全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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とある魔術の禁書目録 幻想収束(イマジナリーフェスト)
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#45 風斬氷華(カザキリヒョウカ)

戦場

 

その場を一言で表すならそうだろう

視線の先に広がっているこの光景は、本当に戦場という名が相応しい

傷ついたり心折られた人達が、壁に寄りかかって、傷の治療を受けている

いわば野戦病院と言った所だ

その数、おおよそ二十数人

一体何度立ち向かったのか、彼らの傷は尋常でなく、絆創膏を貼るなどと言うレベルを超えている

 

「…ここまで警備員(アンチスキル)を圧倒するとはな。想像以上だ」

 

天道の言葉に思わずうなずく

魔術師とは何度か戦闘してきたが、それでも多少どんな感じかは理解しているつもりだった

しかし現実はこのザマだ

 

学園都市の治安を守る人たちが、わき役のような扱いだ

それでも、彼らは退かなかった

身体の動く人たちは付近の店から椅子やらテーブルやらを引っ張り出しバリケードを作ろうとする

否、動く動かないの問いかけなどとうの昔に終わっている

死ぬ気で、じゃない

死んでもそれを成そうとしているのだ

 

ここにいる人…警備員(アンチスキル)の大半は教師だ

誰かに強制されているわけではないし、そこまで命を張る理由なんてない

それなのに、どうして彼らは

 

「ちょっとそこの少年たち!? 何してんじゃん!」

 

そんな呆然としていた彼らを見て驚いた警備員(アンチスキル)の女性―――黄泉川愛穂はそう声を荒げた

彼女の怒号にその場の警備員(アンチスキル)らは一斉に振り向いて、アラタや当麻たちを見た

思わず戸惑って声を返せずにいると

 

「ちっ! 月詠んとこの悪ガキじゃん、そっちは連れ添い? 閉じ込められたのか? ったく! だから閉鎖を早めるなって言ったのに! 少年たち! 逃げんなら方向が逆じゃん! A03ゲートまで行けば後続の風紀委員がいるから、ひとまずはそこに退避! 鉄装! ちょっとメット渡してきて! なんもないよりマシじゃん!」

 

指示を飛ばしながら付近の警備員(アンチスキル)は人数分のメットを持ってきてそれを四人に手渡す

そして何となく、辺りを見回してみた

 

「…やはり、大人は偉大だな」

 

天道が口を開く

現実に彼らのような大人など、なかなかいない

 

「そうだね。見習わないと、僕たちも」

 

そう言ってワタルのポケットからコウモリのような生き物が這い出て来て、彼の周囲を飛び回る

その生き物に届けに来た警備員(アンチスキル)がびっくりするが、気にしないことにした

 

彼らの言葉に、当麻とアラタは頷き合う

そして悟ったのだ

彼ら彼女らが、退かないその理由(ワケ)

 

天道はどこからか飛来した赤いカブトムシを掴み、ワタルも右手をバッと翳す

 

「待ってたぜーワタルーっ!」

 

そう言いながらコウモリは彼の手に収まった

そしてその四人はメットを再び押し付けて

押し付けられた警備員(アンチスキル)はあたふたしながら困った様子だった

 

「おい!? どこに行こうとしてるじゃん!? くそ…、誰でもいいからそこの民間人を取り押さえてッ!」

 

叫び、その手を伸ばすが彼らには届くことはなかった

すでにぼろぼろの彼らは、そんな力も残っていないのに、まだ戦う意思を秘めている

言えば、警備員(アンチスキル)は通学路の見回りなどの延長線上でしかない

しかしそれゆえに、心の弱さに負けてしまえば簡単にぽっきりと折れてしまう

 

思えば、風紀委員や警備員(アンチスキル)は立候補によって成立するのだ

そう、考えてしまえば簡単な事

 

彼らは誰に頼まれたわけでなく、己の意思にここにいる

 

警備員(アンチスキル)の制止を振り切って、当麻の隣でアラタはアークルを顕現させる

 

そのまま、その道に向かって一行は走り出し、警備員(アンチスキル)その姿が見えなくなると、当麻らの隣で天道はその手を動かし、ワタルはキバットにガブッ! とその手を噛ませ、アラタは右手を斜め左に突き出し、三人は叫んだ

 

『変身!』

 

言葉と同時、天道はゼクターをベルトにセットし、ワタルは現れた止まり木にキバットを装着し、アラタは己のアークルの左側へと両手を動かす

 

<HENSIN>

 

電子音声の後、天道の身体はヒヒイロカネの鎧を纏ったマスクドカブトへとなり、ワタルの身体が透明になったと思った瞬間弾け飛び、キバへと姿を変え、アマダムが輝き、アラタの身体は赤い姿と複眼をもつ、赤のクウガ、マイティフォームへと身を包む

 

変身を終え、当麻と共に頷き合いさらに彼らは奥へと進む

 

さらに進むと一つ、変化があった

 

「…物音がしなくなったな」

 

呟くようにマスクドカブトが口にしたのち、さらに意識を集中させる

通路の奥では銃撃戦が繰り広げられているハズだ

しかしいくらなんでも静かすぎる、まったくもって何も聞こえないのだ

 

「―――急ごう」

 

ワタルの声に頷いて一行はさらに通路の奥へ足を進ませる

薄暗く、赤色の証明に照らされたその通路の先に―――

 

 

 

「…あら。ふふふ、こんにちは」

 

 

 

女の声が反響する

黒いドレスを着込んだ金髪にチョコのような肌色をしたその女がそこに立っていた

そしてその女の盾になるように、大きな石の像がいた

鉄パイプやタイルといったあらゆるものを無理やりに潰し織り交ぜ整えたようなデカい人形

同時に周囲を見渡す

四方にバリケードの破片が散らばっており、その破片を浴びたのであろう八~九人の警備員(アンチスキル)が倒れていた

まだ息があるようで、その手が震えるように動いている

 

「…お前」

 

なんでこんなことを、と言いかけてアラタは言葉を飲む

しかしそんな意図を組んだのか金髪の女は

 

「…おや、お前は確か…幻想殺し、か。おまけに古代の戦士まで一緒とは。うん? あのカザなんとかはいないのか。…いや、まぁいんだよ誰だって。殺すのはあのガキでなくともさ」

 

なに? と思わずクウガは聞き返す

目の前の女が当麻や自分、風斬を狙っているところはなんとなく分かっていた

しかしこの女はどうも調子が分からない

狙っているわけではないのだろうか

 

「そのままの意味よ。…テメェらを消したって構わねぇってわけさ!」

「! 屈めっ!」

 

相手の行動を察知したのかマスクドカブトが声を張り上げる

その声に反応してキバとクウガ、そして当麻が思わず屈むのと、女がパステルを空中で一閃するのは同時だった

 

瞬間、女の動きに連動するようにゴーレムが大きく地面を踏みつける

ドォンッ! と大きな震動が走り、大地を揺らす

事前に屈んではいたからあまり害は受けなかったが、それでも不利なのに変わりはない

 

しかしその震動の中であの女だけは悠然と立っていた

あのゴーレムのマスターだからか、それとも何かの術式を地面に施しているのか

 

「地は私の力。エリスを前にしたら、誰も立つことはかなわない。…おら、無様に這え、そして噛み付いてみろ負け犬ども」

 

勝ち誇った表情を浮かべる女を態勢を整えながら睨みつける

だがしかし相手の指摘も間違ってはいない

この振動の中下手に攻撃してしまえば最悪同士討ちを巻き起こしかねない

悔しいがこの戦い方は理にかなっているといえよう

 

「…っち!」

 

少しでもダメージを与えようとマスクドカブトがクナイガンを構える

そして揺れを抑えるようにキバが彼の肩に手を置いて、安定させた

しかし僅かながらの震動が邪魔をして、上手く狙いを定められない

 

「て、めぇっ!」

「てめぇでなくてシェリー・クロムウェルって名前あんだけど。…これから死ぬ奴らにイギリス清教名乗っても意味ねぇか」

 

イギリス清教、と聞いて当麻の顔が一瞬変わる

そして

 

「い、イギリスって、インデックスと同じところのやつか!?」

「な、んだと!?」

 

イギリス清教

分かり易く言えばそれはインデックスが所属している魔術組織のはずだ

もっと言ってしまえば同僚に近い存在のはずなのに

そんな思考を巡らせる中シェリーは小さく笑み

 

「戦争を起こしたいんだよ。それの火種が欲しいの。だから…出来る限りの大勢の人間に私がイギリス清教の手下だと認識させなきゃな」

 

言いながら彼女はまたパステルを一閃する

そんな動きに引かれるようにエリスと呼ばれるゴーレムが大地を踏みしめ、その大きな拳を振り上げる

急造と言えどバリケードを一撃で破壊したあの拳だ、直撃を貰えばただでは済まない

しかし踏みしめたおかげで、僅かではあるが震動が止まった

 

「はっ!」

 

そのままクナイガンのトリガーを引き弾丸を発射した

数発ではあるが放たれたその弾丸はゴーレムエリスの足にヒットする

しかしいくら動きを止めているからと言っても、ただのハンドガンのようなものではあまり決定打には至らない

おまけに何発か跳ね返って跳弾さえしているのだ

 

「くそ…少しでも接近できれば!」

「あぁ、お前の右手なら…!」

 

恐らくあのゴーレムは魔術で作られたものだ

故に異能を打ち消す当麻の右手に触れれば勝機はあるはず

しかし迂闊に接近は出来ない、不用意に攻めればあのゴーレムの拳の餌食になりかねないからだ

ぎり、と歯を食いしばり当麻はクウガと共に相手を睨む―――

 

 

一方で白井黒子の帰りを待っている三人組

風斬を背にし、バッシャーとゴウラムは警戒を怠らない

少し時間が立ってから、バッシャーがゴウラムに問いかけた

 

「…ねぇねぇ、君も人間に変化してるひと?」

「…まぁ、そんな感じ。そう言う貴方も」

 

ゴウラムが聞き返すとバッシャーは小さく笑みを浮かべて

 

「あはっ、まぁ分かる人にはわかるよねぇ」

「大丈夫。その分かる人も限られてるし、まず気づかれない」

 

正直ゴウラムもバッシャーの正体にはなんとなく程度しか分かっていなかった

そして先ほどの言葉を聞いてその僅かな疑念が確信へと変わったのだ

 

「ていうか、カザキリの前でそんな話しないで。変な感じに―――」

 

そこまで言いながらゴウラムがなんとなく風斬がいるであろう背後を見て、言葉が止まる

 

「? どうかしたの―――って」

 

同じように振り向いたその瞬間、バッシャーも息を呑んだ

それもそのはずだ

 

つい先ほどまでいたその場所から、風斬氷華がいなくなっていたことに

 

「な、なんで!?」

「わ、わかんないよ!? だ、だけど、気配は―――あれ!? どうして!?」

 

どうしてだろうか、確実に己らの後ろにいたと感じていたのだが

というか、いつからいなくなっていた? 

足音は聞こえたか? 動くような物音は

 

「い、いや、考えるのは後にしよう! 彼女が行くとしたらワタルたちのとこしかないよ!」

「うんっ!」

 

お互いに頷き合って一斉に二人は走り出す

過程がどうであれ、眼を離してしまっていたのは事実だ

不安に思いながらも、二人は速度を落とすことなく走り続ける

 

 

不意にかつん、と聞こえたその靴の音は妙に耳に残った

定期的に聞こえる銃声に、そんなマスクドカブトを援護すべく態勢を整え、傷の応急処置を施した警備員の放つライフル音が響く中、その足音は本当に耳に残った

 

アラタは当麻を地面に伏せさせつつ、ゆっくりと顔をあげ首だけを後ろに動かしてその音の正体を探る

内心、いやな予感はしていたのだ

だがそれを素直に認めてしまったら、当たってしまうような気がして認めたくなかったのだ

しかしこういう時に、その嫌な予感は当たってしまうわけで

 

恐る恐る首を向けたその先には

 

「あ、あのっ」

 

風斬氷華がそこにいた

あろうことか、通路のど真ん中に

 

「馬鹿っ!! なんで黒子待ってなかったんだよ! ていうか、どうやってここに来た!? あの二人は!?」

 

あの二人の眼を掻い潜ってきたのか、一体どういう手段を使用したのかは不明だ

しかしあのままあそこにいては確実に何らかの被害をこうむってしまうだろう

だが迂闊に立って駆け寄ろうものなら飛び回る跳弾の餌食となり、その隙をあのゴーレムは狙わないはずがないだろう

 

発砲音に負けないよう、クウガは声を張り上げた

しかし風斬本人はまだ状況を掴めていないのか

 

「だ、だって―――」

「だってじゃないっ! くそっ! とにかく早く伏せろ!」

 

そんなクウガの叫びに風斬はきょとんとした後

 

ゴッ!! と彼女の身体が大きく後ろへ飛んだ

 

「っ!?」

 

クウガは思わず息を呑んだ

そしてその隣で伏せていた当麻も、彼の反応を見て何が起きたかを察した

当然、人間の眼は飛び交う弾丸を視認できるほど高性能ではない

しかし、今回はどうなったかは一目瞭然

 

ゴーレムの身体に当たり、跳弾した弾丸が風斬氷華の顔面に当たった、という事

肌色が飛び散って、眼鏡のフレームごと千切れ、飛ぶ

銃声はいつの間にか止んでおり、警備員(アンチスキル)が呆然と倒れる彼女を見て、マスクドカブトは急いで彼女を支えようと駆けるが間に合わず、風斬は地面に倒れた

 

逆にシェリーは目標がいきなり現れ、予想できない形で自滅したことに僅かではあるが眉をひそめていた

 

駆け付けるカブトを追うようにクウガと当麻、そしてキバの三人は風斬の所へと走り出し―――また息を呑んだ

その目の前の惨状に、〝ではなく〟

 

確かに、風斬氷華の傷は酷かった

しかし問題はそこではない

そんな問題は些細な事だ切り捨てれるレベルの、もう一つの問題がある

 

「…ねぇ、僕は夢でも見ているのかな」

「残念だけど、現実だよワタルさん…でも、夢の方がよかったな」

 

呟くキバに応えるようにクウガは口を開く

改めて、風斬の傷口を見た

 

頭の半分を吹き飛ばすほどの傷なのに―――中身は、空洞(から)だった

人間を生成する筈の中身が、何もない

 

それ以前に、血液が流れていなかった

吹き飛ばされた時、これほどの大怪我なら赤い鮮血が飛び散るはずなのに、散ったのは肌色だったのだ

空洞の頭の中―――中心部には五センチ弱のくるくる回る正三角形が見える

その側面にはキーボードみたいなのがあった

 

思考が追いついていかない

今眼の前で何がおこっているのかも分からない

 

「―――う」

 

戸惑う四人を尻目に、風斬がうめき声をあげる

意識を取り戻したことに反応してその三角形は動きを加速させる

カタカタ、と見えざる指がタイプするように、三角形の動きに合わせ、彼女は動く

 

本来敵であるシェリーでさえ、攻撃を忘れギョッとしていた

 

やがて、片方しかない眼は四人を捉えた

 

「…あ、れ? め、眼鏡は…」

 

痛がっている様子はなく、むしろ寝起きのような仕草で彼女は手を動かして―――何かに気づいた

自分の状態に、今彼女は〝気づいてしまった〟

 

「…え?」

 

空洞の淵を、彼女の指がなぞっていく

そして徐に―――たまたま近くにあった喫茶店のガラスを見た

そして―――知る

 

「―――な、にこれ!? や、いやぁっ!!?」

 

感情が爆発したように、彼女は髪を振り乱して、鏡に映った自分から逃げるように走り出した

あろうことか、ゴーレム―――エリスがいる方向へ

我に帰ったシェリーはパステルを横に一閃する

同じように我に帰ったクウガも慌てて飛び出し―――振るわれるゴーレムの一撃にクウガも拳を突き出して風斬を庇った

ドゴォ! と音が響き風斬は一瞬身体をびくつかせたが、それでも足を止めることはなかった

 

「…エリス」

 

小さく笑いながら彼女はパチンと指を鳴らす

するとエリスと呼ばれたゴーレムは近くにあった支柱を殴る

地下全体が揺れて天井がミシリ、と音を立ててライフルを構える警備員(アンチスキル)に降り注ぐ

 

「行くぞエリス。―――狩りの時間よ」

 

当麻やキバ、カブト、膝を付いているクウガや生き埋めになっている警備員(アンチスキル)には目もくれず彼女は風斬を追うために歩き出す

 

何とも言えない空気が、四人を包む

今しがた見た光景が、あまりにも鮮烈で―――

 

 

一方でソウマ・マギーアもあるデパートから出て来ていた

手にはビニール袋を携えて、その袋の中には温泉の元が入れられていた

 

「…ったく。最大主教(アークビショップ)のヤツ、入浴剤くらい本国にもあんだろうが」

 

そう、今回ソウマは本当に所用で来たのである

組織のトップの風呂好きにも困ったものだ

このまま〝テレポート〟で帰ってもいいのだが、ここではあまりにも人の目が多い

なので歩いて適当に人気のない場所を探していく

 

それと同時に、学園都市の街並みも視界に入れ、記憶に収めていく

最先端科学なこの都市に、色々な人たちが様々な夢を持って来訪するこの都市

生憎ソウマにそんな願望などないが、それでも能力を発現できたものにとっては楽園になるだろう

逆に、発現できなければ地獄と化してしまうが

 

「…面倒くせェ都市だ」

 

どうしてわざわざ頭の中弄ってまで力なんて欲しがるのだろうか

そう言った憧れを否定するわけではないのだが、別になくても困るわけでもないし

そんな事を考えているうちにだいぶ人気のない場所にふと立っていた

 

「…こんな所、かな」

 

徐に彼はがさごそと指輪を取ろうとポケットに手を入れようとして―――気づく

どういう訳だか何人か、ガラの悪い連中に囲まれていたことに

夢を見て学園都市に来て、そして夢に破れやさぐれた連中だろう

というかそれ以前にいつ尾行された

そこまで思考に埋没していたのだろうか

 

「よぉ、にいちゃん。ずいぶん高そうな指輪持ってんじゃなねぇか。一個俺らに恵んでくんない?」

 

そんな一人の男の言葉を無視しはぁ、とソウマは息を吐く

夢に破れたショックで、ここまでやさぐれるものだろうか

まぁ、何らかの力はあるはずだ、と希望にすがってやってきて〝あなたには何もありません〟なんて言われた日にゃやさぐれもするか

 

「何シカトしてんだ…おらぁっ!」

 

気に障ったのかどこから調達したのか警棒を展開し、ソウマに向かって振りかぶった

その攻撃をあっさりと躱し、ソウマは距離を取る

 

「…やれやれ」

 

コンビニ袋を肩にかけ、面倒くさそうにソウマは息を吐いた

 

「帰ったらあとでプレーンシュガーを最大主教(アークビショップ)名義で買い占めてやる…!」

 

小さい野望を芽生えさせつつ、自分を取り囲んでいた連中がそれぞれ調達した武器を取り出した

それぞれ警棒やスタンガンと言った、護身用的なものから、ナイフやドスといった割とガチな物まで様々である

そして別に一人、USBメモリを取り出した男もいる

男はメモリを起動し、それを腕に突き刺した

 

<MONEY>

 

電子音声が鳴ると同時、ずんぐりむっくりとした怪人へと姿を変える

マネードーパントだ

 

「…ガイアメモリ、って奴か」

 

…本当に面倒くさい

心から鬱陶しそうに息を吐いて彼は指輪を嵌めて自分の腰へと手をやった

 

<ドライバーオン プリーズ>

 

そして彼はそのドライバーの左右のレバーを操作して、待機状態に移行させる

 

<シャバドゥビタッチヘンシーン―――>

 

直後、ドライバーから歌のような詠唱文が再生される

何度聞いても耳に残る、ソウマはすっかり慣れてしまったが

そのドライバーに、彼は赤い指輪を嵌めて、ゴーグルのようなパーツを降ろし、ある言葉を口にしつつ再び翳す

 

「変身」

 

<フレイム プリーズ> <ヒー! ヒー! ヒーヒーヒー!>

 

現れた魔法陣をが通り抜けた時、ソウマの姿はどこにもなかった

代わりにいたのは、宝石のような仮面をした、魔法使い―――

 

「―――さぁ、ショータイムと行きますか」


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