【完結】チートでエムブレム 作:ナナシ
サムシアン「おねがいです、こないでください。」
1.戦後処理
ガルダに巣くう海賊団を駆逐した我らアリティア騎士団。
現在我々は海賊達に荒らされた町の復興……所謂『戦後処理』をしている最中である。
間借りしている屋敷で食料配給の書類に淡々とサインをしていると、二人の人物が「マルス王子に会いたい」とやってきた。
◇◆◇
【一人目 狩人 カシム】
一人はなんとあのタリスの狩人カシムである。戦場にいないと思ったらこんなとこで出てきやがった。
……原作 第二部のエンディングで<タリスの詐欺師>と表示されショックを受けたのは私だけではないはず。
初めてそれを見た時に「母親が…とかいうのは演技だったのかよチキショー」と嘆いたものだ。
どうやらこのカシム君、志願兵……というか傭兵として我が軍に参加したいらしい。
「マルス様……うぅ、母が、母が病気で、病気を治すのにお金が必要なのです。軍に志願いたしますので前払いでクスリ代を……」
ドンッ←金貨袋を置く音
「5万ゴールドある。誠心誠意、私に仕えよ。」
「どこまでもお供しますマルスさまぁッ!」
所詮世の中金である。
◇◆◇
【二人目 マルスの元教育係り モロドフ】
二人目は実に二年振りな老人、モロドフ爺だ。
二年前、アリティアから脱出する際、私は彼と別れた。
私はジェイガンに連れられ、モロドフは姉上や母上達と共に脱出した。
父上は我々が安全圏まで脱出するまで囮を務めた後、隙を見てアリティアから脱出したらしい。
……ん? ああ、そうそう。父上生きてるから。
私は財宝バグを利用して資金を量産、アリティア騎士団3000人分の武器を【秘密の店】から購入、第三者経由でアリティア軍に渡した。
6万4千Gぼっち(跳ね橋の鍵の財宝バグ)で3000人分の武器用意出来るのか、と疑問に思うかもしれない。
しかしそこは資金を量産という表現に注目していただきたい。……まぁ、長くなるので説明はまたの機会になるが。
話を戻そう。高性能な【秘密の店】の武器のおかげか、正史では戦死するはずの『メニディ川の戦い』で、父上は見事生き残ることが出来たのだ。
しかもその戦場にいたグルニアのカミュ(グラ槍持ち)を瀕死の重傷に追い込み、アリティアを裏切り背後から襲い掛かってきたグラを文字通り全滅させたとか。父上パネェ。
最も、アリティア騎士団も壊滅的大打撃を受けたため撤退。アカネイアを救う為に編成された3000人の騎士団は200人弱まで減らされ、アカネイアに到着する前に自国へ戻らざるを得ない状況に追い込まれてしまった。
アリティアの宝剣ファルシオンはメニディ川からの撤退戦で紛失。史実なら闇の司祭ガーネフがファルシオンを入手するはずだが……。
アリティアへと帰還した父上は私達家族を呼び、事情を説明。その後すぐに国から脱出する運びとなった。
私はジェイガン、アベル、カイン、ドーガ、ゴードンの六人で。母上と姉上はモロドフを中心に10人ほどの人員でカダインへ。父上と縁のある高名な司祭様の下へ落ち延びたようだ。
父上は私達を逃がすための時間稼ぎとして生き残った軍を率いて囮になった。その後隙を見て戦線離脱、重症を負ったらしいが後遺症はなく、一年ほど前から戦場に出れるようになったらしい。
さて、そのモロドフ爺だが。彼は私に一つの話しを持ってきた。
曰く、「アカネイア最後の王族ニーナ王女殿下が、狼騎士団長ハーディン殿 及び 合流したアリティア軍がオレルアンで蜂起する」とのこと。
蜂起か。正史では私達が合流するまでしなかった気がするが、父上が生きてハーディン殿達と合流するという変化がバタフライ効果となって表れたのかな?
本来なら私達も合流して共に戦うべきなのだが、戦後処理がなかなか終わらない。ニーナ様達の蜂起に絶対に間に合わないよ……。
モロドフ爺にそう話したら「御立派になられましたな…」と目元をウルませていた。復興に尽力する私に感動したらしい。嬉しいんだけど素直に喜べない複雑な感じ。だって復興支援は半分以上チート頼りだし……。
まあ私の気分なんてどうでもよろしい。父上達の蜂起に合流するのは無理だけど支援ならば出来るからそうしとこう。具体的に言えば軍資金の融通だ。
私はモロドフ爺に「これを持っていって欲しい」とゴールドの入った袋を渡す。
「10万ゴールドある。これを解放軍の軍資金として使って欲しい。」
「えっ。」
◇◆◇
モロドフ爺との再会から一週間後。私達は一通りの戦後処理を終え、ガルダから旅立とうとしていた。
移動用の馬の前で待機していると、忠臣であり武芸の師でもあるジェイガンと、ガルダで合流した新しい仲間 オグマがやってきた。
「マルス王子、アリティア騎士団、移動の準備が完了いたしましたぞ」
「同じくタリス傭兵団、準備が完了しました」
「うん。それじゃ、予定通りに行こうか」
ジェイガンに下から押し上げてもらい馬に跨る(←一人で乗れない)
ブルル、と鼻息荒くする馬を落ち着かせ、部隊の皆が待機している広場へと移動した。
「マルス様!」「マルス王子!」「マルス殿!」
そこには私の自慢の家臣であり、部下であり、仲間がいた。
アベル、カイン、ドーガ、ゴードン。シーダ、バーツ、マジ、サジ。カシム……は敵に金を積まれたら裏切りそうな気がするのでしっかり手綱を握っておかなければ。
シャンッ! と勢い良く腰のキルソードを抜き、次の目的地を告げる。
「──我々はこれよりガルダから西にあるサムスーフ山を目指す! 目的はサムスーフ山に巣くう山賊、サムシアンの排除である!」
◇◆◇
2.傭兵 ナバール
夜。焚き火を10人ほどの男が取り囲み、それぞれ酒盛りを楽しんでいる。
ここはサムスーフ山にある東の砦。この地方で暴虐の限りを尽くす山賊──サムシアン達の仮宿である。
彼らはこの砦を中心にし、旅人や町を襲っていた。
その砦の地下牢に一人の女性が囚われている。
彼女の名はレナ。商隊に紛れてオレルアンに向かっていたところをサムシアンに襲われ、拉致されてしまった。
サムシアンの頭目曰く、「上物の女は奴隷商人に売るに限る」
そう、このままだと彼女は間違いなくノルダの奴隷商に売られるだろう。
そして、そんな外道の行いを止めようとするものはここには居なかった……
◇◆◇
「ぐ、ちっくしょ……」
軋む体を起こし、意識を無理やり覚醒させ、今自分が居る場所を確認する。
そこは彼にとって見慣れた地下牢。両手両足は拘束され、全身には鈍い痛みが走る。
「失敗、かよ……!」
彼の名はジュリアン。少し前まではサムシアンだった男。
彼はサムシアンに拉致された哀れな少女レナを逃がすため、仲間を裏切った。
砦に居るサムシアン達が寝静まった夜中、ジュリアンは密かに地下牢へ進入、レナを牢屋から出した。
そして彼女を連れて砦を脱出、近くの町まで逃げようとした。
彼にとって不幸だったのは、砦から逃げ出す瞬間を見張りのサムシアンに見つかってしまったことだろう。
すぐに追撃部隊が編成され、ジュリアンとレナは捕縛されてしまった。
ジュリアン一人だけなら逃げ切れた。山道に慣れていないレナを連れていたために、彼らは逃げ切れずに捕えられたのだ。
レナは再び地下牢へ。裏切り者であるジュリアンは元仲間にリンチされた後、身動きが取れないように縛られた状態で地下牢へ放り込まれた。すぐに殺されなかったのは、裏切り者は頭目の手で殺すという掟があったからだ。
「くそ、このままだとレナさんが……」
手足を縛るロープを歯で器用に食い千切りながら、どうやって脱出するかを考える。
サムシアンは決して愚かではない。一度脱走を許してしまった以上、二度目は無いよう警備を厳重にしているはずだ。
「見張りのことをきちんと調べておけば……くそ!」
無計画に動いた自らの迂闊さに怒りを覚えていた時、人影が二つ牢屋の前に現れた。
「チッ、俺の処刑の時間かい?」
「……」
ジュリアンの問いに人影は答えず、左手に持っていた剣を一閃する。──鉄格子が綺麗に切り落とされた。
人一人通れるぐらいに鉄格子が切られた後、もう一つの人影がジュリアンの元へ駆け寄る。
「ジュリアン……!」
「れ、レナさん? なんであんたここに……!」
その人影はレナであった。どうやってかは知らないが、警備が厳重になってる地下牢から脱出してきたらしい。
もう一つの人影──黒い剣を持った長髪の男が、ジュリアンへと『鉄の剣』を手渡す。
その男をジュリアンは知っていた。最近サムシアンに雇われた傭兵の、
「あ、あんたは確か…ナバール、だったよな?」
「そうだ」
男──ナバールは首肯する。
レナはジュリアンを縛るロープをナイフで切りながら話す。
「聞いてジュリアン。ナバールさんはね、村の人が私を助けるために雇った傭兵の人なの!」
「えっ!?」
傭兵ナバール。彼はサムシアンに攫われたレナを救う為にサムシーフ山のふもとにある村から雇われた男だった。
ナバールは懐から地図を取り出し、それをジュリアンへと渡す。
「その地図通りに逃げろ。山に慣れない女の脚でもその地図通りならば逃げ切れる。…噂では〝アリティアの王子〟がふもとまで来ているという。彼等に保護してもらうといい」
「あ、ありがてぇ…!」「ありがとうございます、ナバールさん…!」
ナバールが背を向け、出て行こうとする。ジュリアンは「アンタも一緒に」と言うが、
「俺はお前達とは行けない。……野暮用がある」
と、どこか期待に満ちた声でジュリアンの誘いを断った。
◇◆◇
「あの時の決闘から何年経ったかはもう覚えていないが……奴のことだ、確実に腕を上げているだろう」
見張りの隙を突いて逃げ出すジュリアン達の背を砦の一室から見送りつつ、ナバールは彼らしくもなく呟く。
「私と貴様、今度はどちらが勝つか──楽しみだ」
戦いの時は近い。勝つのはナバールか、それとも……。