風見幽香の殺し方【完結】   作:おぴゃん

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5『雪之丞17歳、恋を知る(上)』

『クソあにきなら今頃お姉ちゃんとよろしくやってるんじゃないの』

 

 新学期が始まってから三日も経つというのに現れないハジメにしびれを切らして家に乗り込むなり、その妹、千晃は怒りと呆れが入り混じった声をインターホン越しに投げかけてきた。

 

『お姉ちゃん、と?』

『マジ意味わかんないよね。って、ユキちゃん? おーいおーい?』

 

 見舞い花と見せかけたバラの花束が、がさりと音を立てて地面に落ちる。本来それを贈られるはずだった彼の意中の女性は、どうやらズル休みの友人と共にいるらしい。どこか、遠くに、二人きりで。腹立たしいことに。

 ぐぬぬと唸り続け、心配した千晃が恐る恐る玄関を開ける段になって、ようやく彼は憎々しげに吐き捨てた。

 

『言っちゃあ悪いけど、千晃ちゃんの兄貴は死ぬべきだろう』

『それな』

 

 異様にキレのいいサムズアップで千晃が同意した。

 

 そんなわけで教室のロッカーの上では花瓶に挿されたバラたちがふわふわと揺れていて、雪之丞は不機嫌最高潮の様子で頬杖をついたまま、温室のような暖気の中で午後の日差しに目を細めていた。

 窓際の前から四列目の空席の主は言わずもがな。今の雪之丞にとってそれはどこまでも目障りで、とはいえ授業に集中するほどの頭も気力もない。彼だって微積分が決して将来役に立たないと言い切りはしないが、そんなことよりも欲しいのは今の刺激であり、眼前の非日常だ。

 

 ――――あーあ、幽香さん。いい女だよなあ。

 

 最後に雪之丞が幽香を目にしたのは一週間ほど前のことだ。

 もちろん霊夢の攻撃を縫った彼女ががれきの中からハジメと雪之丞を拾い上げた時に会ってはいるのだが、抱き上げられた記憶は幸か不幸か無い。

 

 とにかく彼女のことを思うだけで恋しくて恋しくて仕方がない。困ったことに人生初のピュアラヴであった。

 

 雪之丞の妄想を飛び出した彼女が校庭で舞う。花びらの中で微笑む。彼女の後ろ姿を想像するだけでも溜息が出るようだ。

 ぎらぎらとした剣呑さを全身から立ち上らせていたと思えば打って変わってにへらと顔を崩してみたり。隣の席の江梨花が戦慄の面持ちで見つめている。

 

 ある日いきなりグラウンドに幽香が現れた瞬間、雪之丞は背骨を引っこ抜かれたような衝撃を覚えたものだ。

 生まれて十七年ともう少し。まだまだちっぽけな人生の中で雪之丞が抱いた『イイ女』の概念すべてを持ち合わせるような、素敵にすぎるオトナの女性は、同時に長らく待ちわびた非日常への誘い手のようにも見えた。

 

 だが。だが何思うゆえに彼女は鶴見ハジメの傍にいるのだろうか。

 

 机の上に雑多にぶちまけられた雑誌と菓子の山から手鏡を取り出してみる。我ながら一部の隙もない美青年だ。モテないしツイてないものの、それは変わらない。

 

「俺に比べればアイツなんて、じゃがいもみたいなもんだろ」

「じゃ、じゃがいも?」

 

 口をついて出ていた不平に、江梨花が反応した。

 彼女を一瞥するに留めて、雪之丞は広げられた雑誌の上に突っ伏す。鶴見ハジメが持っていないものは一通り備えてはいるつもりだ。しかし努力しようがどうしようが、決して手に入らないものがひとつだけ存在する。

 

 指。

 だらりと体を垂れたまま五指を揃えてしばらく見つめて、ハジメの能力が発動した光景を思い出して。そうして作った拳銃の形を隣の席に向けてみたりする。

 

 ばーん。

 

「やっぱダメか」

 

 ポーズを真似るだけで同じ力が使えるというワケではないらしい。

 独り言をぶちまけたかと思えば、つまらなそうにため息を吹いてくる雪之丞にイライラを募らせていくのは江梨花だ。

 こんな男が隣にいて、授業に集中できるはずがない。

 

「ちょっと。ケンカ売ってるの」

「お前にじゃねーよ」

 

 ハジメの瞳から吹き上がった金色の炎。指先に輝く日輪。

 能力。そう、どういう訳かハジメには常ならざる力が宿っていた。風見幽香がハジメの能力のことを知っているかどうかは雪之丞には定かではない――が、十中八九彼女はそこに惹かれている、と思う。

 ハジメのようなじゃがいも野郎の取り柄なんて、そのくらいだ。そして、『そのくらい』が二人の間に狂おしいほどの差を広げてしまっている。

 

 特別になりたいなら幽香に愛されなくちゃいけない。

 特別じゃなきゃ幽香に愛されない。

 

「まいったなー」

 

 別にハジメが敵だとか味方だとか、恋の鞘当てとか。

 そんなことは下らないと彼自身気づいている。見せびらかすように超能力を使われてイライラしたまま帰って、それっきり謝るタイミングをグズグズと逃し続けただけだ。

 

 ――いや、やっぱムカつくわ。

 

 顔の下、枕がわりに敷いた週刊誌の表紙に踊る怪現象の文字。

 読者による投稿だかなんだか、画素数が少ない上に暗視モードで取られた写真と記事の内容を思い出すうちに、彼の意識はあの日の夜へと飛んでいた。

 

 ◆◆◆

 

 雪降りしきる中、血まみれの膝を引きずる。彼の足跡はまるで轍のようだ。

 元旦。下心からアホみたいな下級生の女の子に付き合ってアホみたいな並び時間の末に買った新品のコートは逃走の一部始終ですっかりスリ切れたボロ布と化していた。

 そいつを乱暴に近くのゴミ箱へと突っ込んで、雪之丞は家路を急ぐ。

 

「なんて日だ」

 

 あまりにもかわいい表現であった。

 

 誰かに泣きつこうにも警察へ駆け込もうにも起こったことをそのまま話したところで一笑にふされるのがオチである。

 彼自身痛みと恐怖と怒りがぐるぐると頭の中を回っていて、未だに整理つかない。勢いで霊夢の背中に飛び乗った瞬間、すべてはあまりにもクリアでシンプルに見えていたはずだったのだが。

 

 それでも友情というものは偉大で頑丈なものだ。

 人気のない住宅街を歩く雪之丞の足取りは徐々に、徐々に重くなっていった。

 

「ハジメのやつ、大丈夫かな」

 

 彼の中にはどうしてハジメのやつばかりがと理不尽な怒りもある。

 だが血を流して戦ってくれたのは彼に変わりなく、おまけに霊夢の攻撃を受け続けて無事だったはずがない。やっぱ、助けてやらなくちゃ。

 立ち止まっていた雪之丞はしんしんと痛む膝を刺激しないように踵を返す。

 

「あ」

 

 そして見てしまった。向こうも見ていた。

 

 いつから、どこから現れたのか。通りのど真ん中を弛まぬ歩調で進む小柄な人影。立っているだけで周囲の空気が澄んだように感じる凛とした姿。見間違うはずがない。

 

「あ、あんた、ヤられたはずじゃ!?」

 

 返事はない。

 どういう訳か、ハジメによって倒されたはずの霊夢はまっさきに雪之丞から消すことにしたらしい。

 足元を埋める雪が急に粘土のように重くなったように感じる。急いで走ろうとした瞬間に痛めた膝を激痛が貫いた。

 

「わぶっ」

 

 すってんころりんと頭から突っ込んだものは積み上げられた雪の山。

 なんとかして体を引き剥がすと、霊夢は既に目の前だ。

 

「うっ、うわわわわ」

 

 悲鳴を上げて後ずされど腕は手応えなく雪をかくばかり。かえってずぶずぶと深みにはまり込みながら、あやうく膀胱の中身をすべてぶちまけてしまうところである。

 

 翌日の朝見つかるのは小便まみれの高校生の惨殺体(半解凍)。

 それだけは何としてでも防ぎたいところであるが、体は正直であった。発射秒読みとなった大津波をなんとかせき止めよう、いや、そんなことより逃げなくては。あぁでも人間の尊厳がとあたふたする雪之丞を前に、

 

「へんなの」

 

 血の滲んだ唇でボソリと呟いて、霊夢は歩き去っていく。

 

「は? ――――ああぁ」

 

 それで気が抜けたのが運の尽きだった。何が起こったかなどと詳しくは語らない。だが、まぁ、そういうことだ。完全にオフになってしまった雪之丞は、人間の体って本当にこういうことになるんだあ、と妙な感激を覚えながら暗い空とちらつく雪を見上げる。

 

 一瞬でいろいろ失ったが、とにかく生きているのでオッケーさ。

 

 さんざんビビらせて去っていった霊夢をせめて最後に見てやろうと雪之丞は視線を下げて、そして急に胃がむかつくのを感じた。

 

「お、おい、待てよ。待てったら」

 

 声を張り上げて、後悔した。

 

「なあに?」

 

 てっきり無視していくものとばかり思っていた霊夢は足を止めると、血の雫が滴る指で乱れた髪を整える。彼女の装束も、彼女の体も、雪之丞とは比べ物にならないくらいにズタズタだった。

 

 雪之丞は砕けたままの腰で立ち上がる。その間霊夢は辛抱強く待っていた。

 

「あんたを。あんたをそういう風にしたのは、ハジメのやつなのか」

「ハジメが?」

 

 傷だらけの巫女は考え込んだ。ややあって、そうね、と頷く。

 

「ある意味では。なまじあいつの逆鱗に触れるより、酷い目に遭った」

「そんなになって戦うくらいあんたはハジメの奴が憎いのか」

「憎い? いいえ。私は誰も憎んじゃいない。ただ、こうするより他に手だてがないってだけよ」

 

 困ったように笑ってみせる霊夢に、路地裏の世界で見せた鋭い雰囲気など微塵もない。

 聞きたいことは山ほどあったが雪之丞はまず動いていた。不自然な歩き方をなるたけ隠して、霊夢の様子がよくわかる距離まで。やはり彼女の状態といったらひどいものだ。

 

「ケガしてる」

「そうね。おまけに相当弱ってるけど?」

 

 硝子玉のような瞳が見上げてくる。

 その深い輝きに呑まれる前に、雪之丞は霊夢の手を取る。咄嗟に引っ込めようとしたのだろう、血塗れた肌越しに彼女の指がこわばったのが分かった。

 

「ウチ、寄ってけよ。包帯くらいはやるから」

 

 霊夢はしばらくきょとんとしていたが、次に浮かんだ表情には深い困惑がありありと浮かんでいた。いっそ仕返しにぶん殴ってくれた方がまだ腑に落ちるんだけど、と。シワを寄せた眉間が告げている。

 

「あんた、正気?」

「俺だってよく分からねえよ。でも」

「ちょっと待ってね。今結構、混乱してる」

 

 彼女はぶつぶつと何事かつぶやいていた。しかし一向に彼女の中で状況はまとまらないらしく、いいかげん濡れた下半身が凍えそうになってきたので、雪之丞は再度口を開いた。

 

「だってそれ痛そうだし、ほうっておけないし」

 

 自分と、そして親友をさんざんいたぶってくれた相手を助けるなんて、どこまでも矛盾に満ちた行動だと理解している。それでも雪之丞は傷ついた霊夢を無視することが出来ない。

 

「やめておきなさい」

 

 霊夢の手が離れたことに気づいたのは、その言葉をしばらく頭の中で咀嚼した後だった。

 

「私に手を差し伸べるなら、それはあなたがハジメを敵に回すということよ」

「今はそんなことを言ってる場合じゃないだろ!」

「それに」

 

 いたずらっぽく、霊夢は雪之丞の肩を小突いた。

 

「それにあんた、ばっちいもの」

 

 雪之丞の人生最大の不覚は彼女の目にしっかりと焼きついていたようだ。

 汚いという言葉に反して愉快そうに笑って、霊夢は手傷を感じさせないきびきびとした歩調で遠ざかっていく。

 

「とにかくパンツは替えなさいよ。ハリガネくん」

 

 その背中に一度手を掻いて、雪之丞はうなだれた。

 彼の非日常は、またしても掌をすり抜けていってしまったのだ。

 

 ◆◆◆

 

「ユキ――ユキったら!」

 

 江梨花につつき起こされて、雪之丞はクラスメートたちの視線が集中していることに気付いた。そして黒板のこまっしゃくれた数列の一番最後、教師が指し示す空白を見てすべてを理解した。

 

「えーと」

 

 慌ただしく立ち上がった彼の机に立てかけられていた松葉杖が騒々しく床に倒れる。ヨダレで張り付いた雑誌を頬から引き剥がして、美青年は困った笑いを繕った。

 

「まいったな。誰か教えてくれないか」

 

 それまでひそひそと控えめだった笑いが、悪びれない彼の様子にどっと沸いた。隣の江梨花が呆れてハハハと一本調子に笑う。教師ですら口元を歪めている。

 

「ユキ、降参か?」

「まさか。いやいや、ちょっと待っててね」

 

 笑い声を浴びながら雑誌をめくりかえし、ふくろとじをぶちまけ、そこに当然面積公式の答えなどあるはずもないことは知っている。ただ、機を待っていた。笑いというものには必ず起爆点がある。

 

 ここかな。ここで、いいかな。

 

「そのですね、先生。俺よーく考えたんですがわからなくて」

 

 痛む膝を押してびしっと姿勢を正して立ち上がり、開いたままのふくろとじをストーブの下に蹴り込む。

 

「アンタどういう教え方してるんですかねぇ!?」

 

 半ギレで叫んでみた雪之丞。そして間を置いて、教室は大爆笑の渦に沈んでいった。終業のチャイムをかき消すような笑い声。近くのクラスの連中も何事かと廊下から覗き込んでいる。

 

「あーあ、またユキのヤツじゃねえか」

 

 そう、またまたオレだよと雪之丞は机にどっかと腰を降ろす。ただただ醒めている。こんなモノの何が面白いのか、彼が一番分からない。つまるところこれは、いつもの週末のいつものシメの儀式のようなものだ。

 

「こりゃ、なかなか」

 

 息苦しいな、と。

 

 ◆◆◆

 

 今日は一人だ。

 正月ムードもとっくの昔に消え失せて、いささか閑散としたアーケードを歩く雪之丞はすぐに目当てのスケキヨにたどり着くことができた。

 が、ハジメは失踪、江梨花は病院へ。来たはいいものの一人で大盛りをすするのも虚しい。

 

「帰ろ」

 

 ハジメたちと見ようと録り溜めした正月番組も未消化のままだったことを思い出す。仕方なくそれで本日の暇を潰すことにして、何気なく来た道に視線を送る。

 そうしてまたもや彼女を見つけてしまうのであった。

 

 アーケードの出口には大きな交差点があって、道路を挟んだところに立つそいつはあまりに小さく見えた。

 あれが一張羅であったのだろうか、彼女が身に付けるものといったら服屋のマネキンをそっくりそのまま引っ被ったようなものであるが、その容貌は類まれなものである。そうそう見かけるようなものではない。

 

 霊夢が雪之丞に気付いた様子はなかった。

 ただ、その隣を歩く女。背の丈で言えば幽香に近い、長身の女。その魔性が一瞬だけ雪之丞を捉えると、うっすらと微笑んだ。

 

「紫、なにか」

「いいえ」

 

 視線に気付いた霊夢の肩を抱いて、彼女は遠く離れた雪之丞にも聞こえるように高くヒールを鳴らした。

 

 ノックされた、と感じた。

 

 あの女は雪之丞を誘っていた。彼の前に立ちはだかる日常と非日常の境界。そびえ立つ門が、あろうことから非日常の側から叩かれてしまった。

 

 女と霊夢の姿は曲がり角へと消える。

 

「ちょ、ごめん、ゴメンナサイ」

 

 慌てて駆け出した雪之丞を嘲笑うようにスクランブル交差点の信号が青になる。人と人の間をどうにか縫ったり縫えなかったりしつつ、もみくちゃの雪之丞はひたすらに必死だった。

 

 次はない。これが正真正銘、最後のチャンスだとしたら。

 

 それを逃がしてしまうことを考えれば、痛みなど気にはならない。もはや邪魔でしかない松葉杖を放り捨てて顔を上げると今度は歩道橋の上に二人がいる。

 

「ふふ」

「なによ、さっきからあんた、ヘンよ」

 

 霊夢からは、ほとんど四つん這いで歩道橋を登ってくる雪之丞は見えない。女は愉快げに日傘をくるりと回す。

 

「頭でも打った?」

「ふふふ、ふふ」

「ま、あんたがおかしいのはいつものことか」

 

 雪之丞は絶句する。

 階段が目の前で段数を増やしたのだ。びろびろりと、折りたたまれていた蛇腹が伸びるように階段が天高く続いている。ふと真横に視線を馳せると、反対側の階段を降りていく霊夢たちが見える。

 

「クソ!」

 

 試されているのか、弄ばれているのか。これなら降りて横断歩道を渡った方が早い。

 が、しかし。雪之丞は振り返ってあやうく眩暈を起こすところだ。下へと続く階段もまた、途方もなく伸びていた。人が米粒のように小さい。

 

 逡巡して、雪之丞は降りることを選んだ。ごうごうと吹き付ける風。手すりを離せばそれが最後になる。それでも諦めずに霊夢を追いかけるのは、やはり、執念だ。

 手汗がぬめる。風は冷たい。

 

「わっ」

 

 地上に霊夢を探したとき、ついに不運が不意を突いてきた。

 一段踏み外した雪之丞は果てしなく続く階段を転げ落ちていく。背中を打つ。息が詰まる。手を伸ばせど引っかかるものもなく、回り続けるうちに三半規管がバカになったのか、回転が止まったように感じる。

 

 いや、止まっていた。

 気づけば歩道橋の一番下。陸に打ち上げられた魚のようにもがいていた雪之丞を雑踏が避けていく。酸欠気味の脳みそで霊夢を追う。ずっとずっと遠くだが、追いかけて間に合わない距離ではない。

 

 路地から路地へ。歩道橋のような意地悪を何度も受けながら、雪之丞はメゲない。

 ゴミ箱を蹴散らす。水たまりに足をとられる。あやうく車に轢かれかける。

 目の前をネコが横切る。しっぽが二つあったか。それは気のせいか。すぱりと切れたような空間の裂け目。振り返って見ると消えている。青白い鬼火が佇む横道、獣の耳と尻尾のある美女が見下ろす窓。

 

 少しずつ非日常に呑まれていくのを実感しつつ、雪之丞はむせび泣いていた。

 これこそが俺の非日常。俺が求めていたモノ!

 

「ようこそ」

 

 そうしていくつもの扉をくぐり抜けた先。

 

「いらっしゃい。狭間雪之丞くん。私はユカリ。八雲紫(やくもゆかり)

 

 女はいた。

 窓のない四角い部屋の中、促されるまでもなく雪之丞はテーブルについた。向かいの女は見るものに警戒心を投げ捨てさせるような柔和な微笑みを向けてくる。

 ヒザは、いつの間にか痛みが退いていた。

 


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