるような状態に、しないで欲しいんだよなあ」
近くの女子高生達がこっち見ながらなんか言ってるし。違うぞ、年下の同級生に手を出す犯罪者じゃないぞ。こっち見んな(ガチ)
というわけで、目的のゲーセンに到着。選んだのはオン(音)で対戦相手をゲキする音ゲーである。
そういや理子も最近ハマってなこれ、お目当てのキャラゲットするためランキングに万単位で使ったとか言ってたっけ。
「まずはガチャよ」
「ここでもガチャなのか」
ソシャゲと合わせて幾つ課金ガチャしてるんだろうか。大抵のことには寛容なかなえさんが相談するくらいだから、大概な額なんだろうけど。
「天井という良心が付いた以上、無心でお姉ちゃんの限凸が終わるまで回せばいいだけだわ」
「五十連以上回した後だと負け惜しみにしか聞こえないぞ」
ちなみにお目当てらしい『お姉ちゃん』とやらは、まだ出ていない。毎回似たような光景を見ている気がする。
「……ジュン、ちょっと回して頂戴」
「オイ無心の回転はどうした」
「出ないとそれはそれで腹が立つのよ。あなた、良く理子のを代わりに回して物欲センサーを回避してるでしょう」
「確率が収束しただけだと思うけど」
「いいから回すっ」
「へいへい」
大分ムキになっているし、ここでやるしかないか。といっても所詮は確率だし、押すだけの作業で何か違いがーーあ、二枚抜きした。
「…………星、一つよ」
「そんな顔で言われても」
推しが出た喜びと、他人に引かれた悔しさが悪魔合体して、表現し辛い表情になってら。
「そいじゃあプレイどうぞ、
「んっ」
筐体前に車椅子を付けてやったのに、上目遣いで万歳するように手を上げてくるメヌ。
「……」
「ふふ、いい子ね。星1個、付けてあげる」
周囲の目とか躊躇する心を即座に切り捨て、お姫様抱っこでメヌを筐体の椅子に座らせてやる。満足そうなのはいいんだけど、その星なんなのよマジで。
(しかし、軽いな)
リサと白雪の食育で成長しているはずだが、羽毛のように、とまではいかずとも、最初の頃とほとんど変わってない軽さな気がする。あれだけ食ってるのに「……セクハラでお姉様に言いつけるわよ?」やめろください死にます(必死)
足は治ってるから地力で立てる? そんなこと言うか無言で待ってろ、即座に星の負債を抱える上に(口で)切られるんだよなあ。
「それじゃあ、潤はこっちね」
筐体に座らせたと思ったら、ポンと小さいお手手で隣の席を叩いてから手招きしてきた。
「え、俺もやんの?」
「当然。マッチングした方が稼げるし、他の人が来ないよう壁になりなさい」
「変なとこでコミュ障発揮するなお前。これ、あんまりやんないんだけどなあ」
まあ変に絡んで口撃の犠牲者が出る可能性が高いし、大人しく横に座るとしよう。何か周囲から黒い声が聞こえてるけど、スルーだスルー。
「ノルマは最低百曲よ」
「マジで言ってる?」
「当然。お姉ちゃんと一緒に戦えるなら、百どころか二百でも余裕よ」
「メヌエットの愛が重くて怖い」
推しがいるオタクって、みんなこんな感じなんだろうか。
そして時は流れ、数時間後。
「腕、腕が痛いわ……」
「そら(百通り越して百五十曲もやれば)そうなるわ」
「ジュン、回復魔術掛けて頂戴……」
「治したら絶対同じことするから、却下」
「意地悪……じゃあせめて、マッサージ……」
「注文来るまでな」
アリアの予感的中だな、俺も予測はしてたが。
とりあえず、椅子越しにメヌの手や腕を揉んでやる。
「いった……ちょっと、優しくして頂戴」
「こっちの方が治り早いんだよ」
「……本音は?」
「少しは懲りなさい」
「今日のジュンは意地悪です……」
「キャラ変わってるぞ」
そんなに痛いのイヤか、リハビリはへこたれずやってたのに。
あと涙目で睨むな、俺が悪いみたいになるでしょうが。店員さんからこの女泣かせが! って視線を貰ってるから。
「ほら、ケーキ来たぞ」
「んっっ」
「お前ね……」
抱っこの次はあーんを要求してきたぞ、こいつ。さっきと違って少し顔を赤らめてるけど。
「……腕が本当に痛いのよ。困っているレディに食べさせてくれるくらい、紳士なら当然してくれるでしょ?」
「紳士への期待値高すぎませんかねえ」
一応抵抗するも、無駄だと悟ってブッシュ・ド・ノエル(1ホール)を食べやすい大きさに切り分け、メヌの口へと運んでやる。
「はい、あーん」
「あむ。……ふふ、合格ね。星一つ、あげるわ」
「そうかい、そりゃ何より」
無邪気に笑うメヌを見て、店がお眼鏡に叶ったことを確信する。ダメだったら何されたんだろうな。
しかし何というか、今日のコイツは幼いというか、歳相応の顔を見せてくる。こういうのも魅力的なんだろうが。
「……そういうこと思ってるから、たらしだのなんだの言われるのではなくて?」
「普通は口に出さないから察せられないんだよ」
デフォで心読んでくるお前らが怖いよ、慣れたけど。
山盛りのハニートースト、五段重ねのパンケーキも食べ尽くしてようやく回復&満足したメヌに指示され、次に向かったのは。
「ブティック?」
「ええ、女性もののね。お姉様の服を見繕いたかったのよ」
「それなら俺より女子メンツの方が良かったんじゃね?」
「男性からの視点も欲しかったのよ。ジュンはそういうの、ちゃんと助言もくれるでしょう?」
「センスの有無は知らんけどな」
「ダメなら減点するから大丈夫よ」
「だから何をだよ、こええよ」
再度問うてみるも、メヌは最高に嫣然とした笑みで沈黙を貫く。ぜってえろくでもねえなこれ。
「ほらほら、一緒に選びなさい。今日のテーマは『大人の魅力』、よ」
「五十年くらい待てば身に付くんじゃねえの」
「お姉様に伝えておくわね」
「すいませんマジ勘弁してください」
緋々色金の老化の鈍化を考慮して、肉体の成長具合から逆算しただけなのにボコられるとか勘弁過ぎる。
「青と白ならどっちがいいかしら?」
「お前の選んだセンスが最高のセンス」
「雑なオマージュしてると、本気で切りますよ?」
「すいません真面目にやります」
というわけで、大人っぽいコーデ衣装を二人で幾つか見繕っておく。アリアは素材がいいんだし、着こなして黙って落ち着いてれば魅力を引き出せるだろう。
「落ち着かせないのはアンタ達のせいでしょうが!?」
「アリアん、またどっかから電波少女したの~?」
「それ意味違うでしょ。ジュンにバカにされた気がしたのよ、多分」
「むー。理子とのデートで男の名前を出す悪い子は、こうだ!」
「いやアンタの彼氏で、わひゃあ!? ど、どこ触ってんのよ!?」
「うへへ、良いではないか良いではないカルデア!?」
「やめなさいつってんでしょこのHENTAI!!」
夜の街並みを眺めながら、ゆっくりとメヌの車椅子を押して歩いていく。
「ふふ」
「そんな嬉しいかね」
「ええ、ジュンがわざわざ選んでくれたんですもの。嬉しくないと言うのは、嘘になってしまうわ」
「妙に可愛らしいこと言うじゃないの」
「乙女は恋に夢見る生き物なんですよ」
「お前さんは(悪)夢を見せる側だろうよ」
「気分がいいので、星は引かないでおきます」
「そりゃどうも。それにしてもこの服、アリアにサイズ合ってるのか?」
目算だが、アリアが着るにはややサイズが大きいものと予測できる。具体的には、目の前の車椅子少女が着るのにちょうどいいものだ。
「あら、それはそうですよ。だってこれはーー」
紙袋を抱えたままのメヌが顔だけ振り向き、チェシャ猫のように目を細めながら、
「ジュンに私の魅力を教え込むための、勝負服なんですから」
「はい?」
「隙あり」
反応が遅れた俺の意識を突くように、メヌは車椅子の上で背を伸ばし、俺の頬に柔らかな唇を押し付けてくる。
「あむっ」
「うおうっ」
柔らかい感触を堪能する間もなく、一緒に耳も甘噛みされてしまった。変な声出ちゃったじゃん。
「うふふ、いい反応するわね」
「ビックリ半分だよ。というか、好意を伝えられた記憶がないんだが」
「好きではないと言った記憶もありませんよ? だからーー覚悟して、待っていてくださいね?」
「……お手柔らかに」
「嫌です。全力で堕としますから」
肩を竦める俺に、夜のイルミネーションと同じ、輝くような笑みで拒否するメヌ。
まったく、どうなっちまうのかね。
「ちなみにあの星、マジで何だったん」
「ヤンかデレかの分岐、よ」
「うわあ、詳細聞きたくない」
「おめでとうジュン、プラスになったからデレルートよ?」
「喜べばいいんかね、それ。ところで何故耳を噛まれたのか疑問」
「理子から、ジュンはここが弱いと言っていたので」
「あいつ彼氏の弱いとこ他の女に教えてんの?」
「誘導尋問は得意ですよ?」
「やめようね? お前さんがやると回避できるやつなんかまずいないんだから」
『疑ってすまん』
『? いいってことよ!( ^ω^ )』
おまけ
「というかお前ら、俺をハーレム状態にしようとするのなんなの?」
「ジュンは共有財産みたいなものだからよ。白雪も承認済みです」
「俺と現彼女の意見が無視されてる件について」
「理子は盛大にむくれてましたね。まあ、とっとと告白しないからこうなったと言ったら撃沈してましたが」
「もしくは俺が彼女作れば良かったか」
「何処の馬の骨かも分からない輩と付き合ったら、白雪が暴走して八つ裂き(比喩抜き)にしますよ?」
「なにそれヤバい」
キャラ紹介
遠山潤
恋人が出来たのに、他の女から遠慮なくターゲッティングされている黒一点。
メヌエットとのデートでは、今日は乙女な部分出してくるなーと思っていたが、告白は完全に予想外だった模様。
メヌエット
傍から見ると脈絡なく告白したようだが、ジュンに好意を悟られないよう巧妙に隠していた策士。理由は「ジュンの間抜けな顔を見たかったから」。
原作に比べ、色々育ってきて姉を追い越している模様(何とは言わない)
後書き
改めてお久しぶりです、ゆっくりいんです。
今後の展開のフラグ建築回でした(回収するとは言っていない)
次回はようやく、二部開始のための話に入っていきます。
ぶっちゃけ中学時代の話って見たいです?
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読みたい!
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いいから続きを書け
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各ヒロインとのイチャイチャを……
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エッチなのはいいと思います()