神崎・H・アリアよ。……誰に言ってんのかしら、アタシ。
まあそんなことはどうでもいい、問題は目の前の光景だ。正直思考が正常に働いてないのは自覚してる。なんたって、
「理子のものになって?」
……あ、敢えて今見たものを話すわ! アタシは呼び出されたと思ったら、パートナー(女)がパートナー(男)を押し倒して熱烈な告白をした現場を目撃した!
何を言っているか分からないと(ry
え、何!? 何でアタシ告白現場を目撃してるの!? あの二人やっぱりそうなるような関係だったの!? というか事件の件で呼ばれたのに何この状況!?
とりあえず中に入るべき? いやいやどう考えてもマズイでしょというかキスする気子供出来ちゃうじゃない止めるいやいやとにかくお幸せに!!
もう自分でも何考えてるのか分からなくなってきた。多分顔はリンゴよりもまっかっかになってるわ。
「アーリアん? そんなとこに隠れてないで出てきなよ?」
げ、何でこの状況で気付いてるのよアイツ!? というかこっちは空気読んで撤退しようとしてるんだからそっちも空気読んでよ!
正直今からでも逃げた方がいいのだが、思考が茹ってるアタシは恐る恐る入ってしまった。
VIPルームと呼ばれるそこは、落ち着いた雰囲気で密会をするには適切と言えるだろう。そして中央にあるソファには押し倒された潤と、押し倒した理子。無理無理直視なんて出来ない!
「お、お邪魔だった、かしら?」
目を逸らしてどもった声になってしまう。いつものアタシなら怒鳴りつけて蹴っ飛ばしてるところなんだけど、あーもうどうすりゃいいのよ!?
「くふふ、いいよー呼んだのは理子だから。思ったより来るの早かったけど」
「あ、アタシは集合三十分前に来るのを信条にしてるから」
今は後悔してるけど。ロンドン武偵局の用件が終わってすぐ、急いで来なければこの現場に遭遇しなかったかもしれないのに。
「えっと、と、とりあえず、色々済んだら呼んで! お邪魔虫のアタシは外で待ってるから!」
「なんだったらアリアも混ざる? 愉しいこと」
「はあぁ!? なななな何言ってるのよ!?!?」
何でアタシも巻き込もうとするの!? 実は理子も一杯一杯なの!?
「だぁって理子、アリアのこと大好きだから。潤と一緒に理子のモノにしちゃおうかなーって」
「アンタ何言ってんの!?」
意味分かんない! というより分かりたくない! アタシの勘がかつてない勢いで警鐘鳴らしてるんだもん!
「気を付けろアリア、理子はガチのバイだから」
うわあ潤余計なこと言わないでよ!? 超嫌な予感大当たりじゃない! というか結構余裕そうねアンタ!?
「愛は広大で性別を問わないんだよ?」
「それただの節操なしじゃねえか。いいから降りろ」
「ぶー、チュウの一つもすれば潤もアリアもその気にさせられたかもしれないのにー」
ふて腐れてるが理子は素直に潤の上からどいた。え、これからナニかするんじゃなかったの? ナニするかは知らないけど(←小学生以下の性知識)。
パァン!!
「みぎゃあ!?」
え、何々新手の奇襲!?
「おう、とりあえずクールになろうやアリア」
いつの間にかアタシの前に来ていた潤によるネコダマシだった。何すんのよ!? と言いたいところだが、実際パニくっていた頭は幾らか冷静になったのでムッと黙ることにする。
「くふふ、アリアには速かったかな~?」
「う、うっさいわね! 大体、事件のことで呼ばれたのに何でこんなことになってるのよ!」
「んなもん俺が聞きたい。ああアリア、理子の奴が件の『武偵殺し』だぞ」
「いや分かるでしょあの状況なら――は?」
今、コイツ何て言った?
「いやだから、理子が『武偵殺し』だって」
「はいはーい! 犯人はー、りこりんでーす!」
ブイ! とダブルピースを決める理子に対し、
「はあああぁぁぁぁ!!?」
叫ぶ。叫ぶしかなかった。もうヤダこのパートナー達。
はい、アリアが驚いてるのに面白いと思ってる遠山潤です。ホントいいリアクションするなーこいつ。
「え、ちょ、理子が武偵殺し? どういうこと? だって理子はアタシのパートナーで、犯人逮捕に協力して……」
「犯人逮捕に協力するとは言ったが、自分が犯人だとは言ってない」
「灯台下暗しだねアリアー? くふふ、それじゃあ種明かしターイム!」
「ドンドンパフパフー」
適当に合わせてやる。アリア完全に置いてけぼり状態だが、来る前に答え合わせしちまったからなあ。
「理子は『武偵殺し』アーンド、イ・ウー
「……リュパン? それにイ・ウー!?」
それまで混乱していたアリアが、『イ・ウー』の単語で顔を上げキッと睨みつける。自分の母親を牢に入れた組織の名前だ、そりゃこうなるわな。しかもホームズとリュパン、探偵と怪盗という因縁のある家同士ときた。
「くふふ、いい顔になったねーアリア。あ、理子のことは今まで通り理子って呼んでね?」
「……そう、そうだったのね。アンタがアタシと一緒にいたのは、アタシを嘲笑うためだったの?」
アリアの様子がおかしい。上げたと思った顔をまた下げて身体を震わせ、再度理子を見る目には涙が滲んでいた。
「最初からアタシと潤を裏切る気だったの!? 理子!?」
悲痛な叫びを上げ、ガバメントを構えるアリア。アリアからすれば理子が味方に付いたのは裏切りとみるのも無理はないだろう。だが、
「へ? なんで?」
理子は心底不思議そうに首を傾げた。だろうな。
「え?」
この反応は予想外だったのか、アリアも涙目のままポカンとしている。
「理子、潤とアリアのことは今でも大好きだよ? 裏切るとか嘲笑うとかとーんでもない」
「え? え? で、でもアンタはイ・ウーの人間で、武偵殺しの犯人でしょ?」
「うん、そだね。つまるところ二人の敵だね」
「じゃ、じゃあなんでそれが裏切りじゃないって言えるのよ!?」
訳の分からない展開続きで一杯一杯なアリア。いい加減可哀想かねぇ(←他人事)。
「えーだって、それとこれとは話が別でしょ? 『昨日の敵もいつも友』、理子はどんな立場でもアリアの友達ですから!」
「じゃ、じゃあ、友達ならアタシの『お願い』を聞いてくれるっていうの?」
「裁判での証言のこと? いーよ別に、元々この事件だって理子は『教授』に命令されただけだし、アリアを連れ帰れって言われたけどどうでもいいし~」
「ど、どうでもいいって……」
「あ、でもただ証言するのも面白くないな~」
ん~、とわざとらしく指に手を当てて考える素振りを見せる理子。傍から見ると可愛らしく見えるが、このポーズの時は大抵ろくでもないことを思いついてる。
「そだ、理子と二人で勝負しよう! 理子が勝ったら潤とアリアは理子のもの、負けたら潤かアリアのものに理子がなる!
あ、勝っても負けても『武偵殺し』の件については証言するから安心ですよ!」
ほらやっぱり。
「どっちにしろお前が得するじゃねえか」
「理子はSもMもいけますぜ」
「微妙に違う」
「くふふー、どーするアリア、潤? 決めるのは二人だよ~」
「だとさ。どうする、アリア? お前が決めていいぞ」
ぶっちゃけ全力で拒否して帰りたいが、この件での中心人物はアリアだ。ならどうするかは彼女が決めるべきだろう。……貞操賭けるとか嫌過ぎるけど。
「……だーもう分かったわよ、受けてやるわよ! こんな条件で拒否できるわけないじゃない!
その代わり、終わったら色々話してもらうからね! 潤、アンタもよ!」
わーお、事情知ってんのバレテーら。直感スゲえなオイ。
「理子! アタシが勝ったらアンタをドレイにしてやるからね!」
「いやん、奴隷とかアリアそういうプレイが好きなの?」
「んなわけないでしょうが! ああもう、いいから始めるわよ!」
「やたー契約成立! ――じゃあ、あたしから行くぞ?」
言うと同時、理子が突撃してくる。
「え?」
突然のことに反応できないアリアに向けて二挺のワルサーP99から鉛球が吐き出される。
ギギィン!!
六発の弾丸を、横合いからUSPの銃撃で叩き落とす。
「開始のゴングもなしか、理子?」
「あたしらの間でそんなものが必要か、潤?」
「かは、確かにそーだ」
互いに笑って今度は足を狙って撃ち込むと、横に飛んでワルサーを構え――るのはフェイント、本命は飛び蹴り!
遠心力が加わった一撃をかがんで避け、理子も追撃はせず壁を蹴って距離を取る。
「な、何この速度? それにいつもの理子と、違う?」
「別に然程違いはねえ、ただ不意を突いただけだ。ありゃ戦闘用、というか理子が本気になる時の人格で、たまたま見た剛は『裏理子モード』とか言ってたな」
感情が昂ぶると起こりやすくなる理子の人格変化。口調が荒くなり、目付きも鋭くなっている。
USPの弾倉を交換しつつ、戸惑うアリアに今の状態を説明してやる。
「気を付けろ、この状態の理子はいわゆる狂戦士(バーサーカー)、簡単には止まらねえし容赦ねえぞ」
流石にあれくらいの奇襲じゃ喰らってくれないか。あたしはワルサーに銃剣を付けながら、初撃の失敗に対し笑みを浮かべる。そうそう、こうじゃないと楽しくない。
「ま、とにかくしつこいから気を付けな。前衛いけるか、アリア?」
「……誰に言ってんのよ、ジュン!」
持ち直したらしいアリアがこちらにガバメントを向ける。戦意喪失の心配もしてたけど、杞憂なら良し。
「相談終わった? 先手はもらったし、今度はそっちから来いよ」
「……あんまり舐めるんじゃないわよ、理子!」
ガバメントの引鉄を引きつつ、突進してくるアリア。アタシは引くのではなく同様に突っ込む。
「! ぐっ!」
前に来るとは思わなかったのだろう、予想外ながらもアリアはギリギリで対応し、銃剣の一撃をガバメントで受け止める。
ギィン! 金属のぶつかる音が響き、鍔迫り合いで拮抗状態となる。体制的にアタシの方が有利な筈だが、筋力はアリアに分があるようだ。
密着しているところに潤の援護射撃。アリアの脇ギリギリを磨り抜けて襲いくる六発は距離を取ることでかわし、
「はっ!」
続くアリアの銃撃を銃剣でいなし、再度突撃。銃では不利と見たのか、小太刀二刀に持ち替えて応戦してくる。
「アハハハ!!」
斬る、突く、薙ぐ、撃つ、流す、防ぐ。激しい攻防の応酬はアタシが押しているが、隙を作る度に潤の射撃が入り攻めきれない。
「く、二対一で攻めきれないとかどんだけよ! あとジュン、援護はありがたいけど狙う箇所考えなさいよ!」
「無茶言うな、ああでもしねえと密着状態から当てられねえっつうの!」
一旦距離を取り、アリアは潤に文句を言いつつ息を整えるつもりのようだ。だが、休ませてはやらない。
アタシは気付かれないよう、自然な動作で指を動かす。
「チッ! アリア、横に跳べ!」
「え、何、ってまたこれ!?」
こっちの動きに気付いた潤の呼び掛けで、二人とも間一髪頭上に仕掛けた二挺のアサルトライフルの雨から逃れる。でも、まだ甘い。
防弾性の床はライフルの弾を弾き、二人にそれぞれ跳んでいく。
しかし二人もさるもの、潤は当たりそうなものだけUSPで撃ち落し、アリアは小太刀で斬り払う。へえ、受け流しだけじゃなく斬るのも出来るようになったんだ。
「アハ、二人とも忘れた? 爆弾使いはおまけ、ワタクシの本分は罠使い(トラップメイカー)ですから」
「ただの性悪じゃねえか」
潤が何か言ってるが、お前それ完全にブーメランだからな?
まあどうでもいい。そろそろギアも上がってきたところだ。
「さあさあ手の内を明かしたところで第二ラウンドと行こうか? 楽しくなってきたよなあ二人とも?」
「全然楽しくないわよ!」
「あら残念。潤はどう?」
「あ、俺? そうだなあ」
何個目かのマガジン交換を終え、潤はふむと手を当て、
「楽しいぞ? お前との殺り合いは、確かに楽しい」
そう言って、イかれた笑みを浮かべた。
「――」
ゾクゾク、と背筋から何かが上がるのを感じる。アリアは怯えてあとずさっているが、あたしは違う。
「アハ、やっぱり潤はいいな」
悪寒と、それ以上の歓喜。アタシが浮かべている笑みも、潤と同様のものだろう。
「アリアも疲れてきたみたいだし、今度は潤が掛かってきたら? りっこりこのボッコボコにしてやんよ」
「ハ、近接苦手な俺をお誘いかよ。――上等、存分に遊んでやろうじゃないか。アリア、援護頼むぜ?」
「え? ちょ、潤、アンタじゃ理子に近接戦は不利でしょうが!」
「なあに、どうとでもなる。殺り方なんて幾らでもある、さ!」
アリアの制止を振り切り、潤は突撃する。一見すると無手だが、それはフェイク。指を僅かに上へ向ける動作をし、迫り来るそれの狙いは首や胴、合わせて数十箇所。
それらをあたしはワルサーから持ち替えた両手のタクティカルナイフで切り裂いていく。続く二撃、三撃も斬撃と回避を交えてさばき、ダメージはない。
「……糸?」
アリアの言うとおり、潤が使ったのは極細の鋼糸。技量次第で人の首を容易く刎ねられ、種類は違うがあたしが罠を起動させるのに使ったのも同じ手法だ。
まあ、罠の大半は潤によって妨害・破壊されてしまったが。援護射撃が妙に少なかったのも、罠潰しを平行して行っていたからだ。
「くふ、やっぱり潤の操糸術はえげつないねえ」
「よく言うぜ、てめえだって大概なものになってきてるじゃねえか。アリアと戦いながらこっちの糸を妨害するとかどんだけだよ」
何だこの精度、予測以上じゃねえかなどとぼやいているが、表情は愉快気だ。くふふ、ご満悦いただいてるようでなにより。
「じゃあそろそろ、締めに入るとするか」
「そうだな。潤、アリア――お前等のバッドエンドでね」
「ほざけ」
糸を操りながらUSPを取り出すのを見て、あたしも手札を切ることにした。意識をツーサイドに集中、すると髪が浮かび上がり、先端にはワルサーが二挺ずつ、計四挺絡み付いている。
「ほう」
「超能力!? しかも四つも」
潤は感心したように、アリアは驚いて声を上げる。アハ、いいリアクション。
「さあ、これで最後だ。存分に遊び倒そうかあ!!」
叫びながら突進、糸を操り銃を放ちながらナイフを振るう。あたしが得意とする同時行使、手数の多さに一つ防げば別の攻撃に襲われるだろう。
「そらよ!」
しかし、潤はそれら全てに対応する。糸を糸で相殺し、銃弾を避け、ナイフを弾丸で弾いてくる。
共に圧倒的な物量での攻撃、状況は互角。距離を取るとアリアからの援護射撃が飛んでくるが、それらは残った糸で対処し、罠を起動させることで行動を制限する。
「シャアア!」
何度目か分からない攻防の中、潤が攻撃をかいくぐり声を上げながら顎を狙った渾身の蹴りを放つ。それをあたしは避けるのではなくカウンター気味に足をぶつけることで威力を利用し跳躍、天井に降り立ち頭から弾丸を雨のように撃ちこみ、更に持っていたタクティカルナイフをアリアに投げつける。
「な!?」
銃弾の中からナイフが振ってくるとは思わなかったのだろう、驚いたアリアが跳んで回避する。――今だ。
あたしは天井から跳躍し、背中から二刀の小太刀を取り出しアリアに斬りかかる。
「え」
アリアが気付いて声を上げるが、もう遅い。あたしは突進の勢いのまま、小太刀を逆手に構えて同時に振るう。
左右二択の同時攻撃、アリアに防ぐ術はない。しかし、直前にガキンと金属音。間に入った潤が、鋼糸を何十にも巻いた腕で防いだのだ。
「理子おおぉぉぉ!」
拮抗状態となったあたしに、アリアの叫び声が響き、あたしに向かっていつの間にか持ち替えていた小太刀を振りかぶる。こいつ、潤を踏み台に!?
驚きつつもあたしは回避行動に移ろうとするが――
はっきり言って、手が出せなかった。超能力で髪を動かし、四挺二刀、更には糸を用いて上下左右、空間を問わず飛び回りながら攻撃してくる理子。それらをさばき、一進一退の攻防を見せる潤。アタシも隙を突いて援護射撃を行っていたが、全てが容易く弾かれた。
次元が違う、それがアタシの素直な感想。ほとんど何も出来なかった、今も潤に守られている。でも、コイツが作ってくれた一瞬の隙を見逃さない、見逃すことなんて出来ない!
「理子おおぉぉぉ!」
小太刀を抜き、潤の肩を踏み台にして叫びながら斬りかかる。アタシの勘が告げる、絶好の好機!
が、理子はそれにも反応してみせた。状態を思いっきり逸らし、アタシの小太刀は髪を掠めるに終わる。浅かった!
内心悔しく思いつつ潤の横に降り立ってガバメントに切り替える。次元が違うなどと思っていたが、理子とて人間、隙は必ず出来る。そこを狙っていけば!
しかし、いつまで経っても理子からの反撃は来ない。それどころか超能力が解かれ、ワルサーが落ちる中先端が僅かに切られたツーテールを眼前まで持ってきて、
「あー、理子自慢のテールが~!? ひどいよアリアん、女の子の髪は命と同等の価値なんだよ!?」
「は?」
急に喚きだす理子に、アタシは今日何度目か分からない素っ頓狂な声を上げる。というか、口調も戻ってるし先程まで感じていた威圧感も消えているし、なんなのコイツ?
「折角ユーくんと会うために気合入れて整えてきたのにー!」
「いや知らないわよそんなこと!? というか少し短くなっただけでしょうが!」
「バランスが問題なんですよバランスが! これじゃあ長さ不平等ですッごく間抜け臭いじゃん!」
「知らないわよそんなこと! じゃあ反対も切って長さを合わせなさいよ!」
「あの長さとあの対比がりこりんの黄金比だったの!!」
「だから知るかあああぁぁぁ!」
気付けばいつも通り絶叫を上げていて、戦いの空気は霧散していた。ホント何なのコイツ!?
「うー、もう理子帰る! 勝負は引き分け、しばらく亡命させていただきます!」
「実家に帰らせていただきますみたいなノリで言うことか、ってオイマテ」
潤がツッコミを入れているが、すぐに顔をしかめる。アタシは青褪める。何故なら理子の奴、どこからかプラスチック状の棒を取り出したのだ。どう見ても爆弾型の奴を十本ほど。
「ちょ、待ちなさ――」
「そぉい!」
謎の掛け声と共に、理子が爆弾を床に叩きつける。あ、終わったわコレ。
色々諦めて走馬灯が流れ始めてきたが、予想に反して起きたのは爆発でなく、部屋一面を覆うほどのガスだった。
「って、なにこれケホ!?」
ガスは凄まじい勢いで広がり、隣の潤が見えないほど濃い。しかも催涙効果があるのか、目が、目があああぁぁぁ!?
「うわーん、アリアんのバカー!!」
必死に目を閉じていると理子の涙声が聞こえ、扉の開く音。止める間もなく扉は閉まり、煙が晴れると理子の姿はどこにもなかった。
「あーけむい。理子の奴盛大に撒きすぎだろ」
横では潤がパタパタと手を振っている。何でコイツ催涙効果のあるガスの中で平気そうな顔してるのよ。
五分ほどしてようやく涙が引いてきた。もう急展開の連続で訳が分からないというレベルを超えてるが、これだけは言わせてもらいたい。
「誰がバカだバカ理子おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
今度会ったら絶対風穴開けてやる! アタシはそう心の中で誓い、防音製のVIPルームで声の限り叫んだ。
登場人物紹介
遠山潤
美少女に押し倒された野郎、爆発しろ。戦闘までの展開は本気で予想外で驚いていた。
理子を狂戦士と評していたが、自分も大概である。近接戦が苦手なのに理子と斬り合えたのは、後ほど理由を話す予定。
大事なのでもう一回言おう、爆発しろ。
神崎・ホームズ・アリア
わけがわからないよ状態だった奴。押し倒しの現場に遭遇するわバカ言われるわ、割と悲惨な目にあってばかりいる不遇キャラ。
二人との実力差を見せ付けられたが、これでへこたれるほど弱くない。そもそも無理は本人が嫌いな言葉だし(恋愛事は除く)。
なお、理子にもそうだが潤にも相当お冠な様子。
峰・理子・リュパン
好き放題やった奴。この後ホントに他国へ亡命した(諸事情によりアメリカではない)。
アリアには到着が早いと言っていたが、実はアリアに見せ付ける気満々だったりする。その目的はまだ不明瞭。
なお後日、喫茶店の店長にはお詫びとしてかなりの額を渡したらしい。そういうところは義理堅い。
武藤剛毅
『裏理子』の命名者。見た本人曰く「ションベンちびりそうだった」とのこと。
VIPルーム
今回一番の被害者、もとい被害物。ちなみにアレだけ騒いでも外に音が漏れることはなく、大きな損傷もない。どんだけ優れてるんだ防弾性と防音性。
後書き
何だこの結末(書いた本人の感想)。
正直決着が着いてから理子がどう逃げるかは悩んでいたのですが、まさかキャラを好きに動かしていたらこんなことになるとは……
そして今更ですが、この作品は流れこそ原作沿いですが、展開に関しては別物なことが多いです。武偵殺しのラストがハイジャックじゃない時点でお察しでしょうが。というかラスト武偵殺し関係ねえ(今更)。
今後もこんな感じで進めていくと思います。正直勢いだけで説明が足りてない部分は多々あると思うので、もし気になる方は質問をお願いします。可能な範囲でお答えします。
次回は事件の顛末とちょっとした小話です。ただいまアニメ放映中のあのキャラが出てくるかも?
感想・批評・誤字訂正等、温かいものから極寒並みの辛らつなものまでお待ちしています(←破損しやすいメンタル)。
おまけ
原作沿いなら使う予定だったNGシーン
「潤のお兄さんはね――今、理子の恋人なんだよ?」
三人が対峙する中、理子が得意げに告げると一瞬静かになり、
「ブ、ギャハハハハハハハ!!!」
潤が大笑いしだした。
『へ?』
突然の行動に、ポカンとなってしまうアリアと理子。さっきまでのシリアスな空気が台無しである。
「あ、あの兄貴に恋人ぉ!? ねえねえ、あんな方法でHSSになる兄貴に恋人とか!!
理子お前俺を笑い殺す気!? じゃあ大正解だよこれは、最高に有り得ないジョークだギャハハハ!!」
遂には銃を手放し、腹を抱えて床に転げまわる。
「……何、何でこんなにジュンは笑ってるの? お兄さんそんなにブサイクなの?」
「やーユーくん、流石に笑いすぎじゃないかなーと理子でも思うんですよ……あとアリアん、ユーくんのお兄さんは超絶イケメンです」
「意味わかんないわ……」
こんな感じで。潤は兄、金一のHSSの成り方と浮いた話が一つもないことからナルシストかそれに近しいものと思っており、恋人が出来るのは有り得ないと思っています。でも潤君、貴方の兄貴原作では婚約者ゲットしてるで?
ボツにしたのは、この作品における理子のキャラには合わないと感じたからです。普段はアレですが中身は、というタイプなんで。
追記
1/6 誤字訂正しました。