全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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あけましておめでとうございます(令和二年二月)

クッソマイペースではありますが今年もよろしくお願いしますね(。-`ω-)


#60 平和な時間

上条当麻はがん、と壁に頭をぶつけてその衝撃で目が覚めた

同時に意識がはっきりしてきて―――体がずきりと痛む

理由は今の自分の体制にある

 

バスタブに体育座り―――こんな体制で寝ればそりゃあ身体も痛む

 

なんで今上条当麻はバスタブ、もとい浴槽で寝ているのか

 

それは本来自分が使っているベッドをインデックスとアリサに譲っているためだ

 

「…やっぱり床で寝ればよかったかな」

 

最初はインデックスが三人で寝ようよと誘ってきたのだがとんでもない

健全な青少年である当麻にとってあそこで三人で寝ようものなら色々問題があるのです

だから断固辞退させてもらった

 

ゆっくり体を動かしながら体制を整えて、洗面所で軽く顔を洗い眠気を吹っ飛ばして居間に歩いていく

そこにはアリサとインデックスが気持ちよさそうに寝息を立ててまだ眠っていた

そんな二人を確認して小さく当麻は微笑むと朝ごはんを用意するべくキッチンへと歩いてくのだった

 

◇◇◇

 

一方でアラタの自室にて

先日バースの機能テストという面倒くさい沢白からの仕事に加え、特に詳しい事情も知らされぬままあの黒髪の女―――シャットアウラだったか―――に模擬戦を(半ば強制的に)挑まされ疲れがダイマックスな状態で家に帰ってきた

特に着替えることもなくそのまま倒れるようにベッドに倒れこんでぐっすりと眠っていた

 

「…気持ちよさそうにねむってる…」

 

ぐっすり眠っている彼を起こさないように同居人であるゴウラムことみのりはいそいそとベッドから抜け出した

せっかくだから今日くらいは彼の代わりに朝ごはんでも用意して待っていようか

とは言っても自分に料理なんてできないから買い置きしていある総菜パンとかを用意するくらいしかできないが、なにもないよりはマシであろう

 

◇◇◇

 

「そいじゃあ今日はとりあえずアリサと留守番しててくれ。後でアラタの部屋からみのりって子もくるだろうから、三人で仲良くな」

「うん。とうまもはやく帰ってこないとダメだよ! いつ敵が襲ってくるかわかんないんだから!」

 

玄関でぴょんぴょん跳ねるインデックス

現在アリサの方は洗面所にて食器洗いをしてくれている

本当は帰ってきたら洗うから寛いでくれていい、といったのだが、アリサの方が折れてくれず、結局当麻が折れることとなった

 

「当麻ー、そろそろ行こうぜ」

「おっとわかった。それじゃあ二人とも、行ってくるから」

「うん、いってらっしゃい! とうま!」

「いってらっしゃい! 当麻くんッ!」

 

ひょっこり顔を出したアリサと、玄関のインデックスがそう当麻を送り出す

二人の言葉にちょっぴり顔を赤くしつつ、当麻も微笑を浮かべながら「いってきます…」と少し照れながら答えるのだった

 

 

「ええかかがみん! かみやんっ!!」

 

学校にて

何やら青髪ピアスが当麻の机で力説している

そんな力説をアラタは携帯をいじりながら聞いていた

 

「アイドルを応援する醍醐味っちゅんはなぁ!? 見守るっちゅうことにあんねん!」

 

どういうことなんだろう

まぁ最近は会いに行けるアイドルとかもメジャーになりつつはあるのだろうが

 

「特にこのご時世、アリサちゃんみたいにな! あっという間に火がついてメジャーになってしまうんやっ!!」

「そーですかー」

 

あんまり気のない返事をする当麻に対し、土御門が軽くグラサンを掛けなおしつつ

 

「にゃー? どうしたかみやん、なんだかお疲れモードだにゃー?」

「ちょっと寝不足なだけだよ。…枕もベッドもなくってな」

「だから床で寝ろって言ったのに」

 

ぐだーっと机に突っ伏す当麻を尻目にアラタがツッコむ

そんな彼を教室の入り口でじーっと見詰める人影が一人

名前は姫神秋沙

彼女がここの高校に来るまでの経緯は割愛させていただく

 

「睡眠不足…。まくら。…全部奪われた」

「? どうしたの姫神さん」

 

これまたたまたま登校してきた吹寄に姫神は声を掛けられる

姫神は彼女の方を見て「なんでもない。おはよう」と声をかけると二人一緒に教室に入ってきた

そうして二人がそれぞれの席に着いたころに我がクラスのちびっこ担任月詠小萌が「はーい! そろそろ席に着くですよー!」と大きな声と一緒に入ってきた

小さい体格だがはっきりと通るその声は瞬く間に教室中に響き渡りその辺で雑談していた生徒たちも自分の席へと戻っていく

 

「授業が始まるのですよー…? 上条ちゃん、なんだかすごく顔色がひどいのですね?」

「あぁ、まぁ色々合って寝不足なんですよ先生」

「まぁ! 本当ですか鏡祢ちゃん! ダメですよ上条ちゃん! 寝不足はダメダメなのですよー!」

 

当麻は突っ伏している状態から僅かに顔を上げて小萌の方へと視線を飛ばしながら訴えかけた

 

「…じゃあ寝てていいですか」

「そんなこと言う子は早速今日から補修なのですよー」

「! えぇ!?」

 

眠気が吹っ飛んだのかガタっと言う擬音が似合うくらいに当麻が上半身を起こした

まぁ冷静に考えて教師に眠いから今日寝てていいですかとかいう奴基本いないしある意味当然ともいえば当然なのかもしれない

ちっちゃい先生だがペナルティは大きかった

 

「一緒に頑張りましょうね! 上条ちゃん!」

「あ、あはは…」

「やれやれだ…」

 

変な笑いを上げる当麻に対してアラタはそう呟くことしかできなかった

だって仕方がないではないか、完全に自分の失言のせいなのだから

 

「はぁ…不幸だ…」

 

最早お約束の流れなのである

 

◇◇◇

 

夕飯の買い出しに来ていた

ここは学園都市でも一般的なスーパーマーケットに足を運んでいた

今回は作りやすくて美味しいカレーライスでも作ろうかと思いアラタは一人食材を吟味していた

 

「…具材はシンプルにじゃがいもと玉葱、ニンジンでいいか。変に凝っても仕方ないし」

 

シンプルイズベスト

拘ったりする人はいるのではあろうがアラタ自身はそこまで料理が得意でもない

変にこだわって失敗しては元も子もないのだ

そんなわけで適当に野菜コーナーで食材をかごに入れながらついでに何か小腹が空いた時にでも食べる菓子でも買っていこうと思い立ちお菓子コーナーまで歩いていく

 

「…あぁ、これもかわいいっ」

「た、確かにこれも捨てがたいですね…むむ…」

 

食玩コーナーに立ち寄ったとき、聞き慣れた声色をアラタは聞いた

うん? と気になって足を戻してそっちを見ると常盤台の制服を着た女生徒が二人、食玩コーナーの一部で話し込んでいた

めっちゃ知り合いである

 

「…美琴?」

「ひゃうっ!?」

 

声をかけると驚いたように身体をびくぅと震わせた

その拍子に手に持っていた箱を落としそうになるもギリギリセーフでキャッチする

彼女は若干涙目になりながらもこっちを見てくるがそれは一旦スルーしつつ、もう一人の方へ言葉をかける

 

「そんで…帆風さん?」

「まぁ。女王のお知り合いの殿方ではないですか」

 

彼女も手に持っていた箱を一度コーナーに戻して軽くお辞儀をすると短く自己紹介を始めていく

思えばちゃんと話すのは初めてかもしれない

 

「改めまして、常盤台中学三年の帆風潤子と申します。お話は女王から伺ってますよ」

「鏡祢アラタだ。こっちも帆風さんの話は聞いてるよ。もっとも、名前くらいしか知らないけどな」

 

帆風潤子

食蜂操祈の派閥のナンバー2であり、奔放な彼女を補佐し、実質的な運営の管理をしている子だとかなんとか

まぁトップの食蜂操祈が放任主義なこともあり色々苦労してそうではあるが

 

「…なぁ、トップがあんなんで苦労してない?」

「いえいえ全然。女王に尽くすのが私の生き甲斐ですもの。大変と思ったことあれど、苦と感じたことはありませんよ」

「…いい子だなぁ…」

 

思わず口に出た疑問に彼女はそう笑顔で答えた

今度食蜂操祈に会ったときもっと彼女を労うように言わないといけない

 

「そんで、何してたの?」

「ようやくそれを聞く?」

 

話の流れを一度切って改めて美琴へと視線を送り言葉を発した

美琴は箱をアラタに向かって見せながら

 

「スーパーマーケット限定の食玩ゲコ太コレクション! これを買うために帆風さんと来てたのよね」

「帆風さんと? …となると、彼女もゲコ太好きなの?」

「はいっ」

 

そう言って彼女は緑色の美琴と同じモデルの携帯を取り出してアラタに見せてくる

まさか常盤台にゲコ太好きがいるとは思わなかった

…正直美琴しかいないんじゃないかとさえ思っていたが、わからないもんである

 

「まさか常盤台の同志がいただなんて思わなかったわ」

「ふふ、このめぐり逢いはきっと運命ですね」

 

しかしなんだかんだ仲は良好なようだ

最近は美琴自身も操祈と仲は悪くはないが、派閥というのにはたまにそれをよく思わない女生徒もいると聞く

そんな中同じゲコ太好き…ゲコラーというべきか…がいるのは彼女にとってありがたい話だろう

 

「ところでアンタは何してんの?」

「あぁ、俺は晩御飯の買い出し。食材買いに来てたらたまたま二人を見かけたってわけ」

「まぁ。鏡祢さんは自炊をなさるのですか?」

「多少はね。あんまり上手くはないけど、それなりにできるつもりだよ」

 

流石に天道には敵わないのだが

 

「それでも素晴らしいことですよ。…女王も少しは自炊などに興味を持ってくだされば…」

「キャラじゃないもんなアイツ。らしいといえばらしいけど」

「むしろ帆風さんが食蜂さんにご飯作ってるのが想像できるもんね」

「あら。…それはそれで…」

 

そう言って帆風は「ほぅ…」と目を閉じる

自分が操祈に対して食事を振舞うさまを想像でもしているのだろうか

確かに正直想像が容易だ

それだけ、帆風が操祈を慕っているということなのだろうが

 

「…いいですね。それ」

 

筋金入りだなこの子

そう思わずにはいられない

本当に一回操祈は彼女を心から労った方がいいと思う

心の中でそう思ったアラタなのであった

 

◇◇◇

 

そんな訳であの後二人と別れた後、アラタは真っ直ぐ学生寮へと帰ってきた

まだ当麻は帰ってきていないようでそれなら先にご飯を作って待っていようということになりカレー作りをスタートする

 

大人はこれに加えて美味いビールでも付け足すのだろうがあいにく学生である自分はそんなものはない

適当に買ってきた野菜を水で洗って皮をむき、適当な大きさにカットする

鍋をコンロに置いて火をかけて水とか色々ぶち込んで煮込み始めていい感じになったら中辛のカレーのルーを潜影蛇手…もとい、投入してさらに煮込んでいく

 

なんかとなりの部屋で当麻の叫び声とか聞こえてきた気がするけどそんなもんは一切気にしないでカレーを作っていく

白飯は当麻の部屋にもあるだろうしここは冷凍しておいた白飯を解凍すれば足しになるだろう

…一応ないことも想定して念のためご飯も炊いておこう

 

そんなこんなでカレーも出来上がり炊飯器をみのりに持たせてアラタと二人当麻の部屋の前に移動してインターホンを一回

ピンポンと呼び鈴が鳴って数秒、上条当麻が顔を出した

なぜかインデックスが噛んだであろう歯形とか包帯ががんじがらーめとなっているが無視する方向で

 

 

「明日?」

「うん。オービットポータルの人と、契約の話とか色々」

 

夕食も食べ終えて今現在は三人で食器を洗っている最中に、アリサが話を切り出した

それに当麻がうーんと皿を洗いながら

 

「マジかー。明日俺、補修受けなくちゃいけなくってさ」

「余計なこと言わなきゃよかったのにな」

「う…さらっと傷抉るのやめてアラタさん…。ってか、お前明日は? アリサについてけんの?」

「行きたい、んだけど明日橙子んとこに顔出さんといかなくてさ。俺は早めに終わるだろうから、向かうのは途中からになりそうだけど」

「お前もか。…代わりにインデックスやみのりちゃんに任せる…てのは?」

 

そう言って当麻は居間の方でスヤスヤと食後の睡眠をしているみのりとインデックスに目を見やる

アラタも釣られて二人を見るが首を振って

 

「いや。逆に不安になるよ」

「だよなぁ…。うーん…どうすっかなぁ…」

 

当麻が唸った刹那、アラタが「あ」と短く声を発した

 

「? どうした」

「いたぜ、アリサに同行してくれそうな、頼り甲斐のある友人が!」

 

我ながら妙案だ

アイツ等なら問題なくアリサを預けることができる

 

「…あ! アラタくんもしかして」

「あぁ。もしかして、さ」

 

アリサの問いにアラタは小さく笑んで答える

きっと引き受けてくれるだろう、常盤台の超電磁砲と、その仲間たちなら


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