全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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ちょっと初めてアンケート機能などを使ってみました
劇場版は書き直す予定なので時間があれば是非


#49 終止符

じり、とマスクドカブトはすり足をしつつラトラーターと距離を取る

パッと見た感じでは恐らく、スピードタイプ

俊敏な速度で相手を翻弄し、両手の爪で一閃する…というのがおおよその戦い方だろう

そう考えた時、ラトラーターが動いた

 

ヒュン、と凄まじき速さで接近してきたと思ったらその鋭利な両爪で先制攻撃を仕掛けてくる

すかさず両腕で防御を試みるがやはり素早さでは相手が勝っているようでその一撃を貰ってしまう

その隙を逃さんと地上に着地した刹那、腹部に向かって蹴りを撃ちこんできた

今度は防御する暇もなく大きく後ろへ仰け反らされ蹴られた箇所を抑えながらマスクドカブトはクナイガンをラトラーターに向けて引き金を引く

しかし放たれた弾丸は当たることなく空を過ぎる

そして再びラトラーターは接近し、先ほどと同じようにクローを振りかぶった

だがそう何度も喰らう訳には行かないと思ったマスクドカブトはクナイガンをアックスモードへ切り替えてそのクローの攻撃を受け止める

それでもやはり両手と片手のアドバンテージはやはり両手に軍配が上がるらしく、しばらくは切り結べたが次第に押されそのままクローに吹き飛ばされてしまった

 

地面をゴロゴロと転がりながら体制を立て直したマスクドカブトは地面に膝を付けたままゆっくりと立ち上がり

 

(…やはり、このままでは分が悪いか)

 

素早さに圧倒的に劣っているマスクドフォームのままではとてもじゃないがあの速度の対応できない

そう判断したマスクドカブトはすっ、と手をカブトゼクターに手をやり、ゼクターホーンを起こす

 

するとマスクドアーマーが浮き上がり、パージの準備が整っていく

そのままマスクドカブトはゼクターホーンを右側に倒した

 

「―――キャストオフ」

 

その言葉と共に

 

<Cast off>

 

直後、変化が起きた

浮き上がっていたマスクドアーマーが弾け飛んだのだ

思わずラトラーターは身構える

事実、いくつかの吹き飛んだアーマーがこちらに飛んできた

幸い、そんなに被害はなかったが

 

そしてラトラーターの視界の前に、先ほどとは違う姿のライダーが立っていた

 

<Change Beetle>

 

顎を基点に、角のような装飾が張り付き、水色の複眼が発光する

そこにいたのは少し前の重鈍そうなライダーでなく、赤い輝きを放つスマートなライダーだ

 

「―――行くぞ」

 

カブトはそう言いクナイガンを逆手に持ち、一気に接近する

負けじとラトラーターも両手にトラクローを再度展開させて迎え撃つように走り出した

ガキン、と火花を散らしクナイとクローがぶつかり合う

だが先ほどの遅かった動きとは段違いで、両手と片手というハンデも容易に乗り越えている

いつしか押されているのはラトラーターとなっていた

ブンッ! と振るわれたクナイガンの一撃に両手は大きく弾かれて防御を崩される

そして先のお返しと言わんばかりにカブトはクナイガンで数度斬りつけ、回し蹴りで吹き飛ばした

 

今度は逆に地面を転がったラトラーターはすかさず、態勢を立て直し、再びカブトへ向かって跳躍をした

その様を見ながらカブトは再びゼクターへと手をやり、上部のスイッチを押していき、ホーンを左側へと戻した

 

<one two three>

「―――ライダーキック」

 

そしてもう一度ホーンを右側へ

 

<Rider kick>

 

エネルギーが右足に蓄積されていく感覚を感じながらカブトは待つ

ラトラーターが己の攻撃範囲に来るのを

そして数秒の後、ラトラーターが範囲内に飛び込んできた

相手は空中にいる、故に、逃げられない

 

「―――ハァッ!!」

 

その掛け声と共に繰り出される上段回し蹴り

足の残像は綺麗な弧を描き、宙にいるラトラーターに直撃する

ライダーキックを喰らい吹き飛ばされたラトラーターはそのまま壁に激突し、その姿を消した

チャリン、と何かが落ちたような音がしたが、カブトはそれに気づかなかった

 

「…ふぅ」

 

一息をついてカブトは変身を解除し、一つ深呼吸した

 

「…あいつらは間に合っただろうか」

 

 

ガガガッ! と地上でタトバと肉弾戦をしているのはキバだ

キバが今なっているフォームは基本体―――というか力を抑え込んでいるキバフォームだ

力を解放すれば人形に近いこの敵を簡単に倒せそうではあるが、今回その必要はなさそうだ

 

キバはそんな事を考えつつ、タトバの胸部に連続でパンチを繰り出す

その拳撃を受けたタトバは大きく仰け反って、また態勢を整えた

そしてどこからか、タトバは剣のような獲物―――メダジャリバーを取り出し、それをキバに向かって突きつけた

 

唐突に構えた武器に、キバは警戒する

相手はそれなりのリーチを持った剣に対し、こちらは素手だ

バッシャーを呼ぶ、というのも手だがフエッスルを使用する隙をつかれる可能性も否定はできない

…こんな事ならバッシャーを置いて警備員(アンチスキル)の手伝いをさせるのではなかった

タイミングが悪い

 

構えながら、相手の出方を伺う

痺れを切らしたのか先に動いてきたのはタトバだ

それを迎え撃つようにキバも駆ける

袈裟に振るわれた斬撃を躱し、足を払うように蹴りを放つ

しかしその蹴りは軽く跳躍されることで躱され、逆に斬撃を貰ってしまう

 

「ぐわっ!」

 

その一撃で立場は反転した

先ほどは与える側だったキバがダメージを追い、逆に先ほどまで劣勢だったタトバが傷を与える側となる

ブン、と振るわれたジャリバーはキバを捉え、火花を散らす

一撃を貰うたびに、大きくキバは仰け反り態勢を崩す

その隙を逃さんと、タトバは真っ直ぐ、ジャリバーを突き出し、キバを貫いた―――かに見えた

 

よく見てみる

メダジャリバーの剣先―――確かに刃はベルトを捉えている

捉えているのだが―――

 

「―――残念れひは(でした)っ!」

 

なんと、ベルトの止まり木にとまっているキバットがその剣先を口で受け止めていたのだ

一瞬ではあるが動きが止まる

その隙を、キバは逃さなかった

 

「ハッ!」

 

その隙をついて剣を手刀で叩き落としがら空きになった胸部に再び拳の連打を叩きこむ

ガクンと態勢を崩しながらも反撃を試みるタトバに、キバはサマーソルトを打ちこみ、壊れて突き出ていたパイプに足を引っ掛けぶら下がる

それこそ、さながらコウモリのように

逆さ吊りの状態で変わらぬ威力の連打を再度叩きこみ、ぶら下がるのをやめて地面に着地をしたと同時にしゃがんだままの体制でタトバを蹴り飛ばした

 

ゴロゴロと地面を転がるタトバに向かい、悠然と歩きながら、キバは一つのフエッスルを取り出した

そしてそのフエッスルをちゃきり、と水平に持ちそれをキバットの口へと持っていく

 

「よし行くぜ…! ウェイクッ! アーップッ!!」

 

止まり木からキバットが離れ、キバの周囲を飛び交う

そしてキバは一歩、その場から足を踏み出し、両腕を交差させる

 

変化が訪れた

 

自分たちを包み込むように、静寂と共に夜が訪れる

暗雲が立ち込め、雲から満月が顔を出す

三日月を背に、キバは大きく右足を振り上げる

直後その右足付近をキバットが飛び交い、封印のカテナを解放する

バギン、と音を立て、ヘルズゲートを解き放つ

 

そのままの姿勢でキバは大きく飛び上がる

空中にいるにも拘らず、とんぼ返りの要領で態勢を整えて―――そのまま右足を突き出した

 

「ハァァァァァッ!!」

 

月夜をバックに繰り出した―――ダークネスムーンブレイクは真っ直ぐ、タトバに直撃し、地面のキバの紋章が地面に刻まれ―――そして大きく爆発した

 

その爆発の中から歩いて出てくるのはキバだ

同時に夜が終わり、周囲はまた地下鉄の風景へと切り替わる

 

そして、アラタたちが走った方向を見た―――

 

◇◇◇

 

「…お前は、何を考えてんだ」

「―――うん?」

 

首をかしげる目の前のゴスロリを着込んだ、シェリーに向かってクウガはそんな事を聞いた

目の前の女はどうやら戦争を欲してるようだ

しかし―――

 

「裏の事情なんて俺はわかんないけど、それでも今はまだ魔術も科学もバランスは取れてるはずだろう、なのになんで」

「―――超能力者が魔術を使うと、身体が破壊される、なんて話を聞いたことはないかしら」

「…は?」

 

質問と違う答えが返ってきて、クウガは首をかしげる

 

「そもそもさ、おかしいと思わない? 〝なんでそんなこと〟が分かってるのか」

 

言葉が僅かに、少しづつ思考を巡らしていく

 

「試したのよ。だいたい二十年くらい前に、イギリス清教と学園都市が手を繋ごうって動きがあってな。それぞれの技術や知識を持ち寄って一つの施設に訪れた。そして能力と魔術を組み合わせた新たな術者を生み出そうとした。…あとは、分かるだろ?」

 

クウガはそれに頷いた

そして恐る恐る、クウガは問う

 

「…その施設はどうなった」

「潰れたというかなんというか。科学側に接触してたそいつらは同じイギリスの連中に狩られたわ。互いの知識が流れるのは、それだけで攻められる口実になりかねねぇからな」

 

クウガは口をつぐむ

互いの手を結ぼうとしたのも、そしてそれを止めようとしたのも、傷つけようと思ったものじゃなかった

 

「エリスは、私の友達だった」

「…エリス? あのゴーレムの事か」

 

…そうなると、この女はどんな思いであのゴーレムの事を呼んでいたのだろうか

そう考えたところで、目の前のシェリー以外にその感情は理解できるはずもない

 

「私が教えた術式のせいで彼は血まみれになった。施設を潰すべくやってきた連中から私を逃そうとして、エリスは死んだの」

 

彼女は落ち着いた口調で告げていく

 

「だから、私たちは住み分けるべきなのよ。いがみ合ってばかりで、そして分かり合おうとしてもそれが牙になり、返ってくる。科学は化学、魔術は魔術と、それぞれ領分を定めとかないと何度だって繰り返されちまうからな」

「そのための戦争ってか。…だけど互いを守るために戦ってどうする。お前の目的果たすためなら戦争が起きそうになったら、で済むじゃねぇか」

「買い被んなクソガキ。何憐みの目で人を見てやがんだ」

 

本当に、メンドクサイ奴だ

魔術と科学は住み分けるべき―――彼女の言葉には確かに一理あるのかも知れない

しかし、それでもクウガには―――アラタには彼女の意見には賛成できない

 

戦争が起きる、という事はそれだけ誰かが傷つくかもしれないからだ

そして、たくさんの笑顔が失われてしまうだろう

アラタには彼女の事情なんて分からない

しかしそれでも、戦争なんて馬鹿げたことをさせるわけにはいかないのだ

 

「―――行け!」

 

彼女の咆哮と共に、ケタロスが駆けた

天道が変身するカブトと同じようなクナイガンをクナイモードに切り替え、それをカブトと同じように逆手に持つ

 

クウガもケタロスを見据えて構え、相手に向かって駆けだす

一定の距離を走り、交差したのは互いの足

繰り出されたケタロスの蹴りを、クウガの蹴りが迎え撃つ

その後でお互い一歩引き下がるが、すぐに再び接近しお互いの攻撃が飛び交う

すんでの所でクナイによる斬撃を回避しながらカウンターをお見舞いする

 

しかしケタロスも負けてはおらず、一瞬の隙を見て、振るわれたクナイガンはクウガを斬りつけ仰け反らせた

 

「―――なんで」

 

そこでふと、シェリーは呟いた

 

「なんでお前は邪魔をする! 止めるな! 現状が一番危ういことになんで気づかないの! 学園都市は今ガードが緩い、あの禁書目録を余所に預けるほどに甘くなっている! エリスの時と同じよ、私たちの時でさえ、あんな悲劇を招いたのに! 不用意に踏み込めば、何が起きるかなど分かるはずなのに!」

 

彼女は暗い地下を反響し、クウガの耳に届いていく

そんな一瞬をついて、ケタロスの膝蹴りがクウガを捉えた

ゴロゴロと地面を転がりながら、シェリーに向かい、言葉をぶつける

 

「そんな言葉で、正当化できると思うな! 風斬やインデックス、当麻が何をしたって言うんだ! 争いたくないなんて言ってるけど、それ以前に、お前は誰を殺そうとしている!」

 

納得できない

納得できないから声を荒げる

 

「怒りも、悲しみも別に良いさ、人間だからね。だけど向かうべき矛先はそこじゃない。そしてその感情は誰かに向けるべきものじゃない! 辛いだろうし、俺だって理解できないだろう!」

 

ケタロスの攻撃を受け止め、「だけど!」と言いながらケタロスを殴り付けて言葉を続けた

 

「その矛先を誰かに向けてしまったら、それこそアンタが嫌う争いが起きるんだ!」

 

エリスが死んだのは、一部の学者や魔術師が手を取ろうとしたり、それを危険視したイギリス清教のせいらしい

それを知った時、彼女は何を思ったのだろうか

友人を殺した者への復讐か、こんな悲劇は繰り返さないという誓いか

 

「―――わかんねぇよ」

 

ケタロスの行動を停止させ、彼女は歯を噛みしめた

 

「あぁ、確かに憎いよ、けど本当に争いなんて起きてほしくないとも思ってる! 頭ん中なんざ最初(ハナ)っからぐちゃぐちゃなのよ!」

 

矛盾を孕んだ絶叫が響く

自分を引き裂くのではないかと、勘違いしてしまいそうな、声色で

 

「信念なんか一つじゃない、いろいろな考えがあって、そしてそれも納得できるから苦しいの! 人形みたいな生き方なんてできない! 笑いたけりゃ笑え、どうせ信念なんざ星の数ほどある、一つ二つ消えたところで―――!」

「そこまでわかっているのになんで気づかないんだ!」

 

シェリーの言葉を、クウガは遮った

その言葉に、隣のケタロスが身構える

そしてシェリーがクウガを見た

 

「…なんですって?」

「そこまで理解して、たくさんある信念の奥底にあるたった一つの信念に、お前はなんで気づいていない」

「たった、一つの、だと」

 

あぁ、と頷いて、彼は言う

恐らく、自分でさえ気づいていないその事実

 

「…結局の所、アンタはその大切な友達を失いたくなかっただけなんだ」

 

そうだった

いくら信念を数多く生み出しても、その根底にあるものは変わらない

生まれた信念だってそこから分岐して、さらに派生しただけで

 

「アンタには俺たちが嫌々インデックスに付き合わされたように見えたのか。その泥の目を使って見た時、争いを呼ぶような連中に見えたのか。住み分けなんかしなくていい、俺たちは、手を取り合って生きていける」

 

頭に思い描く、上条当麻とインデックスの関係はまさしくシェリーが願っていた姿のハズだ

アラタだって、他の誰かを代わりにしろなんて誰かに言われたらためらいもなくそいつを殴る

だから、告げる

 

「アンタの手なんか借りたくない。オレの友達を奪わないでくれ」

 

彼女の肩が震える

表情は、何かに耐えるように歪んでいた

彼女が分からない訳ない

それはかつて、彼女も口にした言葉だから

 

「―――我が身の全ては亡き友のために(Intimus115)!」

 

放たれた言葉は魔法名

シェリーはクウガの―――アラタの思いも分かっている一方で、〝それが分からない〟感情も理解できる

彼の気持ちが納得できるから、今はもう自分にない持ってる人を、己の手で

無数の信念の中にそんなのがあってもいいだろう

 

シェリーは自分の近くにある壁にパステルで何かを走らせる

途端、壁が崩れ落ち、二人の視界を遮断した

瞬間、迫った粉塵を突っ切ってケタロスが駆けて来ていた

クナイガンを手に、弾丸みたいに突っ込んでくる

 

「殺せ! その男をっ!!」

 

叫ぶ彼女の目尻には、僅かながらに涙があった

そこで、理解した

 

(…あぁ、アンタは)

 

彼女の信念は、星の数ほどあるらしい

たくさんの考えがあり、それが納得できるから彼女は苦しんでいる

だから

 

 

自分を止めてほしいという感情も、理解できるんだ

 

 

ブン、と振るわれたクウガの紅蓮の拳はケタロスに直撃する

ケタロスは地面をバウンドし、ゴロゴロと転がってシェリーの足元へと

その一撃が決め手だったのか、ケタロスはそのまま力尽き、メモリへと戻った

 

◇◇◇

 

いつまで経っても、衝撃は襲ってこなかった

恐る恐る、美琴は目を開けて―――そして驚愕する

釣られて目を開けたインデックスも同じように表情を驚きに染めた

 

風斬氷華

 

二人の後ろから跳躍した彼女が、ゴーレムに蹴りを打ちこんだからだ

蹴り飛ばされたゴーレムは縦に三回も回転しながら吹っ飛んだ

それに対し風斬は宙で制止しながらふわり、と地に足を付けた―――瞬間彼女を中心に半径二メートルほどのクレーターが浮き上がる

 

「ひょ、うか…?」

 

息が詰まる

 

よく見ると蹴りを放った方の足が膝から全部吹っ飛んでいる

当然だ、あんな巨体蹴り飛ばして生身がその反動に耐えられない―――そう思っていた

 

けど、彼女の足の断面は空洞、つまりは空っぽだった

傷口も、まるで卵を割ったみたいに不自然だった

 

「逃げて」

 

風斬氷華は振り返らなかった

 

「ここは―――私が食い止めるから」

 

彼女の声は確かに風斬氷華だった

けど、本能が警戒を解くべきか否かを、迷わせてしまった

 

そんな時、吹っ飛ばされたゴーレムが起き上がる

そして何か、羽虫を見るような感覚で、ゴーレムは風斬を睨んだ―――気がした

 

「何やってんの貴女! 早くここから離れるわよ!」

 

美琴が風斬に向かって叫んだ

 

「私は大丈夫です。―――貴女は、彼女を連れて早く逃げて」

 

それに対して、落ち着いた様子で美琴に返す風斬

風斬は振り返ることなく、ただ口を開く

 

「ひょうかは―――ひょうかはどうするの!?」

「私は―――あの化け物を止めないと」

 

彼女が答えた時、それに応えるようにゴーレムが拳を振り上げた

動きは遅かったが、人ひとりを破壊するには十分な威力を持っているハズだろう

 

「何馬鹿な事言ってるのよ! あれは人間がまともに戦っちゃいけないの!」

「そんなことしたら、ひょうかが―――!」

 

二人の言葉に、やっと氷華は振り返る

その顔は―――泣きそうになりながらも、笑んでいた

 

「大丈夫だよ」

 

彼女は言った

 

「私も、人間じゃないから」

 

え、とインデックスは息を呑み

な…と美琴は言葉を失った

 

迫りくる拳に、風斬は振り返る

彼女は両手を広げ、二人を守る壁のように立ち塞がった

そして―――

 

ドォンッ!! と、風斬の腕はその拳を受け止める

体中が痛い

その痛みに耐え、彼女はもう一つ、言葉を告げる

 

「騙してて、ごめんね…」

 

そんな彼女を押し潰さんとさらにゴーレムが力を込める

そしてそれを返さんと風斬も力を込める

その分、痛みも跳ね上がる

もう、喋る力も残ってない

このままじゃ―――そう思った時だった

 

背後から、何かが飛翔してくるような音が聞こえそれがゴーレムにぶち当たり、僅かにのけぞらせる

体当たりを繰り出したソレはクワガタの形をしていた

その正体を、美琴とインデックスは知っている

 

「ご、ゴウラム!?」

 

言葉を発したのは美琴だった

共に戦ったとき、名前が記憶にあったから

その言葉に反応するように人の形へと戻り、風斬の隣に降り立った

 

「あ、貴女―――」

「関係ないよ」

 

呟く風斬に向かって彼女は言う

 

「カザキリがなんであれ、友達ってことには変わりはないから」

「―――え」

 

風斬は思わずそんな事を言っていた

その言葉に続くように

 

「そうだよ…!」

 

インデックスが

 

「ごうらむの言うとおりなんだよ…! 確かに、私はひょうかの事知っちゃった…、だけど、それだけで関係が変わるなんてないんだから!」

 

言う彼女の目尻には僅かながら涙があった

その隣にいる美琴も

 

「―――私は、貴女の事知んないけどさ。…見くびってもらっちゃ困るわね」

 

そう言って笑顔を作る

その純真な笑みに、思わず顔を逸らそうとしてしまう

そんな彼女の耳に、また声が響き渡る

 

 

 

「―――かざ―――風斬ぃぃぃぃぃっ!!」

 

 

 

心からの絶叫

それは最も聞き慣れた少年の声色

上条当麻は―――否、上条当麻らは、こんな化け物になってしまった自分の事をまだ風斬って言ってくれる

 

ゴーレムが振り上げたその拳に、一人の男が立ち向かう

ゴーレムの拳に、当麻の右手が直撃する

 

彼の右手から血が噴き出した

だが、それは相手の力から来るものではない

単純に、岩盤を殴ったからのようなものだ

 

瞬間、ゴーレムの身体が崩れだす

そして派手に灰色の粉塵が舞い上がり、皆の視界を奪っていく

何はともあれ、危機は去ったのだ

 

ふと風斬は視線をあげた

彼女の視界にいるのは、インデックスだ

その隣には、人となったゴウラムもいる

 

インデックスは、優しく彼女に向かって手を差し伸べた

そして、笑顔を浮かべる

その手を見て、思わず風斬は泣きそうになってしまった

違う、泣きそうではない、実際もう泣いている

大粒の涙が風斬の頬を濡らしている

 

あぁ―――ここにいても、いいんだ―――

 

 

シェリー・クロムウェルはその場に佇んでいた

ケタロスを倒した後クウガはその変身を解き、メモリを砕いて上条当麻を追いかけて走って行った

走り去るとき、シェリーは聞いた

 

殺さないの? と

 

自分は殺されても文句は言えないという感情も理解できたから、彼女は無謀にとも取れる特攻を仕掛けたのに

それに対してアラタは逆に聞き返す

 

殺してどうなる? と

 

自分たちの気持ちを理解してくれたからこそ、これ以上戦ってなんになるのか、と

そう言って走るその男の背中をシェリーはどこか苦いような表情で見つめていた

 

「どうしたのさ」

 

不意に背後から聞こえてきた声にシェリーは振り返る

そこには呑気にプレーンシュガーを頬張りながらこちらに向かって歩いてくるソウマの姿があった

 

「―――ソウマ・マギーア」

「忘れ物だぜ」

 

彼はシェリーの近くまで歩み寄ると彼女の手に数枚のメダルを手渡した

それはタトバとラトラーター召喚に用いたメダルだ

それを受け取ってシェリーは仕舞いながら

 

「…何やってたんだお前は」

「いやー、夢を失った若者にちょっと絡まれてさ。そいつらに、希望を提示してきたとこよ」

「―――はっ、相変わらずだな、お前は」

 

そう言うとソウマははっ、といつもと変わらない笑顔を浮かべた

ソウマは指についたシュガーを舐めながら

 

「お前の方は。…終わったのか」

「あぁ。…終わったよ」

 

そう言って彼女は天井を仰ぎ見た

彼女の表情は読めなかったが、声色から幾分の余裕が聞いてとれる

 

「そうか。…じゃあとっとと帰るぞ、面倒事はごめんだからな」

 

そう言ってソウマは一つの指輪と取りだし、それを腰に翳した

 

<テレポート> <プリーズ>

 

二人の頭上に、大き目の魔法陣が現れる

その魔法陣が二人を通り抜けた時、二人はもう、そこにいなかった

 

 

そこにアラタたちが駆け寄るともうすでに決着がついていた

どうやら当麻が間に合ったようだ

 

現在は日も暮れて、病院の中

上条当麻は診察室の中で小萌と姫神に挟まれている

アラタは今、その病院の外で風を浴びている

因みに天道は当麻が病院に入っていくのを見届けたあと、すでに自宅へと帰っており、ワタルもいつの間にか友人と合流して彼らも帰路についたようだ

 

身体検査を終えて、現在は友人である当麻を待っている最中なのだ

そして彼の背後では、ゴウラムがどこか浮かない顔して立っている

 

「…ねぇ、アラタ」

「うん?」

「その…怒ってない?」

 

疑問符を頭の中に浮かべる

何を怒るというのだろうか

 

「カザキリがあのゴーレム止めにいった時…私も衝動的に飛び出したこと」

「…なんだ、そんな事か」

 

負い目に感じていたのは割と小さい事だった

 

「別に気にしてないよ。こんな事で怒るような俺じゃないさ」

「で、でも…」

「むしろあれで正しいよ。…友達があんなこと言ったら、身体が動くよな」

 

そう言ってアラタはわしゃわしゃとゴウラムの頭を撫でた

ふと、思い出す

 

「そうだ、ゴウラム。…お前に名前を付けたいんだ」

「…名前?」

「あぁ、ゴウラムもお前の名前だけど、人間の姿を取った時の、お前の名前」

 

ゴウラムの目が見開く

アラタは腰を落としてゴウラムの視線に合わせそして、その名を告げる

 

「―――お前の名前は、みのり。鏡祢みのりだ」

「みの…り?」

 

アラタは頷いた

 

「その…なんだ。お前と触れ合う人たちが、みんな笑顔を実らせてほしいなー…なんて意味合いで考えてみたんだけど。…悪いな、名前なんて考えるの初めてで、気に入るような名前じゃ―――」

 

ぼふ、と腹部辺りに衝撃が走る

しかしそれは別に痛いとかではなく、抱き着かれたような衝撃だった

 

「えっと…、どうした?」

「…なんでもない」

 

ゴウラムはアラタの胸に顔をうずめており、表情はわからない

けれどうっすら涙声になっているのだけはわかった

 

「その、気に入らなかったか? 名前」

「…違うよ。…ばか」

 

どうやら名前に関しては問題ないらしい

じゃあどうして若干涙声なのだろう

目尻から頬にかけて薄っすら流れるその雫に、アラタは気づくことはなかった

 

 

すっかりゴウラム―――否、みのりも泣き止んだ

ふと気になったアラタは口を開く

 

「そう言えば、風斬と会わなくていいのか?」

「大丈夫。アラタが検査してる間にインデックスと一緒に〝約束〟したから」

「そっか。…ならいいんだ」

 

どうやら無用な心配だったようだ

そう言うのなら、いずれまた会えるだろう

 

「あ、ここにいたんだ」

 

病院の入り口から御坂美琴が歩いてきた

彼女も同様に身体検査を受けており、どうやら今終わったのだろう

 

「ういー、お疲れ」

「うん、お疲れさま。…でも、まさかこの子がゴウラムとはねー」

 

そう言って美琴は頭を撫でる

頭を撫でる美琴に向かい、みのりは

 

「ミコト、今はゴウラムじゃないよ。私はみのり」

 

そう言ってむん、と胸を張る

一瞬キョトン、とした顔を見せたが美琴はすぐに笑顔を作り

 

「そっか。それじゃよろしくね、みのりちゃん」

「みのりで大丈夫だよ、ミコト」

「そう? じゃあみのりって呼ばせてもらうわ」

 

人間体になる前から多少交流していたからか、この二人は比較的早く打ち解けられそうだ

そこでふと思い出したように美琴はアラタに向かって

 

「そうだ、伝言預かってるのよ、アンタの友達…上条から」

「当麻から?」

「うん。もう少しかかるかもだから、先に帰っててくれって」

「マジか。…そんならお言葉に甘えて帰るかな」

 

出てくるまで待ってようかな、とは思っていたが本人から帰っていいと言われたなら帰ろうか、とアラタは思う

せめてアイツの分でも食事を作っておいてやろうか

 

「…よし、じゃあ帰るか」

「ねぇ、どうせなら晩御飯でも作って待ってない? もっとインデックスやみのりと話したいし」

「え? けどお前門限は…」

「大丈夫よ。…不可抗力とはいえ、もう過ぎちゃってるしね」

 

現在時刻は八時三十分

それに対して常盤台の門限は八時二十分なので十分過ぎてしまっている

…帰る際は送って、無駄かもしれないが寮監さんに話をしてみよう、と思いながらいるとみのりがアラタの左手を掴んで、そして反対の手で美琴の右手を掴んだ

 

間にみのり、両側にアラタと美琴という図になる

 

「おっけー、ならどっかで材料でも買うか。念のために当麻にもメールで知らせとこう」

「アラタ、私シチューっていうの食べたい」

「シチューか。いいな、保存も効くし」

「賛成、ビーフにする? それともホワイト?」

 

そんな会話をしながら、三人は夜の都市を歩いていく

間にいるみのりの顔は、終始笑顔だった

そして、思い出す

 

―――カザキリ、約束だよ。ずっと、私たちは友達だから―――

 

それは消えゆく彼女と、そしてインデックスと交わした、色褪せることない、たった一つのやくそく―――


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