全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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#48 それぞれの戦い

ペタンと、地面に座り込んでいる風斬氷華はふと自分の近くで誰かが言い争っていることに気が付いた

いや、言い争っているのは実質、当麻一人だけだ

彼だけが女性の警備員(アンチスキル)―――黄泉川愛穂に掴みかからん勢いで口を荒げている

 

「なぁ! もうさっきの奴はいないんだろう!? なんでシャッターが開かないんだよ!」

「何度も言うけど、地下の管轄とうちらの管轄じゃ異なってるんじゃん。こっちからも連絡してるけど、封鎖を解くのにはもうすこしかかるじゃんよ」

「―――くそっ」

 

そう当麻は毒づいた

同じように苦い顔をしてアラタも頭を掻いている

それに釣られて、天道も、ワタルも何かを考えるような仕草を取っているのが視界に入ってきた

冷静になってみるとその四人を彼女は疑問に思った

 

黄泉川の無線に連絡が入る

彼女は少年たちの元を離れると何か専門用語のような言葉を言いながらまた口論を交わしている

黄泉川が離れると同じく、ゴウラムの支えを受けながら風斬はふらふらとその四人の元へ歩いて行った

 

「あ、あの。先ほどは、ありがとうございました」

「うん? あぁ、別に気にすることじゃないよ」

 

風斬の言葉にアラタが笑顔と共に答えてくれる

アラタの言葉に続くように当麻も

 

「それより、お前身体大丈夫なのか?」

「え、えぇ。平気…だと思います。そ、そんな事より、何かあったんですか?」

 

その言葉に、一瞬重い空気があたりを包んだ

当麻は相談するように天道へと視線をやった後、天道はゆっくり頷いた

それに頷き返したのち、やがて言葉を選ぶように当麻が言葉を紡ぐ

 

「あの女…シェリー・クロムウェルは逃げたんじゃない。目標をインデックスに変えただけなんだ」

「―――えっ?」

「どうやら特定条件下に合えば誰でもいいらしくてさ。そのうちの一人がインデックスという事なんだ」

 

当麻、そしてアラタの言葉に風斬は息を呑む

そうだ、守られている私たちはまだいいが、外のインデックスはほぼ無防備に近いじゃないか

 

「…美琴もいるにはいるが、不安な事に代わりはないな」

「そ、それなら外の―――警備員(アンチスキル)の人たちに保護してもらうとか―――」

「それは出来ない相談だ」

 

最もな意見に、天道総司が反論する

 

「な、なんで!?」

「話を聞くにインデックスという子はこの街の住人ではないらしい。…はっきり言えば部外者も同然だ。運が悪ければ保護どころか逮捕だな」

「そ、そんな…」

 

風斬氷華とインデックス

この二人とでは少しばかり事情が違うのだ

風斬氷華もこの街のID登録をしてはいないが、それだけだ

確かに彼女の正体は普通じゃない、がそれだけで危険と判断はされない

しかしインデックスは違う

彼女は、学園都市とは違う、魔術という組織に属している

そして、属していると言うだけで危険と判断されてしまうかもしれないのだ

 

「…やっぱりこの穴から行くしかないか」

「状況を考えるとね。後手に回るのはちょっと癪だけど」

 

当麻の言葉にワタルが答える

その穴とはついさっきシェリーが逃走する際に空けた穴だ

 

その穴を風斬は覗き込んだ明かりはなく、真っ暗だ

底は見えず、何メートルあるかもわからない

その中に、彼らは飛び込むというのだろうか

学園都市の敵、という少女をかくまって、かつそれに手を貸しているという時点でおそらく彼らの心は揺るがない

 

少し、考えて風斬は口を発した

 

「大丈夫です」

 

その言葉に、四人の男性は訝しんだ

 

「…カザキリ?」

 

ポン、とゴウラムの肩を叩いて風斬は一つ前に出る

そして言った

 

「化け物の相手は、化け物がすればいいだけの話です」

 

空気が、凍る

 

「勝てるかは分かんないけど、せめて囮くらいは果たして見せます。…それぐらいしか、出来ないから」

「―――俺たちがそんな事されて嬉しい人種に見えるのか。インデックスが、美琴が。そんな胸糞悪いことされて笑うような人種だと思ってるのか」

「それに俺たちが誰のために、何のためにここに来たと思ってんだ! お前は、化け物なんかじゃねぇんだよ!」

 

当麻とアラタの言葉は偽らざる本心だろう

しかし、恐らく彼らは気づいていない

彼らが挑んだものも、〝化け物〟という事実に

 

「良いんです。私は化け物で」

 

彼女は笑う

友達に見せるようなその笑顔で

 

「だから―――私の力で、大事な人を守ります。私は化け物で―――幸せでした」

 

そのままの笑顔で彼女はシェリーの空けた穴に身を投げた

一瞬遅く、反射的にゴウラムが彼女の手を掴もうと手を伸ばしたが、届かなかった

そして、ゴウラムは見た

 

自分に向けて微笑んでくれる、風斬氷華の笑顔

大丈夫だよ、と言っているような、そんな彼女の笑顔(かお)

 

 

「あぁ、もう。どこ行ったのよ…」

 

急いでインデックスを追っては来たものの、思いのほか彼女のスピードが速くついに見失ってしまった

それでも少し前はそんな彼女の後姿を捉えることは出来たのだが

美琴は一つ息を吐きながら辺りを見回した

 

どうやら考えなしに彼女を追っかけていたらなんだかよくわからない廃墟のような場所に来てしまったようだ

周囲のビルのガラスは割れ、或いは外されて、内装もむき出しのコンクリが見えるなど、まさに廃墟だ

 

「だけどこの辺かなー…とは思うんだけどな」

 

呟きつつ、もう一度美琴はこの廃墟街を見回した

そしてちらりと、とことこと全力で走るあのシスターを見つける

 

「あ、いた…!」

 

口にしながら今度こそ逃がすまいと美琴は後を追いかけはじめた

 

 

「はぁ…やっと捕まえたんだよ」

 

三毛猫が逃げてインデックスが追っかける

そんな不毛な鬼ごっこも終わり、ふぅとインデックスは息を吐いた

自分がいた場所は一言で言えば廃墟だった

その光景にほぇぇ…なんて言葉をあげた隙にスフィンクスが足をパタつかせる

 

「こらスフィンクス。あんまりわがまま言ってると、流石の私も怒るんだよ?」

 

そう言ってインデックスはお仕置きと題してスフィンクスの耳に息を吹きかけようとして―――

自分に向かってくる足音を聞いた

ふとその音の方に視線を向けると、御坂美琴がこちらに向かって走ってきていたのが見えた

彼女はインデックスの前に立ち止まると大きく息を吸い込んで調子を整えた

 

「ようやく追いついたぁ…」

「みこと。あのまま待っててもよかったのに」

 

インデックスがそう言うと調子が戻ったのか

 

「そうもいかないの。一応アラタから貴女の護衛…でいいのかな。とにかくそれっぽいの任されてんだから」

「え? けどくろこって言う人は…」

「いざとなったら連絡するから大丈夫よ。…猫は捕まえたの?」

「うん。スフィンクスってば逃げすぎなんだよ、ホントに」

 

そう言って彼女は手の中のスフィンクスと呼ばれる三毛猫を美琴に向かって見せる

スフィンクスは小さくみゃあ、とだけ一回鳴いた

 

「よかった。それじゃ戻りましょ」

「うん」

 

頷いてさぁ、戻ろうとしたとき

 

ぴくん、とスフィンクスが顔をあげる

そして今度はインデックスの腕から逃れようと大きく抵抗を始めた

その今までないほど強く暴れたインデックスは慌て、美琴も少しおろおろしている

インデックスがスフィンクスを落ちつけようとあれこれ試している間、ふと頭に何かかかっているのを感じた

美琴が手を伸ばし、確かめてみる

 

それはコンクリートの粉だった

 

同じようにインデックスも気づいたのかお互い顔を見合して空を見上げた

どうやらこの粉は廃ビルの壁から降っているようだ

 

そしてカタカタ、という音に釣られ今度は地面も見てみる

マンホールの蓋が、震えていた

 

「…足元が揺れてる?」

「地震かしらね?」

 

怪訝な顔をしたのも束の間―――インデックスは思い出す

 

敵の魔術師は、地下に、つまり足元に潜んでいるという事実に

 

彼女たちが踏んでいる地面が、一瞬蛇のようにうごめいた気がした

 

「っ!」

 

本能が理解したのか、美琴はスフィンクスごとインデックスを抱えて大きく後ろに飛んだ

 

瞬間、先ほどまで経っていた地面が爆発する

その爆心地からはい出るように、巨大な石像が姿を現す

術者である魔術師の姿はない、ならばおそらくこれは遠隔操作か

 

地面に立たせたインデックスの眼が無意識に細くなる

 

「―――基礎理論はカバラ、主な用途は防衛と敵の排除、本質は無形と不安定…」

 

ぶつぶつ、と呟く言葉を美琴はあまり理解できていない

しかし、何かをやろうとしているのはなんとなく理解できた

 

それを察してか、美琴は彼女の隣で防御態勢を取る

下手に能力を行使しては彼女を巻き込んでしまう恐れもあるかもしれないと踏んだからだ

 

その時、石像の拳が美琴ごと潰さんとインデックスに襲い掛かる

 

「―――右方へ歪曲せよっ」

 

彼女は一言告げる

それだけでストレートを放った石像の拳は急に左にそれる

その光景に驚きながらも余波から吹き飛んできた破片から微弱な電磁波を繰り出し、美琴はインデックスを守る

 

インデックスが行っているのは、強制詠唱(スペルインターセプト)と呼ばれるものだ

 

〝ノタリコン〟という暗号を用いて術式を操る敵の頭に割り込みを掛け、

暴走や発動のキャンセルなどの誤作動を起こさせるという〝魔力を必要としない魔術〟

順番に数を数えている人のそばで出鱈目な数を言って混乱させるように

 

インデックスに魔術は確かに使えない

しかし、逆に暴走させることなら可能なのだ

石像を操る術者は確かにここにいない

しかしこれが遠隔操作なら、この石像を介してあの術者はこちらの状況を見ているという事でもある

ならこっちにもつけ入るすきはあるはずだ

 

「右方へ変更、両足を交差、首と腰を逆方向に回転っ!」

 

インデックスが叫び、美琴がその石像の攻撃の空振りから来る小さい破片からインデックスを守る

 

「…捌くだけじゃ足らない」

 

インデックスは修道服のスカート部分を繋いである安全ピンを一気に引き抜き、美琴にいった

 

「みこと、これをアイツの足元付近に、私が合図したときに撃って!」

「任せなさい、その程度なら―――」

 

インデックスから安全ピンを受け取ると超電磁砲の要領で構え、インデックスの指示を待つ

 

(自己修復を逆演算、周期はおおよそ三秒ごと―――逆手に取るなら―――)

「今!」

「おっけぇいっ!」

 

彼女の指示を聞き、美琴はその石像の足に安全ピンを撃ち放った

それはゴーレムの足に当たり、ゆっくりと磁石に呑まれるように吸い込まれていく

 

刹那、まるで楔でも打たれたかのようにゴーレムの右足の動きが阻害される

 

これも先ほどの強制詠唱(スペルインターセプト)と原理は同じだ

このゴーレムは周囲のものを利用して自動で身体を創り出したり、または修復する機能を有している

反対に構成に不必要な―――言ってしまえば身体の生成を邪魔するようなものを投げ込めばそれを逆手にだってとれるのだ

 

「…いけるかも」

「えぇ、正直何が起きてるか分かんないけど、全力でサポートするわ」

「そうしてくれると嬉しいかも―――」

 

互いに頷いたその瞬間

 

ドォン、とゴーレムが地面をその場で踏みつけた

 

「きゃ!?」

「っと!?」

 

転びそうになるインデックスを美琴が受け止める

態勢を崩す二人にゴーレムは右足を引きずりながら接近してくる

 

「っ、右方―――」

 

言葉にしようとし、それより先にゴーレムが地を叩きつけた

ドォン、という衝撃波がインデックスの耳を叩き、美琴の耳を襲う

そして同時に、ゆっくりとゴーレムは頭を揺さぶった

 

(まずい、かも!? 自動制御に―――!?)

 

強制詠唱(スペルインターセプト)は術者を対象としたものだ

インデックスの言葉が騙すのはあくまで人間であって、心無い無機物を騙すことなどできない

 

ゴーレムが拳を振りかざす

その光景に思わず美琴はインデックスを抱きしめ己の身を盾にした―――

 

 

一行はようやく地下鉄の構内に辿り着いた

最後の笑顔を至近距離で見たゴウラムは追いかけるようにその身を同じように大穴に投げ出してしまうし

そしてそれを止められなかった自分自身にも罪悪感を覚える

 

「体の調子は大丈夫か、当麻」

「あぁ、悪いな天道」

 

先ほどまで上条当麻を抱えていたマスクドカブトは変身を解き、問題ないと言わんばかりに軽く笑みを見せる

本来なら何かロープの代わりになるもの探してそれをつたって降りようとしていたのだがそれでは時間がもったいないとのことで、変身し、一人は当麻を担ぎ、そのまま自分たちも飛び降りたのだ

 

その辺のアトラクションよりも当麻は恐怖を感じたのは内緒だ

調子を整えてよし、と当麻は拳を叩く

 

彼女の幻想は、こんな結末で終わらせてはならない

コンクリートの地面を睨むと点々とゴーレムの足跡があった

しかしすでに先をいったのか足音はない

一行が地面に気を取られていると、ふとまた別の足音が耳に入ってくる

 

「っ!?」

 

一足先にマスクドカブトは気づいた

それは上空から奇襲をかけるように跳躍していた

―――仮面ライダーだ

 

気配を消していたのか、その姿を顕現させた黄色いライダー、ラトラーターはトラクローを振りかざす

その一撃を前にでて、マスクドの鎧で受け止め、後ろへ投げつけて距離を取る

 

「こいつは…!」

「恐らく、あの女の―――」

 

そう言ってふとクウガは自分の前を見る

そこにもう一人、かつてステイルが召喚してきた信号機のようなライダー―――タトバコンボがこちらにゆっくりと歩いてきていた

 

「…どうあがいても通さないつもりかよ」

「だけど、やるしかない―――」

 

そう言いながらクウガは構えようとして、キバに肩を叩かれ止められる

疑問符を浮かべたクウガはキバに視線を向ける

 

「…ワタルさん?」

「行って、アラタ、当麻くん。ここは僕たちが食い止める」

「えっ!? で、でも―――」

「こうやっている時間が惜しい、急げアラタ、当麻」

 

一瞬、クウガは逡巡する

だが、天道もワタルも、この程度でどうにかなる人ではない

そう信じて、改めてクウガは前を向く

 

「―――行こう、当麻」

「あぁ!」

 

そう当麻に告げて一気に全速力でタトバの横を通り過ぎる

彼らの背中を見届けて、キバはタトバに向かい、マスクドカブトはラトラーターに向かってそれぞれ構えた

 

「片方、任せていい?」

「無論。そのつもりだ」

 

 

不意に、一本の柱が揺れと共に倒れてきた

自分たちに向かってくる柱に当麻と自分の身を守るため思わず裏拳を叩きこんで壊してしまったが、こんな非常時だ、きっと大人も許してくれるはず

 

「流石に…そう簡単には潰れないか」

 

闇の向こうに聞こえてくるその向こうに視線を凝らす

そこにはシェリーが立っていた

汚れたドレスを引きずるように

 

「ふふっ、エリスなら先に行かせたわ。今頃もう標的に辿り着いてくる頃よ。もしくは、もうゴマみてぇにすり減らしたかもな」

「て、めぇ…!」

 

当麻が拳を握る

どうやら、遠隔操作する術があったようだ

 

「―――当麻、お前は先に行け」

「なっ、けど」

「早く!」

 

クウガの声に当麻は思わず身を震わせる

しかし、あの女もおいそれと通してくれないだろう

だが、こちらにだって意地がある

 

当麻が走り出すその瞬間、クウガも彼の後ろを追従するように追いかける

その瞬間に狙ってか、闇にまぎれていたもう一人の人影が姿を現す

 

ケタロスだ

事前に彼女がメモリから顕現させていたものを、背後に忍ばせていたものが―――当麻を止めるべくクナイガンを振り上げる

だが予期していなかった訳ではない

すかさず当麻の背後から飛び出し、そのクナイガンの刃を受け止める

白刃取りの要領だが、多分こればかりは偶然だ

 

さらに当麻が走る

そしてそれを止めようとパステルを振るわんとする彼女に向かってクウガはケタロスを蹴り飛ばした

 

「がっ!?」

 

真っ直ぐ飛んだケタロスが当たり、シェリーを少し後ろへ仰け反らす

それが決定的な隙となり、当麻の後姿は完全に見えなくなった

 

「―――ち、まぁいい。テメェの方がまだアイツよりは楽そうだ」

「見くびっても貰っちゃ困るぜ、俺だってそれなりに場数はふんでる」

 

立ちあがるケタロスを前に、シェリーは一つ息を吐き、クウガもそれに合わせて身構える

それぞれの戦場で、それぞれの戦いが、始まる―――


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