【完結】チートでエムブレム 作:ナナシ
ハーマイン「ちょ」
1.激戦! レフカンディ
大きな羽音とともにペガサスナイトとドラゴンナイトが空と地上を行き交い、敵軍の情報をそれぞれの指揮官へと報告する。
報告を聞いた指揮官は、各部隊へ作戦を通達させるために伝令役のソシアルナイトを走らせた。
ここはレフカンディ。アカネイアへ入るためには、どうしてもここを通らなければならない。
オレルアンで受けた惜敗の恨みを晴らすべく、マケドニア、そして同盟国であるグルニアは過剰とも言うべき戦力をここへ投入していた。
まずはグルニア地上軍。歩兵 ソルジャー 1000人。騎馬兵 ソシアルナイト 500人。 ホースメン 500人。
続いてマケドニア空軍。 竜騎士団 200人。 天馬騎士団 300人。
2500人にも及ぶ大軍団を彼らはここに投入してきた。いかに本気か理解出来るだろう。
対するニーナ率いる解放軍。
コーネリアス軍 300人。 ハーディン軍 500人。 マルス軍 200人。総勢1000人。
戦力の差は歴然。レフカンディの守りを任されている総司令官ハーマインは可能であればもっと数を揃えたかったが、時間の都合上これが精一杯だった。
戦争の原則とは大兵力の投入、それも3倍以上が好ましい。そうすればどんな敵が相手であろうとも必ず勝利出来る。
吟遊詩人が「一騎当千の一人の勇者が居れば兵力差など覆せる」と酒場で詠うことがあるが、それは幻想だ。
戦争は数だ。数が多いほうが勝つのだ。
ハーマインはニヤリと笑みを浮かべる。偵察部隊の話によれば山間の町に留まっている解放軍の数は1000人ほど。
数の上では2.5倍で勝り、そして兵の質でもこちらが勝っているだろう。彼はそう考えており、参謀達も収拾した情報からそのように結論付けている。
ならば策を弄する必要もあるまい。真正面からの総力戦を挑むとしよう。
「──勝ったな」
自信を持ってそう断言する。例え敵に英雄コーネリアス、草原の狼ハーディンが居ようと、自分達が敗北することはないと確信していた。
たかが一人の英雄が、少数の精鋭が、自軍の数を上回る大軍を蹴散らし圧倒的不利な戦況を覆すという、物語の中でしかありえない『戦争』など実在しないということを彼は理解している。戦争とはどこまでいっても『現実的なもの』なのだ。
そしてそれは彼だけが特別そう思っている訳ではない。戦争を知る者達全員にとっての共通した認識だった。
そう。『共通した認識だった』のだ───
◇◆◇
偵察隊の一人、ペガサスナイトのシーダが持ち帰った情報を聞き、解放軍作戦本部となっているコテージ内に沈黙が広がった。
敵の数、2000から3000。正確な数こそ分からなかったが、少なくとも解放軍を上回る兵力であることは理解出来た。
コーネリアスが唸る。マルス達を加えた『解放軍』にとって、この地は最初の試練となるだろう。実戦慣れしたコーネリアス軍、ハーディン軍はともかく、マルスの軍は果たしてまともに戦えるのか。いや、そもそも生き残ることが出来るのか……。
「──失礼します」
重苦しい雰囲気のなか、午前中から姿が見えなかったマルスが老人とともにコテージ内へと入ってくる。老人は全員に見える位置に立ち頭を下げた。マルスが紹介をする。
「竜人族のバヌトゥ殿です。本日付で我が軍へ入っていただくことになりました」
「火竜族のバヌトゥと申す。暫くこちらでお世話になりますぞ」
「バヌトゥ殿は御家族のチキという少女を探しているようでして。その少女の捜索を手伝うことを条件に引き入れました」
竜人族。それは己の力を封印した秘石──竜石を使いドラゴンへと変身する一族。
この窮地にあって解放軍に大きな戦力が加わった。
ハーディンが右手を差し出しバヌトゥと握手を交わす。
「協力に感謝する。御老人、貴方の力を当てにさせていただきますぞ」
「お任せあれ」
バヌトゥという新たな戦力を得て希望を見出した彼らは、しかしすぐに絶望へと落とされることになる。
ばたばたと慌しい足音をたてながら、偵察部隊として出ていたはずのビラクが中に入ってくる。
「申し上げます! 敵空軍による奇襲! 敵空軍による奇襲!」
「空軍──ドラゴンナイツにペガサスナイツだな? 被害の方はどうか」
「第一軍、負傷者30名、死者50名! 第二軍、負傷者60名、死者40名! なお敵空軍は損害無く戦闘を継続中!」
「ちぃ、やってくれる!」
コーネリアスが思わず舌を打つ。ハーディンは敵空軍の指揮官は分かったのかと訊ねる。その問いにビラクは「ルーメル」と答えた。
竜騎士ルーメル。マケドニア空軍の指揮官として有名な男だ。竜騎士としての強さにも定評がある。
コーネリアスとハーディンは剣を手に取り立ち上がった。交戦中の部隊に合流する気なのだろう。
天幕から出る前にコーネリアスが振り返りマルスに言う。
「マルス。そなたは部隊を率いて町の入り口を守って欲しい。……私の予想が正しければレフカンディの歩兵部隊、騎馬部隊が間も無くやってくるはずだ。幸いにしてこの町へ入るためには北にある外壁を通らなければならない。あの堅牢な壁を上手く利用し、時間を稼ぐのだ。
……後方部隊であるにも関わらずさっそく危険な前線に出すことになってすまぬと思っている。だが今頼りになるのはそなた達だけなのだ。……任せたぞ、我が息子よ!」
バサリとマントを翻し駆けていく。その父の背が見えなくなったあと、マルスはニヤリと口元を歪ませた。
───あ、この王子まーた何かたくらんでるな
シーダの後ろに控えていたオグマはその表情を見て胃に痛みを覚える。そして彼のその予想は不幸なことに当たっていた。
◇◆◇
秘密の店。それは通常の店では購入出来ない武器、アイテム等を購入出来る場所である。
この店はメンバーカードなるアイテムが無ければ入れない店なのだが、マルスはメンバーカードの上位版『メンバーズカード改』を持っているためどこからでも自由に出入りが可能だ。
さて、この『メンバーズカード改』で入れる秘密の店。取り扱っている商品は一体何なのか。
それは───〝アカネイア大陸にある全ての秘密の店の商品〟である。
マルスはこれまで自重していた。
サンダーソードなりキルソードなり色々使っていたが、それでも『自重していた』のだ。
その自重をマルスは止めることを決意する。
何故なら彼はここで死にたくなかったし、家族や戦友、タリスからここまで着いてきてくれた義勇軍の皆を死なせたくなかったからである。
「という訳でバヌトゥ。これ全部使ってくれない?」
「……なんとまぁ、これほどのアイテムをここまで………」
あの後、バヌトゥはマルスに案内されてとある部屋に連れてこられた。
案内された部屋に置かれたアイテムの数々を見て、竜人族の老人は溜息を漏らす。
その部屋にあったアイテム。それは───
「では、この『天使の衣』から使わせていただきますかの」
───それは、ステータスUPアイテムだった!
◇◆◇
天使の衣
ステータスUPアイテム。原作でこのアイテムを使用するとHPが7上がる。
この世界ではスタミナが大幅UP。さらにいくらでも重複(※)が可能で、使えば使うほどスタミナが上がる。
ただし永続ではなく一分置きに効果が減少し、最終的には元に戻る。魔法防御を上げる『聖水』と同じく時間限定のアイテム。
他にも使用すれば速さがUPする『スピードリンク』、防御力がUPする『竜の盾』など、ステータスUPアイテムには様々なものがある。
※ゲームシステムが適用されるマルスのみ永続効果有り。ただし一種類につき一つまでしか使えない
◇◆◇
バヌトゥは 『天使の衣』×100を つかった!
バヌトゥは 『スピードリング』×100を つかった!
バヌトゥは 『竜の盾』×100を つかった!
◇◆◇
2.激戦! レフカンディ(笑)
レフカンディ地上軍が山間の町へと続く外壁の前へ到着した。
指揮官が声を張り上げ命ずる。
「全軍突撃! 全軍突撃! 敵反乱軍を殲滅せよ!」
『おおおぉぉぉ───!』
ソルジャーが外壁にある門を破壊し、そこから指揮官によって統率された騎兵が突入していく。
目標の町は近い。ここから少し南に下ればすぐだ───
「──……なんだ? ……音?」
最初に突入した部隊に所属する兵士の一人が疑問の声をあげた。音だ。音が聞こえる。
ずどん、ずどんと、大地を震わすその音は、まるで何かの足音のような……。
そこで別の兵士が気付いた。……町の方角から何かがこちらに向かってきている!
「───竜?」
それは竜だった。全長は20メートルぐらいあるだろうか。全身が赤く、硬そうな鱗で覆われている。竜を一度も見たことがない者が見ても「あれは竜だ」とはっきり言えるだろう。
その竜が砂煙を巻き起こしながらこちらに向かってきていて───
「え、ちょ、ちょ!? 竜ってこんなに速い───」
「あ ん ぎ ゃ おー !」
「ふふはははははッ!」
ぱぐしゃあッ!!!!!
……哀れにも突入部隊の第一波は、時速200kmのスピードで走る魔改造バヌトゥにひき殺されてしまったのだった。合掌。
なおバヌトゥの背中にはマルスが乗っている模様。どうやって振り落とされずにバランスを取っているのかは謎である。
◇◆◇
「ななな?! なんだ、なんだあれは?!!」
レフカンディの砦前まで迫ったバヌトゥ(とマルス)を見て取り乱すハーマイン。
総司令官の問いに参謀達は誰も答えられなかった。彼らとて〝あれ〟がなんなのか理解できないのだ。
マルスとバヌトゥは暴れた。これでもかというくらい暴れた。
ステータスUPアイテムで魔改造されたバヌトゥは走るだけで敵を蹴散らす戦略兵器と化していた。その彼をマルスは上手く操り敵を分断、孤立した敵部隊を後続のマルス軍200人がジェイガンの指揮にあわせ攻撃を繰り出す。
『『『サンダーソード!』』』
200人が連結して放つサンダーソードの雷撃は、すでに自然現象そのものと化している。敵陣に落ちる雷撃は大きなクレーターを作り、分断された地上軍は各個撃破されていく。
もう滅茶苦茶である。2000人もいた地上軍がたった200人に敗北する。『戦争の原則』もくそもない、絶対に認めたくない現実がそこにあった。
戦況は一転し、こちらが圧倒的に不利になった。現状を打破出来る策はないか考えていると──
ズズ──ンッ……!
「う、うぉぉぉ!?」
突然城が揺れた。ハーマインが窓から身を乗り出し外を見てみると、そこには竜が城門に体当たりをしている光景があった。
門が壊れないと抗議する竜に対し、その背に乗った剣士の少年は「わが剣にあるのはただ制圧前進のみ!」と高笑いをあげる。その表情はまるでデビルソードに心を侵食されたバーサーカーのような狂喜の笑み。
ハーマインは戦慄する。私は竜よりも、あの小僧の方が恐ろしい……!
「と、砦を捨てる! アカネイアまで撤退だ!」
総司令官の決断に参謀、および兵士達は首肯する。彼らもここから一刻も早く脱出したかった。でなければあの少年に我々は───
「フッ……ついに見つけたぞ。ドブネズミの親玉がッ!!」
『ぎゃ、ぎゃぁ───ッ!??』
「このマルスに情けなどないッ! 刃を向ける者には 死 あるのみッ!!」
ハーマイン達が恐れた少年──マルスは、三階にあるこの部屋へ窓をぶち破って入ってきた! 窓から身を乗り出してこちらを見ていたハーマインをマルスはしっかりと確認しており、バヌトゥに頼んでここに向かって投げてもらったのだ。
……それはそうとマルスのセリフ、どうみても正義側に属する人間のセリフじゃないですよね。
「貴様達は降伏すら許さん! 我がレベルアップの糧となるがいい───!」
「は、は、はわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
マルス(狂化)はキルソードを一閃!
ハーマインの首を切り飛ばした!
たらららたらららら~ん♪(←レベルアップ)
その場にいた敵兵は混乱の極みにあったため、マルスはそれほど苦戦せずに殲滅した。
ルーメル率いる竜騎士団と天馬騎士団には撤退を許してしまったが、それはさしたる問題にはならないだろう。
とにもかくにも。こうしてこの地での戦争は終わった。終わってみれば解放軍の圧勝である。
いやあ、レフカンディは激戦区でしたねぇ。
◇◆◇
3.マケドニアの王女 ミネルバ
砦から少し離れた位置にある山中から戦場を見ていた女性──『竜騎士 ミネルバ』は、直属の部下である『ペガサス三姉妹の次女 カチュア』から「レフカンディが落ちた」と報せを受けたあと、この場からの撤退を決めた。
同じく直属の部下である『ペガサス三姉妹の長女 パオラ』が「マルス王子にお会いしないのですか?」とミネルバに訊ねる。
……確かに彼女はマルスに会うつもりだった。過去に友人関係を結んだ彼に会って、帝国に人質として捕らえられている『妹』を助けるために協力を申し出るつもりだった。
しかし───
(いや無理。あんなひどい戦場を駆け抜けてマルス王子のところにたどり着くなんて絶対無理。普通に死ぬ。ていうかマルス王子もちょっとおかしい。彼ってあんな人だったかしら……?)
大地が揺れ、森は焼き払われ、雷撃が飛び交い、「ヒャー!レベルアップゥ!」と王子が笑い、傭兵が胃を抑えながら「王子自重しろ!」と叫び、長髪の傭兵はトラウマを刺激されたのか隅っこでプルプル震え、竜騎士団を撃退しマルスを追いかけてきた解放軍の指揮官二人が「なんぞこれ」と荒れ果てた戦場を眺めて呆然とする。
カオスだ。この戦場はあまりにもカオスすぎる………!
「か、帰りましょう、皆」
頬を引きつらせながらそう言ったミネルバは、部下とともにマケドニアへ向かって山中から飛び立つ。彼と話すのは次の機会にしましょう、と心の中で呟いた。
マル「いやぁ、レフカンディは激戦でしたねぇ」
バヌ「これが今時の戦争か。時代は変わったのぉ」
ハー「いやいやいや! 違いますから! 今回だけですから! 今回が特殊なだけですから!」
コー「どういうことなの……」
オグ「ナバール……いつまで震えてるんだ……」
ナバ「」プルプルプルプル