【UMA?】F市怪現象議論スレ【UFO?】
1:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
お前らニュース見た?
あの映像ってガセ?四月にはまだ遠いよな
2:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
>>2
マスコミはすぐ踊らされる
3:TK◆tsuru.c78a
家から出ない俺にはよくわからん話。
4:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
クソコテ死ね。そして新聞くらい嫁
5:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
F市在住の俺が通りますよっと
6:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
>>5
つーことは六日のあれをナマで見たって感じ?
ぶっちゃけネットの動画じゃボケボケでよくわかんなかったんだけど
7:TK◆tsuru.c78a
俺もF市在住だけど、あんときは眠っててよく分からんかったわ。
8:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
>>7
でかした。死ね
9:5
>>6
見た見た。でも動画の方がなんつーか詳細だよ。
ニュースの人型飛行物体とか俺の目じゃわかんなかったけど、とりあえずきれいだった。
10:むらさき
うふふ
11:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
>>9
オーロラって話もあるけどね。今年、特に寒いし
12:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
>>9
F市って何もないド田舎だよな。ぶっちゃけ新型のまちおこしなんじゃね?
13:5
>>11
オーロラってカーテンみたいなやつじゃないの?俺が見たやつは花火とかレーザーみたいなのだった
>>12
確かに話題にはなったけどな。でもこれでオシマイだったら相当ワケ分かんないよね
14:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
俺も転勤族で去年の暮れまでいたんだけどさ、ぶっちゃけあの町呪われてんじゃないの。
最近聞かないけど連続失踪事件とかあったじゃん
ネタかもしれんがオーロラは寒いから出るわけじゃねーぞ
15:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
新しい庁舎建てたらすぐ燃えたしな(笑)
16: TK◆tsuru.c78a
ちょっとー
17:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
あのビル吹っ飛んでから何かと起きてるのは割とリアルにガチっぽいよね
18: TK◆tsuru.c78a
構えったら
19:むらさき
どうしたの、おチビさん?
20: 以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
コテハン同士で絡むのやめーや
つか議論スレだぞここ
21:TK◆tsuru.c78a
家に誰もいなくてマジでヒマ。相手してよ相手
22: 以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
家から出ない…平日…あっ(察し
23: TK◆tsuru.c78a
urus
24: TK◆tsuru.c78a
うるせえ
25: TK◆tsuru.c78a
うるせえよ
25:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
図星wwずぼしwwwww
27:以下、名無しにかわりましてZUNがお送りします
以降ここはクソコテを慰めるスレになります
28:むらさき
いじめないであげて
◆◆◆
薄暗い中で画面を見つめていたせいで目がちかちかしてきた。ハジメは眉間を揉んで、クッションに体を埋める。
どこもかしこも同じ調子。数日前に幽香と霊夢によって繰り広げられた空中戦の一部始終が地方ニュースで取り上げられたことがきっかけだ。その映像中に人型の物体が見つかるなり、この『怪現象』はちょっとした騒ぎを引き起こした。
マウスカーソルを動画に合わせ、再生する。
幽香の放った攻撃は間違いなく命中していた。暗視モードのカメラで撮られた霊夢は光の点でしかないが、四方八方から殺到した破壊の旋風がその体を突き抜けていく瞬間ははっきりと見て取れる。
それでも霊夢は動き続けていた。
まるで攻撃が命中したという事実を無視してしまっているかのように。
それが霊夢の持つ能力だというのなら、相手は触れず一方的に叩かれるしかない。ズルもいいところだ。
同時にそれをどうやってか撃退してのける幽香は強さの天井に風穴を開けてしまっている。
だが幽香がいくら強かったところで、ハジメの心は晴れない。
彼は負けた。ド惨敗だ。手も足も出ないままタンスに潰され、友人に救われ、その身を危険に晒し、恥ずかしげもなく尻を丸出しにして幽香に傷を縫われた。
プライドが高い方ではないが、流石にここまでやられ倒されては堪えるものがある。
おまけに貯金は枯渇寸前。
なけなしのお金をすべて下ろして、シャワー付きネットカフェの一室に体を押し込めることはできた。しかし、これからどうすればいいのだろうか。
霊夢がいつ殴り込んでくるとも知れず、家に帰ることはできない。とはいえ永遠に隠れ続けることもできない。
「困った」
キーボードを押しのけて、テーブルに頭を叩きつけた。
風見幽香をもっと知りたいだなんて、悠長なことを考えていた一か月前の自分を張り倒してやりたくなる。その結果幽香を追って霊夢が現れ、ハジメの尻は縦横に裂けた。
風見幽香は鶴見ハジメにとって死神であり、疫病神だ。
それでも今更彼女と距離を置くには、同じ時間を過ごしすぎていた。おまけに鶴見家は彼女なしでは上手く回らないだろう。
「今頃ウチはガッタガタだろうなぁ」
ハジメにとって。そして千晃や父にとって彼女がどんな存在になりつつあるか。既に表現する言葉は見つけてある。同時にそれをはっきりと口にすれば、六月に致命的な結果を引き起こすような気がしてならない。
「そろそろ、のんびり湯船に浸かりたいものね」
葛藤にどっぷりと浸かっていると苦悩の原因がドアを開けて入ってきたので、ハジメは臥せっていた顔を持ち上げる。幽香はハジメに借り物の薄いブランケットを渡してやりつつ、小首をかしげた。
「どうかした?」
ずいと身を乗り出し、顔を覗き込む。
それはいつも通りの反応であるが、こう逃げ場のない空間で迫るようにされては刺激的にすぎる。
僅かに上気した肌だったり濡れた髪から漂う香りだったりは、今あまりに近い。ガチガチに意識したハジメが反対側の壁に頭を預けると、それを怪訝に思った幽香が更に距離を詰める。
思春期には耐え難い状況である。
「なんでも、なくは、ないケド」
「言ってみて」
息が触れるような距離でこれ以上見つめられては頭がおかしくなりそうだった。ので、ハジメはブランケットを深く被って盾にすると、幽香に逸れそうになる意識をモニターに注ぐ。
「…………霊夢のことなんだけれどさ」
「負けたこと、まだ気にしていたの?」
ぐうの音も出ないくらいのストライク球であった。黙っていることがそのまま負けを認めるようで悔しかったので、とりあえず「ぐぅ」と唸ってみてからマウスを手に取る。
幽香の目がモニターのカーソルを機敏に追う。まるで猫みたいだなと思いつつ、ハジメは例の動画を再生した。
連なる光の弾が空を飛び、縦横に走り、弾幕となって相手に殺到する。弾丸に貫かれて尚動きの鈍らない光球に、爆発的に加速して迫るもうひとつの光。張り巡らされた壁をぶちやぶったそいつに弾き飛ばされて、もうひとつの光は燃え尽きる線香花火のように輝きを失いながら落ちていく。
「我ながら、必死すぎて可憐な戦いとは言い難いわねぇ」
一見苛烈で美しい戦いは、幽香の目にはそう映るようだ。
今後の課題ねうんうんと頷く幽香を無視して、ハジメはソファに体を横たえた。
「ぶっちゃける」
はだけた幽香の胸元に一瞬目が吸い寄せられそうになって、ハジメは猛烈な自己嫌悪に襲われる。目がつぶれるほど強くまぶたを閉じたしかめっ面で、深く長く息を吐いた。
「むっちゃくちゃ悔しい」
幽香のように戦えないことも、霊夢のように空を舞うことができないことも。
結局は幽香と出会ったその日から変わらず、彼女に手を引かれて無様に阿波踊りをするしかないということに気づかされる。
だからこそ、強さのピラミッドの上に君臨するはずの幽香が吐いた言葉にハジメは耳を疑っていた。
「よく分かる。手ひどくやられたあとは、私もひまわりたちに慰めてもらったわ」
ボロクソにされた幽香がその上落ち込んでいる姿なんて、そう簡単に想像できるようなものではない。
「驚いた?」
「あぁ。今年一番のびっくりだ」
「これでも弱い頃だってちゃんとあったんだから」
今は違うと仄めかすあたり、流石である。
「あなたなんかよりもずっとずっと弱かった。気まぐれに妖怪がやってきて私を痛めつけていくこともあったし、場合によってはもっと酷い目に遭うことだってあった」
「その……酷い目って?」
「遠い昔のことでよく覚えてないわね。飲み物なしで大皿いっぱいのクッキーを食べさせられるとか、だったかしら?」
毎度毎度のことながら、幽香の言葉がどこまで真実に迫ったものなのかを判断することはできない。片手でハジメの食べ残したスナック菓子をぽりぽりとかじりながら、彼女は覚えたてのタイピングを器用にこなしていく。
「よく死ななかったな」
「死ねなかったのかもね。この子達のためにも」
問う前に答えが大写しにされたモニターにハジメは見入っていた。検索ボックスに入力された「ひまわり」の文字。鮮烈な青と黄色に彩られた画面を見ているだけで、少しだけ沈んだ心が軽くなっていく。
「本物はもっとすごいのよ!」
いつしかマウスをひったくるようにして画面にスクロールしていたハジメは、隣から画面を覗き込む幽香の声に我に返る。興奮に頬を赤らめて、彼女はもっと見ましょうと促してくる。
「毎日愛情を注いであげるの。可愛がってあげた分だけあの子達は応えてくれる。おかげで私のおうちの周りは太陽の畑って呼ばれて――」
地平線まで広がる向日葵の画像を開いて、幽香は不意に表情を曇らせた。
「まぁ、もう無いんでしょうけど、ね」
気落ちをそのまま引き受けたように、入れ替わりで幽香が体を倒す。ハジメは画像と幽香を交互に見比べる。とてもよい笑顔でぶっ殺すぶち壊すと不穏な予告をしてみたかと思えば、頬を染めて花が好きだと言ってみたり。
「その太陽の畑ってのが、あんたが生きる理由だったのか」
「私が倒れたらこの子達はどうなるのか、私が守らなかったらこの子達はどう傷つけられるのか。少なくとも、強くなる理由ではあった」
モニターの端に掛けられた白い花冠が静かに揺れた。
物言わぬ花を守るためだけに命掛けになるなんて、とてもじゃないがハジメには共感できない。それでも理解はできる。あの日、雪の降りしきる空の下、燃える左手を構えて千晃を襲った怪物に引き金を引かせたものと同質のそれは。
「俺もあんたも、そういうことになると割と見境ないよな」
幽香は微かに声を漏らして笑った。
幾度の破壊を経てなおゾンビのようにハジメの手首にしがみつく腕時計の針はそろそろ十二時を回る。ハジメはモニターのスイッチに手を伸ばして、幽香の視線に気づいた。
「このまま?」
「あなたがそれで寝られるのなら、お願いしたいわ」
ブランケットを頭から被って、ハジメは壁に向き合うように体を横たえる。やはり宿泊者向けとはいえ、ここは何日も泊まり続けるような場所ではない。おまけに幽香のような相手が一緒となれば、安眠のためにはひたすらその存在を無視し続けるしかない。
「ありがとう」
という暗闇に溶けるような呟きも、この際聞こえなかったことにした。
意識を一本調子なパソコンのファンが回る音に合わせる。そうしてどうにかこうにかうとうとし始める頃になって、幽香が身じろぎした。
「眠っちゃったかしら」
答えるべきか、嘘寝を決め込むべきか。迷った末にハジメはため息で応答した。
「もうちょっとだった」
幽香が体を起こす。ブランケットの隙間から入り込んだ外気に、ハジメは芋虫のように体を丸めることで不満を示す。
彼女があれほど気にしていたモニターをあっさりと消すあいだ、ハジメはその輝きの中に照り映える白い包帯を盗み見ていた。
「悪い」
「何が?」
「その腕。あんたの腕、傷、たぶんずっと残る」
あぁ、と思い出したように幽香は腕を撫ぜた。
「大したことじゃないわ」
「どこがだよ。あんただって人だろ、痛みくらい」
パソコンの電源は切られ、狭い部屋は闇で仕切られた。ハジメの目には明かりが消える寸前、どうしてか嬉しそうに微笑んだ幽香の残像がちらついていた。長い長い沈黙の中で、衣擦れだけが聞こえる。
「あのね、ハジメ。あなたは私との約束を覚えているはず」
猶予半年。殺すか、殺されるか。
「私が傷ついたなら喜びなさい。霊夢が負けたことを悔いなさい」
「それでも、あんたが俺を庇って傷ついたことは」
「敵の攻撃を防ぎ、あるいは逸らし、受ける」
語末を待たずに幽香が口を開いた。
その言葉には聞き覚えがある。まるで昨日のことのように思い出せるのは、幽香の肉の色と、散り際の桜のような儚く凛とした姿だ。
「私の体は不器用だから、あなたと千晃を守れるかは確証がなかった。避けるなんて論外。だから受けた。それだけよ」
それだけ。本当にそれだけなのだろうか。首をひねるハジメの姿を暗闇の中で見通して、幽香はくすくすと笑い声を漏らす。ハジメはそれが気に食わなかったようだ。
「何がおかしいんだよ」
「だってあなたが言うこと成すこと、今まで誰もしてくれなかったから」
ハジメだって前もって幽香が何者かを知っていれば気がふれても殺してやるなどと口にはできなかっただろう。
「あぁ、でも霊夢は別。あの子はよくしてくれたわ」
「よくして、くれた?」
「ずっと前に悪さをしたときは気が飛ぶほど殴ってくれたし、この間もやってもいない異変の濡れ衣を着せられて――あら?」
それにしても殴られてばっかりねえ、と。幽香はまたまた密やかに笑った。
「ライバル?」
「いいえ。親友よ」
どうやら幻想郷では親友の定義がいくらか違うらしい。
ハジメが無意識に握り締めていたギプスにはびっちりと級友たちのメッセージが書き込まれている。雪之丞と江梨花から寝ている間に書き込まれたもののあるはずの場所をなぞって、彼はほくそ笑んだ。
「そういう暴力的なのを親友とは呼ばない」
「親友だからこそ真っ先に来てくれたのよ。あなただってユキや江梨花がどこかの馬の骨に殺されちゃうくらいなら、いっそ自分の手でって思うでしょ?」
「思わねえよ。なんだその理屈」
噂をすれば何とやら。呆れていると、ほかでもないハジメの親友からの着信が机の上の携帯を揺すった。もそりと起き出して、変わりない調子の文面に口の端を吊り上げる。
「ユキのやつ、サボってないでさっさと学校来いだとさ。こっちの事情も考えろよって感じだよな」
「心配しないでいいわ。霊夢とのことはすぐに終わらせるから」
ハジメの手の中で息を潜めていた携帯は、机に置かれるなりがたがたと騒々しく震え始める。今度はメールではない。電話だ。
「ンだよ、あのせっかち野郎」
「ラブコールでしょ。話してあげなさいな」
「すぐ戻る」
スウェットの上にジャケットを引っ掛けて出て行くハジメを見送って、幽香は毛布を引き上げた。
霊夢のことはすぐ終わらせる。彼女には彼女なりの意地があるはずで、幽香も幽香なりの意地がある。お互い譲らないから、いい友達でいられるのだ。
◆◆◆
「はいはい。俺。あ、この音は近くの車道だよ。ここのところずっと霊夢から逃げ回っててさ」
繁華街のど真ん中。寒さに体を抱いて、ハジメは見えもしない相槌を打ちながら雪之丞の返事を待った。
「別に十分くらいなら構わないけど。場所? じゃあほら、こないだの公園でいいだろ。お前んちからも近いし。あぁ。あぁ、うん。それじゃ、また後で」
幽香を残していくことを少しだけ後ろめたく思いながらも、ハジメの足取りは軽い。
少しだけ。今は少しだけ非日常から離れよう。今晩だけは針も札もビームも無しだ。少し笑って、霊夢のことはまた明日から頭を捻ろう。
右腕のギプス。照れ隠しにと上から貼られたカエルのシールをはがして、ハジメは眩しそうにそれを見つめた。背後のコンビニの明かりで読めるその字は、今は遠く離れてしまった平和の日々に書かれたものだ。
『寂しがるなよ、相棒。いつでも待ってる。 雪之丞』